重複障害をもつ脳性マヒ児について 障害児の分類についての提案

重複障害をもつ脳性マヒ児について

障害児の分類についての提案

A Suggested Classification of Handicapped Children

R.S.Holt

 現在、障害児の問題にかなりの注意が示されている。Annual Meeting of the British Medical Associationの会期と雑誌の全号が、この問題にささげられたこともある。

 ヒューマニズムの立場から、あらゆる可能な援助がこれらの児童に与えられるべきである。われわれは、彼らがもっている能力をじゅうぶんに発達させるのを助けることによって、成人生活に達したときなされる地域社会に対する要求を減少させるべきである。最近の研究は、わが国(英国)の障害児に対する準備が非常につぎはぎだらけであることを示した。この問題についてのもっとも包括的な研究は、いまカーネギー財団の賛助のもとで行なわれつつある。

 障害は相対的状態であって、その定義は困難である。もし児童が、精神的あるいは身体的に彼らの同年齢児より遅れているか、あるいは特別の保護を必要とするか、あるいは教育、情緒、または社会領域で特別な調整をしなければならないならば、障害があると考えられよう。しかし、どのような定義が用いられようとも、つねに多くのボーダーライン・ケースがあるだろう。

 障害児は、通常その原因によってグルーピングされる。特別な感覚の欠陥をもつ者、すなわち盲者と聾者がいる。移動困難を有する者、すなわち脳性マヒ者と両下肢マヒ者がいる。慢性の疾病をもつ者、すなわち心臓疾患者、ぜんそく患者、糖尿病患者がいる。情緒的に障害のある者および精神薄弱者がいる。ところが、このようなとき用いられるグルーピングは、児童の機能不全の状態をなんら示していない。たとえば、痙直性マヒの児童は一肢に異常な反射をもっていても、なんら機能不全を有していないかもしれず、一方別の痙直性マヒは四肢マヒをもっており、移動不可能であるかもしれない。Quibell,E.P.は、重度の身体的な障害のある児童を取り扱って、解剖学的診断だけではふじゅうぶんであることを見い出し、このグループにふさわしい機能的評価法を論じた。われわれは精神薄弱児問題の研究を行なっているとき、機能的能力不全を示す分類を考案した。この分類はいくぶん拡大されてつぎに示されているが、すべての障害児にそれを適用することは有用であると考えている。

 分類法

 この前の戦争中にPulheems Systemとして知られる医学的評価の包括的様式が、H.M.Forcesに取り入れられた。この方法を使えば、個人の諸能力を示すプロフィールを作ることができた。職員は、プロフィールによって示されたもっともふさわしいポストに配置された。障害のある児童に提案された分類はこれに似ている。この方法によって、機能不全のプロフィールを描くことができる。プロフィールは、障害児がどのような援助を必要としているかを示したり、グループの中からある種の特別な形態の援助によって利益をうる児童を選び出すことを可能にするだろう。

  この分類は項目の最初の文字から知ることができよう。Pは身体一般、Uは上肢、とりわけ操作能力、Lは移動、Hは聴力、Eは目、Sはスピーチ、Tはトイレ、Iは知能、Bは行動に関係している。

 各項目は四つの段階に分けられる。段階1は正常または能力がじゅうぶんあることを示し、段階4は能力の完全な欠如を示す。段階の終わりにAをつけ加えれば、その段階は特別な装置の助けがあれば得られることが示される。各段階がカバーする能力とそれらの意味についての説明は表に示されている。

PULHESTIB

項目

段階

程度

説明

身体

奇形または変形なし、運動量を軽減する必要なし、医学的監督の必要なし。 この項目は体格一般、運動耐性を示し、学校、センター、または施設にかよっている児童の医学的管理の必要性についていくつかの指示を与える。

ある程度の奇形または変形、または運動量の軽減の必要、ときには医学的管理が必要。

奇形または変形あり、または運動量の軽減をする必要がある。しばしば病気をしがち、頻繁な医学的管理が必要。

完全な機能不全、ベッドに寝ているか、イスにこしかけたまま。

上肢

食事、手洗い洗面、着衣ができる。鉛筆やペンをとり扱うことができる。 この項目は作業療法の必要性を示し、教師は学校で着衣や食事で援助を必要とする児童数を知ることができる。

食事、手洗い洗面をある程度行なうことができるが完成するには援助が必要。

食事、手洗い洗面、着衣にあたって全面的な介助が必要。

腕は役にたたず、物をつかむことができない。

移動

歩く、走る、階段ののぼりおり、丘をのぼることができる。 この項目は理学療法、整形外科的器具、特殊な乗り物の必要性を示す。住宅について家族に助言するとき役だつ。学校への輸送が必要かどうか示す。

