調査:障害者はどんな住宅を好むか

調査:障害者はどんな住宅を好むか

Survey of Disabled Persons Reveals Housing Choices

Dorothy Columbus and Max L. Fogel

奥野英子*

著者について…

 Miss Columbusは、ベトナムの厚生省においてベトナム人職員のカウンターパートを18か月間にわたってつとめ、つい最近アメリカに帰ってきたのである。ベトナムにおける18か月間の任期の間、おもに避難民、孤児、老人、身体障害者などを対象として、社会福祉およびリハビリテーション・プロジェクトなどを担当していた。彼女は現在、自分の経験したことおよび発見結果などについて講義をしている。彼女はそのほか、カウンセリング、教育、調査・研究なども行ってきた。ペンシルバニア州立大学でカウンセラー教育学における修士号を取得している。

 Dr. FogelはフィラデルフィアのEastern Pennsylvania Psychiatric Instituteに属する上級医療研究員(senior medical research scientist)であるとともに、ペンシルバニア大学の精神学科助教授である。同博士はまた、心理療法および心理診断も実践している。1960年にアイオワ大学で博士号を取得し、その後、脳と行動との関係に焦点をあてた臨床心理を研究しつづけている。

 身体障害者を地域社会に受け入れ、統合化をはかること、そして教育、職業訓練、就職、継続的に行う医療サービスなど、彼らのニードに対処することは、リハビリテーションにおいてそれほどむずかしい問題ではないであろう。過去においては、この問題はこれほど広範囲にわたった問題ではなかった。というのは、治療サービスなどがうまく行われていなかったため、障害者の寿命は現在よりずっと短かったのである。現在では、医療の進歩とこれらの問題に対する認識が高まったため、障害者の数は増加するとともに、、地域社会においてもめだつ存在になってきたのである。

 多大な労苦をともなって行われた訓練の結果やっと獲得した自立性を保持し、かつそれを増大できるはずであるのに、適切に設計された住宅施設がないために、リハビリテーションの過程において行き詰ったり退歩してしまう障害者がたくさんいるのである。建築上の障害がある建物およびその他の施設を利用できないために、数多くの障害者は非常に困難な事態に直面するのである。それらの問題のうちでも、もっとも重大な問題は、自分たちの経済状態がゆるす範囲内の家賃で借りられる適切な住宅が、全くないことである。この住宅問題は、障害者となったばかりの者および恒久的な障害者にとって、危機状態をもたらしているのである。職業カウンセラーの報告によると、就職の機会を与えられても、クライエントの住宅設計に問題があるため、せっかくのチャンスもあきらめざるを得ないケースが数多くあるそうである。

 障害をもたない人びとたけを考慮に入れているコミュニティーに患者が戻るとき直面する、この住宅問題を解決するために、専門家たちは多大な時間を費やしているのである。そしてこの問題は、解決されないまま放置されざるを得ないことがしばしばある。こんにちまで、コミュニティー計画にたずさわる者はこの大きな、かつ増大しつつある障害者人口のニードを無視してきたようである。住宅関係者は、現存のほとんどの住宅は障害者にとって利用できないものであることを認識しつつも、つい最近まで、この現状を打解する行政施策に手をつけなかったのである。

 住宅問題は、適切に設計された施設さえあれば完全な自立ができる障害者に関係するばかりでなく、基本住宅の上に付帯サービスを必要とする人びとにも関係があるのである。米国においては、1964年の住宅法改正およびその後ひきつづいてとられた改正法を活用したコミュニティーは、ほとんどなかった。障害者のための住宅を現在も建設しつつある都市地域では、おもに公営住宅公社(Public Housing Authorities)がこれらの事業を主催し、使用する人の側にとっては、賃貸料も安く、また設計もよいようである。ゆえに、このユニットは低所得層だけを対象とし、中間および高所得層に属する人びとは利用できないようになっている。

 大都市地域に住む障害者を対象に「住宅に望む条件」に関するアンケートをとり、そけをまとめた結果が出されている。従来、障害者は「どの住宅を選ぼうか」などと選択できる機会はほとんどなかったので、それでこの質問を取り入れてみたのである。従来の調査は、障害者は同じような障害を持っている者といっしょに生活したいものである、との前提にもとづいて行われていた。コミュニティーを計画する際には、それを利用する人の側に立ち、彼らが自由に自分の生活環境を選択できるようにすることが重要ではないかと考えた。適切に設計され、かつその数が限られているにもかかわらず、それらの住宅に入居を希望する障害者はなぜ少ないのかという質問に対し、データが答えてくれるであろう。

