事業の開発と活用すべき現存資源

リハビリテーション事業の開発と活用すべき現存資源

The Development Of Rehabilitation Services In Relation To Available Resources

奥野英子*

1969年9月、アイルランドのキラニーで開催された専門家会議「現存資源との関連における、事業レベルの評価」のレポートである。発展途上国の事業を語るとき、常に基本資料として言及されるため、特に訳出した。

 1968年に国際障害者リハビリテーション協会が実施した調査によると、リハビリテーション・サービスを必要としているにもかかわらず、適切なサービスを受けられず放置されている人びとは、世界じゅうに約3億人いるであろうと、推定された。また人口の増加、生命の長寿化、工業化、自動車の増加などの要因によって、毎年少なくとも3百万人の障害者が増加すると思われる。

 リハビリテーション職員の養成、その他必要とされているリハビリテーション事業の開発が遅々としているため、現存の諸問題に対処できないでいることは明らかであるのみならず、専門家の援助を必要とする人びとが増加するであろうと推定される将来も、その需要を満たせないことは想像にかたくない。

 リハビリテーション事業を着手したばかりの数多くの国ぐにでは、自分たちの手元にある限られた資源を活用し、最大の効果をあげる実際的方法について、指導してほしいと期待していることも、この調査によって明らかになった。

 したがって、国際障害者リハビリテーション協会は、リハビリテーション事業開発の問題に対して刷新的なアプローチを探究し、それによってリハビリテーション分野の発展を促進しようと決定した。数多くの関連諸機関と相談した結果、問題を検討するとともに今後とるべき方針を打ち出すために、専門家会議を開催しようではないかと、意見が一致したのである。

 この専門家会議は1969年9月21日から24日、アイルランドのキラニーで開催され、国連、国連専門諸機関、リハビリテーション分野に関心をもつ非政府機関、および豊かな経験とすぐれた能力をもつ専門家などが参加した。

●討議の基礎

 討議の基礎資料として、次のような基調ステートメントが参加者に提出された。

 

 「発展途上国のリハビリテーション事業を着手・発展させることにおいて、意義深い進歩がなされたことは事実であるが、しかしまだそれは、援助を必要とする人びとの数に比較すると微々たるものである。そのうえ、リハビリテーション・サービスを必要とする人びとの数は将来非常に増加するであろうと想像されている。特に発展途上国においては、それが著しいであろう。もし現状の方法と発展速度が維持されるならば、人口の大きな未開発国ほど、サービスを必要とする人と実際のサービスとの比率はひどい様相を呈するであろう。

 リハビリテーション事業の実施方法を検討することにより、現在および近い将来に活用できる資源を使って、少なくともより多くの人びとに、もっとも本質的なサービスを実施できるような対策を生み出せるであろう。これらの対策を明示することにより、リハビリテーション・プログラムに従事する職員の募集・養成・配置、サービスの組織化、必要とされる建物・設備の設置、予算などについても、意義深い効果をあらわすであろう。

 職員について適切な基準を設け、それをパスした有能な職員が従事し、医療、社会、教育、職業の総合的サービスを行えるようになれば、最上の目標を達成できるであろう。しかし同時に、活用できる現在の職員、施設の質・量を少しずつ改善することによっても、理想への道へ近づけるであろう。

 発展途上国における経験によると、工業国や経済発展国で行われている方法をそのままこれらの国ぐにに適用しても、あまり効果はあがらないことが明らかになった。それぞれの国において活用できる資源を使い、その国独自の文化・社会・教育的パターンを使うほうが適しているのである。サービスを必要とするすべての障害者のニードを満たす方法や施設が設立されるまでには、数多くの年月が必要とされるであろう。しかし、高度の訓練を受けない職員でもって、より簡単な施設を使うサービス・パターンがはっきり明示されれば、本質的なサービスをより早く、より広く、実施できるであろう。

 これらを実現するには、細心の注意を払い、より綿密に企画しなければならない。有能な専門家グループが設定する訓練水準を守ること、これは絶対的に必要である。高度の訓練を受けていない準専門職員には、専門職としての地位を与えてはいけない。サービスの開始段階と中間段階で必ず検討し、次の発展のために備えるべきであろう」

●成果

 この会議は、全体討議および専門別の小委員会に分かれて討議し、小委員会では、それぞれの専門分野に関するステートメントの草案を作成した。すべてのステートメントを全体で検討し、結論および勧告については全員で採択した。

