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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

具体的な取り組み

誰もが暮らしやすいまちづくりを市民・事業者とともに進めていくために
~明石市の合理的配慮の提供を支援する公的助成制度の役割と効果~

山田賢

明石市では、障害者差別解消法と同時に、「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例」(通称「障害者配慮条例」)が施行しました。「合理的配慮の推進」と「障害理解の促進」を2つの柱としているこの条例に基づき、新たに創設された「合理的配慮の提供を支援する助成金制度」(以下、「公的助成制度」)は、主に市内の民間事業者や自治会などを対象とした助成制度です。

障害者差別解消法においては、民間事業者の合理的配慮の提供は努力義務となっていますが、明石市の障害者配慮条例でも、障害を理由とした差別の禁止を規定するにあたって市民や事業者にも合理的配慮の提供を求めています。これは明石市の条例に限ったことではありませんが、検討会に参加した民間事業者や公共交通関係者からは漠然としたイメージしか描けていない「合理的配慮の提供」が条例により明文化されることに対して、不安や負担を感じるといった声がありました。

これらの議論を経て、負担をお願いするだけではなく、まず、行政の側がお金の面も含めて具体的な協力の姿勢を示すことが必要だと考えました。それがあって初めて、事業者の皆さんが一歩踏み出してくれるのでないかという発想から公的助成制度を作るアイデアが生まれ、条例とともに形になっていきました。

公的助成制度の概要

この公的助成制度には、二つの側面があります。

一つは合理的配慮の提供をしやすくするための費用を助成するといった「補助金事業」としての側面、そしてもう一つが、合理的配慮がどういったものかをイメージしてもらうために具体的な形を示しきっかけを作っていく「啓発事業」としての側面です。明石市では、この二つの側面が表裏一体となった公的助成制度を条例に基づく取組として実施していくことで、市民や事業者にはまだあまり馴染みのない「合理的配慮」への理解を広め、障害のある人が必要としている配慮を積極的に提供していける共生のまちに近づけていくことを目指しています。

制度を利用できるのは、1.商業者など民間の事業者、2.自治会など地域の団体、3.サークルなどの民間団体です。

助成の対象となるのは、点字メニューやコミュニケーション支援ボードなどコミュニケーションツールの作成費(上限額5万円)、筆談ボードや折りたたみ式スロープなどの物品購入費(上限額10万円)、段差解消や手すりの取付などの工事施工費(上限額20万円)の3つで、上限額までは全額助成されます。

制度設計の段階では、「上限額は設定するにせよ、行政が全額負担というのはいかがなものか」といった議論もありました。しかし、あくまで環境整備の部分の助成であり、継続して配慮を提供していくのは申請者であること、また、この制度の利用を通じて合理的配慮とはどういったものかを考えてもらうねらいもあることから、より積極的に利用いただけるよう、上限額までは自己負担なしといった現行の要件に落ち着きました。

公的助成制度の利用状況

公的助成制度がスタートしてから1年間で、150件を超える申請がありました。特に多かったのは物品購入費の助成で、筆談ボード購入に対する助成が100件を超えています。この筆談ボードでコミュニケーションする機会が増え、地元のろう者からは、「長年通っているきしめんのお店に麺の厚みが2種類あることを初めて知った」「カフェでカフェオレを注文する際に、低脂肪乳も選べることを初めて知った」などの声をいただきました。聞こえる人にとってはあたり前のように届いている問いかけも、聞こえない人には届いていませんでしたが、この制度の導入により、障害のある人とない人との間でも一歩踏み込んだコミュニケーションが『あたり前』になっていく姿を見ることができます。

その『あたり前』の前提として、聞こえる側、つまりは店員さんの側にも準備やサポートが必要だと思います。実際、公的助成制度を利用いただいた事業者の側から、「障害のあるお客様への対応の際に身構えてしまうということが少なくなった」「公的助成制度によるツール以外にも何かできることがないか考えるようになった」「聞こえない人とのコミュニケーションをきっかけに手話の勉強を始めた」などの声をいただき、少しずつですが、啓発事業としての成果も上がってきているように感じています。

今後は、こうしたツールが置いてある店をより多くの人にお知らせするとともに、さらに幅広い合理的配慮の提供を推進していきます。また、幅広い市民の障害理解の普及にも力を入れながら、制度利用をきっかけとした事業者からの相談にも丁寧に応じ、市民・事業者・行政が一体となって共生のまちづくりを実現していきたいと考えています。

(やまだけん 明石市福祉総務課障害者施策担当)