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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

1000字提言

福祉避難所

迫田朋子

熊本地震で福祉避難所が機能しなかったことが指摘されている。NHKハートネットTVで取材したところ、協定を結んでいた施設は近くに住む人たちが多く避難して福祉避難所どころではなかったし、職員も被災していて入所者のケアで手一杯だった。

一般的な避難所では生活に支障が想定される人たちのために特別な配慮がされているのが福祉避難所で、災害対策基本法で規定されている。しかし、現状は、行政の担当者の理解が不十分だったり、住民も知らなかったり知らされていなかったりする。これまでの災害でも「家族の付き添いが認められずに利用できなかった」「いちばん馴染みの特別支援学校が福祉避難所になっていない」などの声があった。

そもそもの発想は阪神・淡路大震災にさかのぼる。

1995年1月17日に起きた地震は、避難者はピーク時で30万人あまり。寒い冬の間、小学校の避難所で過ごす間に体調を崩し亡くなる高齢者が相次いだ。危機感を持った医師と特養の施設長が、当時はまだ珍しかったデイサービスの場所に、18床のベッドを持ち込み、ボランティアを集め、食事とケアを提供した。暖かい場所に移動できた高齢者たちの姿をみて、取材している私もほっとしたものだった。

それから20年以上も経ったが、福祉避難所の在り方についてはまだ議論が迷走しているように思う。

どういう場所が福祉避難所として適しているかについては、いくつか考えがある。介護老人施設や福祉施設などと福祉避難所としての協定を結んでいる自治体は多い。しかし、ショートステイの空き部屋を使う、程度の意識である場合も見られる。家族の付き添いはどうするのか、何人まで受け入れ可能か、障害の種別が異なる場合はどうするのか、など検討事項は多々ある。新たな場所を福祉避難所として用意する、という考えもある。そこにリソースを集めて行政の責任で運営する、という形である。自治体によって、災害の規模によって、さまざまに考えられる。

福祉避難所に移る仕組みも要検討事項である。一次避難所で誰がどのように判断するのか、基準はつくるのか。要配慮者の状態や、移動距離によっては、直接、福祉避難所へ避難することも考慮すべきだと思う。

そもそも福祉避難所が必要なのか、という議論もある。地域の人たちと一緒にいる避難所に配慮スペースをつくる、という発想である。熊本地震で試みられたインクルーシブ避難所が一つの参考となるだろう。

要は、どういう要配慮者が地域に住んでいて、どこに避難したいか、避難できるかという全体像がないと、福祉避難所についての在り方も考えられない、ということなのだと思う。


【プロフィール】

さこたともこ。ジャーナリスト。1980年、日本放送協会入局。アナウンサー、解説委員、エグゼクティブ・ディレクターなどを務める。専門は、医療、福祉、介護、市民活動。NHKスペシャル「人体~脳と心~」、「セーフティネット・クライシス」などの番組を制作。現在はビデオニュース・ドットコム プロデューサー。