「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号
霞が関BOX
身体障害者補助犬について
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室福祉用具専門官
秋山仁
1 身体障害者補助犬とは
身体障害者補助犬には、「盲導犬」、「介助犬」及び「聴導犬」があり、自立と社会参加に資するものとして、身体障害者補助犬法に基づき訓練・認定された犬です。身体障害者補助犬の種類などを記載した表示をつけています。
盲導犬は、視覚障害のある人が街なかを安全に歩けるようにサポートします。障害物を避けたり、曲がり角や段差を教えたりします。ハーネス(胴輪)を付けています。
介助犬は、肢体不自由のある人の日常の生活動作をサポートします。物を拾って渡したり、指示した物を持ってきてもらったり、脱衣の介助などを行います。
聴導犬は、聴覚障害のある人に生活の中の必要な音を知らせ、音源まで誘導します。玄関のチャイム音、赤ちゃんの泣き声等の生活音のほか、外出中は車のクラクションや自転車のベル、火災報知機などを聞き分けて教えます。
2 身体障害者補助犬法の概要
盲導犬の育成は1950年代、介助犬や聴導犬の育成は1990年代から始まりましたが、施設や公共交通機関への同伴を認める規定がありませんでした。そこで、2002年5月22日に身体障害のある人の自立と社会参加の促進に寄与することを目的とする「身体障害者補助犬法」が議員立法として制定されました。
この法律では、身体障害者補助犬の育成を行う者には良質な補助犬を育成することを、使用者には身体障害者補助犬である旨の表示と衛生・行動管理を、施設等には身体障害者補助犬の同伴を受け入れることを義務づけました。身体障害者補助犬の同伴を拒んではならないのは、国等が管理する施設等、公共交通機関、不特定多数の人が利用する施設等と規定されています。
3 身体障害者補助犬育成のプロセス
身体障害者補助犬の訓練を行う者は、第二種社会福祉事業として行われています。概(おおむ)ね1歳から訓練事業者による訓練を開始し、基礎的な訓練、応用的な訓練、使用予定者と共に行う合同訓練が行われます。盲導犬の訓練については、国家公安委員会の指定を受けた法人が行うこととしています。
訓練を修了した使用者と身体障害者補助犬のペアは、国家公安委員会や厚生労働省が指定する法人により、社会参加できるかどうかの認定を受け、認定された使用者には認定証(使用者証)が発行されます。認定された補助犬は、訓練事業者から使用者に貸与または譲渡され、概ね10歳前後まで身体障害者補助犬として活躍します(図1)。
図1 訓練事業者、指定法人、実働頭数の状況(2017.2.1現在)
盲導犬 | 介助犬 | 聴導犬 | |
---|---|---|---|
訓練事業者 | 11法人 | 25事業者 | 21事業者 |
国家公安委員会指定法人 | ― | ― | |
厚生労働省指定法人 | ― | 7法人 | 6法人 |
実働頭数 | 966頭 | 74頭 | 67頭 |
4 受入れにあたって
使用者は責任をもって身体障害者補助犬の行動や衛生面を管理しているので、特別な設備は必要ありません。身体障害者補助犬と使用者を見かけた際は、社会の一員として温かく受け入れていただきたいと思います。ただし、仕事中の身体障害者補助犬には、話しかけたり、使用者の許可なく触れたりして気を引くような行為は慎んでください。一方で、身体障害者補助犬を同伴していたとしても、使用者への援助が必要な場合があります。身体障害者補助犬を伴っている障害のある人を見かけたら、積極的にお声がけいただきたいと思います。
5 普及啓発の取組
厚生労働省では、身体障害者補助犬への理解を深めるために、普及啓発が重要と考えており、ポスターやリーフレット、ステッカーを作成しています。また、身体障害者補助犬の活動の様子や使用者の声を伝えるため、啓発イベントを開催するほか、2016年8月には内閣府の政府インターネットテレビで番組を作成しました(図2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。
このほか、地域生活支援事業の身体障害者補助犬育成事業では、自治体が行う身体障害者補助犬の育成のほか、育成計画の策定や普及啓発も補助対象としており、今後、より一層活用されることを期待しています。
6 今後の課題
法の施行により、身体障害者補助犬を同伴した障害者の社会参加が以前より進んだ一方、ペットと間違われたり、身体障害者補助犬への理解が不十分だったりする事例が未(いま)だにあるようです。また、身体障害者補助犬がいれば援助がいらないと勘違いされて、必要な支援が得られないこともあるようです。
特に、医療機関に同伴できなかったといった相談がよく聞かれます。厚生労働省では、医療機関の方に身体障害者補助犬法を理解していただくため、一般向けに加えて医療機関向けのリーフレットを作成し、さらなる普及啓発に努めているところです。
また、諸外国から来日される障害のある外国人に、日本の身体障害者補助犬法についてご理解いただくためのポータルサイトを公開する予定です。
7 おわりに
障害者差別解消法が2016年4月に施行され、障害のある人の権利保障がますます重要になっています。そういった背景も踏まえると、障害のある人の自立と社会参加のためには身体障害者補助犬法の趣旨と意義を多くの方々に正しくご理解いただくことが重要です。厚生労働省では、今後も更なる普及啓発に努めていきたいと考えています。
(あきやまひとし)