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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年12月号

列島縦断ネットワーキング【長野】

地区防災を通した地域づくり

一色美月

松本市の地域づくり

地域づくりといってもその内容は多様で、私は、松本市と松本大学が協働で行なっている「地域づくりインターンシップ戦略事業」の「地域づくりインターン」として活動しています。この事業は、松本大学の卒業生が、大学で地域総合研究センターの特別調査研究員として専門的な指導を受けながら、地域では地域づくりセンターを基点に地域づくりインターンとして関わるものです。

長野県松本市は行政区域を35の地区に分け、すべての地区に地域づくりセンターを設置しました。そして平成27年に地域づくりインターンを配置し、平成29年度現在、11人のインターンが各地区の特色に合わせた地域づくりに励んでいます。たとえば、特産物の商品開発、居場所カフェの運営など視覚化されたものから、地域づくり協議会のサポートなどの黒子のような役割まで、型にはまらない活動をしています。

私は松本市西部にある新村(にいむら)地区という場所で活動しています。「面倒を見てもらっている」と言ったほうが正しいかもしれません。新村地区には松本大学のキャンパスがあり、地区住民に学生や若い人を受け入れる態勢ができているからです。設立当初こそ険悪だった大学と地区ですが、ある一人の住民をきっかけに学生との交流が増え、新村地区全体がキャンパスであり、学生との交流こそが地域づくりに繋(つな)がると先導し、住民が「地域で若者を育てよう」という意識に変わっていきました。新卒で右も左も分からない私に地区の人は「こんなこともできないのか」と言いつつも、見放したりせず教えてくれます。先生や学生が地域で活動し、地域が活動の幅を広げるために大学を活用する…。地域づくりのひとつの鍵として地区と大学との地域連携は重要であり、両者を繋ぐパイプ役はインターンとして活動していくための軸にもなりました。

地区防災を行う経緯

地域づくりセンターに腰を下ろして初めての活動は防災訓練でした。地区と大学との地域連携の課題のひとつに地区防災があり、関係する活動に携わることを中心に奔走しました。

新村地区は、平成20年に松本市の「防災と福祉のまちづくり」のモデル地区となり、地区防災に力を注ぎました。当時の町会長は議論を繰り返し、勉強会を開いて、尽力されてきました。町会の役員が短い任期で変わってしまい、築いてきた防災知識やノウハウが衰えてしまうことを考慮して、自主防災組織の役員を支える「自主防災サポートリーダー」という組織を自分たちで作るまでに至りました。しかし、災害はいつ来るか分からないものであり、新村地区は幸いなことに一度も災害に見舞われませんでした。住民の意識がだんだんと「地震なんか来ないわ」と変わっていくことに、危機感を覚えました。この温度差は、「訓練参加は義務である」という、自発性とは程遠い溝になってしまったのです。

そんな時、新村地区に地域づくり協議会「あたらしの郷協議会」が立ち上がりました(平成27年3月)。自主防災サポートリーダーの方が、「安全安心部会」という防災や防犯を中心に考える部会の長になり、防災訓練の企画を中心に、共に活動しました。新村地区は人口約3,200人、高齢化率が34%を超える地域です。防災訓練を行なっても、高齢の参加者が目立ちます。どうすれば多くの人に興味を持ってもらえるか、啓発になるのか、大学を巻き込むには?そんなことばかり考えました。

防災訓練の内容

訓練の要点は、安否確認です。地震が発生した想定で、隣組ごとや、町会の一時集合場所で安否確認を行います。平成28年6月の訓練は、その一時集合場所に、大学生が大学の無線機を持って行き、被害状況を本部に報告するというものでした。

新村地区は住宅と田畑ばかりの土地で、目印になるような建物が少ないばかりか、昔ながらの細い道が多く、土地勘がない学生は迷いました。安否確認終了後は指定避難所である松本大学に向かい、講演を聞き、体験訓練を行いました。体験訓練は、消防署にお願いをして起震車体験、煙道体験、AED講習と分かれてすべて体験してもらえるようにグループ分けを行いました。さらに、11月の訓練では、安否確認のあと、避難所設営の基礎を市職員から指導していただきました。給水車を手配し、給水体験、炊き出し(パッククッキング)体験を行いました。

平成29年11月の訓練は、とても挑戦的な取り組みをしました。地震の発生時間を知らせずに防災無線で訓練放送をし、安否確認を実施するものです。しかも平日に。当然、「勤めている人はどうするんだ」という問い合わせがありました。実際の災害時を想定しているため、勤め先が近く、あるいは畑仕事中でサイレン放送が聞こえたら安否確認に向かってくださいと説明しました。災害が休日を狙ってやってきてくれるとは限りません。7分の5で平日の確率のほうが高いのは明白です。平日であれば大学生がいます。今回も、大学生が無線機を持って一時集合場所に行き、被害状況を報告する訓練を盛り込みました。

前回、学生から「地図が分かりにくい」と意見がありました。細い道がすべて記してある地図を使っていたため、地図が複雑でした。今回は、地区のウォークラリーで使う簡素な地図を使用し、道中目印になる建物が少ないため、周辺の風景の写真を載せました。前回も参加してくれた学生からは分かりやすかったと意見をいただきました。

一方、町会長たちはかなり悩まれていました。なにしろ、若い人どころか最近は元気な60代・70代も勤めに出ていて、日中は誰もいません。動きが機敏でないお年寄りばかりのなか、どう安否確認をすればいいのか、今後の課題です。

インターンとしての任期満了と地域の展望

インターンとしての任期は3年で、私はあと1年の猶予があります。目に見える成果が出せるとは限りません。住民にとって防災訓練は煩わしいものであることに変わりないでしょう。私自身も防災に興味があったわけではありません。しかし、災害時のことを不安に思う方は多いのではないでしょうか。

平成23年6月、松本市では震度5を観測する地震がありました。地盤が軟らかい地域は大きく揺れたのに対し、数百メートルしか離れていない地盤が硬い土地はあまり揺れなかったというのです。私はその時高校3年生で、学校に向かっている朝の時間に揺れました。電車が止まり、家が被災した友達は早々に帰っていきました。災害がすぐ身近にある恐怖を味わいました。

啓発が続けば一人ひとりの中に意識は芽生え、何かとてつもない事態に見舞われた時にアイデアとして活(い)きてくるのではないでしょうか。インターンはあくまで地域密着型のよそ者です。よそ者がいくら訓練をやろうと言っても、土地を去ったらそれまでです。防災だけは自分たちで行うしかないのです。そこに住まう住民が、どれだけ多くの人が、「訓練をやろう」と声をあげてくれるか、その声をあげた方を中心に何人巻き込めるか、私はそのサポートを行うのみです。

休日に来るとは限らない自然災害は、昼間に来るとも限りません。ゆくゆくは夜間の訓練も…とトップは考えていますが、住民の賛同が得られるまでにはもう少し時間がかかりそうです。

(いっしきみづき 松本市地域づくりインターン)