特集/職業リハビリテーションの諸問題 身体障害者の職業更生に関する勧告

特集/職業リハビリテーションの諸問題

<ILO第99号勧告>

身体障害者の職業更生に関する勧告

 国際労働機関の総会は、

 理事会によりジュネーブに招集されて、1955年6月1日にその第38回会期として会合し、

 この会期の議事日程の第4議題である身体障害者の職業更生に関する提案の採択を決定し、この提案が勧告の形式をとるべきであることを決定したので、

 次の勧告(引用に際しては、1955年の職業更生、<身体障害者>勧告と称することができる)を1955年6月22日に採択する。

 身体に障害のある者については、多数かつ種々の問題が存在するので、

 これらの者の身体的および精神的能力を最大限に回復させ、これらの者をその果たすことができる社会的、職業的および経済的役割に復帰させるためには、その更生が欠くことのできないものであるので、また、

 個々の身体障害者の就職の希望を満たし、かつ、人力資源を最もよく利用するためには、医学的、心理学的、社会的および教育的施設ならびに職業指導、職業訓練および職業紹介のための施設(就職後の補導を含む)を継続的および総合的な一過程に結合することにより、身体障害者の労働能力を発達させ、かつ、回復させることが必要であるので、

 総会は、次のとおり勧告する。

Ⅰ 定義

 1 この勧告の適用上、

 (a) 「職業更生」とは、継続的および総合的更生過程のうち、身体障害者が適当な職業につき、かつ、それを継続することができるようにするための職業についての施設(たとえば、職業指導、職業訓練および職業の選択紹介)を提供する部分をいう。

 (b) 「身体障害者」とは、身体的および精神的損傷の結果、適当な職業につき、かつ、それを継続する見込みが相当に減退している者をいう。

Ⅱ 職業更生の範囲

 2 職業更生施設は、身体障害者が、適当な職業の準備をすることができ、および適当な職業につき、かつ、それを継続する相当の見込みをもつことができる場合には、その障害の原因および性質のいかんを問わず、また、その年齢にかかわらず、すべての身体障害者の利用に供すべきである。

Ⅲ 身体障害者の職業指導、職業訓練および職業紹介の原則および方法

 3 職業の選択または変更について援助を必要とする身体障害者のために専門的な職業指導施設を設け、又は発展させるよう、必要で実行可能なすべての措置を執るべきである。

 4 職業指導の過程は、国内事情の許すかぎり、かつ、それぞれの場合に応じて、次のものを含むべきである。

 (a) 職業指導担当者との面接

 (b) 作業経験の記録の審査

 (c) 受けた教育および訓練に関する学校その他の記録の審査

 (d) 職業指導のための健康診断

 (e) 能力および適性の検査ならびに望ましい場合のその他の心理学的検査

 (f) 個人および家庭の事情の調査

 (g) 作業検査その他の方法による適性の調査および能力の発達の調査

 (h) 必要と認められるすべての場合の口頭その他の方法による技術的職業検査

 (i) 職業上の要件に関する身体的能力の分析およびその能力を増進する可能性の分析

 (j) 身体障害者の資格、身体的能力、適性、し好および経験ならびに雇用市場の要求を考慮した雇用および訓練機会についての情報の提供

 5 非身体障害者の訓練に一般的に適用される職業訓練の原則、措置および方法は、医学的および教育的条件が許すかぎり身体障害者にも適用すべきである。

 6(1) 身体障害者の訓練は可能なかぎり、雇用の見込みにかんがみ、身体障害者がその職業上の資格または適性に応じた経済活動に従事することができるよう行うべきである。

 (2) この目的のため、身体障害者の訓練は、

 (a) 医師の診断を受けたのち、障害が関係作業の遂行に及ぼす影響またはその作業の遂行が障害に及ぼす影響の程度が最も少ない職業への選択紹介と調整し、

 (b) 可能かつ適当な場合には、身体障害者が以前に雇用された職業または関連のある職業について行い、および

 (c) 可能な場合には、身体障害者が、通常非身体障害者と同様に労働するのに必要な技能を習得するまで継続すべきである。

 7 身体障害者は、可能なかぎり、非身体障害者とともにかつ同一条件で訓練を受けるべきである。

 8(1) 特に障害の性質によりまたは障害が重度であるために非身体障害者とともに訓練を受けることができない者については、その訓練のための特別施設を設け、または発展させるべきである。

