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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年12月号

ウォッチング自治体の独自施策

豊中市における生活困窮者自立支援事業の取り組み

濵政宏司

大阪府豊中市は、人口は約39万7千人で、大阪市の北側に隣接し、その交通の利便性の高さなどを背景に、早くから住宅地が開発され、生活に必要な社会基盤が整い、教育・文化、福祉が充実した住宅都市として発展を遂げてきました。

生活困窮者自立支援事業と豊中市の取り組み概要

平成27年4月から施行された生活困窮者自立支援法は、生活保護の受給に至る一歩手前にある生活困窮者をできるだけ早く支援して、社会的・経済的な自立につなげることを目的としたものです。

多くの自治体では福祉事務所などの福祉部門が中心となり事業を実施していますが、本市では、就職困難者の就労支援を行う地域就労支援事業(平成15年度開始)を発展させる形で実施しており、雇用・労働、消費者行政を担当する市民協働部くらし支援課が関係部局との連携体制のもと実施しています。

また、くらし支援課では、平成18年度から無料職業紹介事業を実施しており、独自の求人開拓を行なっています。現在では、約900の事業者登録があり、毎年250~350社程度から求人をいただいています。この事業は、相談者の状況に応じた求人を開拓し、マッチングが可能となるだけではなく、事業者との関係構築ができることで、相談者の就労後のフォローアップ・定着支援まで行うことができる点において、就職困難者の就労支援に大きな効果があります。

なお、就職困難者とは、ハローワーク等を活用した自主的な就職活動が困難な人のことで、具体的には、障害のある人やひとり親家庭の親、高齢者、若者等ですが、相談窓口では、医療、介護、福祉等就労以外の困りごとをお伺いすることも多くあります。一般的には、就職困難者と生活困窮者では概念は異なりますが、離職による家庭の経済状況や就労に対する支援の必要性など支援の現場では共通点が多くあります。

こうした経験を通じて、本市では生活困窮者自立支援事業の実施に当たっては、1.出口を意識した自立相談支援、2.相談者の個々の状況に応じたきめ細やかな支援メニューの開発と活用、3.相談者個人だけではなく、世帯全体の支援、4.外部の関係機関と連携した迅速かつ適切な支援、5.困窮者の早期発見・早期支援を目的とする庁内の関係部局との連携強化等を念頭におき取り組んでいます。

具体的な取り組みについて

自立相談支援事業は、くらし支援課が直営するとともに、コミュニティーソーシャルワーカーの取り組みによるアウトリーチに強みをもつ市社会福祉協議会と、キャリアコンサルタント、臨床心理士、看護師等専門人材によるチーム支援に強みを持つ民間団体(一般社団法人キャリアブリッジ)にも事業を委託しており、三者による直営プラス委託方式で運営しています。平成28年度の新規相談者数は、3機関合計で1,275人となっています。

このうち、くらし支援課の取り組みについて説明しますと、毎週月曜日に、その前週に受付けた新規相談について担当職員全員で支援調整会議を行い、個々の状況、課題、相談主訴を踏まえて支援方針を決定します。就労が困難な場合には、生活保護、医療、障害、福祉等の専門機関につなぎます。就労が可能ですぐに就職活動ができる場合には、本市の無料職業紹介事業だけではなく、ハローワークの求人を活用したマッチングを行いますが、ひきこもり状態や就業経験が少ない相談者、離転職を繰り返す相談者や加療中の相談者等については、個々の状況に応じて、日常生活自立から社会生活自立、そして就労自立に向けた段階的な実習メニューを構築(平成28年度は16メニュー・延べ利用実績3,424人日)しており、その実習を通じて、職業能力の向上を図るとともに、相談者の特性を見極めながら、無料職業紹介事業にて相談者の状況に応じた求人を開拓し、マッチングを行なっています。

また、こうした実習の中で相談者自身が自分の苦手なことに気づき、何故できないかを相談員と一緒に考えることを通じて、障害者年金の受給や障害者枠での採用につながったケースもあります。

こうした取り組みの結果、平成28年度は、新規相談、過年度相談あわせて1,024人のうち242人が就労につながりました。

今後の展開について

生活困窮者自立支援法施行後、就労だけではなく、医療、介護、福祉等多様で複数の課題を有した相談が増加しており、これまで以上に、相談者が真に求めていることの本質(主訴)を聴き取り、支援方針を決定することが重要となっています。加えて、単独の支援機関だけでは対応できないケースも増加していることから、相談員の資質の向上と他の専門支援機関との密接な連携が重要となっています。

そのため、国のモデル事業等も活用しながら、他の専門支援機関や地域の支援団体とともに研修会や意見交換会等を行うなど、支援者が地域の社会資源を把握するとともに、相互の顔がみえる関係づくりに取り組んでいます。

(はませひろし 豊中市市民協働部くらし支援課若者・就労支援担当主幹)