障害者にとって公営住宅は?

障害者にとって公営住宅は?

Public Housing for Handicapped Person?

Stanley D. Klein and Susan L. Abrams

奥野英子*

著者について…

 Dr. Kleinはボストンのマサチューセッツ大学の心理学助教授であり、また、The Exeptional Parentの編集長である。また臨床心理学者としても活躍している。シモンズ社会事業大学とホストン大学医学部で教鞭をとっている。クラーク大学において臨床心理学の博士号を取得している。

 かつて、Dr. Kleinの助手であったMrs. Abramsは現在、The Exeptional Parent編集局に勤めている。同女史は、バルティモア市立病院において慢性病患者を対象とするソーシャルワーカーであった。Goucher大学において音楽の学士号を取得している。

 社会の主流にとけこもうとする精神薄弱者および精神障害者の努力は、その他の少数グループの人びとの戦いといくぶん共通したものである。たとえば、精神および身体障害児にも公共教育の機会が初めて与えられたときのことをふり返ってみよう。彼らは一般の子供たちとは隔離され、特殊学校における特殊学級に入級させられたものであった。こんにちでは、これらの特殊学級を一般の公立学校に吸収すべきであると提唱され、可能なかぎり、障害児を普通の学校プログラムに統合しようとの努力がなされている。成人になった障害者もまた、少数グループに属する人びとが直面する同じような問題をかかえ、―保護雇用にいくべきか一般競争社会のなかで就職すべきか、隔離された場所に暮らすべきか統合形態に生きるべきか―などの問題があるのである。

 住宅についても、これらの諸問題と同じように、隔離政策をとるべきか、統合政策にすべきかで、さかんに論議が行われている。老人およびその他の少数グループのための住宅プログラムは、地域社会に統合していこうという方向に向けられている。

 そこで、身体および精神障害者のための住宅を、地域社会の一般の人びとに対する住宅プロジェクトのなかで開発すべきではないだろうかという提案が、住宅関係の専門家に対してなされている。また、、このような住宅の統合化は、精神薄弱者および身体障害者にとって有益なばかりでなく、一般の健常者にとっても有意なものであると主張されている。

●構造上も適応できる

 障害者と健常者がいっしょに住む住宅を建設するとしても、建築上の問題はほとんどない。障害者と健常者が同じ建物のなかで、施設を共用することは完全に可能である。階段のかわりのスロープ、広い間口、ロビーの壁に取り付ける手すり、上げ下げするかわりに横に引く蓋を付けた洗濯機などは、障害者にとって非常に利用しやすいばかりでなく、その建物に住む健常者にとっても決して不便なものではないはずである。

 そのうえ、身体障害者および精神薄弱者の成人は、必ずしも常に心理および医療のサービスを必要としているわけではない。もし特にそれらのサービスが必要になった場合には、公営住宅のなかにあり、そこのすべての居住者を対象としているサービスでじゅうぶん間に合うであろう。このような生活環境に住む精神薄弱者および身体障害者は、必ずしも福祉措置を受けている人である必要はない。そうではなくて、このような生活環境は、その環境においてちょっとした配慮さえあれば、一般競争社会で経済的に自立できる大多数の障害者を対象とするのである。

 このように、総合プログラムは構造上にもなんら問題がないばかりでなく、地域社会に住むすべての人びとにとっても有益なものとなろう。いわゆる「老人里親プログラム」(foster grandparent program)の経験によると、人びとが人びとを助けるプログラム(people-helping-people program)は、それに参加したすべての人びとにとって有益なものであった。この老人里親プログラムとは、老人の州立施設に収容されている患者に対してなんらかのサービスを行うものであり、これによって、普通の患者およびその施設にいる障害者が非常に喜んだばかりでなく、老人自身もなんらかの生きがいと自分も社会に参加しているという意識をもてたのである。障害者やいわゆる「普通」の隣人に役だつ「あなたの隣人を助けましょう」(help-your-neighbor)プログラムは、自助の精神、そして各種公営住宅地域で現在明らかな、地域社会の努力にぴったりと結びつくものであった。

●標準型住宅

 老人用に設計され、また障害者にとっても標準型となるような三つの生活環境が、マサチューセッツ州のFall River、バルティモアそしてデトロイトに建設された。これらは、一つの市の中に障害者と老人居住者の統合を目的としたり、地域社会の若い人びとと老人との統合を目的としている。

 Fall Riverでの集団住宅プロジェクトは、障害者と老人との統合を特徴としている。居住者の60%は老人であり、残りの40%は身体障害者である。身体障害者のなかには40才代の若い人もはいっている。希望する居住者には中央厨房で食事を用意してくれるのであるが、この集団住宅プロジェクトのもつもう一つの特色として、各アパートにキッチン設備を備えていることがあげられる。食事は市立病院のほうで準備してくれるのである。というのは、実はこの住宅プロジェクトは、病院の敷地内に建てられているのであり、病院とは一階の廊下でつながっている。この集団住宅プロジェクトは、住宅・都市開発省(Department of Housing and Urban Development)からの融資援助によって建てられたのである。この住宅・都市開発省は居住者負担の賃貸料を安くするため、寄付というかたちで毎年財政援助を行っている。

 バルティモアでは、公営住宅プロジェクトに住み、かつ福祉省から経済的援助を受けている母親に対して、家事および食事の用意のしかたなどを訓練し、彼女たちが近隣に住む老人に対して援助活動を行えるような施策を実施した。バルティモア都市刷新・住宅協会(Baltimore Urban Renewal and Housing Association)が主催していたこのプログラムは、現在すべての基金を使い尽くしてしまった。ゆえに現在は、新しい母親に訓練の機会を与えられないばかりでなく、すでに訓練を終え老人に援助を行う用意のできている母親にも、その報酬を支払えないままである。

 デトロイトの老人のための住宅プロジェクトは、老人と若い居住者を統合し、、老人の外界との接触を保てる方法を用意したわけである。United Fundの援助を受けていたこの近隣サービス機関(Neighborhood Service Organization)は、上記の三つの住宅プロジェクトの事務所を設置し、老人居住者に対しては、カウンセリング・サービス、社交場の設置、活動グループの結成など、種々のサービスを行っている。

●結論

 いままで述べた事業には、公営住宅に住めるはずの精神薄弱者は含まれていなかった。上記のプロジェクトのうちのただ一か所だけが、身体障害者をいっしょに住む可能性のある者として認めていたわけである。もちろん、身体障害者の問題と精神薄弱者の問題は全く同じわけではないが、しかし、これらの少数グループの両者とも、現在のところまだ日の目を見てない公営住宅プログラムへの統合化は可能なはずである。

(Journal of Rehabilitation, March-April, 1971より)

*日本肢体不自由児協会書記


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年1月(第5号)2頁~3頁

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