すべての障害者への援助

すべての障害者への援助

―全州計画とリハビリテーション―

Helping All the Handicapped

―State Planning and Vocational Rehabilitation―

Walter F.Stern, Ph.D., Allen D.Spiegel, Ph.D. and othes.

著者について…

 この論文はマサチューセッツ職業リハビリテーション計画委員会の報告書に基づいて書かれたものである。
 Dr. Sternはボストン市コミュニティーサービス部長補佐である。Dr. Spiegelはニューヨーク、Downstate Medical Centerの環境医学・地域衛生助教授である。

●市民としての障害者

 障害者が役にたつ技術やその技術を修得できる能力を持っているにもかかわらず、地域社会の生活に実質的に参加していないという事実がしばしば起こっている。これは人的資源をむだにしていることであり、さらに障害者自身にとっては社会のなかで単なる傍観者にさせられ、地獄のなかにいるような状況である。

 ほとんどすべての人びとは車イスや松葉づえを使っている身体障害者、精神病者、精神薄弱者、白いつえや盲導犬を使っている盲人のことを知っているし、またろうあ者の問題なども認識している。しかしこれらの人びとのほかに、長期的失業者、貧困者、犯罪者、老齢者、社会的被差別者のように、より一般的ではあるが、大衆の目にはそれほど明らかには見えない障害者たちもたくさんいるのである。

 障害は次のようなときに起こりうるといえよう。

・慢性または進行性の身体的・精神的病気にかかったとき。

・安定した仕事につくには年をとりすぎていたり、貧しすぎたり、教育が不足しているとき。

・犯罪者が職業技術を持たないで刑務所から出てくるとき。

・職人がオートメーション化により職を奪われたとき。

・家庭、職場、戸外において事故にあいケガをしたとき。

 障害者とは身体、精神、教育、年齢、経済、環境、技術などにおいて不適当な点を持つ人、またはこれらの不適格な点を二つ以上同時に持つ人であると定義する。これらの不適格やハンディキャップによって日常生活が困難になるのである。

 これまでは職業リハビリテーション・サービスは、最終的に一般雇用に到達できる人にのみ行なわれてきた。サービスはすべての障害者が彼らの主たる日常活動―それが一般雇用であれ、就学であれ、家事、保護雇用であろうとも―を行なえるよう拡大されるべきである。

 最終的には、あらゆるリハビリテーション活動の目標は、障害者が彼らの主たる日常活動を行なえるようにすることであり、そして社会の正常な日常生活の主流に復帰させることである。この目標を達成することは障害者の自尊心を高め、彼らが経済的に自立し、彼らの社会に対する貢献を増進させるであろう。

●サービス提供の指標

 立法担当者、行政官、専門職員、関係市民、サービスを受ける人びとは、健康保持、福祉・リハビリテーションを実施することがいかに複雑であるかをより深く認識するようになってきた。クライエントは種々の専門サービスを提供する機関の迷路のような道を通り抜けるのに四苦八苦するのである。専門家はより専門的になっていき、個人的なふれあいが欠けてしまいがちである。そのためにギャップが生まれたり重複が起こったりする。さらに、たとえより多額な金が使われたとしても、結果として目標に到達していないということもある。サービスを必要とする市民は不可解な規則、サービスを受けるための資格や基準、長いウェイティング・リストなどの困難な事態に直面させられる。援助を実際に受けられるまでにはいろいろの機関、役人、多くの書類の迷路を通り抜けなければならないのである。

 現在、行政官庁や立法機関は保健・福祉・リハビリテーション・サービス(ヒューマン・サービス)を再編成し、地域社会全般にわたって総合的プログラムが実施できる方法を積極的に捜し求めている。これらの全般的なヒューマン・サービス計画の全貌をみて、職業リハビリテーション計画委員会は公共・民間のヒューマン・サービス活動に応用できる指標を採用した。これらの指標は次のとおりである。

