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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年2月号

報告

第40回総合リハビリテーション研究大会

矢本聡

平成29年11月11日・12日の2日間、「総合リハビリテーションの新機軸―リハビリテーションと介護福祉の融合―」をテーマに、富山市で「第40回総合リハビリテーション研究大会」が開催された。北陸での開催は平成25年の第36回金沢大会以来である。富山県介護福祉士会会長が初めて実行委員長を務めた大会は、「介護」という視点を通して、総合リハビリテーションに求められる新機軸とは何かに迫ろうとする意欲的な内容となった(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

上田敏氏(日本障害者リハビリテーション協会顧問)による特別講演1によれば、昭和52年に「リハビリテーション交流セミナー」として始まった総合リハビリテーション研究大会(以下「研究大会」)の歴史のなかで、「介護」が研究大会のテーマとして取り上げられたことはなく、まさに、40回という節目に相応しい研究大会だったと言える(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

一般に介護については、高齢者が疾患や加齢等により、一人では行うことが困難な日常生活行為を補完するものという印象が強い。2日目の鼎談においても、介護福祉士自身も高齢者ができないことを補うことが介護の仕事と考えていた傾向にあり、リハビリテーションという言葉は知っていたものの、「病気などの回復後に行う機能訓練」というイメージが強く、リハビリテーションが本来持っていた「全人間的復権」という理念を具現化した介護とはなっていなかったことが指摘されていた。本研究大会の趣旨は、このような介護の現状を踏まえ、総合リハビリテーションの視点から、あるべき介護の姿を描くとともに、介護福祉士の役割を明確にすることだった(写真3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

研究大会での討論を聞きながら、翻(ひるがえ)って考えてみれば、介護以外の保健、福祉、教育、労働等の他領域においても同様のことが起こっているのではないかというのが素直な感想である。

筆者のように障害福祉分野で長く仕事をしてきた者の多くが、「リハビリテーション」という言葉や「全人間的復権」という理念は知っていたが、実際の相談支援等にこの理念をどれほど反映させてきただろうか。障害者施策や制度が改正されて、ケアマネジメントという支援手法が取り入れられ、利用者(本人)主体、多職種連携、エンパワメント重視などの言葉は一般的にはなった。障害福祉サービスの利用に当たっては、「サービス等利用計画」を作成し、本人・家族が参加してのケア会議を開催し、支援目標や具体的な支援計画を共有するという流れは定着してきている。

しかし、提案される支援計画は、大川弥生氏(産業技術総合研究所招聘研究員)が基調講演のなかで指摘した「補完的介護」と同じように、いまだ困難な日常生活行為を障害福祉サービスで補完するという観点から十分には脱しきれていないのではないだろうか。利用者の「デマンド」と「ニーズ」を区別できず、したがって、支援目標も「参加レベルの向上」になっていない場合も多く、その人らしい地域生活をどのように実現するのかという具体像を、本人も家族も支援者も描けないまま障害福祉サービス等の利用手続きだけが進んでいくという相談支援にはなっていないだろうか。利用者自身が自分の人生・生活(自分はどのように生きたいか)を自己選択・自己決定するからこそ相談支援を通して、エンパワメントされていくのであり、それゆえの本人主体なはずである。

介護分野における工学の導入をテーマとしたシンポジウム2でも指摘されていたように、介護あるいは支援とは何を目指すのかが曖昧ななかでの工学機器等の導入は、結果的に介護福祉士の代わりに介護ロボットが補完的介護を担うことになってしまうだけである。まさに、介護分野が抱える課題は障害福祉分野が抱える課題なのである。

この点について、ひとつの重要な示唆を与えてくれたのが、デイサービス「このゆびと~まれ」理事長の惣万佳代子氏の特別講演2である。誰かに必要とされ、ありのままの自分が受け容れられている「居場所」において、人は「自分の人生に生きがい」を感じ、「自分の人生には意味がある」と思えるようになる。自分にも「できる」ことがあるという実感の積み重ねが「人生の意味」へと繋(つな)がっていく。私たちはもう一度、自分たちの相談支援等が、利用者本人と家族が生きがいや人生の意味を実感できるものとなっているかどうかを振り返る必要があるのだろう。

自分自身の専門領域とは異なる領域での課題や方向性に関する論議を聞きながら、それを自らの領域においても課題とはなっていないかを自問し、共通の課題の解決に向けた方策を領域や職種の垣根を越えて検討し合う。これこそが、この研究大会の大きな魅力である。東京以外の都市や地方でも開催し、各地での特色ある取り組みを巻き込みながら、総合リハビリテーションの理念に基づいた利用者(本人)主体の支援とは何か、各領域の専門職は利用者が望む人生の実現のためにどのように協業していくのかなどについて問い続けることが、特定の領域・職域にとらわれずに、さまざまな職種が集い活発な議論や意見交換ができる、この研究大会が果たすべき重要な役割であると思っている。

大川弥生氏は、前述した基調講演の中で、総合リハビリテーションの新たな構築が求められる背景として、1.障害(生活機能低下)者の増加、2.医療・教育・障害者施策・介護等の制度の変化、3.生活機能低下者支援に関与する職種・研究分野の増加、4.自己決定権尊重の機運を挙げていた。生活機能低下者支援に関与する職種・研究分野が確実に広がってきていることは、今回の研究大会の講師やシンポジストの方々の職域や発言からも明らかである。これからも、それぞれの領域・職種における成果を集約し、これまで以上に多面的あるいは広角的に「人が生きる」ことを捉えながら、利用者の生活機能が向上し、一人ひとりが自らの(潜在)能力を最大限に発揮して新たな人生を創造するという総合リハビリテーションの理念とその理念に基づいた支援の拡大を図っていくという目的に向かって歩み続ける研究大会であってほしい。

筆者がこの研究大会に参加するようになってまだ日は浅いが、毎回さまざまな刺激を受け前向きな気持ちになって開催地を後にする。帰りの新幹線のなかではいつも、「自分も総合リハビリテーションチームの一員として頑張ろう」と決意を新たにするが、その決意は日々の業務に追われていつの間にか薄れてしまうこともある。大学では、精神科リハビリテーション学などを担当しているが、精神保健福祉士国家資格試験科目でもあるため、どうしても教科書に書かれていることや専門用語の説明が中心の授業となりがちである。どうしたら総合リハビリテーションの持つ魅力を学生に伝えられるか、彼らが福祉の現場に立った時に、総合リハビリテーションを学んでいて良かったと思ってもらえるためには何を伝えていけばいいのか。悶々と悩み考える毎日ではあるが、これまでの研究大会から得てきたさまざまな知見を糧として、微力ながらも総合リハビリテーションの推進に資することができるよう精進していきたい。

第41回総合リハビリテーション研究大会は、平成30年10月27日と28日の2日間、千葉市で開催される。次回の研究大会もより多くの領域や職種が集い、真摯(しんし)に総合リハビリテーションのあるべき姿について論じ合う研究大会となることを期待したい。

(やもとさとし 東日本国際大学)