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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年11月号

「かけがえのない一人」のための「つながり」作り
~相談支援専門員は子どもの人生の伴走者~

青木綾子

1 はじめに

私は社会福祉法人からしだね、うめだ・あけぼの子ども相談支援センターで、相談支援専門員・臨床心理士として相談業務を行なっている。発達に関する相談をはじめ、情報提供や障害福祉サービスなどの利用に向けた連絡調整、行政手続きのサポートなどを行なっている。0歳から未就学の子どもの相談が中心だが、小中学生、高校生、成人の方やそのご家族からのご相談もお受けしている。

法人内には二つの保育所、児童発達支援センターうめだ・あけぼの学園、うめだ・あけぼの診療所がある。うめだ・あけぼの学園では、発達が気になる子どもや支援の必要な子どもに対して、児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援といった障害福祉サービスの提供を通じた発達支援を行なっている。あわせて、特別支援学校や保健所への職員派遣、幼稚園や保育園、小学校、学童保育クラブへの巡回指導、東京都から委託を受けている東京都知的障害児等療育支援事業などを通じて、地域の中で支援が必要な子どもや施設への支援も行なっている。

私自身、現在の相談業務に携わる以前は、うめだ・あけぼの学園で直接的な発達支援を担う立場にいた。現在は、臨床心理士と相談支援専門員としての専門性を活(い)かしながら、支援の必要な子どもとその家族のケアマネジメントに携わっている。

本稿では、相談支援の立場から見えている発達支援の在り方や課題、移行支援のあるべき姿などを概観したい。

2 気づきの段階で相談を開始する

「子どもが生まれました。ダウン症と診断を受けました。療育が必要と聞いたので連絡しました(母)」「1歳半健診で、発達がゆっくりだから相談に行った方がいいと言われました(母)」「初孫が生まれてくるが、検査でダウン症と分かった。どうしたらいいか(祖父)」「風邪で受診した病院の先生から、言葉の専門家に診てもらった方がいいと言われました(父)」「保健所の健診では何も言われたことがないですが、やっぱりどこか心配なんです(祖母)」「幼稚園の先生から、集団参加が全くできないから相談に行ってくださいと言われました(父)」「自分はあまり心配していないけれど、おじいちゃんとおばあちゃんが早く相談に行きなさいと言うので(母)」「自分の担任しているクラスのお子さんが、落ち着きがなくて指示に全く従うことができない(保育園の先生)」…。

うめだ・あけぼの子ども相談支援センターには、いろいろな主訴や心配事をきっかけにした連絡を毎日たくさんいただいている。両親や祖父母といった家族からの相談に加え、幼稚園や保育園、こども園、小学校のような子どもが過ごす機関の職員からの相談もあり、その立場もさまざまである。

これら相談の共通項としては、誰かが子どものことを心配し、どうしたらいいかしらと思っていたり、解決したいと思っているということである。

赤ちゃんの誕生は、「かけがえのない一人」の誕生を意味する。成長に何の心配もなければ、子育ては「ちょっと大変、だけど楽しい」と感じることができるかもしれない。しかし、出産前や出産直後に赤ちゃんの異常を指摘され、何らかの診断が確定したり障害があると告知されれば、心穏やかに子育てすることが難しい時期があるだろう。明らかな原因や指摘がなくても、「ちょっと気になる」「育てにくい子」であれば「楽しい子育て」が一転、日々大変に思い孤立感を深め、自責の念に駆られたり、周囲の何気ない声かけや視線に傷つき、わが子のかわいさから遠ざかるを得ない時期もあるだろう。保健センターの健診で発達の遅れを指摘され、指摘した専門家に対して怒りをぶつけざるを得なかったり、「問題ないですよ」と言ってくれる専門家を探して、ドクターショッピング的に専門機関の受診を重ねることにエネルギーを注ぐ家族もいる。相談の連絡の背景にはいろいろな思いがあることに、思いを寄せなければならない。

以前は「障害がある」「診断が付いている」「療育手帳を持っている」子どもたちが、発達支援や療育の対象だった。最近では、「発達が気になる子ども」「本人や周囲の大人が困り感を抱えている子ども」「何らかの専門家による介入が必要」という子どもも対象となっている。相談の一つ一つが、「誰かの気づき」であり、相談を開始することによって子どものことを知るきっかけとなり、理解を深めることになると考えている。

相談を経て発達支援や療育を開始することで不安や心配が軽減し、適切な関わり方で子育てができるようになると、結果的に子どもの成長を促して行くことにもつながるだろう。「わが子のために、何か特別なことを」と理解しながらも気持ちが伴わず、怒りや悲しみ、喪失感に襲われ、わが子を肯定的に捉えられない時期があるかもしれない。家族のそういった気持ちも含めて、丁寧な寄り添いが必要だと思っている。「障害があると言われました。早く療育を始めたいです(母)」「幼稚園に通っているが、個別的に丁寧な支援を受けることのできる児童発達支援を毎日利用させたい(父)」といった相談もいただいている。子どもの障害や発達の課題が明確であれば、早い時期から発達支援・療育を利用し子育てすることで、専門家が家族と連携しながら子どもを中心としたチームとなって、成長を促したり生活の中でできるノウハウを伝えたりすることができる。結果的に、必要以上に子育てで不安を感じなくてもすむようになるだろう。