・地域社会における行政とプログラムのもとでの利用しやすいサービス。

・サービスが実際に行なわれる地域レベルにおけるヒューマン・サービス・プログラムの連絡調整を改善すること。

・施設が計画・建設されるまえに、プログラムを慎重に決定すること。

・政府機関と民間機関の実際的協力態勢の確立。

 ヒューマン・サービスを行なうすべての機関は地域社会において地理別のサービスを行なわなければならない。サービスは地域社会および近隣地域の対象者のために展開されなければならない。

 サービスを行なううえでの重要な指標は、施設を計画・建設する前にプログラムの必要条件を慎重に決定することである。それはちょうどレンガとモルタルのごとく、サービス・システムの重要部分を構成している。いままではサービスの内容やクライエントの身体状態について入念に検討しないで建設されてしまった施設がたくさんある。

 公共プログラムに関しては、建設費が高価なために、各機関は施設をいっしょに使ったり、プログラムを合併せざるをえず、さもなければ主要なプログラムを削減せざるを得ないような状態に置かれている。可能なかぎり現存機関や施設を活用し、重複したサービス体系はさけなければならない。

 政府のプログラムは関係市民、サービス対象者に公開され、政策に対する彼らの意見も聞かなければならない。民間機関はその事業活動が公的に認められるように努め事業方針を再検討し政府プログラムを拡大するか、または公費の補助を得て民間機関のプログラムを拡大するかを決定しなければならない。また、すべての人びとへの総合的サービスを達成するには、民間および政府がお互いに協力し合わなければならない。

●連邦―州リハビリテーション・プログラム

 合衆国で公共職業リハビリテーション・プログラムが行なわれはじめたときは、職業的に障害を持つ身体障害者をリハビリテートすることを目的とした。連邦政府は適切な財源を提供し、サービスの基準を設定し、州政府は実際的サービスをクライエントに提供した。数年来、連邦―州プログラムに拡大され精薄者も含まれるようになり、最近は行動異常者も含むようになった。1968年には社会的被差別者もプログラムに含まれた。

 当初のプログラムは賃金を伴った雇用が可能であると判定された人のみを対象としていたが、最近のリハビリテーション・サービスは拡大され、一般雇用でなくても有益な仕事を行なう適切な機会を持てると考えられる人も包括されている。事実、州プログラムは主要な生活課題―すなわち職業、家事、保護作業もできない人、現在これらに不適当な人も含めるように拡大されている。

 障害を持つ人びとにサービスを提供する公共リハビリテーション・プログラムには次のような注意事項が強調されてきた。

・リハビリテーション・サービスを必要とする一人ひとりのクライエントに合った計画を進めること。

・個々の障害者の就職可能性および独立した生活機能を達成する目標を持ちつづけること。

・クライエントのリハビリテーション目標に役だつ公・私資源を活用するサービスを提供できるように財政的な柔軟性をもたすこと。

 これらの強調点は他の保健社会サービスや労働資源プログラムが断片的な組織であることに比較してみると非常に対照的である。

 ここ2~3年、連邦政府の労働資源プログラムは社会的被差別者、非熟練者、未熟練者を対象に種々の職業訓練プログラムを行なってきたが、個人個人の職業ニードは登録の定数をうめることに追われて二の次にされることもある。さらに労働社会に適応させるに必要な社会保健サービスに欠けていることも多々ある。

 それとは反対に、職業リハビリテーション・プログラムでは、障害者や社会的被差別者を援助し尊厳ある生活を送れるよう、社会資源を体系的に配列する可能性がある。家族および地域社会を考慮に入れた職業リハビリテーション形態は、障害を持つ人びとの全体的ニードに答える有力な手段となるに違いない。クライエントの個々のニードに答えようとすることによって、リハビリテーションの目標をかなり高められるかもしれない。

●州におけるリハビリテーション・サービスの分散化

 7万5千から20万名の人びとをサービス対象者とする地域範囲を設定し、サ-ビスを行なう時点におけるニードや資源を評価し、ケース発見、調整、サービスを継続的に行ない、市民の参加を促進するよう努めなければならない。サービス地区は必要なサービスを受けるために1時間以上もかかってしまうということがないように地理的な配慮をする。