歩くことやおそらく走ることも可能だが階段の上下では援助が必要。

助けによって短い距離を歩くことができる。

援助をうけても歩くことができない。

聴覚

正常聴力。   

難聴、ある程度の援助を与えられれば一般学校で満足すべき進歩をとげることができる。

難聴、一般学校で学習することができない。

重度、あるいは全ろう。

視覚

正常視力、斜視なし。   

弱視、ある程度の援助を与えられれば一般学校で満足すべき進歩をとげることができる。

弱視、一般学校で学習することができない。

盲。

スピーチ

スピーチ良好、言語障害なし、簡単な物語を話すことができる。 この項目はⅠと密接な関係がある。これはスピーチセラピーによって助けられる児童、すなわち欲求を伝達するのに困難をもつ児童を示すため入れられているおそらく聴覚検査の必要性をも示すだろう。

短いフレーズしかなく、多分言語障害をもっている。

欲求を示すために単一の語または音のみ使う、多分理解するのが困難な程度の言語障害をもつ。

単語さえなし、意味のない音をだす。

トイレット

自分でしまつすることができる、夜尿なし。 この項目は教師がどの程度児童に注意を払えばよいか示す。トイレのコントロールに欠陥があるためセンターでとり扱うことのできない児童を選ぶことができる。段階3と4の年長児の親は衣服やベッドシーツをかえるため費用がたくさんかかるだろう。

注意やある程度の援助が必要、夜尿があるかもしれない。

尿は失敗するが、腸のコントロールはよい。

両方(尿および便)の失禁がある。

知能

正常知能。   

教育可能レベルの精神薄弱。

訓練可能レベルの精神薄弱。

完全な白痴。

行動

正常。 行動問題は正常児でも一般的にみられるが、障害児ではしばしば正常児より多くみれるものである。この項目は児童と両親が特別な援助を必要とする家族を示し、その援助が家庭でなされるべきか他の場所でなされるべきかについて指示が与えられる。

異常なところがある、家庭では適応可能。

異常、家庭でも適応不可能。

重度に異常、専門家の看護が必要。

 全部の分類は5才以上の児童に適用される。低年齢の障害児が含まれることは大事である。幼児が特別な能力をうるのにじゅうぶんな年齢に達していないという理由だけで低い段階を与えられるならば、混乱がひき起こされるだろう。このことはU.L.T.S.にあてはまる。5才以下の児童の場合、P.H.E.I.B.を使うことが示唆される。U.L.T.S.は5才までは段階1の能力が早期のうちに得られていなければ、空白のままにされるべきである。これらの分野の遅滞が予想される証拠があるときは、×をつけておくこと。

 情緒的な特徴を記録するときには別の形態が考えられる。例えば、児童の行動のもっとも典型的な特徴が指摘されよう。たとえば、D=破壊的、N=そうぞうしい、S=社交的など。

 児童の親または後見人が評価のコピーを1枚もち、もう1枚のコピーは中央部局に保存されることが想像される。中央部局は、州、民間団体などによって組織され、資金を供給されよう。評価は家庭医family doctorによって行なわれるだろう。

プロフィールの例
S.John,Orchard Villas, 1951年7月○日生
年月日 年齢 検査者 説明
1955年7月 4才 A.Roe,一般医 精薄と片マヒ
1955年9月 41/4才 B.Shaw,精神科医 歩行器
1955年12月 41/2才 Xa N.Ricks,整形外科医         
1956年7月 5才 2a A.Roe,一般医         
1956年11月 51/2才 B.Shaw,精神科医         

 分類を記録する方法は、上の障害児のケース記録の例によって示されている。

 Johnは4才のとき、家庭医によって診察された。彼は精神薄弱であり、片マヒをもつことが見い出された。非常に保護された家庭生活を送っていたため、彼はおとなしく臆病で、行動は段階2に評定されなければならなかった。彼の世話についての助言が両親に与えられた。整形外科の専門家によって理学療法と歩行器がアレンジされた。5才のときJohnは再検査され、完全な分類が行なわれた。助言のあと両親の態度が変わったのと歩行器によって移動がかなり可能になるにつれてJohnに自信がました結果、行動は進歩し、1に上がった。ESNSchool に仮入学しているとき行なわれた2度目の評価で、知能は少なくとも2にあることが認められた。ESNSchool に入学する準備ができたとき、彼のプロフィールは、彼には多分学校への移送が必要であり(L-2a)、スタッフは、食事、手を洗うこと、着衣およびトイレで援助を用意すべきである(U-2、T-2)ことを示した。

