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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

発達障害のある人の避難の困難さ
―熊本地震の被災地支援に携わって―

伊野憲治

熊本地震の被災地支援に携わって改めて感じたことは、自閉症スペクトラム障害をはじめとする発達障害のある人及び家族が被災した際、避難所で集団生活をおくることは極めて困難であるということだ。

熊本地震の場合、かなり規模の大きい余震が続いたために、被災者の多くは避難所等に長期的に滞在を余儀なくされた。ところが、自閉症協会の会員の場合、避難所を利用した家族はほとんどいなかった。

発達障害当事者は、感覚に問題を抱えている場合が少なくない。また、急な変化への対応が苦手だ。避難所の喧騒(けんそう)には耐えられないだろうという懸念や、他の避難者へ迷惑をかけるのではないかという自制から、やむを得ず車中泊・軒先避難を選択するような状況であった。当然のことながら情報、支援物資等の入手も困難となった。

車中泊、軒先避難の問題点はそれにとどまらない。会員の安否確認、状況把握すらままならなくなる。日本自閉症協会本部及び熊本県自閉症協会は協力して会員の安否確認、状況把握を行い、会員支援を考えた。しかし、多くの場合、連絡先に固定電話の番号しかなかったため、最も支援を必要としている被災会員の状況を掴(つか)むのに、かなりの時間を要した。車中泊避難者に関しては移動が可能であることが、把握を一層困難なものとした。

そうした状況を目の当たりにしながら、まず感じたのは、災害時、緊急時の連絡網の見直しの重要性である。最近では、特に個人情報保護という難しい問題はあるものの、きちんとしたネットワーク作りが必要となる。

また、急な変化への対応が難しいことから、災害によって周囲の状況が一変したことによるストレスだけでなく、車中泊、軒先避難のストレスも加わる。当事者及び家族の防災、自助努力の一環として、車中泊、テント生活などを日ごろから練習し、経験を積むことで多少とも慣れておくことも大切だ。

福祉避難所等での適切な対応を期待したいが、緊急時には頼みにならないのが現状である。むしろ、被災者は、車中泊、軒先避難などの状況を正確に伝えるネットワークの確立に、支援する側は、そうした被災者にも情報や支援等がきちんと行き届くようなシステムの構築に努力したほうが、より現実的なように思えてならない。

(いのけんじ 福岡県自閉症協会会長)