 また、それぞれが5つから6つの隣接するサービス地区からなるリハビリテーション管理区域がつくられなければならない。地域プログラムによってその地域特有なサービスを発展させられるであろうし、プログラムを分析評価するためにコンサルタントや他の専門職員を監督し、地域プログラムの強化や州本部への連絡にかかる予算を管理できるであろう。

●地域リハビリテーション・プログラム

 州の職業リハビリテーション機関はその地域の障害者や社会的被差別者にリハビリテーション・サービスを与え、総合的地域リハビリテーション・サービスを行なう。そして地域リハビリテーション・ディレクターを長とする事務所を設置しなければならない。

 総合的地域リハビリテーション・プログラムは少なくとも次のようなサービスを包括するものとする。

・予防、ケース発見、アプローチ

・総合的職能評価・判定

・身体・精神面の回復

・個人適応訓練(職能的)

・職業訓練

・職業―技術教育

・大学教育および専門教育

・短期および長期的保護雇用

・職業紹介とフォロー・アップ

・成人を対象とするデイ・ケア

・個人的カウンセリング

・社会・レクリエーション・プログラム

・障害者用特別住宅

・輸送機関

・住宅雇用

・家事、付き添いなど、家庭内サービス

・各機関へ相談すること

 総合的リハビリテーション・サービスを展開していくうえで、新たに総合サービス・センターを各地区に設けることは、それほど重要ではないと思われる。公共・民間の機関は要求される水準のサービスを実施できると思われる。現在機関が必要なサービスを提供できないときのみ、州が率先してそれらのサービスを直接提供できる新しいプログラムを作るべきである。

 サービスはできるだけクライエントの家庭から近い場所で提供できるようにする。前ページの図はサービス地区に住む障害者や社会的被差別者がどのようにして発見、登録、評価され、必要なサービスを受けているかを示している。

 クライエントの住む場所の近くに利用しやすいリハビリテーション・サービスがあるということは、州サービス地区を分割する根本原則である。経済的資源、人口密度、どのようなサービスが受けられるかは地域によって異なり、特に農村と都市では全く異なっている。サービスの拡大、新しいプログラムの設定をするにあたっては、サービス地区内における現行資源、潜在資源を考慮に入れ、リハビリテーション・サービスのニードを重点的に考えるべきである。

 州職業リハビリテーション機関の地域リハビリテーション・ディレクターは地区リハビリテーション評議会と協議し、各地区におけるリハビリテーション・サービスの調整を行なう責任を持っている。ただしこの責任は関係諸機関に対して管理または政策決定などの権限を有するものではない。むしろ調整とは公共・民間機関が必要なサービスを行なえるよう配慮したり、これらの機関のサービスを購入することである。

 調整は地区段階でサービスが重複せず高水準で行なわれるようにし、またサービスが利用しやすくなっているかどうかを確かめるのである。州サービス機関の地区担当者の主要任務は、地区の機関とそこに従事する職員が総合的プログラムを作るには、自分たちがどんな役割を持っているかを認識させることである。

●クライエント擁護者としての地区担当者

 州リハビリテーション機関の地区担当者はクライエントの擁護者としての役割を積極的に遂行してゆかなければならない。その地区の職員はその地区に住むすべての障害者の擁護者と考えなければならない。多くの場合、リハビリテーション・カウンセラーが公共プログラムの対象となる人に対してこの役割を演じてきた。将来、こうした擁護は連邦政府のリハビリテーション・プログラムが財政援助をしているサービスの対象者となるかいなかにかかわらず、すべての障害者に対して行なわれるべきである。地区リハビリテーション・プログラムは、公共または民間財源であれ、サービスを行なう資金の出どころにかかわらず、障害者に適したサービスを行なえるようにしなければならない。障害者に対する連絡調整サービスは擁護者としての責任がしっかりととらえられてこそはじめて実行できるのである。

●警戒源

 職業的に障害を持つ人の発生を防ぎ、また障害を最小限にくいとめることは、地域リハビリテーション・プログラムのなかにおいて特に優先されるべきものである。技師、医師、学校、病院、精神衛生、、精薄センター、精薄者学校、矯正施設、地区衛生局、地区福祉事務所、訪問看護婦協会、その他の社会サービス機関が警戒源としての役割を果たすことができる。現場の職員や機関の職員は、州職業リハビリテーション機関やその他適切なリハビリテーション機関に対し、職業的障害をひめている人を発見するよう警告しなければならない。

