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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年2月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

大学でファッションショーを創ろう
~障がいのあるかたとともに~
明治学院大学×スマイルウォーキング倶楽部

青木洋治・臼居道功・高橋千尋

企画概要、実施の経緯

本学ボランティアセンターで企画している「1Day for Others」は、ボランティアをしたい学生に社会とつながる初めの一歩を踏み出すきっかけとして開催しているプログラムです。プログラムの数はおよそ60を数え、多岐にわたるプログラムをNPO団体や企業等の協力を得て、開催してきました。参加者は年間延べ700人を数え、本学の教育理念“Do for Others”を体現する企画として人気を集めています。

今回、その「1Day」の一企画として、モデルレッスンを通じ障がい者支援をしている一般社団法人スマイルウォーキング倶楽部(以下、スマイル)にご協力いただき、「クリスマスファッションショー」を企画しました。

スマイルの代表理事である髙木真理子氏はパリコレモデルとして活躍され、現在はスマイルにて、障がい者モデルの育成にあたっています。髙木氏と初めてお会いした際、伺った話で興味深く感じた話があります。

スマイルでは、本物のモデルとしてモデル教育を行うことを理念とし、モデルが着用する衣装はプロモデルのそれと変わりません。ただ、モデルの保護者の中には衣装を買いに行った当初「うちの子どもがこんな服を着て良いのか」「試着をして迷惑ではないか」という声もあったといいます。その時、保護者の意識を変えなければ子どもたちは変わらないと髙木氏は感じたといいます。

髙木氏のレッスンはスパルタでした。障がい者にも容赦なく指導します。弱音を吐きそうな指導でも、彼らは必死に食らいつきます。その真剣な姿は凛として美しくみえました。「自信がなく、周りの子を叩いていた子もおしゃれな服を身に付け、レッスンを受け、モデルになったことで、自信が溢れ、所作を身に付けた」と髙木氏は目を細めました。お話とレッスンの様子を受け、本学の教育理念、ひいてはノーマライゼーションを体現する企画を髙木氏に担っていただきたいと、強く思いました。こうして、髙木氏に依頼したプログラムがスタートしました。(青木洋治)

実施準備、当日の様子

リーダー学生としてこの企画を振り返ってみると、まず思い出されるのは企画相談を兼ねて、スマイルの通常のレッスンに参加させていただいた時のことです。印象に残ったことが二つあります。

一つは “障がい者を特別扱いしない雰囲気”です。レッスンには健常者も知的障がい者もいましたが、分け隔てなくふざけていれば注意され、姿勢が違えば指導されます。初めての知的障がい者との交流に緊張していた私は「特別に身構えなくてもいいんだよ」という無言のメッセージを送られたような気持ちがしました。

もう一つは、“ファッション”です。流行のブランド、奇抜な柄のシャツを着こなしている人など、見た目に気を遣い、楽しむメンバーがそこにいました。洋服の着こなしと障がい者とのつながりを深く考えたことがなかった私には意外でしたが、レッスン後「中身を見てもらうためにまずは外見から」という髙木さんの言葉を聞き、ファッションを楽しむ皆の雰囲気に納得しました。見た目の印象で私自身、知的障がい者に対する認識が変わっていたからです。スマイルと企画を行えることを嬉(うれ)しく思い、この日から本格的な準備に入っていきました。

実施1週間前、本企画に参加する28人の参加者が確定。ここから学生、障がい者であるスマイルメンバーを混合した4つの班を作り、ショーをより楽しむため、それぞれにテーマカラーとシチュエーションを用意しました。たとえば、ある班のテーマカラーは“黄色” 、シチュエーションは“待ち合わせ”です。黄色を衣装やアクセサリーでどのように効果的に使うか、待ち合わせの表現はどのようにするか。シチュエーションの表現については、大まかな立案を学生が担当しました。それぞれの班で話し合いを重ね、試行錯誤し、当日まで準備を進めていきました。

12月2日(土)実施当日、午前10時に明治学院大学に集合。スマイルメンバーの中には遠く仙台から参加した方もいました。

ストレッチから始まり、基本的なウォーキングを学び、歩く。音楽に合わせ、歩く。隣の人と息を合わせ、歩く。皆一様に、姿勢を正し、隣の人に遅れないよう一生懸命に歩いていました。そこには健常者も障がい者もありません。恥ずかしがっている人、嬉しそうな人、厳しい指導を受けている人、皆楽しそうでした。その後、班ごとにショー本番の打ち合わせをし、最後にショーの歩き方指導を受けると、瞬く間に午前が過ぎました。

昼食は、事前にスマイルメンバーから「学食に行きたい」という希望があったので、全員で大学食堂にて和気(わき)あいあいと食べました。この食事もお互いを知り、交流する良い時間だったと思います。

本番も楽しく充実した時間になりました。テーマカラーの桃色の服をまとい風船を持って歩く女性に、サンタクロースの衣装に身を包む男性、表情も姿勢もキマッている女性に、笑いながらゆっくり歩く男性、さまざまなファッションがあり、見所のたくさんあるショーに。シチュエーションもそれぞれの工夫が随所に見られ、男女のペアが舞台で待ち合わせ、腕を組んで歩くパフォーマンスには歓声が飛ぶなど、盛り上がるショーになりました。コンテスト形式にしていたので表彰式、記念撮影まで行うと、あっという間に終了時刻の15時となり、1か月にわたって準備をしてきた企画が終わりました。

普段の生活の中で、誰かの言葉や文章から意識が変わり、何かを理解することがあると思います。しかし、今回のように大学の外で活動されている皆さんと実際に会って、同じ空間で過ごすうちに、相手について理解していくことも非常にすてきな経験だと感じました。(臼居道功)

総括

今回の「1 Day for Others」において、スマイルにはボランティアでご対応いただきました。障がいのあるメンバーに大学で発表させたい、障がい者と健常者をつなげたい、という想いを大学という「場」で実現させてみたいとのお気持ちでご協力くださいました。別れ際に、髙木氏より「次回はもっとグレードアップさせましょう!」とのお言葉もあり、スマイルの皆様のパワーを感じるとともに、受け止める本学学生のパワー、双方を目の当たりにする機会となりました。

学生による振り返りの会では、障がいのある方が自分の思っていたイメージとかけ離れていたことや、参加することで障がいのある方との関わりが身近なものになったという意見、面白いものでは、ファッションショーでのウォーキングなんて人生の中でやるはずがなかったのにボランティアを通してやってしまうとは!など、参加学生の16人より多様な感想がありました。

本企画は「1Day」という名で示すような1日に留(とど)まるプログラムにはならず、非常に手の込んだものに発展していきました。しかし、最後にあげるこの感想が今回の企画をよく表しているのではないかと感じています。「プログラムを通し、苦労や戸惑い、作業の多いものほど、参加をした皆に満足感や共有感を与えるように思いました」(高橋千尋)

(あおきようじ 明治学院大学ボランティアセンター職員、うすいみちのり 明治学院大学文学部4年生・ボランティアセンター学生スタッフ、たかはしちひろ 明治学院大学ボランティアセンター課長)