 (2) これらの施設は、可能かつ適当なときは、特に次のものを含むべきである。

 (a) 宿舎その他を備える学校または訓練施設

 (b) 特殊の職業のための短期および長期の特別訓練課程

 (c) 身体障害者の技能を増進する課程

 9 使用者が身体障害者に対して訓練を行うことを奨励する措置を執るべきである。これらの措置は、適当なときは、経済上、技術上、医学上または職業上の援助を含むべきである。

 10(1) 身体障害者の職業紹介のための特別の措置を執るべきである。

 (2) それらの措置は、次の方法によって職業紹介を効果的にすべきである。

 (a) 求職者を登録すること。

 (b) 求職者の職業上の資格、経験および希望を記録すること。

 (c) 雇用について求職者と面接すること。

 (d) 必要があるときは、求職者の身体的および職業的能力の評価を行うこと。

 (e) 権限のある機関に対して求人を通知するよう使用者を奨励すること。

 (f) 必要があるときは、身体障害者の職業能力を証明し、かつ就職させるため、使用者と連絡すること。

 (g) 身体障害者が必要な職業指導および職業訓練のための施設ならびに医学的および社会的施設を利用することができるよう援助すること。

 11 次の目的のため、就職後の補導を行うべきである。

 (a) 一定の職業へのあっせんまたは職業訓練もしくは再訓練の結果が満足すべきものであったかどうかを確かめ、かつ、職業相談の方法を評価すること。

 (b) 身体障害者が職業に定着することを妨げる障害をできるかぎり除去すること。

Ⅳ 運営組織

 12 職業更生施設は、権限のある機関が継続的かつ総合的な計画として組織しかつ発展させるべきであり、また、現存の職業指導、職業訓練および職業紹介の施設をできるかぎり利用すべきである。

 13 権限のある機関は、じゅうぶんな数のかつ適格の職員が身体障害者の職業更生(就職後の補導を含む)に従事するようにすべきである。

 14 職業更生施設の発展は、職業指導、職業訓練および職業紹介に関する一般施設の発展と少なくとも並行すべきである。

 15 職業更生施設は、身体障害者が、すべての経済分野において自営のための職業の準備をし、職業につき、およびそれを継続する機会をも含むように組織しかつ発展させるべきである。

 16 職業更生施設の一般的組織および発展においての運営上の責任は、

 (a) 一機関に負わせるか、または

 (b) 当該計画におけるそれぞれの活動について責任を有する諸機関に対して連帯的に負わせるべきである。この場合には、そのうちの一機関がそれぞれの活動の調整について責任を有すべきである。

 17(1) 権限のある機関は、職業更生活動に従事する公私の団体間の協力および調整を達成するため、必要なかつ望ましいすべての措置を執るべきである。

 (2) 前記の措置は、適当なときは、次のものを含むべきである。

 (a) 公私の団体の責任および義務の決定

 (b) 職業更生活動に実績のある民間団体に対する経済的援助

 (c) 民間団体に対する技術的助言

 18(1) 職業更生施設は、中央ならびに適当なときは地方および地区に設置される審議会の援助を得て、設けかつ発展させるべきである。

 (2) これらの審議会は、適当なときは、次のもののうちから選出される者を含まなければならない。

 (a) 職業更生に直接関係を有する機関および団体

 (b) 使用者団体および労働者団体

 (c) 身体障害者の職業更生に関して知識および関心を有するため特に資格を有する者

 (d) 身体障害者の団体

 (3) これらの審議会は、次のことについて助言する責任を有すべきである。

 (a) 中央審議会においては、職業更生に関する政策および計画の発展

 (b) 地方審議会および地区審議会においては、中央で執られた措置の適用、地方および地区の事情へのその適応ならびに地方および地区の活動の調整

 19(1) 身体障害者の職業更生施設を評価しおよび改善するための調査は、特に、権限のある機関が助成しかつ促進すべきである。

 (2) その調査は、身体障害者の職業紹介に関する一般的または専門的研究を含むべきである。

 (3) その調査は、職業更生において用いられる各種の技術および方法に関する科学的研究も含むべきである。

Ⅴ 身体障害者による職業更生施設の利用を促進する方法

 20 身体障害者にあらゆる職業更生施設をじゅうぶんに利用させ、かつ、一定の機関が身体障害者をできるかぎり職業的に更生させるため個別的に援助するような措置を執るべきである。

