特集/職業リハビリテーションの諸問題 障害者の職業リハビリテーションの分野に関する今後の指針

特集/職業リハビリテーションの諸問題

障害者の職業リハビリテーションの分野に関する今後の指針

1969年9月アイルランド共和国ダブリンにおける第11回世界会議実行委員会報告

 国際リハビリテーション協会、第11回世界会議開催に際し、リハビリテーション過程の主要な諸側面に関する統一見解を会議出席者から最大限の参加により、「今後の指針」としてまとめようではないかということで、準備手続きがとられることになった。

 会議にさきだち、準備草案を起草するために実行小委員会が結成された。これらの草案は出席者全員に配布され、意見や助言を提起するよう求められた。出席者からの反応や、登録会員ならばだれでも出席し意見を述べることのできた会合での討論の内容を参考として、実行小委員会は、会議の最終総会に提出すべく最終案をまとめたのである。

 職業リハビリテーションに関する実行小委員会は、米国保健・教育・福祉省社会・リハビリテーション庁調査・実施・訓練部副部長であるJames Garrett博士を委員長に推した。

 他のメンバーは、国際労働機関(以下ILOと表記)の人的資源局人材計画組織課の職業リハビリテーション専門官であるNorman Cooper氏、職業リハビリテーション世界委員会の当時の委員長P. J. Trevethan博士、カナダの人材移民省人材活用課長代理Ian Campbell氏、アイルランド国立リハビリテーション委員会の主任心理研究員のP. Quinn氏、そしてポーランドの障害者協同組合連合会調査センター所長B. Trampczynski氏であった。

 以上の経過により作成されたこの指針は、新たに設立された国際リハビリテーション協会職業委員会の実施要領として、あるいは障害者のリハビリテーション活動の創設や改善に関心のある人々への参考文献として出版されるに至った。

序文

 この分野では、いかなる指針といえども、いくつかの基本的事項を了承すべきものと考える。

 1) 障害者の就職の可能性について、よりじゅうぶんで、好意的な理解を提供しうるよう社会の変革を促進させること、および障害者の雇用に対するさらに積極的な態度を確立させること。

 2) 疾病の残存障害が貧困や社会――経済的地位の低さと密接な関係をもっていること。そしてその当然の結果として、「障害者」の概念に、社会的・文化的弱者をも含めようとする対象の拡大傾向があること。

 3) 偏見や固定観念とたたかうことによって、すべての社会構成員が受け入れられるように地方の地域社会を啓蒙し、健常な同僚に伍して働く障害労働者のいっそう積極的なイメージを作り出すこと。

 4) 若年障害者の両親や教師、あるいは障害者自身の就職の可能性についてみられる楽観的見方と自信とをさらに発展させること。

 5) 計画の効果を拡大させるために、調査や経験から知りえた事実を最大限に活用すること。

 6) 社会資源を最大限に活用し、さらに、分断や重複を排除して、職業サービスを高度に組織化し、単一化した連絡網として組み立てるために、公立、民間、さらには公立民営の諸施設・機関を連絡調整すること。

 7) 雇用主、障害者、リハビリテーション関係専門職員と一般大衆とのよりよきコミュニケーションのために、用語の統一とその概念の成文化を行うこと。

 8) 医学的・社会的・心理的等の全リハビリテーション過程に対する、また、利用者の全面的なニードの充足に対しての、職業リハビリテーションの関連づけを明確化すること。

 9) 障害者自身には、自らの運命を切り開く責任があり、障害者の生きる社会の側にも、他のすべての市民と同じようにこの権利を尊重しなければならないという責任があること(人権宣言)。

 10) 職業リハビリテーションは、各国なりの状況に応じ、社会のそして人材計画のなかで、絶対不可欠な分野であるということ。

 以下の指針は、地方固有のニード・条件・開発段階の程度などに応じてとりいれられれば、適切な示唆となるものである。

 1. 確認事項

 a 職業リハビリテーション・サービスは、障害者に雇用準備が可能であり、また、雇用の場を確保し適切な雇用を維持していける納得のいく見通しがあるものであるかぎり、その障害の原因や性質・年齢のいかんを問わず、すべての障害者に利用されるべきものである(ILO第99号勧告の提案のとおり)。

 b 障害者と非障害者との間には明確な境界線はありえない。ゆえに、障害者に対するいかなる定義も、心身障害に関連して社会的または文化的障害を伴う者をも含むことができるようじゅうぶん柔軟なものであるべきである。