 つい最近まで、米国住宅・都市開発省(U. S. Department of Housing and Urban Development)は、特殊グループだけがかたまって大きな集団をなすことに反対であった。もっと適切なアプローチが生み出されるまでは、身体障害者は普通の家族や老人たちとともに生活する住宅プロジェクトでなければいけないということを、1967年に発表した。住宅・都市開発省の担当者たちは、現在次のような三つの要素が重要であると認めているのである。(1)賃貸料の問題、(2)便利さ、(3)同じような障害を持つ者といっしょに生活することによって、お互いに心理的にささえられることを好む障害者もいるという事実。

調査方法

 調査に参加した人はフィラデルフィアに住み、1964年に連邦政府が規定した「障害者」に該当する人であった。彼らの障害は長期にわたるものであり、それは生活を自立させるには障害となるものであった。

 アンケート用紙は、かつて次のような施設の患者であった者、385名に発送された。これらの施設はGeorge Morris Piersol Rehabilitation Center、ペンシルバニア大学病院、Moss Rehabiltation Hospital、米国海軍病院などであり、これらはすべてペンシルバニア州にある。返送された回答(29%の回答率)を分析し、この住宅に興味を示す者だけが回答しているのかどうかを、まず最初に確かめてみた。しかしながら意に反して、特別住宅に入居したいという希望の者は全回答者の3分の1にすぎなかった。回答を寄せた者の障害は各種多様であり、未回答者の障害と比較してみても、その障害群、年齢、照会源、その他の要因においてもなんら特別の差異はなかった。

 時間、職員、財政上等の限界により、フォローアップのための発送はできなかったが、回答率が低いため、新しいアプローチによるデータ収集がぜひとも必要であった。そこで、調査対象からもれた者については面接方法をとることにした。

 住宅のニードを正確に把握するため、調査対象者を、現在コミュニティーに住んでいる者またはまもなく医療センターからコミュニティーに戻る者に限定した。最終的な分析の対象となった人はすべて、医療状況または障害が固定した者であった。アンケートに回答を寄せた者および面接された者の両者を含めた総参加者数は455名であった。そのうち、男性は236名、女性は219名であった。全体の平均年齢は51才であった。そのうちの219名は既婚者であり、自分の持ち家もしくは借家など、いずれにしても自宅と呼んでいい住居に生活していた。ただ一人で生活している者は47名だけであり、また、日常生活において他人の手を必要としている者は279名であった。表1は、調査対象者のもつ障害タイプを示している。

表1 調査回答者の障害種類

障害

総計

1.下肢のマヒまたは障害 132 20
2.心臓器疾患により行動がはばまれている 72 11
3.上・下肢両方のマヒまたは障害 70 11
4.半身のマヒまたは障害 65 10
5.関節炎による歩行障害 63 10
6.切断による歩行障害 46
7.食物および身体的に限界がある 45
8.全盲または弱視 39
9.脳性マヒによる重複障害 26
10.多発性硬化症による重複障害 26
11.失禁 17
12.聴力なしまたは難聴 15
13.呼吸器疾患 12
14.パーキンソン氏症候群による重複障害 10
15.上肢のマヒまたは障害
16.筋ジストロフィーによる重複障害
17.精神病
18.発作

総計

658

102

四捨五入したためパーセントの総計は正確に100%とはならない

どんな住宅施設を好むか

 どのような住宅が好まれているのかを明らかにするため、一番好きなタイプの住宅施設と一番きらいな住宅施設を選び出してもらった。質問様式は次のとおりである。

 あなたが住むとしたら次の四つの項目のうち、一番好きな住宅施設はどれですか。一番きらいな住宅施設はどれですか。それぞれの項目を選び出し、回答欄に記入してください。

選択項目

A. すべての年齢層にわたってはいるが、身体障害者だけが住む住宅施設。

B.おもに健常者を対象にして建てられたものであるが、少人数の身体障害者も住める住宅施設。

C. おもに身体障害者を対象にして建てられたものであるが、少人数の健常者も住める住宅施設。

D. すべての年齢層にわたった身体障害者と、障害をもたない老人がいっしょに住める住宅施設。

 上記の四つの選択項目のほかに、“自分の家”と明記して追加記入している回答者が何人かいた。この回答については、Eという項目を設け、その数を明示した。

結果

 455名の回答のうち、“一番好き”な項目と“一番きらい”な項目の両方に回答した者は371名(81%)であり、“一番好き”な項目に回答した者は416名(91%)、“一番きらい”な項目に回答した者は373名(82%)であった。この結果を分析してみると、ほとんどの人は自分が好むタイプをはっきり意識しており、また、ある人びとは、特定のグループを拒否しがたい気持ちを持った、とも理解できるのである。この“拒否”という姿勢は“一番好き”なという項目を選択することにより、間接的な拒否をしていることにもなるのであり、“一番きらい”という項目を選択しにくかったとも解釈できるであろう。

