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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年11月号

発達障害当事者主体双方向課題発見型研修からつながる「教育」「療育」

山田裕一

「研修で、支援技術は教えません。発達障害の難しさを教えます」と発言すると、学校の先生方は驚きの表情を浮かべる。

多くの発達障害に関する研修では、研究者や実践者によって、社会適応の手助けの方法と、支援を受けた当事者のサクセスストーリーが語られる。

筆者は保育士、教員、障害者職業カウンセラー、スクールソーシャルワーカー等を経て、現在、障害児者のケアプランの作成と相談支援に関わっている。今でも教員や療育者の発達障害支援に関わる相談を受けており、彼らにとって支援のHow-toを教えてくれる研修講師は救世主のような存在ということは理解している。しかし、筆者は研修でそんな期待をあえて裏切る。

それは障害者支援に関わっている発達障害当事者会メンバーのつぶやきがきっかけだ。『研修を受けると私たち発達障害者は「社会にとって困る劣った存在」という認識が、社会で強化されている感じがします。定型発達者を基準に形作られている社会に適応させる方法論ばかりが語られ、それが当事者の幸せにつながるという思いこみが強化される。そんな研修を受けるたびに私は自分の存在を否定されたような気がします』。それから私は須藤雫さんら当事者会のメンバーと一緒に、「当事者主体双方向課題発見型研修」を考案し、次のような理念で共に実施するようになった。

1.関わりがうまくいかなかった事例も提示、2.境遇や目指す生活スタイルが異なる複数の当事者の語りを伝える、3.当事者・支援者・教員等立場の異なる人で編成した班で、グループワーク等を行う、4.専門家視点の当事者像に異議申立をする機会を設ける。

自主開催を重ね、教員向けの校内研修、療育機関、弁護士会等からも依頼が来るようになった。研修を受けたある小学校教員は「特別支援教育でわかったつもりでしたが、大人の当事者も関わるこの研修を受けて、成人期の課題も知らない、自分の無理解を痛感しました。“わからない”とはっきり自覚した上で、療育者や就労支援者との支援の優先順位についての対話が必要ですね」と感想を述べた。

教員・療育者が意義ある連携をするためには、異なる立場の人々が意義あるつながりを作れる機会となりうる「当事者とも支援者の難しさを直視する対話する場」の必要性を感じている。

(やまだゆういち 発達協働センターよりみち相談支援専門員、立命館大学生存学研究センター客員研究員)