 障害問題の規模の確認と、職業リハビリテーションその他のサービスを必要とする障害者の認定に視座をすえた計画網が、なるべくならボランタリーな基盤で確立されるよう特段の努力が払われるべきである。

 2. 職能評価と作業調整

 a 職能評価は、職業リハビリテーション過程の、必要にして絶対不可欠な分野であり、それは実際の作業環境における職場適応評価をも含むべきである。

 b 既存の医学的・心理的・職業的評価のための施設を最大限活用して、障害者のための機能評価サービスを新たに設立もしくは拡大強化するよう、対策が講ぜられるべきである。かかるサービスは、以下に示す方法の一つまたは二つ以上を併用してさしつかえない。

 (1) 特別の授産所またはセンター内において

 (2) リハビリテーション・チームによって

 (3) 職業指導官によって

 (4) 特別な就職促進官だけによって

 (5) 公私企業の職場適応訓練において

 c 評価の過程の修了後、障害者はできるだけすみやかに訓練コース(あるいは直接就職)に措置されるべきである。この両者の間に時間的なズレが生じた場合には、せっかくの評価や再訓練コースの価値が低下してしまうであろうし、リハビリテートしようとする者は当然ながら意気消沈し、心理的問題が再発するかもしれない。

 d 適当と認められる場合には、実際の作業環境のなかで試験的作業を行うことにより、障害者は今まで以上に自信と独立心を身につけうるであろう。また試験的作業は、職業訓練ないし就職のための評価に基づく助言そのものを強化し確実にしてゆくことにもなろう。

 障害者のためには、それぞれの国のニードや国情に応じ、職業訓練あるいは就職に先立ってまず職能評価や適応サービスを確立させたり発展させたりする処置が優先的に講ぜられるべきである。この分野の国際的または国内的各機関における日常的業務のなかで、評価ないし判定の技術は、吟味・工夫され、その知識と経験は蓄積され、共同利用されてゆくべきである。

 3. 職業指導および職業前準備

 a ILO第99号勧告に示されているように、職業指導の過程は、適宜、以下の方法を単独か、あるいは数種または全部組み合わせることによって実施されるべきである。

 (1) 職業指導担当官との面接

 (2) 職歴の諸記録の検討

 (3) 本人の受けた教育や訓練、特に読み書きのような基本的学習能力の程度に関しての成績その他の記録の評価

 (4) 能力と態度の測定に妥当性のあるテスト、ならびにその他の適応と動機づけについての心理学的検査

 (5) 個人の適応状況と家族環境の確認

 (6) 適当な作業経験、試験雇用、その他同様な方法による、態度と能力の発達状況の確認

 (7) 必要と思われる際にはすべてのケースについて、言語性またはその他の方法による職業技能テストの実施

 (8) 職業に必要な条件、あるいは能力発達の可能性という観点からの身体的能力の分析

 (9) 対象者の資格・身体的能力・態度・興味・経験に適した就職先、あるいは訓練コースについて、さらには労働市場のニードに関する情報提供の準備

 b 準備過程の目標は仕事につけることなのであって、職業指導そのものではないのだということに留意することが肝要である。最終段階で適職発見の積極的な援助がなんらなされない指導というものは、有用なものでも必要なものでもないだろう。指導方針は、早い時期に、労働や教育の権威者ばかりでなく、経営者や労働組合をはじめとして保健や福祉の関係者の参加を求めて、その衆知の上に立案されなければならない。要するに、行政は、職業指導というものが、職業リハビリテーションの全過程の多くの段階を包含する持続的な過程なのだという事実を、常にそのワク組のなかに反映してゆくべきだということである。

 c 職業前準備は、就職経験のない若い人々に各職業それぞれが、どのようなものであるかを示すことによって行われるものである。それは、普通教育を侵害するものとして行われてはならず、またこれをもって実際的な職業訓練の第一歩に代えるものとしてもいけない(ILO第117号勧告のとおり)。

 d 職業前準備は、以下に示すごとく、若い人々の年齢に応じた一般的かつ実際的な教育を包含すべきものである。

 (1) すでに受けた教育を継続ないし補足すること

 (2) 実際に仕事についての概念を与え、味わいと尊重の念を増大させ、さらには訓練に興味をわき立たせること

 (3) 職業的興味と態度をよびさまし、かようにして職業指導に参加させること

 (4) 将来の職業的適応を容易にすること、

 e 職業前準備は、可能なかぎり、多くの職場にみられる設備や材料に慣れ親しませることをも含むべきである。

 f 就学年齢にある若年障害者のための職業リハビリテーション・サービスは、教育畑の権威者と職業リハビリテーション畑の権威者との間の密接な協力の下に、組織され展開させられるべきものである(ILO第99号勧告のとおり)。

