作業評価の概観

作業評価の概観

An Overview of Work Evaluation

Paul R. Hoffman, Ed. D.

著者について……

 教育学博士Panl Hoffmanはウィスコンシン州MenomonieのStout州立大学教育学部におかれた職業リハビリテーション研究所の創立者であり、かつ所長でもある。同研究所では大学院レベルの作業評価、リハビリテーション・カウンセリング・コース、学部レベルの職業リハビリテーション・コース、短期の訓練、研究開発プログラムを行っている。これらに加え、同研究所には作業評価ならびに作業適応用の用具開発センターや精神病患者をあつかう地元の郡立病院に設けられた特別ユニットばかりでなく、障害者を受け入れる職業リハビリテーション施設が付設されている。

 作業評価は心身障害者ならびに社会的障害者の得手・不得手を判定するのを援助するための有効な手段である。それはこうした人々が社会の中でより意味があり、しかも報酬の多い地位を獲得するのを援助するためのプランをつくるのに有益な方法である。作業評価は以前には不成功に終わっていたすべてのケースについて完璧な評価を行ったり、成功間違いなしの計画をつくる万能薬であると証明されたわけではないが、従来失敗していたケースについて、われわれを手助けしてくれる重要な技術となっているのである。

 この論文は定義と概念、歴史的背景ならびに作業の動向などといった諸要素を概観したものである。

定義

 この分野には現時点ではあいまいで、不幸にもかなりの混乱を引き起こす原因となっている用語がいくつかある。それは<職業前評価>、<職業評価>、<作業評価>ならびに<作業適応>という用語である。私はこうした用語を正確に定義したり、現在行われている論争に終止符をうつつもりはなく、むしろ論争や混乱があることを承知していることがたいせつだと考える。

 <職業前訓練>という用語の意味は人によってまちまちである。ある専門家はそれを<日常生活や基礎的教育能力といった要素の評価>という意味で使っている。就職の準備や適職の判定を受けようとするとき、その前提条件として人に要請されていることがいくつかある。職業リハビリテーションでは職業前訓練という用語は1950年代にはやり出したが、多くの場合それは適性や潜在能力や能力の評価-すなわち、現在作業評価といわれている評価の型-という意味で用いられたのである。私は職業前評価という言葉をはじめに述べた概念に限定しておきたい。職業評価と作業評価という用語はおきかえ可能な同意語として用いられたり、全く別個のものとして使われもしてきた。ある人々は職業リハビリテーションを適切な医学的、心理的、職業的、教育的、文化的、社会的ならびに環境的要因の評価と定義している。それには潜在的作業能力の評価ばかりでなく、人が社会的に不利な状況におかれているのかどうか、あるいは就職上の障害があるのかどうかとか、その人の就職やリハビリテーションの可能性への障害に関係する前述したほかのすべての要因を決めるための予備診断的な評価も含まれているのである。他の人々は職業評価をより限定された試みすなわち実際または模擬の作業を用いて人の職業上の得手・不得手を評価することと定義して来た。一方作業評価は職業評価ほど広い意味に使われたことはない。それは何か特定の方法、すなわち、おもに実際または模擬の作業を用いて心身障害者ならびに社会的障害者の得手・不得手を評価することと定義されている。

 用語使用上の混乱は職業リハビリテーション施設間やリハビリテーション・プログラム内容の相違に見られるばかりでなく、職業評価という言葉は同一施設内でも矛盾した意味で用いられることが多いのである。職業評価サービスは医学的要素、心理的要素、社会的要素、潜在的作業能力ならびに人格的適応の評価を含むと定義している職業リハビリテーション施設用の手びきがある。この中に含まれたサービスから判断すれば、職業評価過程とはさまざまの専門職員が参加する幅広い過程だということがわかる。しかし同じ手びきの中で職業評価者は実際または模擬の作業を用いて評価を行う人と定義されている。つまり職業評価の定義からわかることは、それは一種類以上の専門家が参加する、広義の評価概念だということであるが、職業評価者の定義では評価の概念はもっと狭い意味で使われているのである。