 できるだけ多くのケースを見つけるために、州リハビリテーション機関は新たに連絡相談役のポストを設けなければならない。連絡相談役は障害を持つ人と接している警戒源の職員とともに、相談、教育、その他クライエントの必要なサービスを促進する。

●職能評価・判定

 リハビリテーション・プロセスを通して障害者への援助を行なうなかで重大な隘路の一つは州リハビリテーション機関による評価、判定の行なわれかたである。ときには、クライエントは数か月待ってようやく公共リハビリテーション・プログラムが決められ、計画がつくられるのである。このような遅れが起きる一つの原因は、リハビリテーション効果の可能性を評価する方法が複雑であり、断片的であるからである。クライエントの潜在能力の評価は他の専門職も加えたチームで評価すると良い。チームによる評価判定は短時間で行なえるであろう。

・主として身体障害を持つ人びとのためには、病院やリハビリテーション・センターのような地域障害評価センターを指定する。

・主として精神障害を持つ人びとには地域精神衛生センターを指定する。

・上記のように判別できない職業・社会障害者のためにシェルタード・ワークショップやその他の職業評価・適応センターを指定する。

●職業あっせんとフォロー・アップ

 過去においては、障害者の能力の限界が不当に強調されてきたが、現在はまだじゅうぶんに開発されていない能力を最大限に活用することに力が入れられている。雇用へ結びつけることは、慈善や同情によってなされるべきではなく、障害を持たない者の場合と同じように、障害者個人個人の持つ特有の能力によって決められるべきである。

 障害を持つ人が就職しようとするとき多くの問題に直面する。車イスを使用している人、松葉づえや補装具を使っている人、盲人は通勤の困難や身動きについてもいろいろの問題を経験する。たとえば、アルコール中毒患者は社会の拒否的態度に直面させられる。精薄の人びとは多くの場合、社会的に未成熟で職業上の任務や成人としての課題を遂行する用意ができていない。社会復帰している人びとの多くはひきつづき保護的ケアが必要である。つまり、てんかん患者は薬物治療を必要とし、精神病患者は心理療法を必要とし、脊髄損傷者は義肢補装具を必要とするのである。

 職業あっせんとフォロー・アップ・サービスを促進するために、州職業局と州職業安定局の間に新たな協約を制定するべきであり、その協約はクライエントの評価・判定、就労準備、職業あっせん、フォロー・アップに関するそれぞれの過程を明確に叙述するものである。

 州職業リハビリテーション機関のフォロー・アップには、クライエントが仕事に適応するまでの90日間の集中的フォロー・アップを必ず含めるものとする。この90日間が終わると、それから最低9か月間にわたり全般的フォロー・アップを行なう。

 障害を持つ人と雇用者を適切に援助するには専門的知識が要求されるため、リハビリテーション職員は職業あっせんに関する技術やフォロー・アップ技術の訓練を受けなければならない。州職業リハビリテーション局の持つ新たな役割は、職業あっせんおよびフォロー・アップについて、他機関に対してコンサルタント的な役割を果たすことである。

 また企業と職業リハビリテーション機関の間の提携を拡大するには、雇用促進計画に必要な資金と人材を増大しなければならないであろう。

●地域シェルタード・ワークショップ

 シェルタード・ワークショップは職能評価、訓練、職業あっせんにとって重要な資源を包含している。クライエントの作業技能は実際的作業環境のなかで一定期間にわたって評価できるし、クライエントの能力に適応した仕事を行なえるであろう。

 各サービス地区では短期的なもの、長期的なシェルタード・ワークショップ、またデイ・アクティビティー・プログラムなどが提供されるが、少なくとも一つのシェルタード・ワークショップがリハビリテーション・サービスの主要資源として指定されなければならない。そのようなシェルタード・ワークショップでは評価判定、個人適応、作業訓練、職業あっせん、フォロー・アップ・サービスを行ない、身体・情緒障害者、精薄者など保護された状況での作業訓練を必要とする人びとを対象とする。