 実際的な職業目標というものは、職業リハビリテーション過程の早期の段階で個々の障害者に対し、適切にして総合的な職業カウンセリングをとおして樹立されるべきものである。若年障害者に対する職業指導サービスの基本的な目的は、その障害に基づく職業的および心理的障害を可能なかぎり除去し、適当な職業につく準備と就職の機会をじゅうぶん提供することなのだということが認識されるべきである。以上のことがらをじゅうぶん活用するには、医学的・社会的・心理的サービスと若年障害者の両親ないし保護者との間の協力が必要になってこよう。

 4.職業訓練

 a 障害者に対して職業訓練を考慮し、選択し、準備する際には、次の基本的原則に留意すべきである。

 (1) 訓練を経ないでも適当な職業につくことができる場合には、職業訓練は必要不可欠ではないこと

 (2) 健常者の訓練に適用される原則・尺度・方法は、医学的・教育的条件の許すかぎり、障害者にも適用されるべきこと

 (3) 可能な場合はどこでも、障害者は健常者と同じような条件を共有するかまたはその下で、訓練を受けるべきこと

 (4) 訓練は、適当な職場、あるいはその科目に関連した職場への就職に結びつくべきものであること

 (5) 訓練は、訓練機関または在宅雇用を含む保護雇用のいずれかにおいて、開放雇用・自営雇用が可能とされるよう行われるべきこと

 (6) 訓練と経験の積み重ねにより、同僚と同じように地位の昇進の見通しがつけられるべきこと

 b 職業訓練は、産業界の要求に歩調を合わせたものでなくてはならず、選ばれ、設けられた訓練科目は原則的には産業界に受け入れられるものだという確信が訓練生に与えられるべきである。この目標に到達する方法は、健常者のための計画づくりに用いられるのと同様のものである。すなわち、

 (1) 労働市場の情報と将来の動向に対する研究とその適切な解釈

 (2) 方針の決定を行いそれを実行する際、経営者団体と労働組合との協力へ維持

 c 訓練科目は、常に検討され、特にその国において経済的に適したものであるか、雇用の機会があるかどうかといった観点から吟味されるべきである。

 d 訓練時間は、可能なかぎり、通常の労働時間と同じであるべきであり、各職種・職業に対する訓練プログラムは、経営者と労働者の代表とにより、作業経過、技能、知識、安全要素の統計的分析を考慮に入れて、詳細にわたって検討されるべきである。

 e 障害者が、家族の経済的問題で心配したり気が散ったりすることなく、安心して職業訓練を受けられるように、実行可能な経済的援助のプランがじゅうぶん進展される必要がある。

 障害者に対する職業訓練計画は、可能なかぎり、障害者が安んじて職業訓練施設をじゅうぶん活用できるよう経済的その他、必要な援助を伴った、教育と職業訓練に関する国家のプログラムに統合されるべきである。このことは、訓練の可能性をもった障害者が、技能を習得する機会をもち、その結果国家経済に対してばかりでなく、自らの幸福と独立のためにも貢献するのを保証することにもなろう。しかしながら、重度障害者群のあるケースには、別の方法による訓練が肝要であることもあわせて認識されるべきである。

 5.就職斡旋

 a 障害者の就職――社会復帰の望ましい形は、健常者と肩を並べる「門戸の開放された」雇用である。これに至るには、以下に示す三つの明確な過程のからみ合いによって成り立つ選択雇用によることが順当なのである。

 (1) 労働者を知ること

 (2) 職務を知ること

 (3) 労働者を職務に、あるいは職務を労働者に適合させること

 b 可能なかぎり、障害者に対する就職斡旋のサービスは、すべての労働者に対する既存のサービスと密接に結びついているべきである。

 c 就職斡旋官は雇用主に対して、新たに採用した障害者は以下の2点について、適当な指導を受けるべきなのだということを確実に理解させるようにしなければならない。

 (1) 職責の説明と、必要な場合には職務に必要ないかなる訓練をも準備すること

 (2) 障害者ができるだけ早くその可能性をじゅうぶん発揮しうるように、直接の上司と同僚たちが彼を受け入れ、また新しい環境に早く定着するよう援助するのを確実ならしめること。

 d アフターケアの措置も実施されるべきである。

 (1) 就職斡旋(または職業訓練あるいは再訓練サービスへの依頼)が果たして満足すべきものかどうかの確認のために

 (2) 就職相談の考え方や方法の評価のために

 (3) 障害者が向上の機会をもった職場にしっかり定着することを妨げる障害を、可能なかぎり除去するために

 障害者に対する選択雇用サービスは、地域の既存の就職斡旋機関を必要な際には各障害者にふさわしいように改善して、じゅんぶん活用すべきである。それゆえ、政府の職業安定サービスが確立されている場合には、それと障害者に対する選択雇用サービスとが緊密な連けいを保つべきことは非常に重要なこととなってくる。

