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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

補助犬、世界の動向

高柳友子

身体障害者補助犬法制定の経緯

2002年5月22日に議員立法で成立したわが国の身体障害者補助犬法立案の元となったのは、1998年から5年間にわたって行われた、介助犬の基礎的調査研究班による国内外における介助犬及び盲導犬等の実態調査と文献検索によるものでした。研究班を犬・人・社会の分科会に分け、円滑な社会参加を目的として同伴への理解が進むために当事者、訓練事業者、リハ専門職、獣医師、法学者などの専門職による連携をもって調査研究を行いました。

清潔意識が高く、必ずしも犬に対して寛容とはいえない日本社会の中で「障害者の社会参加のため」とはいえ、障害者が補助犬を同伴することを拒んではならないと義務化するために、まずは補助犬が迷惑をかけないことを使用者責任と定めたのが補助犬法の要諦である認定制度なのです。犬がいかに素晴らしく訓練されていたとしても、管理者である飼い主がマナーを守らなければ他人に迷惑を及ぼすことになります。

補助犬法では、補助犬は障害者の自立と社会参加促進を目的に訓練され、認定を受けた犬を補助犬としています。厚生労働大臣指定法人は、客観的に第三者の立場で使用者が社会参加の際、自らの補助犬を同伴してどれだけ責任を持って他人に迷惑を及ぼさない管理ができるかを評価、動作検証をしなければなりません(図1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

前述の調査で、先進諸国では、すでに障害者差別禁止法の中に補助犬使用も網羅されていると考えられていました。特にADA(障害を持つアメリカ人法)では、犬に限定せずサービスアニマルという言葉が法律に明記され、基準がないことからサービスアニマルとペットとの区別が容易ではないこと、これが大きな問題に発展するであろうことが予想されていました。そのため、わが国では、身体障害者補助犬法を身体障害者手帳の中でも、身体障害者手帳保持を前提として盲導犬・介助犬・聴導犬3種のみを定義し、各々の認定基準及び訓練基準を定めることとしたのです。

最近の動向

このように補助犬の定義や取り巻く法律、ひいては障害者を取り巻く法律は国により異なります。

昨今の米国を中心とした欧米諸国の補助犬育成団体では、自閉症やADHDを課題とする児童に対して、戦地からのPTSDがある元兵士に対して、1型糖尿病がある児童に対して、癲癇(てんかん)発作がある児童などに犬を出すこと、動物介在活動・動物介在療法を事業に加える訓練事業者が急増しています。

補助犬訓練事業において、最も重要なことは犬の適性を見極めることです。訓練をして無理に何かをさせるのが補助犬や動物介在療法と誤解されがちですが、犬が本当にリラックスして楽しめて初めて人に効果をもたらします。ということは、介助犬や補助犬には向かない、が、素晴らしい他の適性を持った犬も含めて、補助犬としてはキャリアチェンジ(CC)をすることになるのです。

これまでは、どこの協会もキャリアチェンジ先は家庭犬としてきました。が、それだけでは勿体(もったい)ない、乗り物が苦手、雷が怖い、子どもが苦手、犬と遊びたい衝動を抑えられない、人懐こすぎ、とさまざまな課題でCCになる犬の中には補助犬でなく、老人ホームでの動物介在活動で、または、病院での動物介在療法には素晴らしい適性を持つことがあるのです。

自閉症児童が犬と共に暮らすようになって、犬に対して言葉を発するようになった、犬に本を読んであげているといった声が母親から当協会に届きました。オーストラリアの介助犬育成団体で出会ったADHD児童の母親からは、この子(犬)を連れて出るようになって買い物に出られるようになり、児童自身の行動も落ち着いてくれる時間が増えたと喜んでおられました。育成団体にとっても、必ず一定数いるCC犬が一般の家庭犬になるよりも、セラピーとして多くの患者さんの生きる力になり、障害故にできないと思っていたことを変えられる力になることは素晴らしいことだと思っています。

ただし、ただCC犬を渡せば、それで効果があると安易に考えることは危険だと考えます。犬の適性から、児童や環境とのマッチングをしっかりと責任を持って時間をかけて行い、管理者となる両親や家族にはきちんと指導をし、フォロー体制を取ることなくしては無責任になる事業であることも明記しておきたいと思います。

