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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年11月号

成長したA君から小学校での支援を振り返る

三浦満子

1 はじめに

私は、A君の小学1年から3年までの担任と5年時の通級による指導を担当した。自閉症スペクトラムの診断を受けたA君は、現在、高校1年生である。A君は、小学1年から4年まで情緒障害学級に在籍し、小学5年の時に在籍を通常の学級に移し、小・中学校の通級指導教室を利用しながら、今年4月に念願の県立高校を受験して入学した。

2 高校での生活

(1)高校生のA君

当地区では、特別支援教育コーディネーターが参加する連絡協議会が年4回行われており、その情報交換の場で、A君の高校での生活の様子を聞くことができた。

高校入試では、事前に申請して、受験する席を刺激の少ない廊下側の最前列にした。入学後、自傷行為はあまりない様子だが、夏期休業中から心療内科に通院して服薬している。忘れっぽい、忘れ物が多い、持ち物の管理や整理が苦手、話を聞いて理解できているのは半分くらいかもしれない。翌日の持ち物に関しては、通常、高校の教員は、生徒に口頭だけで伝えるが、A君のクラス担任は、持ち物を全員にプリントし、A君のような生徒にはマーカーをひいて配布している。それでも忘れることはあり、ある行事の時にクラス全員が着用することになっていたTシャツを忘れてきた。家庭へ連絡したが準備できず、とっさに担任の先生はご自分の着用していたTシャツを脱いで貸したという。

(2)A君と話して

私は、小学校卒業後も時々連絡をとっているA君の近況が知りたく、直接会って話をした。

A君の話は、高校の美術部に入って気の合う友達ができ、その友達の趣味の深さや夏休みの楽しかった家族旅行のことだった。「ホテルで探し物をしなくてすんだのは、薬のおかげです」「今もですが、薬を飲まないと倦怠感がハンパないです」と高校生活での体調や気持ちの面についても話してくれた。

私は小学校の高学年の頃、A君は「ながらクールダウンもできるようになりました」と言った時の思い出話をした。「ながらクールダウン」とは、友達の中にいながらクールダウンすることである。A君は、「今は、美術部の仲間のところだったら、ながらクールダウンもできるかな」と明るい表情で言った。高校生活の中で、心地よい居場所ができてよかったと思った。

悩みは勉強のことだった。「もうすぐ数学で図形がでてくるし…」A君が切実に願うことは、小・中学校までの通級のような個別の教室や少人数体制が高校にもほしいことで、生徒会の要望書に書いたと言う。落ち込みが激しかったり切り替えがうまくできなかったり、勉強のスピードについていけなかったりした時のために、一緒に目標設定やスケジュール管理をするアドバイザー的人材がほしい。自分のペースで学べる時間や場所がほしいと願っている。

思春期を迎えた難しい時期である高校生のA君は、自分の心のうちを小学校の頃と変わらず、私に話してくれたのだった。

3 小学校での支援

(1)自己理解

A君の小学校での支援を振り返ってみる。

1年生の2学期頃、トラブルやパニックになった後に、絵や図をかきながら振り返る「生活手帳」(A君が名付けた)にドッジボールで負けた時のことを一緒にかいていたら、「ぼくの心には色があるのです」とつぶやいた。その後も感情と色との関係を言ったので、A君用「心の色カード」を作成し、気持ちの高低を言語化した(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2年時、町探検の校外学習に出掛ける1時間目、交流学級でテストを配布され、点数が低いと落ち込んで泣き、町探検の準備をするロッカーの所でもうずくまって動かなくなってしまった。その後、なんとか町探検に出掛けた。その時のことをA君が「心の色カード」を指しながら話した(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

「75点のテストを返された時と(校外学習に行く時にお気に入りの帽子でなく紅白帽子をかぶることになった)帽子も最悪だった。…でも町探検に行って、駅前で電車を見たら緑色になって、お店でヤクルトもらって、ああおいしかったって金色になって、虹色の時もあるよ」。A君は、色を使ってその時の気持ちを振り返った後は、いつも「すっきりした」と晴れやかな表情をした。