 <作業適応>という用語もときには評価の過程と定義されることがあるが、私はむしろ作業適応を治療の過程と見なしている。これは何も作業適応中に評価が行われていないという意味ではない。事実作業適応中に評価がなされなければ、対象者の進歩の度合を知る方法はないのである。同じ観点から、評価をしようとすれば必ずよきにつけ悪しきにつけ適応にも反映する、といえよう。しかし職業前評価、職業評価ならびに作業評価は評価技術であり、作業適応は本来治療技術である。前述したように私は現時点でこの論争に決着をつけるつもりはないが、職業評価という用語はもっと広い意味で用い、作業評価はもっと限定した意味で使いたいと思う。

 この論文では私は職業評価と作業評価という用語を交互に使っている。というのは自分自身の考えを述べるときには作業評価という言葉を使うが他の人々の資料を引用する際にはときには職業評価という言葉を使わざるを得ないからである。

歴史的背景

 割り当てられた紙面で作業評価の歴史的背景をもうらすることは不可能であろう。私はきわめて手短に概括するので、多くの重要なできごとや人名はふれずじまいになろう。私がここでふれなかったことについて、心からおわびするとともに、そうせざるを得なかったのは、ひとえに紙面がきわめて限られていたためであることをご理解いただきたい。

 作業評価は新しいことではない。それはほんの過去2~3年で、かなり盛んになってきたにすぎない。Morton Bregmanは1967年の「カウンセリング過程での職業評価の活用と誤用」“The Use and Misuse of Vocational Evaluation in the Counseling Process”という題の講演で、第1次世界大戦のとき、ベルギーのPortvillez Schoolでは、傷い軍人を援助するには試験的にいくつかの職業教室に入れてみて、その結果個々人に適した職業を選ばせるのがいちばんだと信じていた、と特に言及したが、この評価法によって軍人は自分が興味を覚え、かつ潜在能力があるコースを選ぶことができたのである。さらにBregmanは科学的な職務分析の発達やMunsterbergの初期の仕事についてもふれ、Munsterbergを心理テスト分野の先駆者の一人としてあげたが、Munsterbergはボストン鉄道会社の市街電車運転手を選考するための検査を考案するという課題を与えられたとき、模型電車をつくり、それを使って未来の運転手を厳密に試験することができたのである。

 精神測定検査は1900年代にこの国で有力になったが、作業評価分野にとって特に重要なことは、第2次世界大戦中に軍で開発された職務遂行テストjob performance testsであった。たとえば、米空軍では空軍分類テスト群の一部として両手の協応テストや飛行士選抜の一助として飛行機を飛ばしたことのない人に、本人の前で点滅するパターンどおりに器具上のゴムつきの木の棒を操作することを要求される、複雑な協応テストを考案したのである。

 対象者を実際の作業場面においてテストを行う、場面設定、または模擬方式があるが、この技法はシェルタード・ワークショップで最大限にまで発達し、そこでの作業評価の主柱であった。シェルタード・ワークショプでの場面設定評価は対象者をシェルタード・ワークショップの生産ラインにつけたり、実際にタイプを打たせるためにタイプライターの前にすわらせるといった形をとるのである。場面設定技法は第2次世界大戦中、戦略事務局 Office of Strategic Services(略称OSS)によって計画化、応用化された。OSSでは課題解決場面を設定し、そこに部隊を配置する。課題場面は実際の状況であり、資材は手にはいるが、特に指定はされない。この部隊の兵士たちは「生の」場面で課題を解決することを強いられたわけである。

 1930年代半ばニューヨーク市のInstitute for the Crippled and Disabled(略称ICD)はいわゆるガイダンス・テスト・クラスをはじめた。これはICDが取り組んだいくつかの仕事の先駆となったのである。1954年に公法(Public Law)565号が通ったのちICDは、United Cerebral Palsy Association, New York Division of Vocational RehabilitationならびにNew York Employment Serviceと協力して、脳性マヒ者の潜在能力を判定すべく改善された技法を捜し出すため、5か年プロジェクトに着手した。このプロジェクトの結果脳性マヒ者のニードに応じた、別個の施設がつくられたのである。ICDが次に行ったことはVocational Rehabilitation Administrationからの補助金による5か年研究・実験プロジェクトで、その結果TOWER法-これはTesting, Orientation in Work Evaluation and Rehabilitationの略称であるーが開発されたわけである。

 作業標本発達史上もう一つの重要な施設はオハイオ州クリーブランド市のVocational Guidance and Rehabilitation Serviceである。1954年から1964年にかけてここでは職務標本を集めるとともに、その標本を使って研究を行ったが、このプロジェクトの成果が1965年にRobert Oversの指導の下にできた“Obtaining an Using ActualJob Samples in Work Evaluation”という題の研究・実験レポートであった。このプロジェクトもVocational Rehabilitation Administrationから援助を受けたのである。