 6.障害者の雇用機会の促進と開拓

 a この問題に関する基本的原則は、次のとおりである。

 (1) 同じ資格を有しているかぎり、障害者には健常者と同じ就職の機会が与えられるべきである。

 (2) 障害者が、自らの選択した雇用主の下の、しかも合理的な昇進の機会をあわせもった職場に、採用されることについては、なんの差別もされてはならない

 (3) 障害者には、障害ではなく、その才能と作業遂行能力とが強調されるべきである

 b 障害者の雇用の機会とその可能性は、通常の労働市場と同じ土俵の上で検討されていかなければならない。障害者、特にその職能に制限のある者が職場を発見することは失業率が高く不完全雇用の存在する開発途上国では格別困難である。これらの状況の下では、雇用の開拓と振興計画は、以下に示す線に沿って樹立されるべきである。

 (1) 小規模事業による保護(生産)工場

 (2) 在宅雇用方式――工場的、技工的いずれでも

 (3) 障害者のための協同組合方式

 (4) 小事業の経営や独立採算による自営

 c 雇用開拓計画、特に保護(生産)工場プログラムは、障害者を雇用するに当たってのサービスや施設が何もない国においては格別に、一般大衆に障害者の作業能力についての啓蒙を行うのに適した方式である。これらの計画は、今後の職業リハビリテーション・サービス確立のための踏み台となるべきである。

 d 試験的な保護(生産)工場計画の立案に際しては、一つの実験として、障害者がたとえば職能評価・指導・作業調整・訓練および再訓練・就職斡旋等、さらには保護雇用のサービスも必要に応じて受けることのできる、適当な規模の多目的センターへ発展する可能性を検討する慎重な配慮が必要である。そのような多目的センターは、各障害者の社会復帰問題を広い範囲で解決する理想的な出発点となろう。

 e 実験的な雇用または「試験採用」計画もまた、障害者の雇用機会の拡大への可能性を提供する。このシステムを適用する通例の接近方法は、まず雇用主に関心を持たせ、次いで、障害者にとって最良の作業環境は何かを検討すると同時に、その能力を評価するために、障害者を短期間選ばれた職務につかせるよう雇用主の同意と好意を得ることである。しかしながら、これらの準備がなされる以前に、雇用主と、保険や労災・療養休暇・通勤手段・食事・作業時間・プログラム終了時の条件等を所管する職業安定機関との間で了解が成立していなければならない。

 f 障害労働者の雇用を要請する適正な法令の制定は、障害者がかなりの率で就職することを保証するための政府当局がとりうる手段の一つである。これらは以下の形をとりうるだろう。

 (1) 一定の割合で障害者を雇用する義務を雇用主に課すこと

 (2) 特別の産業や分野におけるある種の職種を障害者のために確保すること

 (3) 障害者のための地位の確保、あるいはまた、多くの国において傷い軍人のケースがそうであるように、障害者に特別の優先権や先取権を割り当てること

 g 障害者の強制的雇用計画は、①雇用主が課せられた義務を果たすのを援助するため、②必要とされる登録制度を維持するため、そして③それなくしては義務制が機能せずまた所期の目的を達成しえないので、雇用主に対して監査もしくは強化手段をとるために、適正に訓練された職員の行う職業安定行政が存在している場合の開発途上国にのみ導入されるべきである。効果的な行政によってこの割当制度が確立されるまで、政府当局は自ら進んで障害者を可能なかぎりの範囲の職種・職業に採用し、他の雇用主に範を垂れるようにすることが良策であろう。

 h 地域社会の態度というものが、職業リハビリテーション・サービスあるいは障害者の雇用安定の見通しに非常に大きな影響を与えるので、このことに関連して次の点が留意されるべきである。

