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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年2月号

当事者の声

ダイバーシティ×テクノロジー×スポーツの実現を目指して

設楽明寿

5年後、10年後、技術の進歩によって、私たちの暮らしはどうなっているのか。間違いなく、障害や福祉という境目が見えなくなるのではないかと私はそう捉えている。実際には、その境目は無くなっていないが、一般人からみると、どの人が障害のある方で、どこからどこまでが福祉であるのかがわかりにくいという意味である。

聴覚障害者の例を挙げるとしたら、眼鏡と同様な形状であるMRデバイスを使い、自動的に日本手話を認識し、日本語へ翻訳する、または日本語を認識し、日本手話へ翻訳する技術を使いながら、周囲の人々と意思疎通を図ることができる。また、IoT技術や深層学習を使い、環境音や危険を知らせる音などを認識し、代行感覚を使って知らせる技術も期待できる。つまり、ダイバーシティ×テクノロジーの実現がかなっている状態である。まるで漫画やアニメの「ドラえもん」で触れている近未来を想像させてくれるのではないか。もちろん、技術の限界はまだ僅(わず)かに残されていると思われるが、それが解決されるのも時間の問題である。

しかし、その時に私にとって一番気になっているのは、障害者スポーツの立ち位置はどうなっているのかである。理由としては、私は障害者スポーツの1つであるデフ陸上競技1)の短距離走で使われている、ピストル音の代行として視覚情報を使った光刺激スタートシステムをさらに改善するために、触覚を使ったスタートシステムを開発研究している。そのシステムを視覚障害者などのさまざまな障害のある選手も使えるユニバーサルデザインにつなげていくのを最終的な目標としている。つまり、ダイバーシティ×テクノロジー×スポーツの実現を目指している。ただ、その実現をかなえた後のデフ陸上競技の立ち位置はどうなっていくのか、全く想像できない。もしかしたら、デフ陸上競技という存在も過去のことになっているのではないかと恐れている私もいる。確かに、それは聴覚障害者にとっての障壁がなくなり、平等に勝負することができるという大変良い意味であるが、他の障害者が参加する陸上競技も含めた障害者スポーツの定義や概念が180度変わってしまう可能性も否定できないであろう。そう、南アフリカの義足ランナーであるオスカー・ピストリウス選手がオリンピックに出場することを認めてよいかと議論を交わし合ったように。

(したらあきひさ 筑波技術大学大学院)


【注】

1)一般社団法人日本聴覚障害者陸上競技協会 http://www.j-daa.or.jp/jdaa/