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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

何かがはじまり、何かがうごく
2017ジャパン×ナントプロジェクト
~障害者の文化芸術国際交流事業~

田端一恵

あなたに踊ってもらいたい

「湖南ダンスワークショップは、フランスのナント市に招待され公演することになりました。その作品をあなたに踊ってもらいたいのです。よろしくお願いします!!」

滋賀県内でダンス・身体表現に取り組んでいる湖南ダンスワークショップ。グループは障害のある人、支援者、ダンサーで構成されている。それぞれの個性が際立ちながらも、全体はあうんの呼吸で展開するという独特のパフォーマンスが魅力のグループだ。このグループは2017ジャパン×ナントプロジェクトのプログラムの一つ、舞台芸術公演に出演する。

このグループのプロデューサー北村成美さん(ダンサー・振付家)は、今回の出演にあたり、出演メンバー一人ひとりと面談し、出演依頼をしたという。面談にはメンバーの家族と支援者にも立ち会ってもらった。冒頭は、その時の北村さんの言葉だ。

2017 ジャパン×ナントプロジェクト

このプロジェクトは、障害者の文化芸術によるフランスナント市との交流事業である。主催は文化庁、障害者の文化芸術国際交流事業実行委員会、フランス国立現代芸術センター“リュー・ユニック”、ナント国際会議センター“シテ・デ・コングレ”であり、日仏共同主催である。10月21日(土)~25日(水)にフランス側の主催者である2館でさまざまなプログラムが催される。

湖南ダンスワークショップが出演する舞台芸術公演には他に3団体が出演する。そのラインナップは長崎の瑞宝太鼓による和太鼓、島根のいわみ福祉会・芸能クラブによる石見神楽、鳥取のじゆう劇場による演劇とバラエティーに富んでいる。舞台芸術公演の他、プログラムは大きく分けて5つある。

日本のアール・ブリュット「KOMOREBI」展

約40人の作品が出品される。フランス側のキュレーターであり、プロジェクトの主催者の一人でもあるパトリック・ギゲールさん(リュー・ユニック館長)は、この展覧会タイトルにKOMOREBI=木漏れ日と付けた。木漏れ日という言葉に対応するフランス語はないそうで、彼はこの言葉を日本固有の知的な概念であると言う。この言葉に象徴されるように、今回は日本のアール・ブリュットが持つ固有の視点や世界観が抽出され、4つのテーマで紹介されることとなっている。

プロジェクションマッピング

日本のアール・ブリュットの魅力を、プロジェクションマッピングで体感してもらう仕掛けである。「KOMOREBI」展が開催されるリュー・ユニックの壁面を使って表現し、展覧会を盛り上げ、作品の魅力を新たな形で発信する。

バリアフリー映画の上映

バリアフリー映画とは、聴覚障害者用の字幕と視覚障害者用の音声ガイドの両方が付けられた映画である。日本の障害のある人のさまざまな暮らしを丁寧に取り上げた新作映画3本が上映される予定である。今回の上映は、目や耳の不自由な方、外国の方も含めて一緒に映画を楽しむことができる新技術、UDCast対応で上映される。

国際研究フォーラム

日本とフランス両国のさまざまな専門家、実践家による国際研究フォーラム。「障害のある人の芸術文化とケアと権利」をテーマに討論される予定で、日本からは18人が登壇することになっている。

日仏合同ワークショップ

造形ワークショップと太鼓ワークショップの2種類を、両国の障害のある人が一緒に楽しむことができる内容で企画している。

プロジェクトの背景~蓄積された時間と関係性

日本のアール・ブリュットは、これまでも国外で発表される機会が幾度もあったが、今回これだけ多様なプログラムが実現した背景には、蓄積された時間と関係性がある。

遡(さかのぼ)ること10年ほど前。2008年、スイス・ローザンヌ市のアール・ブリュット・コレクションで日本のアール・ブリュットを紹介する「JAPON」展が開催された。リュー・ユニックのギゲール館長は、現在とは違う立場にいたが、「JAPON」展の準備が始まった当時からアール・ブリュット・コレクションと親交があり、同展の準備段階から日本の作品と生み出される日本の環境に強い関心を持った。

以降、恒常的な情報交換と折に触れての往来を重ね、お互いの理解を深める中で、ギゲール館長は日本のアール・ブリュット以外にも魅力のある表現があることを知る。その一つが障害のある人たちによる舞台芸術である。時が経ち、ギゲール氏はリュー・ユニック館長となり、その魅力はシテ・デ・コングレのポール・ビヨドー館長にも伝えられる。ビヨドー館長はこれらの表現とその表現を支える環境を目の当たりにし、日本とフランス、互いの知識と経験を活かしながら共同した取り組みをしたいと願うようになる。その希望が伝えられたのが4年前。それからも密な情報交換を重ね、それぞれの国で協力体制を築くことで、今年、プロジェクトが実現したのである。

うごきはじめたもの

冒頭の北村さんの言葉に「フランスのナント市に招待され公演」とあるが、今回のプロジェクトの内容は、すべてナント市の主催者の2館の館長が認めたもの、選んだものである。

湖南ダンスワークショップのメンバーは北村さんとの面談で、「朝、早く起きる」「ラジオ体操を毎日する」等、ナントの公演までに取り組むことがそれぞれに設定されたという。ナント公演に向けた初めての練習の日。今回の公演の場面設定が琵琶湖であることが北村さんから説明され、みなそれぞれ最初の位置に付く。このグループは、誰から踊るか、最初は決められていない。流れるピアノ演奏。先頭を切って踊り始めたのは、今まで決して最初に踊ることのなかった女性であった。彼女は琵琶湖を飛び跳ねて渡るように躍動的に踊っていた。何かがもうはじまり、うごいている。

http://nantes.art-brut.jp

(たばたかずえ 障害者の文化芸術国際交流事業実行委員会事務局)


UDCast:映画・映像・放送等の「音声」をスマートフォン等の携帯端末のマイクが拾うことで、その端末を通じて、字幕や手話の表示、音声ガイド再生等を行うことのできるアプリケーション。