 (1) 広報活動(PR)は、地域社会住民の努力や個人の反応に大いに影響するものである。

 (2) 自分自身をリハビリテートさせる努力をしている個々の障害者は、地域社会の態度いかんにより大いに影響される。

 (3) 職業リハビリテーションについて、広く公衆を啓蒙しようとすれば、それは地域社会住民の興味・理解力・活動への参加・援助の度合いに非常に大きく左右される。

 (4) 地域社会はそもそも、リハビリテーション関係職員の、またボランティアの、はたまた活動への経済的援助に欠くべからざる有識者たちの供給源である。

 i 障害者を雇用しようというアイディアは、多くの雇用主、特に開発途上国の雇用主には目新しいものかもしれない。それだからこそ、一般人特に雇用主と同僚の健常労働者に対して障害者の能力というものを熟知させるように計画された特別な社会運動を、全国的にか、あるいは実験的な計画が、すでに実施に移され一般大衆を啓蒙しうるようになった地方で、盛り上げることは大いに価値のあることにちがいない。

 障害者が適職を確実に維持する機会を最大限に増大するためには、雇用主と、労働者の団体、そしてまた関心のある民間団体とは密接な連けいをとりつつ、有能な権威者による特別な処置がとられるべきである。これらの処置は、次の諸点を包含すべきである。

 (1) 適職開拓計画の樹立

 (2) 雇用主への「試験雇用」方式採用の奨励

 (3) 法令による雇用促進

 (4) 広範囲にわたるまた不断の、あらゆる種類の啓蒙宣伝を行う努力

 (5) 障害者のリハビリテーションと再定着を図るため、労働組合や同業組合を含んでの積極的な地域社会の包括的動員

 7.農村地域における職業リハビリテーション

 a 一定の人口は主として農業に従事しており、これらの地域に住んでいる障害者は世界の障害者人口の4分の3を占めているだろうと説明されている。都市中心の職業リハビリテーションと訓練方法が、必ずしも農村地域の実情に適合しないという事実に立ってみれば、これら地域における障害者の要求を満たし、必要な際には社会復帰のための機会を発見・開拓するところの適当な職業リハビリテーション施設を設立・拡充させるために、さらに多くの関心が必要とされる。

 b 発展の段階やリハビリテーションの限度の範囲は国により異なるが、農村地域における障害者のリハビリテーションに関連しては、いくつかの共通の問題点があるように見受けられる。それらは次に示すものであろう。

 (1) 障害発生予防策確立の困難性

 (2) 障害者とその家族と、地域社会の態度

 (3) 農村地域における人的資源の不完全利用

 (4) 適正にして基本的なリハビリテーション施設とこれを助成する行政の欠如

 (5) 政府の助成のいっそうの必要性

 農村地域における障害者が直面している社会復帰の問題にはいっそうの関心が払われなければならない。在宅保護と、ボランティアグループの開拓者的な努力によるといった伝統的な方法がいまだに農村地域の障害者たちの福祉をおもにささえている。よって、政府関係当局がこれらの実績に対して、指導性を発揮し、助成を与え、さらにその国の財政構造と農村開発計画に適合する調整され統合されたプログラムの設置を図ることは緊急のことがらである。

 8.行政職員の配置と人材開発

 a 職業リハビリテーション・サービスの一般的な組織と展開についての行政責任は、次のものに委任されるべきである。

 (1) 単一の責任部局、あるいは

 (2) 調整役を本務として委任された一つの責任部局のもとにある、計画の各分野管掌の傘下数部局

 b じゅうぶんその任に耐えうる単一または複数の担当部局は、職業リハビリテーションに関係する公私団体間の協力と連絡調整を徹底させるため、必要にして望ましいと思われる対策をすべて構ずべきである。これらの対策は、以下の諸点を適正に包含すべきである。

 (1) 公私団体それぞれの責任と義務の明確化

 (2) 職業リハビリテーションに関与している民間団体に対しての効果的な財政援助

 (3) 民間団体への技術的助言

 c 職業リハビリテーション・サービスは、国家レベル、あるいは必要な場合には府県や市町村レベルの代表的諮問委員会の助言に基づいて設立され、発展されるべきである。この委員会の委員は、以下に示す分野から適任者を専任すべきである。