世界でのAssistance Dogの範囲の拡大

筆者が最初に米国で介助犬の存在を知ったのは1989年、医学生の時でした。その後、米国でも数少ない情報源であったデルタ協会のカンファレンスで盲導犬と聴導犬、介助犬使用者たちが集って総称をどうするかの議論を喧々囂々(けんけんごうごう)していたことを記憶しています。その結果、まとまったのがAssistance Dogでした。米国の育成団体が中心となってAssistance Dog International(ADI)という連合会が設立され、ヨーロッパ、オーストラリア、スペイン等での会議の開催がなされており、当協会も会員となって情報収集とネットワークづくりの場として、毎年会議に参加しています。

盲導犬については、わが国でも世界でも同様に介助犬・聴導犬よりも数十年(わが国では40年)の歴史的差があり、この実績の違いから、盲導犬業界と介助犬・聴導犬業界がまとまることが困難な現状があるようです。盲導犬についてはInternational Guide Dog Federation(IGDF)という国際連合があり、こちらはADIと異なり実務的に基準を設けて審査をし、実効力を持って育成事業者の質の担保を図っています。

実際、海外の盲導犬使用者が来日する際にはIGDF登録団体から日本の登録団体へ情報提供があり、一時認定証を日本の盲導犬協会から発行するといった手続きが行われています。ADIも同様な体制を目指していますが、団体の規模や実態があまりにも差があることから進まない現状があります。

米国での「犬」同伴の社会参加の課題

米国では、自閉症やADHD、PTSDのサポートとして本人、または、時に保護者が管理する犬を連れて旅行や買い物に出かける人が多くなり、飛行機にも犬と座席に乗る人が急増しており大きな社会問題となっています。

前述のように、育成団体で訓練を受けた上で保護者が管理している犬もいれば、個人が訓練した犬も、偽(にせ)を語る犬も区別をする方法がありません。多くの場合、利用者は「サービスドッグ」と主張、「エモーショナルサポート」と主張する例が多いようですが、ADA上、障害の内容を聞いてはならないし、証明も求めてはならないため受けざるを得ないそうです。訓練基準や認定基準もない中、排泄や鳴き声で搭乗後や離陸前に降ろされる例や、盲導犬や介助犬が、これらの犬から攻撃を受けて盲導犬として歩けなくなってしまったといった報告がネット上で多く公開されています。

補助犬の名称はアシスタンスドッグ?サービスドッグ??

わが国では法律に基づき、盲導犬、介助犬、聴導犬の三種を総称して身体障害者補助犬としています。が、これを英語に訳すと、盲導犬=Guide Dog、聴導犬=Hearing Dogで何ら支障はないのですが、介助犬は手足に障害のある人の日常生活動作を手助けする、肢体不自由の身体障害者手帳を有する方を対象にするものなのですが、英語ではService dogともAssistance Dogとも、Support Dogとも聞くことがあります。また、総称となる補助犬も同じく、Service DogともAssistance Dogとも呼ばれており、英語圏で話をするのには混乱を生じる要因となります。

昨今、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けての取り組みとして、厚生労働省でも身体障害者補助犬法を英訳して公開しておりますが、そこでは、介助犬をService Dog、補助犬をAssistance Dogとしているので、我々もそれで統一して使用するように心がけています。しかしながら、本当のサービスドッグなのか、偽サービスドッグなのか、分からない犬を同伴しての社会参加における課題がもっとも大きい米国では、補助犬をService Dogと使用していることが多く、より混乱が生じやすいと考えられます。

今後の展望

わが国でも、発達障害や社会適応障害児童は急増しており、犬の力で元気や楽しい時間を過ごせるようなニーズは、今後ますます拡大すると考えられます。

しかしながら、犬との社会参加は犬の管理責任が伴い、管理責任を誰が負うのかの明確な線引きが必要です。

わが国の身体障害者補助犬法は、介助犬、盲導犬、聴導犬使用者が自ら責任義務を果たすことを前提に、社会に受け容れ義務を課す数少ない法律と考えられます。

犬と共に暮らすことで特別な効果があることと、社会参加を受け入れなければならないことを混同することがあってはならないと考えます。補助犬との社会参加の意味を社会に発信するとともに、今後も拡がる社会的ニーズに犬の力で応えていくことが、我々に課せられた使命と考えています。

(たかやなぎともこ 日本身体障害者補助犬学会理事、(社福)日本介助犬協会専務理事)


◎補助犬に関係する団体等のURL

・身体障害者補助犬法(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/syakai/hojyoken/html/a01.html

・日本身体障害者補助犬学会
http://www.jssdr.net

・横浜市総合リハビリテーションセンター
http://www.yokohama-rf.jp/service/braces.html

・全日本盲導犬使用者の会
http://guidedog-jp.net

・社会福祉法人 日本介助犬協会
http://s-dog.jp

・一般社団法人 日本聴導犬推進協会
http://www.hearingdogjp.org