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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

いつでも安心して行き来できる社会を目指して

大竹浩司

2017年6月21日の夜、大阪府高槻市内で東海道新幹線が架線断線の停電によりストップした。翌22日午前1時頃に復旧したが、それに友人(聞こえない人)が乗り合わせていた。証言を時系列式メモでお願いしたのが以下の内容だ。友人は当日東京出張で、帰りの新幹線で断線による停電事故にあった(時間も一部は推測で原文を少々修正している)。なお、誌幅の都合で、友人の気持ちを表した部分(※で表示)は一部省略した。

▼6月21日(水)16時30分:新幹線で東京駅発。(新大阪駅着19時)。豪雨の影響で徐行運転。▼18時45分:名古屋駅着。いつもと違って途中停車が2回生じた(各10分ぐらい)。▼19時50分:京都駅着。※あと15分で新大阪駅着。我慢。我慢。▼19時55分:京都駅発、5分後に緊急停車、車内照明が消える。※何かあった??【写真1】▼20時20分:緊急停車から20分過ぎても動かない。※先に出た列車が止まり詰まってるのかな…。その時に、通路端の扉上にある電光掲示板に「緊急停車により、原因を探っています。しばらくお待ちください」とテロップが流れ、事故に関する情報が分かる。※あと10分で新大阪、早く動いてくれ!!▼20時40分:「架線断線により停車しました。作業員の復旧作業のために時間がかかります」と文字放送。※えっ架線断線?どの辺り??それよりいつ動くの?▼21時30分:停電のためにエアコンが効かず、気分の悪くなった人が出る。スマホで確認すると断線した場所が高槻市辺りと分かる。しかし、文字放送はなかった(車内放送があったかは不明)。※文字放送でも場所ぐらい教えてくれよ!!▼22時15分:「復旧作業にまだ時間がかかるため、京都行き列車に乗り換え作業をしますのでしばらくお待ちください」と文字放送。その時に他の乗客が2号車から4号車へ移動を始めた。皆についていく途中、駅員に筆談で聞いたら「6号車へ行き、京都行きの列車に乗り換えし京都駅へ向かいます。もう少しお待ちください」とのこと。やっと乗客の移動理由が分かった。しかし、30分過ぎても乗り換え作業が始まっていない…▼23時:車内放送が流れたのか、(文字放送は何もない)乗客が自分の席へ戻る行動を始めた。この時も訳が分からないまま、皆についていった。▼23時15分:「作業員の架線断線の復旧作業が終わりました。安全の確認のために点検いたします。しばらくお待ちください。1時間経ったら出発予定です」と文字放送。※車内放送と同時に文字放送ぐらいしてよ!▼24時:上記の文字放送の繰り返しで一向に動かない…※最悪、このまま徹夜かよ…
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

▼6月22日(木)0時54分:「作業員の復旧作業により、安全の確認が取れました。これから新大阪駅へ向かいます」と文字放送、すぐ新幹線が動く。※やった、帰れるー▼1時10分:新大阪駅着【写真2】。2時前に新大阪駅からタクシーで出発。▼3時前に自宅に帰宅、4時間後に起床し、出勤。※もう二度と新幹線乗りたくない!!!
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

車内音声放送が適時になされたかは、検証しないと分からないが、友人の証言から分かるように、文字放送(視覚情報)は遅れがちであった。耳が聞こえない場合、現況が分からない間は大きな不安を抱えたままにならざるを得ない。まして停電だと、文字電光板や映像モニターも役に立たず、真っ暗闇(まったく聞こえない)の中に放り出されるはめになる。特に夜間やトンネル内の事故、災害時にはまさに命がけであり、深刻な問題である。これは2016年10月に発生した東京停電や東日本大震災に代表される震災などにも同じことがいえる。

最も重要なのは一刻も早く正確な情報を得て、自分にとって正しい判断をし行動することにある。私たちはバリアフリー社会を目指して国や地方自治体と取り組んでいるが、証言にあるように、今回の新幹線停電事故のケースは、備えの不足を教えてくれる。

公共交通機関等を利用する時、平常時も音声による情報が多く、視覚情報はまだまだ遅れている。最近では音声を文字に変換するアプリも開発されつつあるが、一番重要なのは障害のあるなしにかかわらず、人々が助け合える社会づくりであることに尽きる。

障害者権利条約は、第9条(アクセシビリティ)、第21条(情報へのアクセス)にあるように、障害のある人が情報にアクセスしやすい環境の整備を求めている。障害者基本法では、第21条で公共的施設のバリアフリー化、第22条で情報の利用におけるバリアフリー化等を定めている。とりわけ移動については、施設や公共交通機関を利用するにあたり、いつでも必要な時に情報を発信、また入手することで安心して自由に移動手段を選び、行き来できる環境が重要になる。もちろん、ハード面だけでなくソフト面でいう人的支援も欠かせない。

現在、全日本ろうあ連盟は情報・コミュニケーション法及び手話言語法(いずれも仮称)の制定に向けて運動を展開している。この2つが制定されれば、耳が聞こえない人だけでなく、すべての障害者が安心して自由に移動できる社会が実現すると確信している。

(おおたけこうじ 一般財団法人全日本ろうあ連盟理事)