●結論

 この種のテーマのもとの会議はこれが初めての試みであったが、特にリハビリテーション分野の資源が限られている地域において、リハビリテーション事業を開発・実施するには、どのような対策をとったらよいかを提言したわけである。このように短期間、小規模の会議では網羅できなかった問題点についても、もっと詳細にわたった配慮をし、またレポートに書かれているアイディアを実行する方法についても、もっと深く検討しなければならないと認識した。国際障害者リハビリテーション協会は今後もこの種の研究を企画し、また実践する予定であるが、他の諸機関も率先してこの種の事業に力を入れるよう望みたい。

 もう一度強調しておきたいが、障害者の問題は、それに対する人類の解決策の速度よりも、ずっと早く拡大していっているのである。問題は急迫しており、リハビリテーション・サービスに関係するすべての者は、特に発展途上国においては、このレポートに提示されているアイディアを実際に適用する方法を真剣に考えてほしい。

 国際障害者リハビリテーション協会は、この会議に代表者を派遣してくれた諸機関ーすなわち、国際連合、世界保健機関、国際労働機関、国際義肢・装具委員会、国際看護協会、世界作業療法士連盟、世界理学療法連盟、米国保健教育福祉省の社会・リハビリテーション庁、世界リハビリテーション基金、そしてまた、自分たちの時間と経験を提供してくださった専門家のかたがたに、深く謝意を表するしだいである。障害を克服する会(The Organization to Conquer Handicap)は奨学金を提供してくださり、その結果一名の参加を可能にしてくれた。この援助も非常に貴重なものであった。また、この会議を開催するにあたり、米国保健教育福祉省より研究・デモンストレーション助成金として、その運営費の一部を補助していただいたことも、ここに明記して謝意を表するしだいである。

 Norman Acton

 国際障害者リハビリテーション協会事務総長

 

現存資源との関連における事業レベルの評価

 このレポートは、リハビリテーション事業を開発する際に(特に、資源の限られた地域において)役だつと思われる一般的原則、および職員養成や初期的段階にある事業の発展についての資料を提供する、付録から構成されている。

 このレポートはできるだけ理解しやすい用語を用いるよう努めたが、次の三つの用語については、特にその解釈を付記したい。

 専門職員(Professional):各国で設定されている訓練レベルに到達している職員

 補助職員(Auxiliary):完全な専門職員としての資格をもつほどには至っていない技術職員

 助手(Aide):リハビリテーション部門において、治療とは直接に関係ない日常的な仕事にたずさわる職員

一般的原則

1.  全国的なリハビリテーション・プログラムを開始、もしくは強化するためにもっとも重要な対策は:

a) 必要とされるサービスを実際に実施する職員の養成。

b) 適切な管理と連絡調整によって、開発されている事業、またすでに地域社会に現存する教育、医療、社会、職業各事業を統合化すること。

c) 障害者のもつ諸問題、およびそのリハビリテーションの可能性を一般大衆に知らしめ、教育すること。

2.  本質的なサービスは、非常に簡単な建物・設備でもって実施できるのであり、高度な施設の設立ばかりを優先的に考えてはならない。

3.  特に発展途上国においては、まずはじめに児童および若い人びとを対象としたサービスに力を入れ、彼らが自分の身の回りのことを自分で処理できるように訓練し、できるだけ早期に就職させるべきである。

●管理および連絡調整

4. サービスを効果的に管理・調整することの重要性を、認識しなければならない。これは、民間の事業であろうと政府の事業であろうと、そしてまた、リハビリテーション・プログラムの一部分として着手された事業、現存事業と関連する事業についてもあてはまるものである。

5. できるだけ早く総合的企画をたて、その国においてもっとも根本的なニードは何か、を明らかにすべきである。その国において活用できる資源との関連において、障害の原因、発生率、諸問題の予防方法などに関する情報をじゅうぶんに収集し、それにもとづいて企画しなければならない。

6. 適切な管理と連絡調整の必要性を、一般大衆およびリハビリテーション職員自身にも知らせる努力を、たえず行わなければならない。

7. 資源が限られている場合には、成果が明らかでありかつ意義深いと思われるプログラムを、まずはじめに手がけるべきである。障害の要因となる疾病やその他の原因を予防することが可能であるならば、それをまず優先的に行うべきである。しかし、その予防対策が効果を現すまえに障害者となった人びとのためのサービスも、企画・実施しなければならない。