3 「わが子を知る」プロセスで「わが子マニュアル」を厚くしていく

子どもの発達課題やニーズは一人ひとり違うので、丁寧なアセスメントは発達支援の基本となる。アセスメントでは、家族状況も含めた子どもの生活全般の状況把握、心理による発達や知能についての検査、医師による診察、利用している母集団の状況等、すべてを考慮することが望ましいだろう。家で困り感を持つ行動が、家以外の場所では全く見られないといったことや、母集団での行動特徴が家族との関係性の中では全く現れないといったこともある。そういった、子どもの見せる姿の差異なども、子どもの発達課題を分析する上で重要な情報となる。

こういったアセスメントの結果を家族と共有することが、子どもについての理解のスタートとなり、理解を深めるきっかけとなる。その上で「今、この子に何が必要か」を家族と一緒に考えるプロセスが非常に大切だと考えている。そのようにして始まった発達支援や療育は、一人ひとりのニーズに合わせた「オーダーメイドの支援」である。この「オーダーメイドの支援」によって、家族が「わが子マニュアル」を厚いものにしていくことができるだろう。

「わが子マニュアル」は、性別や名前、在胎期間、生まれた体重や身長といった基礎情報に始まり、首の座りや歩行、離乳食の開始時期といった成長に伴う事実が織り込まれていく。さらに「こういうおもちゃが好き」「眼鏡をかける人には泣く」といった経験によって知り得る「わが子情報」や、「わが子について、こういうことが心配」「日々のこんなことに困っている」といったことも、わが子マニュアルに納まるとよい。

専門家によるアセスメントによって、おおよその発達段階や診断名なども明らかになる。「このくらいの発達段階であれば、次の目標をこう設定しよう」「○○という診断名ということは、行動特徴としてこういったことが想定される」といった情報も、子育ての上で有効となる。「○○という診断」の子どもがすべて一律同じように同じ状態になるわけではなく、そこには個別性や個性、多様性が存在するが、子どもを理解する上では大切な情報の一つである。発達支援や療育は、この「こういうことが心配」「こんなことに困っている」といった主訴についても、さまざまな発達の専門家により構成されるチームアプローチにより、多角的視点からの解決方法や支援方法、工夫の仕方などが提案され、家族と共有する機会となる。具体的な支援方法が「わが子マニュアル」に納まり、さらに厚みを増すことで、「こういう時には、こうやって関わるとよい」と家族が実践することにつながるだろう。

4 本人に伴走する相談支援の役割

1.「本人中心」にしたヨコのつながり作り

うめだ・あけぼの子ども相談支援センターでは、「気づきの段階」から子どもを中心にして子ども自身のニーズを中心に据えたうえで、子どもとその家族がどこにつながることが最善なのかということを、家族と一緒に考えている。これは「ヨコのつながり作り」であり、保健所、児童相談所、教育相談センター、スクールカウンセラー、親子で参加できる活動や親の会などの地域資源を紹介したり、児童発達支援などの障害福祉サービスの利用を提案する子どももいる。

子どもと家族にとって必要であれば、行政につなぎ障害福祉サービスの利用手続きのサポートも行う。家族には、家族の当事者性やニーズがあることを十分考慮しながらも子どものニーズを中心にし、子ども自身の願いや希望を周りの大人に代弁したり、家族の願いや期待、困り感などを踏まえ、子どもと家族の声を行政やサービス提供事業所に届ける役割も担っている。

2.タテのつながり作り

子どもの支援は、「保育園を卒園するから終わり」「学校に入学したらおしまい」というものでは決してない。家族が作成した「わが子マニュアル」を、家族自身が次のステージに必要に応じて託していけるようになることも含めたエンパワメントも支援の一つになるだろう。ライフステージの変化や移行期に、子どもに必要な支援が継続的に行われ、家族も不安を感じないで済むようになれば、地域の中で安心して当たり前の生活を送ることにつながる。相談支援専門員が子どもの人生の伴走者となり、次のステージにバトンを渡してつないでいくことが、安心して地域の中で当たり前の生活を送ることにつながっていくと考える。

3.教育と療育や福祉の連携

小学校などに通いながら、放課後等デイサービスや保育所等訪問支援といった障害福祉サービスを利用している児童も多い。学校や障害福祉サービス提供事業所が役割分担をしながら、学習機会を保証したりいろいろな体験を通じて健やかな成長を促していく必要がある。子ども本人を中心にしながら、複数の機関や役割をつなぎ双方向でやり取りしながら支援を紡ぐのも、相談支援専門員の大切な役割である。

5 おわりに

支援の必要な子どもが地域の中で当たり前の暮らしを当たり前に送ること、支援の必要な子どもの子育てを行う家族が地域の中で当たり前の子育てを当たり前にすること、これらは時に難しく感じることもあるかもしれない。しかしながら、相談支援専門員がその専門性の一つであるネットワーク力を最大限に発揮して、支援の必要な子どもとその家族を必要に応じて必要な人や場所、機関や組織に「タテにヨコに」つないでいくことで、子どもが必要とする支援がタイムリーに得られ、子ども自身や家族の孤立を予防したり、子どものライフステージごとに必要な情報を得られるようになる。支援が途切れることなく、切れ目のない支援が行われるように関係性を紡いでいくことも、相談支援専門員が専門性と力量を発揮する場面である。

結果として、子どもが毎日安心して過ごすことで成長し、家族も安心して子育てすることが、さらに、子どもの成長を促していくというプラスの循環となっていく。

子どもと家族が「今の幸せ」を実現することと、「幸せである未来」をイメージしながら未来を紡いでいくことをゴールにしながら、人生という長いマラソンを走る子どもの伴走者であり続けたいと思っている。

(あおきあやこ うめだ・あけぼの子ども相談支援センター臨床心理士・相談支援専門員)