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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

災害の教訓は実践して備えとなる

巴雅人

「備えあれば憂いなし」は災害を経験する度に頭に浮かぶ言葉です。

“備え”というと、備品や設備に視点がいきがちですが、東日本大震災のような大災害ではもとより、今年多発している水害やインフラ停止時でも、やはり基本は、たとえ障害をもっていたとしても、自分で自分の身を守ることが最優先されます。そのためには、『身体』や『気持ち』、『社会との関わり』といった“備え”にも目を向けたいと思います。

私は脊髄損傷(Th3完全麻痺)で屋内外常時車椅子使用となります。先の東日本大震災時も激しい揺れや昼夜問わず度重なる余震、津波は家まで800メートル先で止まり住居への大きな被害は逃れましたが、インフラ停止や物資不足の生活を経験しました。余震の心配や散らかった家の中での移動ができないため、1日目は車中泊とし翌日からは、寝室が使用できなかったので、すぐ避難できるように玄関に近い居間で2週間ほど生活しました。普段のベッド生活ではなく、布団からの起居になったため、車椅子への移乗ができず家族の介助を必要としました。

この時、普段から身体機能をできるだけ落とさないよう“備える”ことがいかに重要かを学びました。また、発災当初は避難所に人が多くて車椅子では身動きすらできない状態だったのですが、避難所の設備や仮設住宅では、移動も含め排せつ・入浴等でなおさら身体機能の負荷が大きく、私には無理だったかもしれません。そして、もうひとつの“備え”は、社会との関わりを濃くしておくことかと思います。発災後、最初は隣近所の「地域コミュニケーション」が最大の拠りどころです。救護や安否、情報や飲食の共有などになります。次に職場や業界、趣味や仲間による「テーマ型コミュニケーション」が機能してきます。整理整頓から当面の生活支援等の支えになります。

これらのコミュニケーションを活(い)かすには、これもまた、普段からの“備え”ではないでしょうか。地域コミュニケーションでは隣近所でのあいさつが基本、そして町内会行事への参加や参画、特に「防災訓練」に出向くのは有効な手段かと思います。テーマ型コミュニケーションでは、昨今の災害の多発を考えれば、生活基盤が揺らぐような大規模災害時には、お互いに避難できるような具体策を日常の話題として取り上げてもいいと思います。

身体と社会との“備え”ができてくれば、おのずと“気持ちの備え”も充実してきます。それが「災害は忘れた頃にやってくる」に対する構えでもあるのです。

(ともえまさと (有)車座社長)