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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年2月号

検証 障害者差別解消法 第7回

学校教育への障害者差別解消法の影響

一木玲子

2016年4月に施行された障害者差別解消法。同法では、公立学校及び私立学校は、障害のある子どもが教育を受けることを拒否すること、場所や時間帯を制限すること、障害のない子に付さない条件を付すことを禁止し、また、公立学校は合理的配慮の提供が法的義務となった(私立学校は努力義務)。

法律が施行されて2年が経過しようとしている中、地域格差はあれども、また、定義の不確かさはあれども、インクルーシブ教育や合理的配慮という言葉が学校に浸透してきていると感じる。各地の実践報告を聞いていると、普通学級に在籍している障害のある子どもに対して、合理的配慮を提供するために模索する教員の姿も散見されるようになった。だが、全国的に見ると、この法律が浸透していない状況がある。障害者差別解消法が施行されてから実際にあった代表的な差別事例を、以下に紹介する。

1.2017年4月からの小学校就学に際して普通学級を希望したところ、就学予定の学校から、「以前も普通学級に就学した子がいたが、1年の途中で支援学校に行くことがほとんど」「子どもの自立を考えると私は特別支援学校がいいと思う」「安全を保障できない」などなど再三言われ、また、市教育委員会からは、「介助員は普通学級に付けられない」「市は予算的に厳しいので、保護者が付き添えないならば誰か付き添える人を探してほしい」などと言われ、普通学級就学をあきらめるよう誘導された。(東京都内公立小学校)

2.2017年4月から幼稚園に就園しようとしたところ、市に「専門機関相当と判定された子ども(筆者注:障害が重度の子ども)は、公立幼稚園に入れない」という規定があり拒否された。規定の変更を要請中。(兵庫県内公立幼稚園)

3.2017年秋、私立高校に受験を申し出たら、受験時に合理的配慮ができないと言われた。(佐賀県内私立高等学校)

4.2017年4月、土日祝日の行事や学校施設外では看護師が配置できないので親の協力(付き添い)をお願いしたいと学校に言われた(昨年度までは言われていなかった)。5月の校外学習では親の都合がつかなかったので、本人一人だけが学校に取り残された。(千葉県内公立中学校)

5.保護者の付き添いに関して、文部科学省が2015年に公立小中学校を、2016年に公立特別支援学校の医療的ケア児を対象に調査している。それによると、全国の公立小中学校に在籍している障害のある児童生徒の保護者1,897人が、子どもの学校生活に日常的に付き添っているという結果が出ている。ただ、学校行事等の不定期な付き添いや通学については調査されていないので、この数字は氷山の一角である。さらに、特別支援学校でも、医療的ケアを要する子どもの65.8%の3,523人が、学校生活や登下校に保護者が付き添いをしているという結果が出ている。

これらについて、今後の課題も含めて説明する。1・2の事例は氷山の一角であり、このような行政の対応により、子どもの普通学級への就学をあきらめた保護者は多く存在していることが推察される。障害のある子どもの普通学級への就学は権利であり、その実現のために体制を整えたり、合理的配慮を提供することが、行政の役割であることが浸透していないことが分かる。その権利を妨げている、従来の価値観や慣行を変える研修や制度の改正がなされていない。障害者権利条約はパラダイムシフトであること、障害の社会モデル・人権モデル、多様性の尊重等の徹底した研修が必要である。

3は、私立学校であるので合理的配慮は努力義務ではあるが、子どもや保護者に対して残した傷跡は大きい。教育機関として努力がなされたうえでの結論なのか、検証が必要である。そもそも子どもにとって学校教育とは連続的なものであり、学校の設置主体により合理的配慮がされたりされなかったりすることは、子どもの教育権の侵害に相当する。私立学校の合理的配慮を努力義務から法的義務にすることは、喫緊の課題であろう。

4・5の合理的配慮の不提供による保護者の付き添いは、条件付けである点で差別であり、あってはならないことである。特に4の場合、保護者に「協力をしてほしい」という言い回しで付き添いを要求し、できないならば子どもは教育活動に参加できないという、行政の体制不備を保護者の責任にすり替える悪質な差別である。さらに、筆者が見聞きしたほかの事例においても、合理的配慮の提供を要求した際に、過重な負担という文言が拒否する手段として安易に使われる傾向があるように思われる。合理的配慮は、障害のある子どもの権利であり、その場面を学校やクラスの子どもたちが体験したり一緒に考えることは教育の一環であるという価値づけが必要である。

最後に、相談窓口についてであるが、まずは十分に周知されておらず、その存在を知らないという保護者が多い。さらに、窓口に行ったが十分な対応をしてもらえなかったという声を聴く。権利を守るため、保護者や本人が気軽に相談できる体制の整備や充実、研修員に対する障害者権利条約や社会モデル・人権モデルの研修が、強く求められている。

(いちきれいこ 大阪経済法科大学)