音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

障害者差別解消法施行1周年記念
Happy Birthday LIVE in 学士会館

佐々木卓司

なぜ、記念ライブを?

昨年の4月1日に障害者差別解消法が施行されました。この法律は障害をもつ人が、障害を理由に差別を受けた時に人権侵害として提訴できる法律です。アメリカでは、1990年に障害者差別を禁じたADA(アメリカ障害者法)が施行され、毎年7月には法の施行を祝う記念イベントが開かれています。

そこで、日本でも障害者差別解消法の社会的認知と施行を祝うイベントを私たち障害者自身の手で行いたいと考えました。

ところが障害者差別解消法ができても自分たちの生活は苦しいままで、何も変わらない、祝う気になんかなれない、という声をたくさん聞きました。

だからこそ、この法律を私たちの手でしっかりと伝え、育てていかなければならない、この法律をつくるために頑張った障害者の仲間のためにも。そして、人権を守り差別のない社会をつくりたいと思っている方なら障害のあるなしにかかわらず、誰でも楽しめるイベントにしたい。それが、このライブを開催する目的でした。

会場は学士会館

千代田区にある学士会館は、旧帝国大学(北大、東北大、東大、名古屋大、京都大、阪大、九州大)関係者の知識交流の場として昭和3年に建設されました。しかし昭和11年の2・26事件では第14師団の警備司令部が置かれたり、戦後はGHQに接収されたりと、まさに昭和を見続けてきた建物です。その重厚な石造りの建物に一歩足を踏み入れると、そこには車椅子用のエレベーターやトイレが完備されています。新しく立て替えてバリアフリーにしたのではありません。昭和を見続けてきた壁も床も当時の佇まいのままです。石造りの正面玄関の階段にはエスカレーターまで設置されています。この建物を見た時、ここを利用しない手はない!ここで音楽ライブをやろう。それも企業の支援や団体や公共機関が開催するのではなく、お金も、知恵も、すべて障害者だけで企画してやろう。そして、この学士会館を私たち障害者で占拠してしまおう?!そう思ったらもう夢は膨らむばかりでした。発起人は、都立光明養護学校の同窓生の鈴木敬治さんと私の2人です。

開催までの奮戦

このライブは、どこからの支援も受けないのですから、講演者も出演者もお客様も、参加条件は同じとし、同額の参加費を徴収してのイベントにしました。

同時に、参加してくれたすべての方々には3000円の会費を支払っただけの楽しさを提供しなければならないと、発起人の2人は考えました。

早速4月には、イベントの企画書やチラシを作り、知り合いの障害のあるミュージシャンやお付き合いのあるプロのミュージシャンに発送しました。ところが、ことごとく不参加の返事です。また、7月には都内にある福祉系の7大学と、都内23区の障害者センターに配布した1000枚のチラシに対する反応は全くありませんでした。これには、さすがに打たれ強い私も落ち込みました。

そこで、出演者探しと集客方法を再度ゼロからやり直すことにしました。まだ呼びかけていないミュージシャンに企画書を送り、出演依頼を直接お願いしました。一度出演を断ってきた人には、直接会いに行ってその方の話を聞き、再度出演をお願いしました。鈴木さんと2人でさまざまなイベントにも参加して一人ひとりにライブのことを説明し、参加を直接呼びかけました。

その結果、障害者、健常者を含めたプロ、アマの6グループが参加を表明してくれました。ブルーグラスからビートルズのカバー、シャンソン、オールディーズ、パンクロック、サンバと、ジャンルもワールドワイドで、まさに「音楽で世界は一つ!」そのものです。7月27日には参加されるミュージシャンに学士会館に集まってもらい、音響機材の確認と会場の下見を行いました。

会場のレイアウトも検討課題でした。電動車椅子の人たちが多勢来た時にどれくらいのスペースが必要か、どのような会場設定をしたら動きやすいのかを決定するために、障害のある方たちが大勢集まるイベントやパーティーに参加して動きをビデオに撮って研究し、最終的に、ステージに向かって縦にテーブルを配置するという方法に決定しました。こうしてすべての準備を整えて、8月19日のライブ当日を迎えました。

講演とライブの演出企画

今回のライブは音楽と講演という二つの企画です。そこでまず音楽でスタートして、あいだに講演会をはさみ、また音楽ライブで終わるという3部構成のプログラムを組みました。障害者差別解消法についての講演は、DPI日本会議事務局長の佐藤聡さんにお願いしました。ライブで好評を博したのが大型スクリーンの活用でした。司会を担当した鈴木さんは言語障害があるので聞き取りにくいこともあります。そこでプロジェクターを利用し、鈴木さんの言葉を文字にしてスクリーンに流しました。また、各出演者のプロフィールや演奏曲目のイメージ写真を演奏中にスクリーンに投影しました。もちろん、佐藤さんの講演会はパワーポイントを駆使した分かりやすい素晴らしいものとなりました。

佐藤さんの講演内容

佐藤さんの講演は、障害者差別解消法の元になった障害者権利条約の考え方から、障害とは何か、差別とは何かを映像を使って分かりやすくまとめていました。

障害は、個人にあるのではなく、障害者が住みにくい社会の側にある。それを解消するための合理的配慮をこの法律が求めていること。たとえば、車椅子が入れない設計の店や、電車などは社会的障害であり、その作り方を変えて車椅子でも利用可能にすること。これを合理的配慮というわけです。

また、差別にあたる行為とは、

1、障害者から依頼されたのに介助の拒否(セルフサービスを理由に援助しない等)

2、障害者だけに何らかの時間制限をつけること(混む時間帯の入店拒否など)

3、障害者だけに利用条件枠をつけること(介助者がいない場合は利用させない等)

この法律の目指すのは、差別を糾弾することではなく誰もが暮らしやすい社会を作っていくことにある。しかし、この法律には罰則規定もなく、差別禁止法にもなっていない。だから、この法律が2019年に見直しを迎えるまでに、私たちでさまざまな差別の事例を集めDPIに報告をしてほしい、それを報告書として提出し、この法律をバージョンアップしていきたい、と結びました。

ライブの反響

当日のライブでは、ステージに飛び入り参加される方も有り、思い出に残る楽しいライブとなりました。参加者も延べ87人で、また、これだけ大勢の車いす利用者が学士会館に入ったのは初めてではないでしょうか。

ライブに関するプレスリリースを各報道機関に送ったのが功を奏し、毎日新聞社が翌日の朝刊でこのライブの模様を取り上げてくれました。さらに嬉(うれ)しいことに、私が出演する新宿のライブハウス「Bar Gyoen Rosso 198」が、このライブに呼応し、店内のバリアフリー改装に着手したのです。本誌が出るころにはきっと、このライブハウスを車椅子の方が埋め尽くしているかもしれません。

(ささきたくじ 障害ミュージシャン)