●職員

8. 現在いる有資格職員の数がじゅうぶんでない場合は、補助職員の活用を考えるべきである。補助職員は実際に施設で働き、また国および地域によって開催される講習会などに参加することにより、その技術を身につけていくのである。補助職員がより高い資格をもてるような機会を用意し、できるだけよりじゅうぶんな訓練によって、完全なる資格を取得するよう奨励すべきである。低い段階にいる補助職員は、まずはじめに基礎教育を修学してもらわなければならない。理学療法、作業療法に関連する仕事に従事する補助職員の活用方法、およびその段階別訓練については、付録Aを参照されたい。

9. 義肢・装具分野における補助技術職員の養成および雇用の方法については、まだ意見の一致をみていない。この種の職員養成に関する一般的見解は付録Bに発表されている。それと異なるもう一つの見解が付録Cに発表されている。

10. 農村および都市地域における障害者に対する援助の一方法として、「一般的な補助職員」「リハビリテーション・アシスタント」「地域社会開発アシスタント」「村落ビジター(Village Visitor)」などを設置することなどがあるであろう。

11. 職員の養成に関しては、補助職員の能力向上、専門職員としての資格を与えること、すでに資格をもつ者にも上級訓練の機会を与えるなど、それぞれの国および地域においてできるだけ努力をするべきであろう。養成の機会を与えられた者は、自分の国における障害問題に精通していなければならない。

●はじめに着手すべきサービスとその後の発展

12. リハビリテーション・サービスを着手するにあたり、まずはじめに手をつけるべきサービスを明らかにするとともに、その初歩的サービスのうえにきずくべきリハビリテーション事業を明らかにするよう、会議は要請された。リハビリテーションのそれぞれの分野―すなわち、教育、医療、社会、職業の各分野において豊かな経験をもつ専門家で構成された小グループが提案事項を用意した。これらを全体会議で再検討し、修正を加えたものを、付録E, F, G, Hに発表している。

13. 初期段階における事業の管理方法についても検討し、そこから出された一般的見解は、前記の4と7を参照されたい。

●全般に関する勧告

14. 職員養成およびリハビリテーション・プログラムを進めるにあたり、絶えず、継続的に、その方法および成果を評価し、その結果をつねに今後の方法に生かさなければならない。

15. リハビリテーション事業を開発するための国際援助活動は、それを受ける国の望みに合致したものでなければならず、また、その国の地域社会における関連諸施設の積極的参加を得るようにしなければならない。援助を受ける国は、そのプロジェクトに対して財政的負担をするべきであろう。その国の障害者のため、という理由のみが国際援助の動機となるべきである。

16. ある国においてリハビリテーション事業を開発しようとする場合は、その国の指導者・首脳人の関心をできるだけ早く得るようにしなければならない。

17. 国際援助プログラムの一つとして重要な事業は、リハビリテーション分野に働くすべての職員に役だつ情報を選び、作成し、配布することではないだろうか。文化の違い、言語のちがいなど、いろいろな困難な問題もあるだろうが、それらを克服しなければならないであろう。先進国における諸機関や大学で発行している数多くの情報サービスをよりよく調整し、また、それらの情報一つ一つを慎重に評価する必要があろう。

18. 国際援助を実施する機関や政府は、その援助に商業的利益がからんでいないかどうかを確かめなければならない。

19. リハビリテーション事業の企画・開発にあたる専門家を、国際援助事業に活用する場合は、援助を受ける国がそれを本当に望んでいるかを確かめなければならない。そして派遣する専門家を慎重に選考すべきである。

20. 国際援助活動に従事する専門家のもつもっとも重要な役割は、援助を受ける国の人びとが自分の国の問題に気づき、そして彼ら自身にその解決方法を見い出させることであろう。専門家の出身国で使われている方法を、そのまま援助を受ける国に適用できるとは限らないのである。

 

付録A

理学療法および作業療法における補助職員

1. 病院、診療所、その他諸施設において、公認理学療法士、公認作業療法士のもとに働く補助職員の養成については、以下のような指針が出された。

2. 完全な資格をもつ理学療法士、作業療法士を養成すべきか、または、その補助職員を養成すべきかは、その国の教育、社会、医療、経済的発展の程度によって決めるべきであろう。国によっては、はじめから、完全な資格をもつ理学療法士、作業療法士を養成できるであろう。これから述べられる指針は、ニードが緊急な場合についての対策である。