 最近の重要な業績はManpower Administrationから補助金をもらってJewish Employment and Vocational Serviceで行われた研究であった。これは作業評価技術の有効性を確立しようとするとともに、一組の作業標本をつくったという点で貴重な研究となったのである。

 作業評価に関する文献は少ない。初期の論文の一つに1957年のHenry Redkeyによる“The Function and Value of Pre-vocational Unit in a Rehabilitation Center”があった。作業評価技術についてのおもな論文は、1966年にWalter S. Neffが発表した“Problems of Work Evaluation”であった。1967年にはWilliam Gellmanが“The Principles of Vocational Evaluation”を書いている。最初の手びきは1956年にOffice of Vocational Rehabilitationで出版されたが、Henry RedkeyとBarbara Whiteはそれに“The Pre-vocational Unit in a Rehabilitation Center”という題をつけたのである。Vocational Rehabilitation Administrationがつくった最近の手びき“Guidelines for Organizing Vocational Evaluation Units”は、1966年5月シカゴで行われた第4回リハビリテーション・サービス講習会Institute on Rehabilitation Servicesの成果である。作業評価については3冊の文献が出版されている。すなわち最初のものは1966年のAllen Speiser等による“Bibliography on Work Evaluation and Vocational Rehabilitation”であり、2番目のものはピッツバーグ大学Johnstown職業リハビリテーション研究・訓練センターのElmer Matchが1968年に発表した“Bibliography of Vocational Rehabilitation with Emphasis on Work Evaluation”であり、3番目のものはStout州立大学用具開発センターによる“An Annotated Bibliography on Work Evaluation”である。

 作業評価に関する会議も多少は行われた。いちばん最初のものわ1959年サンフランシスコのMay T. Morrison CenterにおいてVocational Rehabilitasion Adminstration主催で行われた作業評価講習会であった。1960年にはアイオワ州立大学で職業前活動についてのアイオワ会議あった。1966年にはリッチモンド専門家協会が全米シェルタード・ワークショップ在宅雇用事業協会(National Association of Sheltered Workshops and Homebound Programs)およびVocational Rehabilitation Administrationと協同で「作業評価上の諸要素についての研修会」を行った。

 アーカンサス研究養成センターは、アーカンサス大学と共催で職業評価に関する二つの研究会を開いた。1967年1月には作業評価の最近の進歩についての会議がペンシルバニア州Johnstownのペンシルバニア・リハビリテーション・センターで行われた。また同年4月には作業評価の大学院プログラム創設に関連して「作業評価のカリキュラム作成ワークショップ」に参加するため、全米から約40名の人々がStout州立大学に招かれた。作業評価分野の専門家たちは、1969年7月作業評価について2日間「シンクタンク」ワークショップを行うためStout州立大学に集まったのである。

 作業評価に従事している人々のための訓練プログラムは、最近まで短期講習会に限られていた。ニューヨーク市のICDはTOWER法をつかっての6週間にわたる作業評価プログラムで有名である。アラバマ州のAuburn大学はこの分野で働く職員の短期訓練を定期的にはじめた最初の大学である。ウィスコンシン大学のシェルタード・ワークショップ管理学コースでは、作業評価について約1週間の訓練プログラムを行っている。

 作業評価分野が発達し、多量の知識が蓄積され、評価者の役割が明確化されるにつれ、短期のプログラムでは専門職としての資格をもった作業評価者を訓練するのにじゅうぶんではない、ということが明らかになった。

 ウィスコンシン州MenomonieのStout州立大学は、当時のVocational Rehabilitation Administrationから補助金をもらって試験的研究を行い、作業評価分野の専門職者養成プログラムを提供する最初の大学となった。アリゾナ大学は2番目に大学院プログラムをつくった学校で、Auburn大学は3番目の大学になるはずである。

 Auburn大学のリハビリテーション・サービス・プログラムでは産業電気工学部と協同で疲労度測定学(ergometrics)分野の研究を行っている。Stout州立大学ではRehabilitation Services Administrationからの研究・実験助成金により、現在この分野の用具開発センターをつくるための試験的研究を行っている。ここは作業評価、作業適応、職業訓練ならびに関係領域に関する用具の収集、作成、普及のための全国的なセンターとなるであろう。