表2 一番好きな住宅と一番きらいな住宅

一番好きな住宅

一番きらいな住宅   回答なし 総計
回答なし 37 28 82 18
111 18 51 185 41
15 11 19 45 10
23 34
81 15 109 24
総計 39 32 224 46 79 35 455 100
49 10 17 100  

 表2は、“一番好き”な住宅と“一番きらい”な住宅の比率を表している。

 これらの回答は、回答者の年齢、障害の種類、障害をもってからの年数、就職状況、性別、既婚か未婚か、収入、自立の程度、住んでいる土地、住んでいる住宅の種類、など種々の要因とも関係のあるものであった。どのような比率が出されたかはさて置き、回答者の大多数は異口同音に、一番好きなタイプは選択項目B(おもに健常者を対象にして建てられたものであるが、少人数の身体障害者も住める住宅施設)であると述べているのである。すなわち、身体障害者は、すべての人びとが利用する住宅を望んでいるのである。しかし残念なことに、多くの場合これらの住宅は建築上の障害があるために、障害者には利用できない状態なのである。もっともきらわれた選択項目はA(すべての年齢層にわたってはいるが、身体障害者だけが住む住宅施設)であった。

 年齢がその選択結果にかなり作用しているようである。60才代に達している回答者は、選択項目D(すべての年齢層にわたった身体障害者と、障害をもたない老人がいっしょに住める住宅施設)を拒否していないようである。もっとも若いグループはこの選択項目Dに強い反発を示している。すべての年齢層を比較検討してみると、最若年層は第一番目の選択項目、すなわち「すべての年齢層にわたってはいるが、身体障害者だけが住む住宅施設」に対する拒絶反応をあまり示していないようである。40才以下の者は、“自分の家”をもっとも好ましい住宅と考えている。もう少し年取った人びとは、自宅に住むことの責任をもっと強く認識しているようである。“一番きらい”な項目のパーセントを検討してみると、51才から60才までの年齢層は、老人といっしょに住む住宅施設をあまり受け入れたがらないようである。この結果は割に意外であった。“一番好き”な選択項目を総計してみると、51才から60才までの年齢層のうち、「老人といっしょに住む住宅施設」を選択した者は18%にしかすぎず、この年齢層のうち69%の人びとは、「あらゆる年齢層にわたった健常者といっしょに住む住宅施設」を望んでいるのである。この年齢層に属する人びとは、自分にもすぐ差し迫ってくるはずの“老齢期の人びと”を拒絶しているわけであるので、もっとも重大な危機に直面しているわけである。60才代をすぎると、新しいパターンが現れてきている。そのうちの40%の人びとは、健常者といっしょに住みたいと望んでいる。この最年長グループの58%は、障害者ばかりが住む住宅施設を拒否している。また、その反対の最若年層のグループ(60%)は、老人といっしょに住むことを拒否している。若いグループの27%は、障害者ばかりが住む住宅施設を拒否しているのである。

人気のない隔離住宅施設

 最若年層を除くその他のすべてのグループは、障害者だけを対象とする住宅施設(選択項目A)に住むことを拒否している。これは、より年を取った人びとは老人を受け入れるけれども障害者は受け入れられないという反応に、関係するものである。この現象と全く対照的に、若年層は障害者を受け入れるけれども、老人は受け入れられないという反応を示している。

 性別がこの調査結果に影響しているかどうかを確かめてみた。その結果によると、男性の62%は健常者といっしょに住みたがっており、同じ反応を示した女性は53%であった。また、老人といっしょに住むことをいやがった男性は32%であり、女性は26%であった。調査対象となった女性の年齢は、男性に比較してより年を取っていたので、その年齢の相違が選択に影響を与えているともいえる。

 調査対象者の自立性が低くなればなるほど、それに比例して、健常者といっしょに住みたいという希望も低くなってくるようである。しかし、全体的にみてみても、大多数の人びとは選択項目Bを圧倒的に支持している。

