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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

霞が関BOX

農林水産省における農福連携の取組について

農林水産省農村振興局都市農村交流課課長補佐 糸賀信之

1 はじめに

今、農業・農村の現場では、農業就業人口の高齢化等により、農業労働力が著しく減少しています。平成7年には414万人だった農業就業人口は、平成27年には210万人と、わずか20年で約半数に減少していますが、今後もこの傾向は続くと考えられています。また、この就業人口の減少に呼応するように、耕地面積が減少しています。平成7年には504万ヘクタールだった耕地面積は、平成27年には450万ヘクタールと、20年間で約11%も減少しています。そのため、農業労働力の確保と耕地の有効活用が農業・農村の振興に向けた課題となっています。

図1 農業労働力の推移
図1 農業労働力の推移拡大図・テキスト

図2 耕地面積の推移
図2 耕地面積の推移拡大図・テキスト

一方、障害者福祉の現場では、ほぼすべての年齢層で、障害者の就業率が一般よりも低くなっています。平成18年の調査によれば、20代後半から50代後半までの世代の就業率は、「一般」では8割程度なのに対し、「身体」及び「知的」障害者の就業率は5割から6割程度、「精神」障害者の就業率は2割程度と低い状況です。また、平均工賃についても上昇傾向にあるものの、依然として低い状況です。そのため、就業機会の確保と工賃の向上が障害者福祉の課題となっています。

図3 障害区分別年齢別の就業率
図3 障害区分別年齢別の就業率拡大図・テキスト

図4 平均工賃分布割合(事業所数割合)
図4 平均工賃分布割合(事業所数割合)拡大図・テキスト

これらの課題の解決に向けて政府は、「日本再興戦略(2016)」(平成28年6月閣議決定)において、多様な働き手の参画に向けて「農業分野での障害者の就労支援(農福連携)等を推進する」こと、また、「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月閣議決定)において、障害者等の活躍を支援すべく「障害者の身体面・精神面にもプラスの効果のある農福連携の推進」をすることとしています。また、「未来投資戦略2017」(平成29年6月閣議決定)においては、「農福連携による障害者の就労支援を推進する」こととしています。農福連携によって、農業・農村と障害者福祉双方の課題を解決しながら、双方にとって利益(メリット)があるWin-Winの関係となるような取組を進めていくことが重要です。

表1 農山漁村振興交付金(農福連携対策)概要

対策名 内容 補助率 実施主体
農山漁村振興交付金
○都市農村共生・対流及び地域活性化対策のうち
農福連携対策
・福祉農園等整備・支援事業




障害者の雇用・就労等を目的とした福祉農園及び加工・販売施設の整備を支援するとともに、専門家による農業・加工技術、販売手法等の習得を支援




ハード 1/2以内
ソフト 定額




社会福祉法人、特定非営利活動法人、社団法人、民間企業等
・農福連携支援事業 農業経営体が障害者に農作業を委託する取組について、障害者の受け入れ環境の整備(トイレ等の施設整備、サポーターの育成・派遣)を支援するほか、就農等を希望する障害者等を研修生として農業経営体が受け入れる場合の支援 ハード 1/2以内
ソフト 定額
地域協議会(構成員に市町村が含まれるもの)

※このほか、農福連携に係る普及啓発や調査・研究の実施を支援しています。

2 取組にあたっての期待と不安

農福連携が図られることにより、農業・農村(主として農業者)側、福祉側双方にとってメリットのある良い取組となることは事実ですが、実際に取組を始める際には、両者とも少なからず不安(課題)を抱えていることが分かっています。

たとえば農業・農村側には、高齢化した農家を補助する労働力としての期待がある一方で、障害者に作業をどう教えてよいか分からない、雇用した後のケアについて、誰に相談すればよいか分からないといった不安があります。

また、福祉側には、農作業を通じて自然とふれ合うことでリハビリテーション効果が期待できる、あるいは一般就労に向けた訓練の場として期待できる一方で、技術や経験がない中で農作物を栽培できるのか、安全に作業ができるのかといった不安があります。

そのため、まずは、稲刈りなどの農作業体験や特別支援学校での農業実習等を、障害者を支援する機関等とも相談しながら実施し、時間をかけて良好な関係をつくっていくことが大切です。そのような活動を通じて、お互いの不安が払拭され、メリットが実感できるようになることにより、次のステップとして、農業者と障害者施設との農作業の請負契約や、最終的には、農業者による障害者の雇用等に繋(つな)がっていくことが期待されます。

3 農林水産省における農福連携の支援制度(平成29年度)

農林水産省では、「未来投資戦略2017」等の政府戦略に基づき、農福連携を促進するため、社会福祉法人等が障害者の就労・雇用等の目的で行う農園の整備や、農業経営体が障害者に農作業を委託できるようにするために地域協議会が行う障害者の受け入れ環境の整備に要する経費等を支援しています。この支援を活用することにより、福祉農園及び加工・販売施設の整備や農産物の生産・加工技術等の習得、農業経営体が障害者を受け入れる場合に必要なトイレ等の施設の設置やサポーターの育成・派遣等が可能となります。

4 取組事例

(株)ひなり浜松事業所(静岡県浜松市)は、農業に付帯する軽作業を複数の農家から請け負うことで、周年で障害者の働く場所を確保するモデルを確立しました。障害者3~4人に管理者1人の体制を基本に、農家8戸から農作業(収穫、定植、出荷、調整等)を請け負い、20人の障害者を雇用しています。農業技術については、管理者が障害者を指導しながら一緒に作業を行う中で、連携をしている農家から習得しています。作業を委託している農家からは、「ひなりの存在により労働力が確保され経営規模の拡大につながった」と評価されており、労働力の確保による地域の農家の経営改善に貢献しています。

5 おわりに

農福連携に関する取組事例、支援制度については、農林水産省ホームページに掲載のパンフレットを併せてご覧ください。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kourei/pdf/pamphlet_ver5.pdf

また、パンフレットの巻末にご紹介のとおり、農業分野における障害者就労を促進するため、行政、福祉、農業等の関係者で構成するネットワーク(協議会)が、地方農政局等の単位で設立されており、優良事例の紹介やセミナーの開催等が行われておりますので、お気軽にお問い合わせください。

(いとがのぶゆき)