 1965年には米国作業評価者協会がジョージア州で設立されたが、この団体はすぐ他州の人々が関心を寄せるところとなった。1966年にデンバーで行われた全米リハビリテーション協会National Rehabilitation Association年次総会で関心を持つ人々が集まって作業評価にたずさわる人々のための組織をNRAのワク内でつくることを検討した。その結果NRAに作業評価部会を設けることを調査する特別委員会が生まれた。この委員会の努力によって職業評価・作業適応協会Vocational Evaluation and Work Adjustment Associatonがつくられ、1968年のニューオーリンズの年次総会でNRAの正式部会となったのである。

作業評価の現状と将来

 つい最近まで作業評価の方法論が使われるのは、リハビリテーション・センターやシェルタード・ワークショップやこうした施設でサービスを受ける対象者に限られていた。しかし今日では作業評価プログラムは薄弱者とか精神病患者とか受刑者のための施設でも見うけられる。作業評価プログラムは高校の特殊教育グループにも利用されているのである。

 最近職業教育法Vocational Education Actが改正されて、関係予算の10パーセントが障害者のために使われるよう割り当てられたが、この割り当てにより作業評価の方法論は職業教育法の対象者にもっと広く適用されるようになるであろう。就労奨励プログラムWork Incentive Programsといったプログラムでは対象者に作業評価を受けさせているし、人材開発養成プログラムManpower Development and Training Programsでも全国的に対象者を作業評価にまわすか、あるいはそこ自体で作業評価技術を活用しはじめたのである。

 作業評価は保健・教育・福祉省が補助金支給プロジェクトを通じて草分けし、奨励してきたが今では労働省のような他の連邦政府機関でもその研究に従事している。労働省はManpower Administrationを通じてフィラデルフィアのJewish Employment and Vocational Serviceが行った研究・実験プロジェクトを援助したのである。

 この分野のある人は作業評価を「絶望の技術」と呼んできた。彼はこのことで作業評価は他のすべての技術が失敗に帰したときにはじめて用いられるという事実を言っているのである。不幸にもこの非難は過去において真実であったし、今日でも大いに真実である。しかし作業評価は必ずしも絶望の技術である必要はない。私は作業評価の技術は社会的障害があるとか、あるいは心身障害があるとは考えられない人々にもかなり関係を持っていると考える。高校や職業学校には人生でどんな職業目標を追求したらよいのか全く知らない若者たちがたくさんいるのである。総合的かつよく整備された作業評価ユニットならこうした若者たちが適切な決断をするのを手助けできるだけのものをたくさん提供できるであろう。専門的職業指導団体から出ているパンフレットで職業について読むのと、実際にその職務を行うのとは全く別のことである。インフォメーションは冷たく、不毛であり、作業とは実際にはどのようなものか心に思い浮かべたり、完全に理解することは困難である。しかし作業標本を実際にやってみることにより、人は現時点でどんな潜在能力を持っているのか正確に判定したり、高度の作業標本で指導を受けることを通してどんな潜在能力を開発できるかを判断したり、作業に伴う感情を実際に味わうことができるであろう。作業標本を通して若者は現在の能力水準ばかりでなく、自らの潜在能力とか興味についても知ることができよう。こうしたことと(就職の機会や賃金等についての)パンフレットやカウンセラーからの情報を組み合わせれば、若者が一生の職業をもっと容易に選べるよう手助けができるであろう。

 ごく最近通った職業更生法(職業評価と作業適応についての第15節の規定)ならびに最近の職業教育法により作業評価分野に新展開が開けることは必然的であろう。この文野ならびに全国的に生まれつつある傾向はやがては未開拓の領域にもひろがっていくであろう。

(松井 亮輔訳)

注 Office of Vocational Rehabilitation, Vocational Rehabilitation Administration, Rehabilitation Services Administrationの関係について

 1943年に制定された職業更生法修正法(更法113号)により、米国における職業リハビリテーション行政を統括する機関として米国連邦政府の保健・教育・福祉省内にOffice of Vocational Rehabilitationが設けられた。その後、1963年にOffice of Vocational RehabilitationはVocational Rehabilitation Administrationと改称されたが、さらに1967年にVocational Rehabilitation AdministrationはRehabilitation Services Administrationに名称が変えられたのである。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年4月(第2号)25頁~29頁

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