 ワークショップは精神病院、精薄学校、刑務所その他の施設にいる人びとにとって地域社会への復帰として重要な役割を果たすべきであり、ハーフウェイ・ハウスや(宿泊提供、療護施設のこと)その他の援護サービスと結合すれば地域社会と施設を結ぶ重要なきずなとなれるのである。

●デイ・アクティビティー・プログラム

 働くことが不可能な重度障害者の要求に答えるため、シェルタード・ワークショップやその他の適切な機関はデイ・アクティビティー・プログラムを設けなければならない。このプログラムはセルフ・ケア、レクリエーション、社会的交流に重点を置くべきである。精神衛生、公衆衛生、社会保障、教育、矯正、職業リハビリテーションの各部は延長雇用やデイ・アクティビティー・サービスを共同で予算化する方法を検討しなければならない。

●在宅雇用

 通常のかたちでは家を出ることのできない障害者で、仕事を遂行できる能力のある人には在宅雇用を提供しなければならない。

 この在宅雇用は各地区のシェルタード・ワークショップのプログラムの一つとなるべきであり、ここを通じて企業の下請けや雇用者と提携し在宅者に適した仕事を提供する。仕事のほか、在宅障害者は医療サービス、カウンセリング、買物などの援助も必要とする。州リハビリテーション局の各地区事務所は地区の在宅者に保護サービスを直接に、または委託形態で行なう。このような在宅者へのサービスには先例がない。新しい形態は注意深く検討すべきである。

●輸送機関

 教育や治療を受ける人の輸送機関は州が責任を持つべき事業であり、障害者が通勤や社会・宗教活動に参加するための輸送費補助を慎重に検討しなければならない。障害者に対するサービスを行なっている機関は、クライエントがサービスを受けるために必要な輸送機関を確保する責任を持っている。

 クライエントの輸送機関に関する管理方法は、それぞれの機関で自動車を使用したり、業者に委託契約してもよいであろう。この場合、州職業リハビリテーション局の地区事務所から輸送機関計画と財政的援助を受けるべきである。

●住居

 障害者が自立した生活を営むために必要な住居は、障害者ひとりひとりによって大きく異なるであろう。ある人は車イスを操作するので幅の広いスロープや出入口を必要とするし、もっと重度の障害者は衣服の着脱、買物、輸送、家庭における雑用についても援護サービスを必要とするかもしれない。看護サービスを必要とする人もあるであろう。

 適切な住居を確保することは多くの障害者にとって非常に重要な問題であるで、各サービス地区では障害者のための住居確保に力を入れなければならない。

 州職業リハビリテーション局の各地区事務所には在宅コーディネーターを置き、障害者用の住宅資源を拡大する計画を立案する。この住宅コーディネーターを援助するために、障害者も含めた地域住民によって構成される諮問委員会を設置すべきである。

●建築上の障害

 地域社会において一般の人びとによって広く使われている公共建築物は障害者が利用できない状態にある。アメリカ人の10人に1人はこの問題に直面しているにもかかわらず、ほとんどの人はこの問題を知らないのである。たとえば、マサチューセッツ州では建築上の障害を除去する法律がある。最近制定された法律により、建築上の障害に関する州委員会が公共安全庁のなかに設置された。この委員会は公共建築物の障害を除去するための基準を作成する責任を持つ。これは非常に重要なステップといえる。この委員会が次に行なう仕事は、その財源が公費であろうと私費であろうと、公共に広く利用される建物すべてに対して法律上の効力を発揮する法令を制定することである。一般の人びとに利用されている多くの建物は障害者の日常生活にとってきわめて重大である。なぜなら、それらの中には、教育、訓練、就労、買物、レクリエーション、礼拝、医療などに使われる建築物が含まれているからである。

●犯罪者

 犯罪防止の目標と、犯罪者のリハビリテーションの目標については、ある混乱した考え方が存在している。リハビリテーション・プログラムは、犯罪者の処罰の効果による抑止力を減じ、犯罪防止の努力を妨げるといった根拠によって反対されてきたことである。しかしながら、犯罪防止とリハビリテーションの間には、真に相反するものはないのである。なぜならば、犯罪者のリハビリテーションは、一般的にいって、犯罪を低減するもっとも有望な方法だからである。