 医学的見地からみた障害の種類と住宅選択との相関関係をみてみた。心臓器疾患、内部障害、呼吸器疾患など、障害が目に見えない人びとは、障害者だけを対象にして建てられた住宅に住むことを強く拒否している。整形外科的障害、神経疾患など、目に見える障害をもつ者は、他の人びとにくらべて、この種の住宅を受け入れやすいようである。このように、障害が目だつか目だたないかの要素が、選択に非常に影響しているようである。

 就職している者と職についていない者のグループを比較してみたところ、もっとも自立性の高いグループである前者の65%は、選択項目Bを好んでいる。働いていない回答者のうちの53%、および、すでに退職してしまった者の47%も選択項目Bを好んでいる。老人と障害者がいっしょに住む住宅施設を意味する選択項目Dについては、これとちょうど反対の反応が出されている。ほかの方法で比較検討してみても、本質的にはこれと同じようなバターンが出てくる。大多数の人びとは選択項目Bをもっとも好み、もっとも人気がないのは選択項目AとDである。

要約および結論

 おもに健常者を対象として建てられた住宅に住みたい、という障害者の気持ちを理解するためには、いくつかの要素を考えなければならないであろう。調査対象者のうち、先天的障害者は9%にしかすぎなかった。ほとんどの人びとは、事故や疾病などの原因により障害者となるまでは、いわゆる健常者と呼ばれる人口に属していたのである。このため、彼らは自分自身も健常者のグループに属する者であると考えることに慣れていたのである。また、障害を受けてからの平均年数は15年であり、彼らの平均年齢は51才であった。ゆえに、障害を受けたのは中・壮年時代であり、そのときまでにそれぞれの家庭生活パターンを築いていた人びとなのである。また、調査対象者の71%はすでに結婚しており、その配偶者および子供は障害をもっていないのである。これらの要素を総合してみると、次の三つの要素にまとめられる。(a)中・壮年期に障害を受けたこと、(b)既婚であること、(c)ほとんどの障害者が健常者を対象とする住宅に住みたいと述べている理由は、彼らの家族構造にも起因すること、などである。回答者の全体の3分の2の人びとは、現在自分たちが住んでいる住宅環境にとどまりたいと述べている。その理由は、家族が日常生活の介助をしてくれているからではないだろうか。

 障害者の便宜を考えて設計されている住宅を心よく受け入れるか、またはそれを拒否するかを決定するにあたってはたくさんの要素が考えられると思うが、そのなかでもとりわけ、障害者に対する社会の態度を見すごしてはならないであろう。米国は若者を中心とした社会であり、社会から認められ尊敬を得るためには、その人の生産性がものを言うのである。つい最近まで、多くの障害者は地域社会から隔離され、特殊学級、特別訓練センターなどに送られ、そしてただ単に建築上の障害があるからという理由によって、職場および大学からも拒絶されてきた。この建築上の障害によって、多くの人びとは社会から隔離されざるを得なかったのである。米国の教育制度は、健常者だけを対象とした社会情勢に対処するすべを教えてきたが、健常者以外の人びとのもつ諸問題についてはほとんど何も教育していないのである。他人の目に見える障害は、多くの人びとに悲嘆感、不快感、社会的不適応性などの諸感情をひき起こしてきた。われわれの制度は、障害をもつ人びとを受け入れる心の準備をさせていないばかりか、だれでも将来障害者になる可能性をもっているのだという厳しい現実をも、認識させていないようである。

 このように、人生の途中で障害者となった人びとを代表するこれらの回答者の多くが、なぜ障害者だけを対象とした住宅に住みたがらないのか、という理由を理解するのはむずかしくないであろう。建築上の障害が取り除かれ、障害者も地域社会にとけ込めるようになれば、障害者に対するまわりの人びとの態度も自然に変わってくるであろう。

 米国における多くの市においても同じであるが、フィラデルフィアには、障害をもつ人口のニードに合うように設計された独自の住宅施設は全くないのである。ゆえに、現存しない施設をあげて、自分の一番好きな住宅施設を選び出しなさいなどという質問は、非常にむずかしいのである。

 もしユニットが建設されるとしたら、そのような住宅に住むことによる、自分自身にとって、また自分の家族にとっての利点を、判断できるであろう。こうなれば、そこに移り住もうかどうしようか、との決断ももっと簡単になるであろう。住居専門家は次のように述べている。老人のための住宅がまだ新しい概念であったときには、老人用住宅が受け入れられにくかったと同じように、障害者が住みやすいように設計されている住宅が自然に受け入れられるようになるまでには、かなりの月日が必要とされよう、と。

(Journal of Rehabilitation, March-April, 1971より)

*日本肢体不自由児協会書記


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年1月(第5号)4頁~8頁

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