3年生の時には、心の色がテレパシーに変化していて、数字100を基準にその上下で表した。このようなことが、クールダウンの素地になったようで、通常の学級になって、気持ちのコントロールが必要になった高学年の時には、自分でクールダウンをする場所へ行って、落ち着いてから戻ってくることができた。

(2)集団参加

情緒障害学級に入ったといっても、交流学級の皆と一緒に入学式に参加したA君は、入学後、当然のごとく皆と一緒に活動しようとした。保護者・情緒担任・1年担任で検討しながら、個別での指導が必要な場合以外は、1年生の交流学級の中で多くの時間を過ごした。

小学1年生で愛読書が辞書、とりわけ画数の多い漢字が大好きなA君。得意な漢字力は、自然に友達の間に伝わり、交流学級の配達係の子が、配るノートの名前の漢字がまだ読めない時は、A君に読み方を教わりながら配っているほほえましい光景を何度か目にした。

友達の間に広まることは、よくないことも早い。A君は、手をグーにして口の中に入れて話を聞いたり、鉛筆や指をなめたりすることがあった。交流学級で2人組になって手をつなぐ活動の時に、手をつなぐことを少しためらう子がでてきた。チャンスをとらえて、学級全体で話し合った。どうして組まないのか。A君は、今は指をなめてはいないのできれいなことを伝え、誰とでも組めることがよいことであることを私は話した。すると、何人か進んでA君と手をつなぐ子がでてきた。こういう子を見逃さずに褒(ほ)め、丁寧に育てていくことが大切である。

清掃活動の時間の掃除は、1週間交替で教室やホール等の場所が変わり、掃除内容も日替わりで変化する。A君は、やることが明確でないと何をしてよいか分からず、周囲からは、掃除をさぼっているように見える。「A君、掃除さぼっている」「また、A君だ」と同調して、注意することにエネルギーを使う子がでてくる。ここで、何らかの手を打たないと、注意や叱咤は連日続き、帰りの会の全体の前で、問題視されたりする。同じことをしている他の子は言われないで、いつも注意される子が言われやすくなるのも事実である。不公平さや差別や無理解は、いじめにつながる。どんな小さなことでも、気になることをその場で見逃さないで対処すると同時に、時には授業に組み込んだ。

高学年の学級活動の時間に、事前にA君の了解を得て、掃除の時の言われ方でどのように言われると分かりやすいかをA君に発言してもらった。A君は「さぼっていると言われるより、雑巾でここからここまで拭いて」と具体的な行動を教えてもらった方が分かりやすいと級友に伝えた。

本人の困り感を解消するような指導を適切に行うためには、校内での教員同士の連携、チームワークを生かして、子どもの中に入ってのチャンス指導や計画的に授業で取り組むことが必要である。

4 おわりに

A君は中学校の時、市・県の英語の弁論大会で、自分は小さい頃から人と違うところがあると感じていたことと、医師から障害について聞かされたことから、特性がある人とそうでない人とがどう共存していくかを自分の経験を交えてスピーチした。高校生になったA君からは、部活の仲間たちと興味・関心を生かしたボランティアを考えている等の話を聞き、高校生活をエンジョイしている様子も伺えた。

小学校の通常の学級にいる発達障害の児童は、年々増加していると聞く。しかし、A君のように通常の学級に在籍しながら、自分の特性を改善する指導を受ける通級指導教室の体制は、まだ十分に整っていない。また、どの学校にも特別支援教育コーディネーターが指名されているが、学級担任や他と兼務している場合が多いので、常に全校の発達障害の子どもの様子を観察したり、担任から情報を聞いたりして、日常的に支援することが難しいのが現状である。

当地区では、小・中学校を一つのかたまりととらえ、その中でのさまざまな教育資源を活用しようとするスクールクラスターの考え方をもとに、発達障害児の指導に携わる特別支援教育コーディネーターの連絡協議会が4年前に立ち上がった。参加メンバーが、小・中学校から幼稚園・保育所や高等学校と広がり、事例研究や研修、連携を考慮した個別の教育支援計画の活用、域内の教育資源や人材集・合理的配慮集など、活動が引き継がれている。

今後は、さらにネットワークを広げながら、教育現場において、目の前の子どもたちの課題に取り組んでいきたい。

(みうらみつこ 石巻市立前谷地(まえやち)小学校教諭)