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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年2月号

生き方・わたし流

事業所のすゝめ

天畠大輔

現在、私は居宅介護支援事業所(株)Daijob highの代表として会社経営をしながら、大学院で「発話困難な重度身体障がい者の自己決定」について研究をしています。これは、私自身を研究対象とした、あまり類のない研究テーマです。

私は24時間、365日介助が必要な重度の身体障がいを負っています。そのため、パソコンの操作等をする時も、常に介助者の手を借りています。日常生活すべてが全介助である障がい者にとって、介助者という存在は非常に大きく重要なものになります。彼らは単なる日常生活の支援者ではなく、当事者が社会参加し夢を追求しながら生きていくための支援者であるからです。

当事者と介助者に上下関係はありません。当事者は自分の人生を支えてもらえるよう、一生懸命介助者を育てます。長期的に関わってくれる、より良い介助者に囲まれることで、当事者自らの人生は一層充実したものになります。また、責任をもって、自分の手で人を育てるということは、受け身であった障がい者が主体的に動きだすきっかけであり、それは大きなやりがいになります。

介助者は、当事者の人生を一緒にデザインしていくパートナーと言えます。互いに尊重しあい、切磋琢磨していく関係です。このような介助者をパーソナルアシスタント(PA)と呼びます。特に私やALSの方のように、発話困難な重度身体障がい者にとって、PAは非常に大切な存在です。私たちが、他人とコミュニケーションをとろうとする時、どうしても一字一句すべてを伝えることができない場合があります。そのような時、私の発する僅(わず)かな単語だけで、私の思いを一通り汲み取って伝えてくれるような介助者がそばにいてくれたら…。

もちろん、これは容易(たやす)いことではありません。信頼できるPAと共に時間を過ごし、少しずつ思想の委託をしていく。自分の考えや思いを、一字一字紡いでPAに伝えていき、解(わか)ってもらう。それは、互いの思いやりと忍耐が最も試される時間です。しかし、その積み重ねによって、PAは私の思いをだんだんと的確に読み取ってくれるようになります。発話困難な障がい者にとって、この二人三脚があれば、社会から孤立せずに、自分の思うように生きていくことが可能になるはずです。

(株)Daijob highを、私は発話困難な重度身体障がい者の支援に特化した事業所にしたい、と考え立ち上げました。どんなに快適な身体介護を受けていたとしても、それがコミュニケーションのほとんどない世界の中であったとしたら。それは、その人にとって良い環境とは絶対に言えません。発話困難な重度身体障がい者が、生きている…と日々感じられるような人生を送る支援を、私はしていきたいです。

これからの活動の目標は、まずは(株)Daijob highを「当事者が自分のための事業所を立ち上げて豊かに生きるモデルケース」にすることです。その後は、当事者が個人で事業所を立ち上げるための相談にのったり、開設資金の貸し出しをするNPO法人を設立したい、と思っています。病気の進行の仕方や住んでいる地域や経済的な問題など、さまざまな理由によって、阻まれている方々をできる限りサポートし、そうした事業所を増やしていきたいです。

当事者が自分のために立ち上げたはずの事業所が、次第に誰かのための事業所になっていく。こうして、地域の中に介助者が還元されていき、良い循環が生まれていく。重度身体障がい者は他人の納めた税金で暮らしている、なんて言われることもありますが、こうして考えると雇用を生み、より良い社会を構築していく存在でもあるのではないでしょうか。

私は、現在の活動を通して、このような大きな夢をもち毎日を幸せ(?)に生きています。どんなに重い障がいを負っていたとしても、外の世界と積極的に関わりあってみようとすることで、人生はいくらでも開けてくると思っています。


プロフィール

天畠大輔(てんばただいすけ)

14歳の時、体調不良で運ばれた病院での医療ミスにより低酸素脳症となり「四肢マヒ、言語障がい、視覚障がい」を負う。あかさたな話法という、介助者に自分の手を引いてもらい一字一字伝える特殊な方法を用いて、コミュニケーションを行う。1981年生まれ。立命館大学大学院に在籍し、現在、博士論文執筆中。日本で最も重い障がいをもつ大学院生。居宅介護支援事業所(株)Daijob high代表取締役。