 多くの障害児たちが最近このシステムによって分類され、その結果は下の表に示されている。

 考察

 家庭医、学校の医療関係職員、ソーシャルワーカー、PT、ST、心理職員、一般・特殊学校の教師等、多くの異なった職員が障害児に関心をもっている。彼らはその分野ではエキスパートだが、他の分野では理解がじゅうぶんでないことがある。こうした機能不全のプロフィールは、障害児の全体的な様子や彼がもつ困難を理解するのを助けるだろう。

 地方では、都市にみられるような障害児グループをもつことはめったにない。地方で働いている人々は、多分さまざまな組み合わせの障害をもつ児童を見るであろう。彼らの仕事は、統一された分類を障害児に適用すれば簡単にすることができよう。

 児童はしばしば重複障害をもっている。Sheffield では、任意に選ばれた100人の教育不可能児の中に別の障害を合わせもつ児童が29人いた。ほかの障害を比較的無視して一つの障害に注意を向けることはやさしい。ここに提案した分類では、各機能不全に等しい重要性が与えられている。このことによって、重複障害をもつ児童の取り扱いが容易になることが期待される。

PULHESTIB SYSTEMによって分類されたケース

氏名

年齢

説明
Lorraine

10

片マヒの少女。理学療法をうけている。家庭には階段は少なく、学校に非常に近いので歩いて行くことができる。教師は着衣の援助をしている。
John

痴愚と分類された少年。S-2 は言語治療の必要性を示すが、セラピストはI-3 からほとんど反応がないかもしれないことを知るべきである。彼は作業訓練所に通所している。
Peter

81/2

Johnと同年齢のもう一人の痴愚の少年。片マヒとてんかんをもっている。遠くまで歩くことができず、階段の上下で手伝わなければならない。未亡人の母親はこのことを非常に苦痛に感じている。家は丘の上にあるので、めったに外につれだされない。攻撃的性格である。地方当局は一階に家を建てかえ、能力つき障害者用運搬車を手配することによって援助できよう。親の会は、夜Peterをベッドにつれて行き、朝ふたたびおろしたりして世話する人を見つけることで援助することができよう。
Christine

重いぜんそくと気腫をもつ少女。数字は理学療法と家庭に近い学校か寄宿学校が必要であることを指摘している。P-2 はときどき医学的管理が必要であることを示唆している。

 Ingramは脳性マヒについてのレポートで、障害児の調査にみられる誤りのいくつかを指摘している。現在行なわれている精薄児の調査でそのむずかしさが確認された。障害を記録する統一的方法があれば、調査はより容易で正確になるであろう。

 障害児に対する援助は財政的な面の考慮が必要である。障害児に与えられる金は健康児に使われたほうがよいと、ときどきいわれる。これはきびしい意見であるが、制限のない資源はないものである。だから、手にはいる財源について最善の可能な使い方が考慮されることが必要である。

 ここに提案された分類は、児童群のニードをかなり正確に評価することを可能にすることによって、役にたつであろう。仕事の重複を避けることができよう。民間の寄付金は与えられた目的のために使われるであろう。しかしある種の疾病は、それがもつ相対的ニードの大きさよりもっと大きな情緒的アピールをもっていて、そのため資金を過度に与えられ、その他の一般的でない疾病に被害を与えるかもしれない。新聞、雑誌等の編集者のコラムで、いくつかの基金によって調達された額と犠牲者数にもとづく疾病の相対的重要性が一致しないことが指摘された。疾病よりむしろ機能不全による障害児の分類は、寄付金の分配を促進するかもしれない。

 障害児の両親はしばしば子どもの困難をじゅうぶんに理解せず、将来に対するガイダンスをほとんど与えられない。彼らは子どもの評価を知ればどのような援助を与えられるのか認識することができるだろう。彼らはわが子が望みなしとして捨てられたという感じを決してもたないだろう。非常に重度な障害児の親も、食事と養育のアドバイス、障害者用運搬者の手配、子どもの世話から休息する機会をときどき与えられることによって、援助を受けることができよう。

 子どもが長ずるにつれてプロフィールのパターンは、成人生活における能力のよい指標となるだろう。成人生活へのリハビリテーションはもっと容易になるであろう。

 この分類は障害児の問題に対するアプローチを統一する試みの一つである。それは理想的であると考えられるかもしれない。実行不可能と考えられるかもしれない。しかしもしそれが考えられるならば、ある程度の目的がかなえられるであろう。

 要約

障害児の分類法が提案された。それは児童がもつ機能不全のプロフィールを示すものである。このような方法は、障害児により統一的なアプローチを可能にし、さまざまな職員がこれらの児童のあらゆる側面を認識することができるようにさせるであろう。

(Arch.Diseases in Childhood,32:226-229,1956より)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年10月(第4号)18~21頁

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