 (1) 職業リハビリテーションに直接関係している中央・地方政府当局や団体

 (2) 雇用主および労働者の団体・組合

 (3) 障害者の職業リハビリテーションについての学識や職見のすぐれている者

 (4) 障害者団体、あるいは特別に選ばれた障害者

 d 職業リハビリテーションの仕事は高度に専門化し、その職員には高い資格が必要とされている。よって、当然の結果として、給与その他の条件は、これらの水準が行われる労働の密度に応ずるものでなければならないということになる。給与水準は、他分野の類似職種に比してもかなりよく、また少なくとも同様な昇給状況でなければならない。

 e 訓練された職業リハビリテーション専門家の不足は、いまだに職業リハビリテーション・プログラムの、特に開発途上国での実施についての唯一の大きな障害となっている。各国政府や国連機関、各国政府機関(National Governments Organizations,以下NGOと表記)が直面しているこの大きな問題は、より緊密な協議と調整によって解決されることが要請されている。しっかりした基盤のうえに訓練課程コースを設けようとする各機関とNGOとの共同計画の可能性について、現在検討がなされつつある。

 f 職業リハビリテーション過程は、各種の技能職(または職人芸的)レベルから高度に訓練された専門職レベルまでの広範囲な職員を必要としている。計画を成功させるためには、すべてが欠くべからざるものである。

 職業リハビリテーション・サービスは、全リハビリテーション・プログラムの中で、継続的調整的過程として組織され展開されてゆくべきである。そして当該国の人材開発および雇用促進の計画または政策に従って、それをすべての労働者にとって適切なサービスとするよう努力が傾注されるべきである。職業リハビリテーション関係職員の養成訓練は、国家的・地域的・国際的のいずれのレベルでみても最も緊急の懸案事項とされるべきである。また、職業リハビリテーション職員の最低資格基準を、技能の多様性や、必要とされる人員構成の範囲に考慮を払いつつ、確立するよう配慮されるべきである。

 9.調査

 a 調査は、職業リハビリテーションの運営実施のなかで、一般的に行われている方法や技術を評価し改善するために、あらゆるレベル(1国内・地域内または国際的な)で育成され、共有され、奨励されるべきである。

 b 以下に示すことがらについての調査や結果分析が大いに期待されている。

 (1) 世界のリハビリテーションについてのアメリカ・リハビリテーション庁(以下RSAと表記)調査のごとき、職業リハビリテーション・プログラムの法制、行政、実践についての国際的比較研究。

 (2) 農村地域における障害者の雇用の機会

 (3) 職業リハビリテーション関係職員の訓練に関する実践的な指針

 (4) 特別な障害者群、たとえば精神病回復者、精神薄弱者、ライ病その他、熱帯病等の疾病による後遺症患者の職業リハビリテーションに関する諸問題

 (5) 職業リハビリテーションの経済問題、特に歳入歳出等の財政的分析

 (6) 開発途上国の障害者に対する適職開拓計画(小規模企業形態の保護生産工場)

 (7) 障害者の求職要求を解決している地域社会ぐるみ運動の成功例

 調査報告の組織的な相互交換は国際的レベルで奨励されなければならない。これは、国際障害者リハビリテーション協会によって設立されつつある国際研究紹介サービスを効果的に利用することによって成就されるにちがいない。サービスを改善し拡充するためには、調査を活用する技術の向上に大いに意が用いられなければならない。

 c 職業リハビリテーションについて多くの専門化された分野での調査結果は、サービス配給システムのいっそうの拡充強化に利用されるため、統合され総合される必要がある。

 10.国際協力

 a 関係諸国の職業リハビリテーション・プログラムを改善し調整するため、2国間または多数国間での協約の拡大および地域代表協議会の設立は奨励されるべきことである。

 b その際、特に次の点に注意が払われるべきである。

 (1) リハビリテーション・サービスを世界的に実施している政府および民間の国際組織の努力結果の連絡調整

 (2) 傷い軍人を含む障害者に対する医学的・社会的・教育的・職業的リハビリテーション・サービスの計画づくりと展開をとりあげようとするいくつかの開発途上国から成る合併機関たるNGOリハビリテーション計画の設立

 (3) 職業リハビリテーション専門家の養成訓練における機関をこえての相互協力およびNGO参加の制度化

 (4) 分散的な文書管理機関の設立

 以上、2国間あるいは多数国間のより広い国際的な協力は、職業リハビリテーションにおけるサービス・調査・啓蒙・人材開発の分野において必要とされているのである。

   草案提案者名

   カナダ Ian Campbell

   ILO Norman F. Cooper

   アメリカ(委員長) James F. Garrett

   ポーランド B. Trampczynski

   アメリカ P. J. Trevethan

   アイルランド Peter Quinn

(小島蓉子・大木勉共訳)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年4月(第2号)3頁~11頁

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