リハビリテ-ションにおける音楽療法

リハビリテ-ションにおける音楽療法

Music Therapyin Rehabilitation

Leonard Schoenberger & Charles Braswell

奥野英子*

著者について…

 Leonard SchoenbergerはDelgado College Rehabilitation Centerの音楽療法部長である。またDelgado Collegeにおいて、臨床音楽療法訓練の助教授をつとめるとともに、音楽療法研究部長の要職にある。同氏はルイジアナ州立大学で修士号を取得し、Loyola UniversityではB.M.T.を修め、現在はM.M.T.に向かってその研究に余念がない。

 Charles BraswollはLoyola University音楽療法部長であり、またXavier UniversityとDelgado Collegeで音楽療法の講師をつとめている。同氏はNorth Texas State Universityで音楽課程の修士号を取得し、American Conservatory of Musicで音楽学士号を修めた。カンサス大学とMeninger Clinicから音楽療法士の認定書を受けている。

 音楽療法は、リハビリテーション事業におけるもっとも新しい分野の一つである。音楽療法は生理的、心理的および社会的な効果をうることを目的としている。音楽療法を受ける個人は、地域社会や職場環境に適応しやすくなるのである(たとえば、行動の協応性が高まり、注意集中力も長くつづき、他人との人間関係もよくなるなど)。そのほかの目標は、個人がグループに参加できるようになること、自尊心を高めること、他のものに注意が向けられること、社会的技能を身につけ、役割演技がスムーズになること、ことばでない手段からことばによる手段へとコミュニケーションのすべを身につけること、などである。また、音楽療法士やその他の職員が協力してそのほかの目標も設定されるであろう。

 職業リハビリテーションに関しても、音楽療法士の果たす役割は種々あるのである。たとえば、医学専門家のもとに身体障害者を対象とした仕事をし、ある特定の身体機能の問題に対して、音楽活動を使った適切な治療計画をたてるのである。また、チーム・アプローチによるため他の専門職員といっしょに仕事をすることもある。しかし、音楽療法士の持つもっとも重要な機能は社会的リハビリテーションであろう。音楽療法士はクライエントの社会的経歴を実証するすべを持っているのである。クライエントのもつ種々の社会的技能(social skill)とその能力をリストアップできるのである。過去にどのような組織に加入し、またクライエントが1人でいるとき、小さなグループのなかにいるとき、大きなグループにいるときなど、どんな環境に置かれるのがいちばん好きかなどの相互作用パターンに音楽療法士は関心をもつ。このような情報があれば、音楽療法士はクライエントの社会適応能力を判断でき、またクライエントの持っている技能をより伸ばすための客観的基礎ができるのである。

 音楽療法を学ぶ学生は、音楽課目、心理学、社会学、英語、生物科学、統計学など一学期に160単位を履修する。選択課目ではあるけれども、多くの学生は上記の160単位のほか、研究講座やコンピュータ科学講座なども履習している。大学の全課程を終えた学生は、公認精神病院で6か月間にわたり臨床訓練プログラムを受ける。これは米国音楽療法協会(National Association for Music Therapy)公認の音楽療法士の指導のもとに行なわれる。訓練期間が終わると学生は、米国音楽療法協会に登録する資格が与えられる。臨床訓練期間のうちの最初の3か月間は、精神病理学講座、患者の世話のしかたやその他関連コースを受ける。そのほかに残った時間は、監督者の指導のもとに実習を行う。残りの3か月はフルタイムの仕事となる。

グループ音楽療法

 ルイジアナ州、ニューオルリンズにあるDelgado College Rehabilitatin Centerでは、音楽療法のたどるプロセスを例示している。センターに受け入れられたクライエントは、一週間に一度、グループ音楽療法の会に参加できる。これは強制的なものではないので、これに参加したくない人は個人を対象にして行われる音楽療法に参加している。 クライエントは自分自身の活動を選択できるのである。次のような課目の一つ、またはいくつかを同時に受けられるのである。たとえば、グループギター、グループ合唱、グループリズム・バンド、レコードやテープの鑑賞(ときには、クライエント自身で歌ったり、楽器で伴奏をつけたりすることもある)、話し合い、身体を使った反応、音楽鑑賞などである。

 クライエントは自分の活動を選ぶと、それに対して音楽療法士は責任を持ち、クライエントが自分の能力に合ったグループ活動に参加できるよう細かな配慮をする。たとえば上肢切断者は、リズムに合わせたりグループギターと調子を合わせ、義肢を使ってオルガンの和音を押す。ほかのクライエントと同じギターの楽譜を使うので、楽譜の読みかたや楽器のひきかたを自然に身につけていくのである。

 ほとんどのクライエントは現実に適応されることに力を入れられる。しかし、クライエントは一時的にまたは周期的に精神異常状態に陥ることがよくある。このような症状について音楽療法士はじゅうぶんな知識を得ておき、このような問題に対処できる課目を用意しておかなければならない。クライエントがその時期にぶつかりどのような精神的衝撃を受けようとも、プログラムは完全に終えられるものである。したがって、グループ音楽療法は次のような過程を経て進められていくのである。(a)客観的にはかりやすい反応を求めるための刺激として、音楽やリズムを使う(たとえば、足でタップを踏んだり、そのほかの身体の反応を使う)。(b)クライエントの感情を表現するはけ口として、音楽やリズムを使う(たとえば、適切な行動、不適切な行動、反抗的態度、立腹の態度など)。(c)グループのメンバーのなかで自分自身を表現させる(音楽療法士は受け入れられる行動パターン<the acceptable patterns of behavior>をいっそう強化・奨励し、受け入れがたい行動パターン<unacceptable patterns>は無視するか最小限にするよう努める)。もし、何人かのクライエントが強いグループ意識を持ったなら、そのグループ全体の受け入れられる行動に対してかなりの影響を及ぼすものである。そして、これはほかのクライエントにもよい効果をもたらすのである。それゆえに、音楽療法活動は一人一人のパーソナリティーを安定化させるのに役だつのである。このような機能は、職場環境における人間関係にも寄与するであろう。職場復帰させるために職業能力にだけ力を入れるよりは、音楽療法はもっとよい結果を及ぼすであろう。

個人を対象とする音楽療法

 個人を対象とする音楽療法はグループ音楽療法と対照にされるものであり、多くの場合、それは従来のグループ音楽療法から引き出されたものである。一般的にいって、個人を対象とする音楽療法は、グループを対象とする以上に生理学、心理学、社会学の力が必要とされるようである。最終的目標は、クライエントがグループのなかに置かれたとき、より適切に機能できることである。たとえば、失語症患者には、歌がじょうずになるためでなく、言語や呼吸法の治療方法として歌の指導が行われるのである。ろうあ者や難聴者はコミュニケーション領域を広げることを目的として、振動や振動刺激を判断できるように音楽課目を受ける。普通の場合、コミュニケーションの手段や自己尊重の気持ちが活動のなかでだんだんとつちかわれてくるのである。個人を対象とする音楽療法においては、必ずその進歩があらわれてくる。そしてクライエントは同じような障害をもつ仲間ができるのを見て、自分も勇気づけられるのである。たとえ手足が切断されていても、それは楽器を弾くのになんの妨げにもならないし、またほかの人といっしょに音楽活動をしていくうえにも、なんの障害もないことをクライエントは実感として知るのである。このような活動によってクライエントは勇気づけられ、たとえ限界はあっても、この音楽の領域ばかりでなく、職業リハビリテーションのプログラムやレクリエーション活動にも積極的に参加するようになるのである。

参考文献 略

*日本肢体不自由児協会書記


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年1月(第5号)9頁~11頁

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