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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

ワールドナウ

グローバルILサミットに参加して

岡本直樹

7月22日から8月6日までアメリカへアドベンチャーの旅に行って来ました。今回はワシントンD.C.での体験のほか、WIN(World Independent Living Network)の設立について報告させていただきます。

私がアメリカに行くきっかけは、昨年6月、静岡で行われたとある全国大会にて、DPI日本会議事務局長の佐藤聡さんの「来年、グローバルILサミットをワシントンで開催します」という発表です。私は「このチャンスを逃す訳にはいかない」と率直に思いました。それはアメリカが自立生活センター(CIL)の起源であり、世界初の差別禁止法である障害を持つアメリカ人法(ADA)を障害者運動により設立させた地だからです。

20代の頃、働いていた作業所でハワイに行く機会がありました。その当時の記憶では、あらゆるバス、レストラン、お土産屋など、どこでも車いすでアクセスできる環境などADAの衝撃を目のあたりにしました。

一方、わが国ではアメリカに遅れること26年、ようやく昨年4月に障害者差別解消法がスタートしましたが、罰則規定がないなど脆弱な制度となっており、この法律を強固にしていくためにも、この時期に渡米し、ADAの効果を体感できるのは、本当にラッキーでした。

朝7時に空港に到着。チェックインで荷物を預け、セキュリティーチェックへ。日本では事前に、車いすや医療器具使用者は、バッテリーの形状等細かく聞かれます。私はペルモビール社のC300という電動車いすに乗っていて、各航空会社ごとに登録をしていますが、今回も一から確認されました。

この車いすは、スウェーデン製で前後輪が逆という特徴がありますが、バッテリーにカバーがありボルトで固定しているため、目視で確認することができません。そのため、30分ほど立ち往生を食らい、何とか問題ないことを認めてもらいました。結局、搭乗ロビーには、目標の時間ギリギリに到着。私の席はエコノミークラスの先頭で比較的座りやすく、約13時間のフライトも行けると感じました。

ただ懸念は「トイレ」でした。7月頃にマスコミで取り上げられたバニラエアの乗降トラブルで、被害者の男性の「座席で隠れて尿瓶で用を足す」という発言が、ネットを中心に強く非難されていたからです。

機内では、飲み物も最低限にし、ずっと「トイレ」について考えていました。乗客が寝静まったことを見計らい、CAに機内用車いすを準備してもらいトイレへ。案の定、介助付きではトイレに入れず、トイレの前をカーテンで仕切ってもらい、尿瓶で用を足しました。今後は、ぜひ車いすごと入れる機内、トイレを作ってもらいたいものです。

かくして無事トイレを済ませ、最大の山場は越え、私たちは念願のワシントンに到着しました。機内で電動車いすに乗り換えバスで空港へ。荷物を受け取り税関へ向かうと、職員同士での会話が目立ち、しっかり声をかけないと対応してくれないところがアメリカらしいと感じました。

日本のメンバーの出迎えがあり、記念撮影をした後に宿泊先へ向かいました。私たち「府中チーム」は、バスとメトロを使いました。

アメリカでは、とにかくすべてが新鮮でした。バスでも、列車でも、カフェでも、レストランでも、お土産屋でもすべて車いすでも利用できました。

後に訪問したニューヨークでは、一部の地下鉄の駅にエレベーターがないなど不便さはありましたが、サンフランシスコやサンノゼはワシントンよりも快適でした。空港バスは当たり前に乗れ、どこでも入店できる工夫など、日本でありがちなトラブルは一切ありませんでした。片言の英語でなんとか会話しホテルへ。現地の人はとても親切で、障害者に対する差別はないと感じました。

16時過ぎにメイン会場のホテルハイアットへ向かい、日本メンバーと合流しました。目的の共有、スケジュールの確認を通じて、日本やアジアの同士たちに会えた喜びと、本当にアメリカに来たんだという実感を得ました。

今回の目的は、1つ目は「グローバルILサミットの開催」、2つ目は「WINを日本とアメリカを中心に設立する」というものです。後者については、わが国のCILはアジアや南アフリカ、中南米等へさまざまなファンドを活用し、CILの理念やノウハウを継承してきました。

IL運動は、障害者の種別だけではなく、人種、宗教、国境を越え世界に広まっています。障害者が障害者をエンパワメントし、それが何層にも広がり、どの地域にも障害者のエンパワメントが広がっていきます。その拠点がCILで、社会変革に大きな影響を与えています。そんなふうにアメリカで始まったCILがアメリカ、ヨーロッパに広まり、そして、日本から新たにアジアへと拡大しています。

今、世界は、障害者権利条約がありますが、トランプ政権の誕生ややまゆり園の事件など、優生思想をはじめとする障害者不要論など、とても根深い逆風の中にあります。IL運動をさらに力強くしていくためには国際的なネットワークが不可欠です。

WINは、世界のさまざまな国で育ち、実現してきた成功例などを貯蔵し、オンラインで共有したり、一緒に研修を作ったりといったさまざまな働きかけ方により、この逆風に対抗していくことが望ましい戦略と考えています。

23日のILサミットには、200人弱の会場にびっしりと集結。アメリカの方も大勢参加していただきました。オープニングでは、佐藤さんからこれまでの経緯説明がありました。佐藤さんはサミットを提案してから2年間、世界そして日本のさまざまな人と会い、話し、繋(つな)ぎ、時には悩み、険しい道のりを、まさに体を張って準備してくれました。私にとってもその喜びはひとしおで、佐藤さんの嬉(うれ)し涙は印象的でした。

最初のプログラムは、「ILは世界を変える」と題して、ボリビア、南アフリカ、モンゴルといった私たちには馴染みの深い面々からCIL設立までの経緯や報告のほか、アメリカで起こっている人種差別の問題といった話まで多岐に渡りました。やはり、日本のメインストリーム協会、ヒューマンケア協会などを中心とした、CILの理念を伝える地道な取り組みがアジアや南アフリカのリーダーを育て、力強いIL運動の実践につながっていると実感しました。

後半は、いよいよWINの提案。WINのビジョンを共有した後、質疑応答がありましたが、反対する声は一切ありませんでした。たとえば「各国のユースに対する取り組みを知りたい」「先進国だからではなく、途上国にも有効な取り組みを共有したい」「各国のIL運動の歴史を知りたい」「呼吸器をつけながら地域で生きること」など日本からも多数発言があり、大変盛り上がりました。こうして、貴重な意見や感想を受け、満場一致で念願のWINが誕生したのです。

早速、拠点をアメリカと日本に置くことや各国の役員が決まり、日本からは佐藤さんが入ることになりました。将来的には、さらに拡大し、新たな国にもCIL設立を促し、参加してもらうことになりました。素晴らしい船出となったことは、感慨深いものがありました。

この場に立ち会えたことに敬意を示すとともに、今世界に蔓延する逆風に真っ向から対峙し、世界のすべての地域で障害者の権利を「WIN」を勝ち取りましょう!

(おかもとなおき CILふちゅう代表代行)