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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

津久井やまゆり園の事件を学ぶ
~町田市・青年学級の仲間とともに

新井田恵子

作業所や地域で、知的障害のある人の余暇活動や自治活動に関わってきました。学習活動として大切にしてきたのが【人権学習】。そこでは、「障害を知る」「差別を考える」「性の学習」「障害者権利条約を考える」等のテーマに取り組んできました。

2016年7月26日、相模原市の津久井やまゆり園で起きた殺傷事件に、日本中衝撃が走りました。とりわけ、障害者・家族・関係者は、いまだ事件の背景をさぐり、検証し、今後二度とこのような事件が起きないことを願っています。

障害のある人たちからも「何が起きたの?」という声が相次ぎました。施設の職員や家族からは、この事件のことをどのように障害のある人たちに伝えるべきかという悩みが寄せられ、学習会をもつことになりました。

やまゆり園の事件を学ぶ

ここでは、東京都町田市の青年学級(知的障害や肢体不自由の青年たちとスタッフ、合わせて40人ほどが参加)での学習会の内容と様子を報告し、学ぶ意味を考えてみたいと思います(2016年11月27日開催、学習時間は2時間)。

学習会では、はじめに事件の概要と経過を話し、その後、設問用紙に答えてもらい、設問の答えをみんなで発表しあいながら、説明を加え、感想等を述べてもらいました。

1枚目の設問用紙には「事件のことをいつどうやって知ったか」「知ってどう思ったか」「事件についてだれかと話したか」を導入に、「匿名報道」「入所施設」「防犯対策」「容疑者について」など9項目を用意しました。

「事件を知ったとき」のこと

事件から4か月経っての学習でしたが、「事件を知ったとき」のことをみんな鮮明に覚えていました。その日のうちにテレビのニュース等で知った人がほとんどで、そうでない人でも、翌日、数日後に家族や職場の人、職場や青年学級のスタッフなどから聞いていました。

事件を知った感想は、「びっくりした」「こわかった」の両方やいずれかを答えた人が全員で、そのうち3割以上の人が、「どうして殺されたのだろう」「どうしてこんな事件が起きたのだろう」という疑問を抱いていました。

「事件のことをだれかと話したか?」の問いには「だれとも話していない」と答えた人は1割ほど。9割の人たちがだれかと事件について話をしていました。

私は、ほかの作業所の仲間たちにも同じ質問をしていますが、そこでは、話した相手を「家族だけ」と答える人が最も多く、複数の人と話した人でも「作業所の職員」という答えで、障害のある仲間同士で話した人があまりいませんでした。しかし、この会では、「複数の人と話した」「青年学級の仲間やスタッフと話した」と答えた人が多かったのが印象的でした。

匿名報道と防犯対策

匿名報道については、「おかしいと思った」「報道してほしいと思った」と答えた人がほとんどでしたが、「名前を出されなくてよかった」と答えた人も2人いました。理由は「いろいろ言われる」「差別とかあるから家族とかが困るから」。彼らの置かれている現状を考えさせられる答えでした。

防犯対策については、関心の高さがうかがえました。

「防犯対策に力を入れ、警備を増やせば事件は防げた」と答えた人は6割ほど。話し合うなかで、「事件が防げたかどうかはわからないが、防犯対策は大事。いのちを守ってほしい」という声もあがりました。

また、日頃の避難訓練の大切さを話すなかで「自分の身は自分で守る」「少ないスタッフでがんばる」という意見も出されましたが、意見交換するなかで、「避難訓練を行い、職員の数も増やしたほうがいい」に挙手した人が増えました。

なぜ? なぜ? なぜ?

話が容疑者のことに及ぶと、空気が変わりました。とくに「その施設に勤めていた」ということには「ショック」「なぜ?」「最低」「なんで雇ったの?」と声があがります。

「なぜこんなことを?」の考察は、「その施設の職員や入所者に恨みがあったから(7人)」「施設の仕事は給料が安く大変で、その不満がどんどんふくれていったから(8人)」「人を殺したいと思い、だれでもいいから殺してやろうと思ったから(6人)」「わからない(17人)」と意見が分かれました。

この「なぜ?」はそんなに簡単に答えが出ることではありません。

学習の後半は、差別や優生思想について伝え、設問用紙の2枚目を配布することにしました。

事実を伝え、「なぜ?」を探る

「事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告(中間まとめ)より、「容疑者が犯行に至るまでの動き」と「やまゆり園における防犯対策」の事実を伝えました。

「至るまでの動き」を聞きながら、「どこかで防げなかったのか」の思いが彼らのなかにつのります。

防犯対策の話では「じゃあ警備だけでは防げないってこと?」という不安の声もあがりました。

前半の学習のなかで「施設の事件(入所施設があったから起きた事件)」ととらえる答えもあったので、そうではなく、「障害者への差別の心が生んだ事件」であるのではないか、と問いかけました。亡くなった19人に職員も含まれていたのだろうと思っていた仲間たちも何人かいたので、「すべて障害者だった」と事実を伝えました。

そして、優生思想とヘイトクライムについて話を進めました。

とても難しいテーマですが、継続的に学習に取り組み、人権としての性教育も学んでいる仲間たちだったので、障害以外の人種や性なども例に出しながら差別について考えようと思いました。「自分の内なる差別の心」もみつめながら、学べた部分もあったのではないかと思います。

想像しよう

前半の設問では、事件を知り、「自分自身が事件や容疑者に対してどう思ったか、感じたか」を中心の課題に据えましたが、2枚目の設問用紙では「あなたのまわりの施設職員さんはどう感じたんだろう?」「あなたのお母さんは? お父さんは? きょうだいは? どう感じ、どう受け止めたのだろう?」というテーマでたずねました。

「わからない」もありましたが、たとえわからなくとも、考える過程を大切にしたいと思います。

一人で考えるのではなく、みんなで考え、話し合う。そして、相手の立場に立って考えてみる。彼らとともに、私も考え続けていきたいと思います。

つどい、話し合い、学び、自己実現していく…ことを大切にしている町田の青年学級。みんなでつくるオリジナルソングの歌詞にたくさんの願いを込めて毎年コンサートを開いています。「とびたとう」「私のうた」「生活のうた」「空を自由に」「いのちの3部作」「わたしぬきに決めないで」「もっと平和に近づきたいから」…。彼らのつくったオリジナルソングは彼ら一人ひとりの人生そのものであり、願いです。

今年は、5月27日(土)午後1時半から町田市民ホールで18回目を数える「若葉とそよ風のハーモニー」を開催します。彼らの希望の歌声を聞きに行きませんか?

(にいだけいこ 全国障害者問題研究会全国事務局)