3. 以下の提案は理学療法についてのみ触れられているが、これは公認作業療法士およびその補助職員の養成についても、そのまま適用できるものである。

補助職員の分類

4. つねに公認理学療法士の指導のもとに働く、理学療法補助職員として、次の3分類が考えられる。

 a 正規の教育をほとんど、または全然受けていない者。理学療法部において、実際の仕事の指示を受けながら、移動運動、歩行訓練の補助などの簡単な理学療法過程を行う。

 b ライ患者、ポリオ患者などのように、対象者が限られた分野のみの訓練を受けた補助職員。まず、ある程度の理論を教え、あとは実際に仕事の補助をしながら経験を積んでいく。

 c 理学療法部において、全般的な仕事をする補助職員。前記のa, bの分類に属する者よりも、もっと高い教育水準に達していなければならない。なぜならば、この分類に属する補助職員は、公認理学療法士のする仕事のほとんどについて、一応の知識を持っていなければならないからである。解剖学、生理学、および理学療法技術・理論に関する講義を受けていなければならない。これらの講義については、看護婦や衛生技師などのために行われている養成講座を利用すればよいであろう。作業療法補助職員を養成する場合も、養成設備をともに使用すればよいであろう。実践訓練については、その理学療法部に属する公認理学療法士が担当する。

専門訓練

5. 完全な資格を取るための必要条件は、中等教育を修了したうえに、物理学、化学、生物学などの学科を履修したことであろう。

6. 完全な資格を取るためのもう一つの最低基準は、物理学、化学、生物学、その他適切な学科などについて正規の学校教育を受けていることであろう。

7. C分類の補助職員としては、理学療法部において、少なくとも5年間の経験がなければならない。資格認定試験にのぞむための必要条件として、理学療法学校は1年間ぐらいの短期コースを設置すべきであろう。その1年間で、化学、物理学などをどの程度まで学べるかによって、その人の経験が明らかに現れるであろう。これによって、短期間の理学療法科目すべてを理解でき、資格認定試験にパスするか、それとも、前記、5,6,に述べたような科目を、理学療法事前コースで履修しなければいけないかが、はっきり現れるのである。

助手

8. 理学療法部および作業療法部においては、治療と直接関係のない、日常的な仕事があるものである。このような仕事を助手が担当するのであり、助手と補助職員を混同してはならない。

付録B

義肢・装具分野における技術職員の養成と雇用

1. この課題を与えられた小委員会では、効果的かつ経済的なサービスを実施するためには、できるだけ最上級の養成をすべきであり、下記のように二つのレベルでの養成が必要であろう、と勧告した。

a 義肢・装具適合士:そのおもなる責任は、臨床に関すること、および全体を監督することである。養成には、大学レベルの科学および技術科目が必要とされ、その期間は3年から4年である。

b 義肢・装具工:義肢・装具適合士の指導のもとに、補助具の製作にあたる。養成は技術的な性格のものであり、期間は18か月以内でよい。科学的な科目については初級講座ぐらいは必要である。このレベルでなされる仕事として、二つの段階が考えられる。すなわち、種々の製品をつくれる技術者と一つの製品だけを専門的につくる技術者である。技術者で能力のある者は、上級訓練を受けられ、aの義肢・装具専門家のレベルまで進めることを、募集・養成の段階ではっきりさせておく。

2. 上に述べられた養成期間は、修得すべき学科を詳細にわたって網羅するための最少期間である。しかし、もし学生が事前になんらかの知識をもっているならば、技術者としての養成期間を少し短くしてもよいであろう。

3. 実際のサービスがまだ完全に確立されていない場合は、技術者は臨床的な仕事もする必要があろう。その場合には、必ず公認義肢・装具適合士、または医療職員の指導がなければならない。

付録C

義肢・装具分野における技術職員の養成

 当会議では、世界リハビリテーション基金が実施している義肢・装具工の養成方法も認めた。この養成は4か月から5か月のコースであり、補助具の製造に関する実際的技術と知識の修得に力が入れられている。製造する地域で手にはいる材料をできるだけ使い、もしそれが不可能な場合には、安価で輸入できる材料を使う。この養成方法においては、おもに装具関係の養成が中心に行われている。

