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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

交通機関は誰もが使える機会均等になってほしい
―台湾のMRT障害者の移動支援について

林君潔

台湾のMRT(メトロ台湾)は1996年にできました。当時、政府はMRTにエレベータを設置しようとは思っていませんでした。なぜかと言うと、エレベータを必要としている人が少ない、お金がかかる、エレベータをつくったら障害者が乗るようになって、災害があった時に脱出できないとか、いろいろおかしな理由がありました。そして、障害者団体が交渉や記者会見を開いて、バリアフリーな設備をつくることになりました。おかけで現在、MRTの駅と電車はとても使いやすくなっています。

私は今までいろいろな国に行ったことがありますが、台湾のMRTが一番使いやすいと思います。

なぜかというと、車いすを使っている人は、駅員に頼らず、台数に関係なく、いつでも、どの車両にも自分で乗れるからです。たくさんの車いすの友達や家族と一緒に出かけても困らない、とても自由です。一般の人と同じです。私たちは「車いすスペース」や「車いす用トイレ」がほしいのではなく、本当にほしいのは機会均等です。

私が以前、日本で体験したことですが、日本の電車は昔にできたものなので、バリアフリーの設備は後から追加で整備されてきました。ですから、たくさんの制限があります。たとえばエレベータは、どこにあるのか分かりません。エレベータがないところも結構あります。そして、電車に乗る時に駅員さんに頼んで、連絡を待たないといけないので、電車に乗るまでにすごく時間がかかります。一緒に出かける友達や家族に申し訳ない気持ちになります。

私は冬の寒い日、駅員さんへの連絡のため、到着した電車に乗れずに何本も見送った時がありました。駅員さんは、丁寧な日本語で「申し訳ない~???」と言ってくれましたが、後ろの方は何と言ったか全然覚えていません。ただただ「寒い」と返事しました。あの時は、本当に寒かった!

それから、ホームと電車の間に段差がある、車いすスペースが決まっている、乗れる台数も決まりがあるなど、いろいろな制限があって、障害者は隔離されていると感じたことが多くありました。台湾もMRT以外の多くのところ(劇場や新幹線、電車とか)は、車いす席が1か所または2か所に集まっています。なので、会いたい人、会いたくない人にかかわらず、車いすの人とよく会います!自分の好きな場所を選べない。だから、一般の人と同じように、いつでも、どこでも、自由に選べるという機会均等が大事だと思います。

もう一つ、日本で印象深かったのは、電車に乗る時と降りる時に駅員さんが「車いすのお客様をご案内します~」と大きい音でアナウンスすることです。たくさんの人が私の方を見ました。「こんなふうにアナウンスしたら、全部の人に私がどこで降りるか、どこに行くか、分かっちゃうんじゃない?」とびっくりしました。この経験があったので、次に電車を利用した時、「アナウンスしないでください」と駅員さんに頼みました。駅員さんは、「アナウンスしないと運転士が状況を把握できないので、もしアナウンスしない場合は、運転士の近くの一番前の車両に乗ってもらえますか?」と言われました。その時は、人が多くて、1号車もすごく遠かったので断ったら、アナウンスされました。もっといい方法で伝えられたらいいのになと思います。

最近日本に行って思ったことは、今、多くの車いすの人が街に出るようになって、同時に電車に乗る人も多くなってきました。以前のように、駅員さんと1対1の対応で済まなくなると思います。新しくできる車両と駅は、全部バリアフリーになったらいいなと思います。

台湾のMRTは96年にできたので、初めからバリアフリーを取り入れました。広いエレベータ(車いすが2台乗れる)、ホームと車両の間に大きな隙間や段差がない、駅内に車いす利用者の移送サービスがある、バリアフリートイレがある。ちなみに、新しくできた線の1駅には、バリアフリートイレが3つ(男1、女1、独立1)あり、エレベータも2つあります。

MRTの車内では毎日、たくさんの車いすの人を見かけます。理由は、バリアフリーだけではなく、チケットがすごく安いことも関係していると思います。障害者手帳を持っている人と同行者1人までは6割引です。最低運賃は8元(*1元は約4円)、一般の人は20元です。だから、みんなにとって使いやすいと思います。良くないところは、駅の中では飲食禁止とバリアフリートイレに介護ベッドがないことです。

駅内は、車いすの利用者だけではなく、視覚障害者のための移送サービスもあります。サービスが必要な場合は、駅の案内所ですぐ申請できます。これまでに何回か、視覚障害者や電動車いすの人、一般の人がホームから転落する事故がありました。そのため、今はMRT全部の駅にホームドアを設置する工事を順次行なっているところです。

バリアフリー化の影響でMRTがある都市(特に台北)で障害者を見かけるのは普通で自然な光景になっています。変な目で見られないし、駅の中では、大人も子どもも車いすの人のためにエレベータのボタンを押してくれたりと、接し方も分かっています。視覚障害者や盲導犬を見ても対処法が分かります。MRTの中だけでなく、台湾の社会がインクルーシブになったらいいなと思います。

(チュン・チェ・リン 社團法人台北市新活力自立生活協會)