「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号
霞が関BOX
障害者自立支援機器の開発促進と普及に向けた取組
厚生労働省社会・援護局企画課自立支援振興室福祉工学専門官
峰悠子
1 はじめに
ノーマライゼーションの理念に則り、障害のある方が地域で自立して主体的な生活を送るためには、生活を支援する技術や機器を積極的かつ効果的に活用することが求められています。しかし、支援機器を適切に使用するための助言、選定、調整等の体制整備や、障害の特性やニーズを反映した支援機器の研究開発が十分ではなく、ICT(情報通信技術)などの科学技術が急速に発展しているなか、障害のある方の生活を支援する機器の可能性を最大限に引き出すための方策が課題でした1)。
2 障害者自立支援機器等開発促進事業の創設
そこで、厚生労働省では、自立や社会参加の促進の観点から、市場が小さく実用的製品化が進まない障害者のための支援機器について、使用者のニーズと開発者の技術(シーズ)のマッチングを図りながら、企業が障害のある方と連携して開発する取組に助成を行い、適切な価格で使いやすい機器の製品化と普及を図ることを目的とする、「障害者自立支援機器等開発促進事業」を2010年度に立ち上げました(図1)。さらに2015年度には、ニーズとシーズのマッチングを目的とした支援機器に関する交流会などを行う「シーズ・ニーズマッチング強化事業」を加えました。
図1 障害者自立支援機器等開発促進事業の概要
(拡大図・テキスト)
これらの事業は、2016年度に実施方法を改めて、開発企業へのモニター評価の義務づけや医療福祉専門職等によるアドバイス支援などの開発助成事業、及び、シーズ・ニーズマッチング強化事業を公募により選定された実施団体が行うことで、さらにニーズを的確に踏まえた支援機器の開発の促進を効果的に行いたいと考えています(2016年度は公益財団法人テクノエイド協会が実施団体)。
2016年度は、筋肉が発する電位により操作する義手(筋電義手)や、音程を変化させることができる電気式人工喉頭など16タイトルを助成しました。また、シーズ・ニーズマッチング交流会を、東京・大阪の2か所で開催し、それぞれ57社、45社の開発企業の出展のほか、支援機器に関するシンポジウムの開催や当事者団体や関係機関にもご協力いただき、約750人の方にご来場いただきました。
2017年度においては、開発助成の補助率を2/3(大企業は1/2のまま)に引き上げ、より多くの企業が開発に取り組みやすくするとともに、開発テーマに「就労支援機器」を加え、障害のある方の就労場面で役立つ支援機器の開発にも取り組んでまいります。
3 地域における支援機器の普及促進
地域における支援機器の普及に向けた取組として、2016年度に、自治体が実施する地域生活支援事業において、「地域における障害者自立支援機器の普及促進」を都道府県(指定都市含む)任意事業メニューとして加えました。これは、都道府県において障害のある方の自立や社会参加に資する支援機器を広く普及する拠点を設置し、専門知識や経験を有する方を配置して、支援機器に関する相談対応や情報収集・発信などを行い、福祉・医療関係者や取扱事業者、行政やその他関係者が連携して支援機器の適切な活用と普及を図ることを目的としています。国の実施要綱に定める事業内容は以下のa~fのとおりですが、各地域の実情や必要性に応じて取り組んでいただくこととしています。
a.ニーズや地域資源の把握、b.情報収集・発信、展示、c.相談窓口の設置、d.試用・評価、フィードバック、e.情報共有、ネットワークづくり、f.人材育成
支援機器に関する展示や情報発信、相談などは、従来から取り組んでいる自治体もいくつかありますが、本事業にてさらに多くの自治体に取り組んでいただき、地域の障害のある方が支援機器を活用できる環境がさらに整備されることを期待しています。
4 支援機器を気軽に活用できる環境を目指して
2001年に世界保健機関(WHO)が提唱した国際生活機能分類(ICF)においても、環境因子として支援機器の活用が個人の健康状態に影響を及ぼすとされています。近年はICTを活用したコミュニケーション支援機器等が新しい技術とともに発展しており、利用促進に対する期待も一層高まっています。今後も、障害のある方が自らの人生を豊かにするため、支援機器が持つ可能性はますます広がっていくことが予想されます。厚生労働省においても引き続き、障害のある方のニーズを踏まえて新しい技術などを取り入れた支援機器の開発と普及が積極的に行われるよう取り組んでまいります。
(みねゆうこ)
【注釈】
1)「支援機器が拓く新たな可能性~我が国の支援機器の現状と課題~」2008年3月生活支援技術革新ビジョン勉強会報告