 矯正過程での重大な局面における継続的な反応を除いては、リハビリテーション・プログラムの進展拡大は、多くの州で住民の支持をうることができないでいる。地域社会または施設内において、矯正リハビリテーションをますます強調することは、犯罪者に対する職業リハビリテーション・サービスの拡大に結びついていかなければならない。

 有罪判決のあとほど、サービスが断片的になってしまう行政機関はほかにない。たとえば、マサチューセッツ州の場合、囚人の管理とリハビリテーションに関する責任は、六つの州の機関と14の郡とボストン市に分割されている。

 仮出獄中や保護観察中の少年犯罪者たちは、職業リハビリテーション・サービス、特にカウンセリング、職業前訓練、訓練サービスを緊急に必要としている。保護観察官や他の少年犯罪関係職員の報告は、少年たちの多くが教育に不足し、職業的目標に関して動機づけができていなかったり、非現実的であったりしていることを示している。

 すべての犯罪者は、刑に服する前のできるだけ早い時期に、医学的・心理的・社会的・職業的な総合診断と評価を受けるべきである。

 その具体的なプログラムは、犯罪者の医学的ニードにより注意を払われたもの、刑務所の作業場の点検や旧式な作業条件の改善、仕事をするプログラムの拡大、早期釈放の促進と釈放後の職業プログラムなどが含まれなければならない。

●技術革新と職業の形態

 リハビリテーション・サービスを提供する個人および組織は、障害者を更生するのに必要な方法や手段に力をそそぐわけである。しかしながら、職業形態への技術の影響を考えるとき、もしも社会が個人個人の能力、技術、潜在機能を、個人にとって意味のある職業的役割を通じて、社会の発展に貢献できるように最大限に有効に使えないならば、社会自体が障害者であるといえるのである。これからの10年、また将来の年代も含めての雇用機会と労働資源プログラムの改善と拡大のために、州の政策と計画がよりよく統合され、より合理的、効果的に達成されるように、州の担当部門のリーダーシップと方向が示されなければならない。したがって、労働資源政策および開発局か知事の管理部門あるいは計画部門に設けられるべきであり、提案される労働資源計画局のおもな目的は次のようになるはずである。

・労働資源政策と計画の調整

・職業紹介方法の改善と新しい方法の開発

・多様な需要と能力に適合する新しい職業的役割の創造

・技術革新や社会変動にそった教育機関と教育計画の連続的適応

 労働資源プログラムと開発計画の職員に加えて労働資源に関する専門家と卓越した市民との連携をとるために、知事は市民諮問委員会を任命すべきである。

●専門家の養成

 現在の人材の不足は、なんらはっきりした改善の徴候をみせてはいない。医師、OT、 精神科医、教師、リハビリテーション・ナース、リハビリテーション・カウンセラー、ソーシャル・ワーカー、ガイダンス・カウンセラー、STは、すべてリハビリテーションに関連があるが、全部が人材の不足に悩んでいる。不足していてしかも非常に高給の専門技術者を使い、いかにしたら多くの人に質の高いプログラムを提供できるのか。長期にわたり、複雑な問題を持つ多くの人びとにサービスを続けていくとき、新しい職員の補充や訓練はいかにされるのか。

 現職教育は、特に公共機関における人事予算の中では、もはや優先順位の低いものとして扱われることはありえないのである。知識や能力をさらにみがく機会や、連続した教育的向上の機会を通じて、優秀な専門家が補充され維持されている。

 職業リハビリテーションを担当する州の部門や精神衛生、公衆衛生、公共福祉、教育矯正、青少年サービスの部門は、少なくとも人事予算の10%を現職教育、教育的刺激、奨学金に使用すべきである。また、リハビリテーションに関する他の機関と一堂に集まって行なう訓練もおし進められなくてはならない。

