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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

検証 障害者差別解消法 第3回

「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」による取組について

熊本県健康福祉部子ども・障がい福祉局障がい者支援課

1 条例制定までの経緯

障がいのある人が、地域で自立した生活を送り、積極的に社会参加できるようにするためには、障がいを理由とした不利益な取り扱いを受けることのない、安心して暮らすことができる地域づくりを進める必要がある。本県が平成20年8月に実施した相談機関などに対する調査において、障がいのある人がさまざまな場面で、依然として差別を受けたり、障がいへの配慮がないため暮らしにくさを感じているといった現状が明らかとなった。

また、国際連合で平成18年に「障害者権利条約」が採択されるなど、障がい者の権利擁護を進める国内外の取組も進んでいた。

こうした中、本県では、平成23年7月に「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」(以下「条例」という)を制定し、平成24年4月1日から全面施行した。

2 条例の特徴

条例の主な特徴として、以下の4点が挙げられる。

(1)不利益取扱いの禁止

障がいのある人に対して「不利益取扱い」となる行為を、日常生活、社会生活における8つの分野について具体的に掲げ、「してはならない」こととして禁止する。

(2)社会的障壁の除去のための合理的な配慮

障がいのある人が、日常生活や社会生活において受けている制限や制約(社会的障壁)をなくすための必要かつ合理的な配慮を、負担が重すぎることとならない範囲で行わなければならないとする。

(3)相談体制及び個別事案解決の仕組み

「不利益取扱い」、「合理的配慮」または「虐待」についての相談体制(広域専門相談員・地域相談員)、「不利益取扱い」に関する個別事案解決の仕組み(調整委員会)を設け、第三者的な立場で当事者の方々と共に問題の解決に取り組む。

(4)県民の理解の促進

障がいのある人に対する誤解や偏見をなくし、障がいのある人に対する理解を深めるための啓発活動を進める。

3 相談状況、紛争解決の状況

平成28年度の新規相談件数は138件となった。そのうち、差別に関する相談(不利益取扱い及び合理的配慮に関する相談)は51件であった。

不利益取扱いの事案としては、障がいを理由とする不動産取引の拒否、車椅子利用者に対する路線バスの乗車拒否といった相談が寄せられた。また、合理的配慮の事案は、建物のバリアフリーに関するもの、金融機関における代筆に関するものなどさまざまなものがあった。

なお、調整委員会に対する助言・あっせんの申立は、これまでに3件あり、それぞれ審理が行われたが、調整委員会のあっせんに至った事案はなかった。

図1 相談員による解決
図1 相談員による解決拡大図・テキスト

図2 相談員による解決が困難な場合:不利益取扱いに関する事案
図2 相談員による解決が困難な場合:不利益取扱いに関する事案拡大図・テキスト

4 条例制定の意義、効果

本県では熊本県障がい者計画に「共に生きる社会」の実現を基本理念に掲げているが、この条例の制定によって共生社会の実現を県民全体で進めていくということをより明確にすることができた。

県民にとっては、条例により障がい者差別に関する相談窓口が設けられ、専門の相談員が実際に問題解決を図るようになったことが具体的な効果として挙げられる。また、条例ができたことで、障がいのある人が声を上げやすくなったという一面もある。

なお、平成27年12月に条例の一部改正を行い、障害者差別解消法等の関係法令との整合を図ったほか、「障害者」の定義規定に「難病」や「発達障害」を明記するなどの改正を行なった。

5 今後の課題

条例の取組の一つに「県民の理解促進」を挙げているが、条例の認知度は39.5%(平成28年度)にとどまっている。今後、より多くの人にこの条例を知っていただき、正しく理解してもらうことが「共に生きる熊本づくり」の実現に欠かせない。

また、条例の運用面では、特に合理的配慮の問題について、双方の話し合い、相互理解という立場で解決を図り、対立関係を生むことがないように運用することが重要だと考えている。

平成28年4月に熊本地震が発生し、県内において甚大な被害が生じた。相談窓口にも熊本地震に関連するものが寄せられ、広域専門相談員が相手方との調整や助言を行なった。また、被災に伴い表面化したさまざまな社会的障壁や障がいのある人への支援のあり方について課題の整理と検証を行い、避難所の運営マニュアルなどへの反映にも取り組んでいる。

今後も、障がいへの理解が深まり、そして、障がいのある人への差別の解消に向けた取組がより一層推進されるよう、今後も関係機関との連携を進めながら「共に生きる熊本」づくりを推進していきたい。