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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年11月号

地域をたがやし家族への支援を

上原ひさ乃

私の息子は24歳になる。B2の療育手帳を持っている。特別支援学校高等部卒業後就労したが、1年半ほどで離職。就労移行事業所に1年間通った後、能力開発校に入校、現在2回目の就労中である。

横浜市は療育センターが整備され、全国でも早期療育が進んでいるといわれているが、息子の幼児期、住んでいる地域の療育センターは未整備だったため、地域療育センターによる療育は受けていない。

息子が、最初に受けた療育は、小児療育相談センターが当時行なっていた早期グループ(ノンタングループ)である。1歳半健診後、2歳で通った親子教室では、ひとり集団になじめず、指示が全く通らなかった。後に、保健師さんから地域で一番気になる親子だったと聞かされた。

担当保健師さんは、発達の遅れを認めようとしない私が療育につながるまで、本当に丁寧に関わってくださった。3歳児健診で発達の遅れをしぶしぶ認め、保健師さんからの紹介で、4歳になる年の4月からノンタングループに、週1回半年間通った。

ここでの指導によって、成長する息子の様子、また並行して医師の診断、心理検査を受けることで徐々に障害があることを認めるようになり、9月の終了後、障害児地域訓練会に入会した。

横浜市の地域訓練会は昭和48年に最初の会が発足し、今は各区で活動している。支援者、行政の援助のもと親が自主運営している。訓練会で仲間に出会えたことが、私たち親子にとって大きな支えとなった。今、ペアレントトレーニングが注目されているが、地域訓練会は発足当初よりそのような役割を備えていた。

母親が会の運営や子育ての悩みなどを話し合っている間、子どもは、協力者(地域訓練会では関わってくださるボランティアさんをこう呼ぶ)に、手遊びや感覚遊び、散歩、昼食などじっくり関わってもらう。集団保育になじめなかった子どもが、毎回の積み重ねで笑顔が広がってくる。不安でいっぱいだった母親が笑顔になり、経験豊富な協力者から、子どもの接し方を学び、子どもの育ちを一緒に喜んでもらうことで子育てに自信を持つことができる。私たち親子にとって、療育と同様に貴重な経験であり財産となった。

就園までの半年間を地域訓練会で過ごし、障害児枠で保育園に入園。保育園では、小児療育センターのソーシャルワーカーによる巡回相談もあった。最初の診断から成人するまで一貫して小児療育相談センターで診察、心理相談を定期的に受けられたことは幸いだった。

横浜市では幼児期から学齢前期、学齢後期から成人と発達障害の相談が分かれており、地域療育センターを利用できるのは小学校卒業までである。

大人になってから発達障害と診断された方の経験談を伺うと、幼児期に特徴的な育ちをしていることが多い。発達障害の相談が増え続けている現状では、地域療育センターが成人まで診ることは難しいかもしれないが、幼児から成人まで一貫した医療と相談が必要だと思っている。地域における発達障害支援の中核となる機関として、幼児期から大学まで教育機関を支援し、発達障害の専門性をより高めてほしい。教育の場で適切な支援が受けられれば医療にかかる人は減るはずである。

数年前に、各校に特別支援教室を設置する計画が示された。子どもがそこに通うことを周囲に知られたくないという保護者が多く、一般級に特別支援教育支援員が配置される形ができた。通級指導教室のニーズは高く、増設を望む声が大きい。

本来は、各校にリソースルームとして設置されるのが良いと思っている。そこでの学びは子どもの権利であるという考えが当たり前になるよう願っている。学校全体がそういう認識であれば、すべての児童、生徒、そしてその保護者の意識も変えることになる。学校のみならず、療育の中核機関として、地域への障害理解啓発も担ってほしい。

障害者差別解消法の施行により、インクルージョン、ノーマライゼーションがうたわれているが、やまゆり園の加害者の、「障害者は生きている価値はない」という考えに内心同調する意見も少なからずある。学校で当たり前のように発達障害を理解する子どもたちが増えれば、その子たちが大人になったときに世の中が変わっていくと思う。そうなるよう療育と教育が連携していってほしいと思う。

最後に。障害児を育てる上でのぐちゃぐちゃとした思いを整理し、それを上回る面白さ、小さな成長を喜ぶ幸せを味わうことができたのは、地域訓練会のおかげである。子どものよりどころとなる家族が健全であること、そういった家族を育てることが障害のある子の成長には欠かせない。しかし、親が運営する訓練会は、会員数を減らしている。今は訓練会より児童発達支援、放課後等デイサービスが選択される時代なのかもしれない。しかし、そこでは得られない地域訓練会のようなつながりも療育、教育で育ててほしいと願っている。

(うえはらひさの 横浜障害児を守る連絡協議会事務局)