 21 前記の措置は、次のことを含むべきである。

 (a) 職業更生施設の存在およびその施設を利用した結果、身体障害者が受けるであろう利益に関する情報を収集して周知させること。

 (b) 身体障害者に対して適当かつじゅうぶんな経済上の援助を与えること。

 22(1) 経済上の援助は、職業更生の過程のいかなる段階においても与えるべきであり、また、適当な職業(自営業を含む。)の準備およびその効果的な継続を容易にすることを目的とすべきである。

 (2) 経済上の援助は、無料の職業更生施設の提供、生活費の支給、職業準備期間中の必要な交通費の支給、金銭の貸与ならびに必要な交通費の支給、金銭の貸与ならびに必要な設備器具および補装具その他の用具の供給を含むべきである。

 23 身体障害者には職業更生施設の利用によって得られる利益に関係のない社会保障の給付を停止することなく、すべての職業更生施設を利用させるべきである。

 24 将来の雇用の見込みまたは職業準備のための施設が限られている地域に居住する身体障害者には、食事および宿泊の供与を含む職業準備の機会ならびに、希望するときは雇用の見込みの多い地域への移動の機会を与えるべきである。

 25 身体障害者(障害年金を受けている者を含む。)は、その労働が非身体障害者の労働と同一である場合には、賃金その他の雇用条件に関し、その障害のために不利益な取り扱いを受けるべきではない。

Ⅵ 医療について責任を有する団体と職業更生について責任を有する団体との間の協力

 26(1) 身体障害者の医療について責任を有する団体の活動とその職業更生について責任を有する団体の活動との間においては、最も緊密な協力が行われるべきであり、また、これらの団体の活動は、最大限に調整されるべきである。

 (2) 前記の活動の協力および調整は、次のことを目的とすべきである。

 (a) 医療および必要な場合の適当な補装具の供給が当該身体障害者の将来の就職可能性を促進し、および発展させるようにすること。

 (b) 職業更生を必要としかつそれに適している身体障害者の発見に努めること。

 (c) 職業更生を最も早期のかつ適当な段階において始めることができるようにすること。

 (d) 職業更生のすべての段階において、必要なときは医師の診断を受けさせること。

 (e) 労働能力の評価を行うこと。

 27 可能な場合には、職業更生は、医師の診断に従って療養中に始めるべきである。

Ⅶ 身体障害者の雇用機会を増大する方法

 28 使用者団体および労働者団体と緊密に協力して、身体障害者が適当な職業につきかつそれを継続する機会をできるかぎり増大するための措置を執るべきである。

 29 前記の措置は、次の原則に基づいて執るべきである。

 (a) 身体障害者には、その能力を有する作業について、非身体障害者と平等の機会を与えるべきであること。

 (b) 身体障害者は、自ら選択する利用者の下における適当な作業を行うじゅうぶんな機会をもつべきであること。

 (c) 身体障害者の適応性および労働能力は、強調すべきであるが、その障害は、強調すべきでないこと。

 30 前記の措置は、次のものを含むべきである。

 (a) 身体障害者の労働能力を分析しかつ証明するための調査

 (b) 特に次の事項に関する事実に基づく広範かつ持続的な発表

 ①  同一作業に雇用される身体障害者と非身体障害者との作業成績、生産高、災害率、欠勤率および定着性についての比較

 ②  特定の職務上の要件に基づく人員選定方法

 ③  身体障害労働者の雇用を容易にするために作業環境を改善する方法(機械および設備の調整および修正を含む。)

 (c) 労働者補償保険料について個々の使用者が負担すべき責任の増大を除去する方法

 (d) 身体的損傷の結果労働能力に変化を受けた労働者を使用者が自己の企業内の適当な職務へ配置転換するよう、使用者を奨励すること。

 31 国内の事情にかんがみて適当でありかつ国の政策に合致するときは、身体障害者の雇用は、次のような方法によって促進すべきである。

 (a) 使用者が、非身体障害労働者の解雇を避けるような方法で一定率の身体障害者を雇用すること。

 (b) 身体障害者のために一定の職業を留保しておくこと。

 (c) 重度の身体障害者がそれに適した一定の職業に雇用される機会を与えられ、またはその職業に優先的に雇用されるような措置を執ること。

 (d) 身体障害者によってまたは身体障害者の名において経営される協同組合その他類似の企業の設立を奨励し、かつ、その運営を容易にすること。

Ⅷ 保護雇用

 32(1) 権限のある機関は、適宜民間団体と協力して、雇用市場における通常の競争に耐えられない身体障害者のため、保護された状態の下で行われる訓練および雇用のための施設を設けかつ発展させる措置を執るべきである。