 訓練生は、その経験および適性度を基準にして選考されている。優秀な教師が養成計画をつくり、その指導にあたる。言語および習慣などのちがいから生ずる障害を克服すべく、また、養成が終わったのちにも、フォローアップをじゅうぶんに行っている。

 当会議が開催された当時はすでに、この種の養成コース10コースほどが、国際機関、各国政府、民間機関などとの協力のもとに行われていた。19か国から222名ほどの訓練生が参加した。その成果として、この種のサービスがなかった地域社会において新しいワークショップが約50か所設立され、一か月に1,200個ぐらいの補助具が製作されていた。

付録D

リハビリテーションの全般的な仕事にたずさわる補助職員

1. リハビリテーション・プログラムの多分野にわたった訓練を受け、各プロセスに従事する職員の間において連絡調整の役をひきうけるワーカーを活用しようとの意見が出され、全員の同意がみられた。この種の仕事にたずさわるワーカーは、すでに働いている人の職場を奪ってしまうことのないようにしなければならないが、リハビリテーション事業が始められたばかりの発展途上国においては、非常に貴重な職種であろう。

2. このワーカーは村のような地域単位において働くものとし、その責務は次のとおりである。

a ケースの発見:村および地域社会の指導層と密接な連絡をとり、リハビリテーション・サービスを必要としているケースを明らかにするとともに、クライエントおよびその親に対しては、リハビリテーションの必要性およびその効果を教える。

b フォローアップ:クライエントの治療が終了し、施設・病院等を退院したのちもフォローアップをつづける。たとえば、ブレースはこわれていないか、家庭によって正確に訓練をつづけているか、その他のアドバイスをちゃんと守っているか、などをチェックするのである。

c 職業リハビリテーションおよび訓練:ワーカーはクライエントに対し、職業リハビリテーションに関する諸問題をアドバイスする。職業リハビリテーション・センター、その他、指導および就職と関係する諸機関と連絡をとる。

d 連絡:このワーカーのもつもっとも重要な責務がこの「連絡にあたること」であろう。そのなかには次の四つの責任がある。

1) 障害者のニードに応じ、その人の属する地域社会における施設、教育機関と定期的に連絡をとる。

2) 地域社会に対しては、障害者に援助を行うよう教育し、障害者が地域社会の重荷にならないよう配慮する。

3) 障害児を対象とする場合は、教育関係者および親に対し教育の必要性を説得し、障害児が教育を受けられるよう対策をねる。

4) 地域社会に対しては、リハビリテーション事業の必要性を啓蒙し、必要とされるすべての事業を実施するよう働きかける。

3. リハビリテーションに関係する全般的な仕事にたずさわるこの補助職員は、地域社会におけるリハビリテーションの諸問題に対してきめ細かなアプローチをするため、リハビリテーション事業に従事するすべての職員と密接なコンタクトがとれなければならない。この補助職員となるための教育水準および養成要件は、仕事を行う環境によってかなり差が出てくるであろう。しかし、その人の熱意、創意くふう、その地域社会についての知識、人びととのコミュニケーションほどたいせつな要素はないであろう。養成期間は6か月でじゅうぶんである。

4. より優秀な人材を確保するために、この職種を将来性のある職業とするよう、万全を期さなければならない。

5. 障害者のリハビリテーションを扱っているのではないにしても、このような仕事をすでに実施している地域社会はたくさんあるであろう。実際にこのような職務にあたっている人には、リハビリテーション問題に興味を持ってもらい、上記のような仕事も実施してもらえるであろう。

付録E

リハビリテーション・プログラムにおいてまずはじめに手がけるべき教育事業

初期段階におけるサービス

1. 若い障害者および成人障害者の教育:これは、リハビリテーション・センターやその他の施設において、一般的職業訓練プログラムの一環として実施すべきである。そしてもし可能ならば、読み書きの訓練や基本的な学習を教えるとよい。

2. 親の教育:学齢前の障害児をもつ親(特に母親もしくは母親のかわりをつとめる者)には、自分の子供のもつ諸問題およびそれに対する対策などについての基本的なことを教えるべきである。このようなことを教えるに適した職員としては、付録Dにおいて説明したワーカーが適しているであろう。これは、初等教育を受けられるような障害児をもつ親、または、障害が重いために教育の機会がほとんど与えられそうもない障害児の親にとって非常に重要であろう。

