「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号
列島縦断ネットワーキング【宮城】
障害者就労支援事業所の工賃アップを目指す宮城県の実践
武井博道
みやぎセルプ協働受注センターの概要
特定非営利活動法人みやぎセルプ協働受注センター(以下「みやぎセルプ」という)は設立から現在まで、宮城県と障害者就労支援事業所等(以下「事業所」という)との間に立つ中間支援団体として、宮城県内の何らかの生産活動を行なっている事業所(県内に280事業所以上)で働く障害者(以下「利用者」という)の工賃向上に資する活動を行なっています。
事業所での就労は、作り上げた製品が流通し、利用者がその就労対価を得ることを通じて、働く喜びや達成感を感じてもらい、社会参加や地域社会への移行を促進させることを目的としています。
しかしながら、事業所で利用者と一緒に働く職員の多くは福祉のプロであり、販売や製造のプロはほとんどいません。利用者の支援をしながらものづくりをし、販路開拓まで行わなくてはなりません。外部に対しての営業活動をする十分な時間を割けないのが現状です。事業所を取り巻く厳しい環境を少しでも緩和できるよう、みやぎセルプでは職員向けセミナーの実施等を通じ、事業所の活動環境を整え、販売ルートの開拓や販売イベントの開催、協働受注による消費ニーズへの対応等を行い、事業所の販売力強化を支援しています。
具体的な活動
事業所の活動やその成果物を知ってもらう場として、JR仙台駅の改札前コンコースで『ナイスハートバザールinせんだい』を毎年開催しています。このイベントは、販売台を事業所の商品だけで最大36台分用意し、毎日約100万円を売り上げます。マスメディアにもよく取り上げられています。仙台駅以外でも、県内のショッピングモール・百貨店が企画している販売イベント、仙台七夕まつり等の自治体や市民のお祭りにも積極的に参加しています。単独の事業所では出店しにくい規模の販売会でも、複数の事業所と協働することで、催事自体に福祉との連携という意味を付加することができます。もちろん、その売上から発生する利益は事業所利用者の工賃となります。
事業所の活動は商品の製造販売だけではありません。軽作業等の受託作業を中心にしている事業所もあります。企業や団体からの依頼で、1つの事業所では捌(さば)けない大量の受注に対しては、みやぎセルプが作業事業所募集から条件によっては作業分配管理、売上請求管理まで行い、複数事業所の協働で作業に当たります。贈答用の箱折作業や、クリスマスケーキ飾り組み立て作業等のスポット作業から、給湯器の解体や生鮮野菜用コンテナ拭き取り等の継続的作業まで、その分野はさまざまです。
企業からの相談や、単独では作業継続が難しくなった事業所からの相談もあります。受託作業の多くは健常者が行なっても単価が安く、工賃向上にはつながりにくいように見えますが、材料費やロスのリスクが少なく、継続的に取り組むことで熟練による効率化が見込めるので、活動時間を有効に活用できます。
みやぎセルプでは、事業所管理者や職員向けのスキルアップ支援も行なっています。近年、特に力を入れているのがコンプライアンスに関するセミナーで、専門家を講師に迎えて、食品その他商品の表示に関する勉強会等を行なっています。製造・販売には守らなくてはならない法律があって、それは福祉事業所だからといって免除されるものではありません。1つの事業所が事故を起こせば他の事業所も同じように見られかねないので、法令遵守は特に重要と考えています。
他にも組織力強化のために「経営改善会計セミナー」や「雇用関係助成金勉強会」、「目標管理の進め方」、「販売術」等の専門家によるセミナーや「工賃アッププロジェクト」として、コンサルタントを入れたグループワーク等を行なっています。
みやぎセルプでは、特に工賃の元になる作業や商品について、各事業所にスポットを当てたホームページ運営やFacebook等のSNSを活用した情報発信にも力を入れています。また、事業所が独自にホームページを活用できるように、写真の撮り方やホームページ作成、ネットショップ作成セミナーや実施指導も行なっています。
震災とみやぎセルプ
みやぎセルプの大きな転機となったのが東日本大震災でした。直後は、情報収集と支援物資の振り分け等に追われていましたが、少し落ち着いた頃、全国の企業や団体からの買い支えや作業依頼の申し出と商品や事業所についての問い合わせに対応することが多くなりました。その頃、直接被災した事業所はそれどころではなかったのですが、事業所自体の被災は軽微だが、取引先が被災し、工賃への影響が懸念される事業所は少なくありませんでした。
みやぎセルプでは、持っていたデータを整理し、まず簡単な商品カタログを用意しました。1日であっという間に作った粗末なカタログはさまざまな支援者の手に渡り、気づけば、私たちと多くの方をつなげてくれたツールとなりました。
被災から約1年経った頃、被災事業所同士が集まる場として「被災障害者就労支援事業所等連絡会議」(以下「連絡会議」という)を発足しました。月に一度集まり、時には支援者や有識者、行政を招いての情報交換会も行なっています。そのつながりは現在まで続いています。この連絡会議の意義は被災事業所にとって非常に大きく、法人の垣根を越えて親身に相談ができ、支え合えるコミュニティとなりました。
ホームページ上でも、「3.11震災の記憶」「LINKS」という特設ページを設け、連絡会議メンバーの経験や被災事業所をクローズアップしました。
県外の企業・団体とのつながりは現在も続いており、企業内のマルシェや株主総会のお土産として、宮城県の事業所商品を多くの方が手にしてくださっております。また、支援者の要望に合わせ、震災当時の写真を中心としたパネル作成をし、マルシェと同時にパネル展示をすることも多くあります。
みやぎセルプでは、宮城県だけではなく、同じように被災した岩手県、福島県、そして熊本県の事業所や中間支援団体と連携し、みやぎセルプが東京等でマルシェをする際は、先の被災県の商品も持ち込み販売することを行い、より支援者ニーズに応えられるようにしています。
みやぎセルプの現状と今後
先のセンターの概要でも述べたように、みやぎセルプは中間支援団体です。国や県の予算が付かなければ活動は終息します。県内には、みやぎセルプの力を必要としない事業所もあり、貪欲に利用者にとって十分な工賃を目指し日々努力されています。しかし、そういった事業所は、もともとみやぎセルプの力を必要としていませんでした。残念ながら、みやぎセルプの力不足もあり、多くの事業所の現状はそこまでの段階には到達できていません。おかしな言い回しになりますが、みやぎセルプが無くなっても、県内の事業所や支援者が困らなくなることが最良の到達点の一つと考えます。
みやぎセルプはその必要性がなくなるまで、今まで以上に事業所利用者の工賃向上に向け邁進いたします。
(たけいひろみち みやぎセルプ協働受注センター事業推進部長)