 (2) 前記の施設は、身体的、心理的または地理的理由によって規則正しく作業に往復することができない身体障害者のための保護作業施設の設置および特別措置を含むべきである。

 33 保護作業施設は、実効的な医学上および職業上の監督の下に、有用のかつ収入を伴う作業ばかりでなく、可能なときは通常の雇用へ転換することができるような職業上の適応および進歩の機会をも提供すべきである。

 34 自宅を離れることができない身体障害者のための特別計画は、実効的な医学上および職業上の監督の下に、自宅において行う有用のかつ収入を伴う作業を提供するように組織しかつ発展させるべきである。

 35 賃金および雇用条件に関する法規が労働者に対して一般的に適用されている場合には、その法規は、保護雇用の下にある身体障害者にも適用すべきである。

Ⅸ 身体障害者たる児童および年少者に関する特別規定

 36 学齢にある身体障害者たる児童および年少者のための職業更生施設は、教育について責任を有する機関と職業更生について責任を有する機関とが緊密に協力して組織しかつ発展させるべきである。

 37 教育計画においては、身体障害者たる児童および年少者に関する特殊問題ならびに、その年齢、能力、適性および興味に最も適した教育および職業準備を非身体障害者たる児童および年少者と平等に受ける機会を与える必要性を考慮すべきである。

 38 身体障害者たる児童および年少者のための職業更生施設の基本目的は、障害による職業上および心理上の不利の準備をし、かつ、これにつくためのじゅうぶんな機会を与えることにあるべきである。これらの機会の利用には、医学的、社会的および教育的施設と身体障害者たる児童および年少者の両親または保護者との間の協力が伴うべきである。

 39(1) 身体障害者たる児童および年少者の教育、職業指導、職業訓練および職業紹介は、非身体障害者たる児童および年少者のために行うそれらの施設の一般的なわく内で発展させるべきであり、また、可能で望ましいときは、非身体障害者たる児童および年少者と同一条件でかつともに行うべきである。

 (2) 身体障害者たる児童および年少者が障害のために非身体障害者たる児童および年少者と同一条件でかつともに前記の諸施設を利用することができない場合は、それらの身体障害者たる児童および年少者のために特別の措置を執るべきである。

 (3) この措置は、特に教師の専門的訓練を含むべきである。

 40 身体が虚弱でありもしくは身体に欠陥があることまたは一般的に雇用に適しないことが健康診断によって認められた児童および年少者に対しては、次のような措置を執るべきである。

 (a) 身体の虚弱または欠陥を除去しまたは緩和するため、できるかぎり早期に適当な治療を受けさせること。

 (b) 学校に出席するように奨励することまたはその希望および能力に適応していると認める適当な職業につくように指導し、かつ、その職業につくための訓練を受ける機会を与えること。

 (c) 治療、教育および職業訓練の期間中、必要なときは、経済上の援助を与えること。

Ⅹ 職業更生の原則の適用

 41(1) 職業更生施設は、各国特有の要求および事情に適合させるべきであり、また、これら要求および事情にかんがみ、この勧告に定める原則に従って漸進的に発展させるべきである。

 (2) この漸進的発展の主要目的は、次のことにあるべきである。

 (a) 身体障害者の職業能力を見いだしかつ発達させること。

 (b) 身体障害者に対し、適当な職業につく機会をできるかぎり与えること。

 (c) 訓練を受けまたは職業につくに当たって、身体障害者が障害を理由として不利益な取り扱いを受けないようにすること。

 42 希望がある場合には国際労働事務局の援助を得て、次の方法によって職業更生施設の漸進的発展を促進すべきである。

 (a) 可能なときは、技術的諮問的援助を与えること。

 (b) それぞれの国において得られた経験の広範囲な国際的交換を行うこと。

 (c) 個々の国の要求および事情に応じた方法による施設(必要な職員の訓練を含む。)の確立および発展を目的としたその他の形式の国際的協力を行うこと。

 (労働省編、労務行政研究所発行「ILO条約・勧告集」第4版より。ただし、かなづかいの表記は本会の用字例によった)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年4月(第2号)12頁~17頁

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