3. 学齢期にある障害児の教育:

a 発展途上国において、特殊学校の概念はかなり前からあるようであるが(通学制度または入所制度)、しかし、もっとたくさんの障害児を普通学校で教育する方法を考えるべきである。しかし、ライ病患者や長期的な治療を必要とする障害児などにとっては、入所形態の学校も必要であろう。この種の学校があれば、教師の養成の場にもなるし、またもっと重度の障害児に対するプログラムを開発するためのモデルにもなるであろう。

b 普通学校に通える障害児は、5年から8年間の初等教育コースを完全に終了するべきである。

c 学校教育に適しているかどうかを判断するには、身体障害児の場合は普通学校または普通学級に参加できるかどうか、盲児・ろう児の場合は、特殊学級に参加したり、普通学級に参加したりの両方ができるかどうか、で決めるとよい。実際的方法はその国の状況によってかなりちがってくるであろう。しかし、このように児童が小さいうちに基準を設けてしまうと、知能の低い者や重度障害児はサービスから落されてしまうことになる。

d 障害児を教育している学校と職業訓練プログラムとの間には、連絡態勢を必ずつくるべきである。

4.  育およびその他の職員について:

a 教育にたずさわるすべての者は、その間においてもっとも数の多い障害児に関して、彼らのもつ社会的・教育的諸問題を知っていなければならない。なぜなら、このような障害児が普通学校にはいってくる可能性が非常に高いからである。また、すべての教師は自分の担当する地域において、ケースの発見に協力すべきである。

b 特殊学級を担当する教師(たとえば、盲児、ろう児を対象とした)は普通の学校で教師としての経験を有し、初等教育の正式資格をもつ教師でなければならない。障害児を担当するための特別養成期間はその国の状況によってかなり違うであろう。しかしその養成は、必ずその国のなかで実施すべきである。

c 障害児の教育全般に対して責任をもつ管理者を、各国の文部省に少なくとも1名ずつおくべきである。この管理者は、障害児教育に経験を有する者が望ましい。

中間的発展段階におけるサービス

5. 初期的発展段階が過ぎたなら、次のような点に注意すべきである。

a すでに実施したサービスの方法を再検討し、それに対する改善方法があればそれを実施する。

b 障害児に関して、初歩的な評価方法を確立する。

かなり発展した段階におけるサービス

6. もっと発展させられる余地があるならば、次のような事業に力を入れるべきである。

a 障害児のための中等教育を実施すること。

b 初期段階で教育の対象外に落とされてしまった障害児のために、適切な教育施設を設置すること。

c 現存の評価方法を改善し、完全な資格をもつ優秀な職員を配置すること。

付録F

リハビリテーション・プログラムにおいてまずはじめに手がけるべき医療事業

1. 医療小委員会は、リハビリテーション事業の必要性を最小限にするため、障害予防の重要性を強調した。

初期段階におけるサービス

2. 期段階におけるサービスを実施するには、地域に現存する施設を最大限に活用すべきである。

3. 身体障害者のリハビリテーションを、まずはじめに手がけるべきである。

4. リハビリテーション・プログラムにおける初期的な医療事業は次のとおりである。

a 医療指導

b 患者が歩行できるようになり、また、教育、社会、職業の各サービスを利用できるようにするための理学療法。これは、地域で利用できる設備を使った訓練をすることになろう。

c 下肢をささえるための、義肢・装具サービス。

中間的発展段階およびその後のサービス

5. 初期段階からその後の段階へ移行する時期をはっきり定めることはできない。地域のニードおよび資源を考慮に入れ、また、初期段階で達成された成果およびその国の経済、社会、医療、教育等の発展状況と見合わせながら、次のような線にそって事業を発展させるのが望ましい。

