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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

罪を犯した障害のある人たちの生活・就労支援
~社会的弱者を救う連絡協議会の活動

石野英司

取り組みのきっかけ

私が罪を犯した障がい者を知るきっかけとなったのは、6年前のある会議に参加したことです。会議で触法障がい者を雇用している方たちの話を聞きとても共感しました。「私でも役に立てるのでは」と思い後日、大阪保護観察所堺支部に相談したところ、「受け入れ先を探すだけでも大変なのに、触法障がい者だとより困難ですよ」と言われました。

触法障がい者を受け入れるためには、もっと詳しく知らなければならないと思い、触法障がい者について調べました。刑務所にいる受刑者の約4割が障がい者や障がいの疑いがある人ということや、一人あたり年間約300万円の経費を要することなどを知りました。そこで、私たちが一人の触法障がい者を支援することで救うことができれば社会貢献ができるのではないかと考えるようになりました。

そして、有志を募り社会的弱者(触法障がい者)を救う連絡協議会を立ち上げました。

社会的弱者を救う連絡協議会の活動

連絡協議会のメンバーは、福祉サービス事業者や特別支援学校の教員、障害者就業・生活支援センターの関係者の他、活動の趣旨に賛同してくれた方々です。

連絡協議会の主な活動は、触法障がい者を知ってもらうための市民向けセミナー開催、触法障がい者といわれる人たちの出所後の生活・就労支援、矯正施設の見学、鑑別所勉強会などです。

出会い

地域で啓発活動をしている中、私たちの活動を知る地域福祉課からの相談で一人の障がい者と関わることになりました。まず、居住先を探すことから始め、生活保護申請や支給決定を福祉課にお願いして、就労については就労移行支援で受け入れました。アセスメントをして、さまざまなことが見えてきました。幼少期から父親による虐待があったこと、児童養護施設での生活環境に慣れることができず不良グループの友達と遊ぶようになり、窃盗や車上荒らしを繰り返すようになったこと。しかし、彼には軽度の知的障がいがあり、捕まり役に利用されていました。

彼と関わる中で、多重債務で困っていると打ち明けてきました。人の良い彼は名義貸しを行なっていたのでした。さらに、生活保護費や障害年金まで騙(だま)し取られていました。優しくて親切な人は誰でも良い人だと思っていて、未(いま)だに彼はその意味が解(わか)りません。

昨今、生活困窮問題をよく耳にしますが、触法と因果関係があると思います。幼少期の愛情欠損等、心に残る傷が深く犯罪を起こす人も多いと思います。障がいのために、コミュニケーションや人と関わることが苦手で、社会参加できなく引きこもる人も多くいます。

帰る所がない、お金もない、相談する人もいない。このような状況で社会参加すること自体が不安です。障がいがある人たちにとって、刑務所は安全で1日の生活サイクルも決まっていて、「居・食・住」すべてが揃(そろ)い過ごしやすい場所となっています。負の連鎖状態だと思います。

生活と就労支援

出所後、地域で暮らしていくために、生活と就労支援が重要です。

現在、保護観察中の少年のことです。彼とは、地域生活定着支援センターからの受け入れ依頼がありました。会う半年前から、地域生活定着支援センターを中心に観察官や医療少年院のワーカーさんや福祉関係機関、教員の方々と会議をして、出院後の支援について検討しました。会議は、出院後も毎月1回のペースで行なっています。

現在、彼は就労継続支援B型事業所でおしぼりの包装を頑張っています。作業はとても丁寧で正確です。施設外就労でマンションの清掃も行なっていますが、細かな所まで気配りができ、マンション清掃班でも積極的に取り組み、力を発揮しています。しかし、約束やルールを守ることが苦手です。規則を守らなかったり、不平不満を言うことがよくあります。作業所で彼と信頼関係にある支援者によく相談して、ストレスを持ち帰らせないようにしています。

今は、保護観察中で厳守事項がたくさんあります。日々同じことを何度でも繰り返しながら、彼に寄り添い我慢することを覚えてもらっています。

入り口支援

最近は、大阪弁護士会から直接依頼を受け、担当弁護士さんと被疑者の段階から調整を行なっています。今までと大きく違うことは、拘留中に居場所や居住地を探して支援体制を整え、裁判が始まるまでに、ある程度の方向性を整え、弁護士さんと更生支援計画を提出しています。

現在、私が調整している男性がいます。彼とは今年の1月末に拘置所で初めて会いました。彼も知的障がい者で累犯者でした。罪名は放火・器物破損です。出所後の相談支援者探しは、罪名が放火ということなので苦労しましたが、社会的弱者を救う連絡協議会のメンバーの紹介で罪名を理解し、快く受け入れてくださる相談支援員さんも見つかり、住まいもその相談員さんの法人が運営しているグループホームに決まりました。弁護士さんと一緒に接見を繰り返していくうちに、少しずつですが、信頼関係もできてきました。

ある日、彼から「ここを出たら頼む」と言う言葉が聴けました。私は思わず「今まで一人でしんどかったやろ。これからは一人じゃないで。ここにいる人たちがあなたを守るからな」と言うと、彼は「うん」とうなずきました。彼もまた社会的弱者の一人で、幼少期から児童養護施設を転々とし、障がいがあるゆえに不器用で地域から離脱していたのだと痛感しました。

彼は、阪神・淡路大震災で家具の下敷きになり、数時間後に消防員に助けられました。一緒に暮らしていた叔母さんは亡くなりました。彼は大きくなったら消防士になる夢を持っていましたが、障がいのためにあきらめたようです。今回の事件も消防士への憧れが強く、ティッシュに火をつけ、鉄製の延焼しないゴミ箱を選び犯行に及んだそうです。自ら消防署に通報をして、消火活動を見たかったのが今回の動機でした。

罪名だけで判断されてしまいますが、罪を犯した背景を明らかにして支援することが重要であると再認識しました。

鑑別所勉強会

偶数月に、大阪少年鑑別所内の法務少年支援センターで勉強会を開催して4年になります。勉強会には、保護観察所や大阪地域生活定着支援センターの職員をはじめ、司法や行政、学校、福祉の関係者、職親企業、保護者などが参加しています。

大阪少年鑑別所には地域非行防止調整官がいます。調整官に意見を求め助言をいただくことができ、解決策や模索ができて勉強会の強みにもなっています。福祉的支援での関わり方と司法的な関わり方を踏まえて、更生支援計画と就労支援計画を考慮したチーム連携を行い、触法障がい者を支えています。

また、検討会を行なっています。対象者(退所者)を受け入れる事業者は、受け入れの際の必要な手続きに関することや受け入れに対する不安を持っているところもあります。また、支援者も毎日の活動の中での悩みや問題を抱えています。それらについて話し合い、課題を共有して、助言をもらうことが解決するヒントになります。こうした場を設けて勉強を重ねています。

罪の意識もなく犯罪を繰り返す累犯障がい者を一人でも多く救うことができる仕組みを確立し、活動を続けていこうと思います。  

(いしのえいじ NPO法人南大阪自立支援センター理事)