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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年11月号

時代を読む97

公営住宅法の改正(平成8年)

公営住宅法が制定された昭和25年当時は、第2次世界大戦直後で住宅数が著しく不足していた。そのため、住宅の質よりもより多くの住宅を建設することが重要視されたことから、住戸面積の小さい木造平屋建ての住宅を数多く建設する大規模住宅団地が全国各地につくられた。

その後、国民の生活は次第に落ち着きを取り戻し、さらに高度経済成長期に入ると、鉄筋コンクリート造の中層公営住宅(4、5階建)や10階建て以上の高層住宅が主に建設されるようになってくる時代になり、当初建てられた木造平屋て公営住宅は面積が小さいうえに老朽化し始め使用しにくくなり、次第に空き家が目立ち始めた。そこで、木造公営住宅を取り壊して高層住宅に建て替える機運が次第に高まってきた。住宅を高層化すると、敷地に余裕が出てくることになる。そこで、その敷地を有効活用する方策として社会福祉施設を建設する考えに至り、平成8年に公営住宅法の改正に踏み切った。

なぜ、公営住宅法を改正しなければならなかったのか? それは、公営住宅法では、団地敷地内に建設できる建築物は、集会所と共同浴場に限定されていたからである。集会所は住民の集まる場所として当然必要として、共同浴場はなぜなのか? 読者の皆さんは想像し難いかもしれないが、公営住宅法が制定された当時は、住宅内に浴室を持つ国民は一部であり、多くは銭湯(公衆浴場)に行くのが当たり前だったのである(ということは、当時の公営住宅には浴室設備はなかった)。

公営住宅法の改正は、多くの自治体で好意的に受け入れられた。最大の理由は、木造公営住宅に入居した当時は働き盛りの青壮年であった住民は高齢者となり、また障害者になった人たちもいたことから、社会福祉施設の建設が急務であった。団地のみならず、高齢者や障害者の増加に対応することは社会全体の課題でもあった。にもかかわらず、土地の高騰により施設建設用地を取得することが極めて難しい状況にあったので、法改正はまさに一石二鳥の政策だったのである。団地内敷地への老人ホーム、デイサービスセンター、グループホームといった社会福祉施設の建設は、高層公営住宅に移り住んだ高齢者や障害者にとって、近陳の徒歩圏内に社会福祉施設があることで利用が至極容易になる利点もあった。

筆者は、昭和40年代初め、英国ロンドン市郊外の大規模住宅団地では、すでに団地内に社会福祉施設や高齢者や障害者のワークショップ(作業所)が建設されていることを知っていたので、日本でもようやくこの時代が来たかと感慨深いものがあったことを今でも覚えている。

(野村歡(のむらかん) 元日本大学理工学部教授、元国際医療福祉大学大学院教授)