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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

ほんの森

健太さんはなぜ死んだか
警官たちの「正義」と障害者の命

斎藤貴男 著

評者 三田優子

山吹書店
〒180-0005
武蔵野市御殿山1-6-1-306
定価(1,500円+税)
TEL 0422-26-6604
FAX 0422-26-6605
http://yamabuki-syoten.net

書評を、と依頼されたのだが、安永健太さんへの手紙のようなものになることをお許しいただきたい。『健太さんはなぜ死んだか』を読了し、心に溢(あふ)れたのは健太さんへのメッセージになってしまったからである。

健太さん、まずあなたにお詫びしなくてはなりません。あなたが亡くなったことを私はうっすらと知っていました。知的障害のある男性が何の罪も犯していないのに、多数の警察官に取り押さえられ、佐賀市の路上で亡くなった。警察官が障害者理解もないままひどい対応をし、ひとりの障害者が死にまで至ったのに、結局、裁判でも真相は明らかにされず、障害者の命への軽視が問われる事件……こんな感じです。

「知的障害のある男性」「ひとりの障害者」だなんて理解でごめんなさい。あなたは「安永健太」という名の25歳の未来ある青年で、2歳年下の弟とキャッチーボールを楽しみ、野球だけではなく走るのも得意で国際大会でメダルまで獲得したスポーツマン、そして通勤時には、いつも大切な人たちとの写真70枚をバッグに忍ばせていた人ということを全く知らず、知ろうともしていませんでした。本書に何度か登場するあなたの笑顔の写真を拝見し、なんと魅力的な人だったのだろうと確信します。

さらに、障害の理解を社会に広めたい、と願っている者のひとりとして、警察官が知的障害について「まったく知りません」などと裁判の過程でも発言するレベルであったことに、私自身もその責任の一部を担うのではないかと思い、申し訳なく思うのです。

突然、多数の警察官に囲まれパニックになった健太さんの恐怖は想像できないほどのはず。その様子を「精神錯乱」とか「薬物依存」などと短絡的に判断し、馬乗りになって殴った警察官は「保護」のためだったと主張しています。保護すべき市民の中には知的障害者だけでなく、身体障害、精神障害、認知症などさまざまな特性をもち、配慮が必要な人が多数含まれているのに、こんな「保護」が正当化されてしまう社会に誰もが安心して暮らせるはずがないことを、あなたが命をもって教えてくれたのだとしたら、本当に残念で悲しくてつらいです。

遺(のこ)された私たちは何かをしなくてはなりませんね。あなたが今、生きていたらどんなことを話すでしょうか。「嘘はいけません」「悪いことをしたらごめんなさいと言いなさい」「優しくしなくちゃだめです」などと言われるかもしれません。今年、36歳になっていただろう健太さん、あなたにお会いしたいです。

(みたゆうこ 大阪府立大学准教授)