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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年12月号

第4次基本計画 分野別の評価

社会的入院の解消に向けて抜本的な改革を!

増田一世

第4次障害者基本計画には、障害者権利条約批准後初の基本計画であり、権利条約との整合性をはかることが重要であると記されている。しかし、“Nothing About Us Without Us”(私たち抜きに私たちのことを決めないで)の視点で見ると、障害者政策委員会に精神障害当事者の参画がないままに精神障害者への施策や地域移行が議論されていることは、速やかに改善されなくてはならない。そのことを指摘し、内容面について検討していきたい。

各分野における障害者施策の基本的な方向、「6.保健・医療の推進について」には、社会的入院の解消を進めると明記されている。平成27年度精神保健福祉資料(厚生労働省、2017年8月25日公開)では、1年以上の精神科病院の在院患者数は150,136人であり、在院患者の52.7%を占める。本計画の目標値には、1年以上の長期入院者を185,000人から146,000人~157,000人にすると示されている。実際には死亡退院が多いことも事実で、平成27年6月1か月で1,891人が死亡退院である(前掲資料)。精神病床数が異常に多い日本(世界の約2割の精神病床が日本にある)において、社会的入院の解消は権利条約の履行という側面からも緊急かつ重点的に取り組むべきだ。しかし、その数値目標や具体的な取り組みからも、緊急かつ重点的な内容は見当たらず、このままの計画では社会的入院の抜本的解決からは程遠い。

社会的入院が解決されぬまま長い年月が過ぎ、入院中心の精神科医療は世界水準から大きな隔たりがあることは周知の事実である。この解決に向けては、他科と比べて差別的な精神科医療(医師や看護師の配置が他科と比べて少なくてよいとされている)を抜本的に解決し、作りすぎてしまった精神病床の削減が必須である。そして、長期入院経験者に対し、他の者との平等を基礎として、誰とどこで暮らすかを選択できるように環境整備を進め、孤立しないために必要な支援を保障すること(権利条約第19条)、そして、経済的な負担も含め、障害のある人たちの地域生活の多くを家族に委ねる家族依存の政策を根本から改め、相当の生活水準を保障する所得保障制度(権利条約第28条)が必要だ。そして、精神障害者やその家族が地域で安心して暮らせるように社会全体の意識の向上(権利条約第8条)を具体的な計画に位置づけることが求められている。

(ますだかずよ 公益社団法人やどかりの里常務理事)