 資格を有するリハビリテーションの職員を維持し、引きつけるには、最小限要求される教育と昇給のかなりよいこと、がまず第一条件である。給料のレベルは、経験、教育背景、責任の重さの違いによって変わるべきであり、他の州や民間の機関とも競争可能な額でなければならない。また公共サービス以外の人でも、要求される教育は受けていないが、カウンセラーや管理者の助手になれるような人のために、リハビリテーションの訓練をうけられる職場が用意されなければならない。

●リハビリテーション調査の拡大

 調査を行なう人びとに、能力の欠損についての基本的な考え方を持たせ、早い時期にリハビリテーション分野への関心を起こさせるようにする点が強調されるべきであるが、学部、修士課程、博士課程におけるプログラムが、連邦政府のリハビリテーション管理局によって補助されなくてはならない。毎日の運営についての調査は、データを計算し、まとめる技術者に負うところが大きいため、調査技術員の訓練プログラムは、地方大学や短期大学の教育課程に加えられるべきであり、リハビリテーションの現場で働く人のための調査に関する教育と同様に、州職業リハビリテーション機関によって補助され、奨励されるべきであろう。

 調査員と現場の職員は、ときどき違う言葉で話しており、お互いに相手の問題点には無関心である。そればかりか、相互間のコミュニケーションの欠如は、調査の結果が実用には供されないという結果もひき起こしている。相互間のコミュニケーションを強めるために、下記のように協同する努力が払われるべきである。

・リハビリテーション調査や実施に関係している大学間の会議を開いて常時往来があるようにする。

・リハビリテーション調査だけの雑誌を作る。

・リハビリテーション調査を処理する機関と大学の調査研究所との相談。

●リハビリテーション・サービスの財政

 1965年と1968年の連邦職業更生法の改正によりリハビリテーション・プログラムの範囲が広げられて、連邦―州の協力基金が非常に増加した。リハビリテーション・プログラムへの法的援助は、職業リハビリテーションの対費用利益の点で、価値が立証されたことの結果かもしれない。リハビリテーション・サービスによって生じた収入は、納税者に対し税金の節約として評価できる。たとえば、1967年において、マサチューセッツ州では1,142,686ドルの州財源をリハビリテーション・サービスに使い、下記のような利益を生んでいる。

・2,169人の更生した人びとが、ケース打ち切りまでに年間700万ドルの収入を得た。彼らがプログラムにはいったときの収入に比べ、600万ドル近くの増加である。

・これらの人びとから州に納められた物品販売税および所得税は、総額5万ドル以上であった。

・これらの人びとへの施設保護や公的扶助がなくなることによる経費の節減は、年間約50万ドルであった。

 これらの統計は、単に1年間の州のリハビリテーションへの投資に対する有形の見返りを示したにすぎない。もし、更生した人びとの生涯の収入を予想したとき、公共財源による投資によって得られるものはまことに莫大なものとなる。加えて意義ある生活を送ることができるように、自分の能力の最大にまで回復した人の、無形の価値は推測することは不可能である。

 このような、障害者にとっての無形の価値は、統計的には計算できないにせよ、投資による利益の一部分として当然考えられるものである。

●実施への第一段階

 将来のプログラムに関する複雑な計画は、各機関が効果的な計画能力を開発することをますます必要としている。たとえば、マサチューセッツ州では、リハビリテーション委員会と盲人委員会はすでに恒久的な計画を担当する組織を準備中である。職業リハビリテーション機関の計画のための組織は、この計画委員会の勧告の実施を促進するであろう。

 実施はまた、計画委員会の構成員や在野の声を集め、政府に働きかけをしている人びと、さらに州のサービスを受ける人びとあるいはこれから受けようとする人びとなどの協同の努力を要求するに違いない。計画委員会の提案はこれらの市民の援助なしには実現せず、法制化、管理。プログラム勧告のための強力な援護が必要である。今後、長期的に考えるとき、州ならびに地区リハビリテーション評議会への市民参加は、すべての人びとにリハビリテーション・サービスを拡大し、改善していく運動にとって不可欠である。

 われわれの最終目標は、同じ市民仲間の障害者が、社会活動や生産活動の主流に復帰するということにあるべきなのであって、ほかのことを目ざすことは、われわれ人間の伝統を否認することだといえよう。

(丸山 一郎訳)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年1月(第1号)22頁~32頁

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