a 医療専門職員およびパラメディカル職員の養成

b 初期的サービスの改善と拡張

c 心理、精神科に関係する施設の拡充

d 作業療法の拡充

e 言語療法の拡充

f 義肢・装具サービスの拡充

1) 義足

2) 脊髄をささえる装具

3) デザインの多様化

4) 義手および上肢用補助具

g 盲、ろう、脳性マヒ、脊髄損傷などのように、各種障害別ユニットの確立

h 農村地域へサービスを普及するために移動診療施設を活用し、ひいては過疎地域にも診療所やセンターを設立すること

i 研究事業

義肢・装具サービス

6. 義肢・装具工の養成に関する小委員会は、この分野の事業の確立について次のような勧告を用意した。

7. 国によってその発展段階が異なることを考慮に入れ、サービスを設置するための次のようないくつかの方法が考えられる。

a この種の設備が全くない国においては、正式の資格をもつコンサルタントがぜひとも必要である。このコンサルタントの仕事は、サービスを確立するとともに、必要とされる職員を養成することである。このコンサルタントは長期の契約で働いてもらうべきである。

b 基本的なサービスだけが確立されている国では、上記aと同じような方法をとればよいであろう。

c 機能的なサービスが行われている国においては、事業を発展させるため、短期間の契約でコンサルタントを依頼するとよい。

d かなりの段階にまで事業が発展している国においては、地域訓練センターの設立が重要であろう。そのセンターの目的は次のとおりである。

1) 義肢・装具サービスの実施

2) 種々の段階にいる職員の養成(義肢・装具にたずさわる職員ばかりでなく、リハビリテーション・プロセスに関係をもつその他の職員も含む)

3) 地域の状況に応じて、調査・開発を実施する。

4) 全国的規模のセンターを設立する際にモデルとなるような、デモンストレーション・ユニットの役割をはたす。

8.義肢・装具サービスはリハビリテーション・プログラム全体において非常に重要な部分であるので、理学療法などとの関連において確立すべきである。

付録G

リハビリテーション・プログラムにおいてまずはじめに手がけるべき社会的サービス

初期段階におけるサービス

1. これから述べるサービスは、次のような条件の国を仮定し、その仮定にもとづいて出された。

a なんらかのリハビリテーション・サービス(これを一応リハビリテーション・センターと称する)がその国のなかに存在するか、またはそれを現在開発中である国。

b 養成を受けた専門家によるサービスを、リハビリテーション・センター以外では利用できない国。

2. 必要とされる基本的な社会的サービスは、センターばかりでなく、各地域レベルでも利用できるようにしなければならない。

3. センターのそとでは、次のような基本的サービスを実施すべきである。

a ケースの発見につとめ、ケースに応じて養護施設、環境不適応児のホームなどに児童を収容し、援護を行う。

b 障害者とその家族との間の関係をよりよくすること。

c 障害者とリハビリテーション・センター、学校、その他の施設などとの間の連絡がスムーズにいくようにすること。

d 財政問題に対する援助。

e 就労の場を捜してあげるなどのフォローアップ・サービス。

f 初歩的な記録をきちんと取っておくこと。

4. これらの仕事は、クライエントと「話し合い、耳をかし、そしてはげましてあげること」ということになるが、これらは初歩的段階における基本的なサービスである。より高いレベルになると、これらのサービスはソーシャルワーカーが担当したり、または、ソーシャルワーカー,カウンセラー,心理判定員、就職あっせん担当官などで構成されるチームが担当することになろう。しかしここで述べているような基本的段階においては、「リハビリテーションの全般的な仕事にたずさわる補助職員」とか、「村落ビジター」などが担当すべき仕事ではないだろうか(付録Dを参照のこと)。このような仕事にたずさわるワーカーは、リハビリテーション・センターにおいて短期養成プログラムを受けるべきである。その期間は数週間から6か月ぐらいのもので、その主要目的は、リハビリテーション・センターで実施しているサービスを見学することになろう。この種の仕事が成功するかいなかは、それにたずさわるワーカーの教育的背景などよりも、むしろ個人としての性格やパーソナリティであろう。

5. センターのなかでは、次のような基本的サービスを実施すべきである。

a リハビリテーションを受ける者と、その実施、地域社会、村落ビジターなどとの連絡がスムーズにいくようにすること。

b 治療のない自由な時間には、レクリエーションを行ったり、その他のサービスを用意する。

c 財政問題に対する援助

d ケース歴の記録

6. 4でも述べたように、より高いレベルになると、これらのサービスは専門家が担当する。このように初歩的段階においては、リハビリテーション全体について基本的な説明を受けたうえ、リハビリテーション・センターで行われているサービスを短期間見学した、ボランティアが担当できる仕事である。

中間的段階およびその後のサービス

7. 活用できる資源と現存するニードによって、この基本的サービスは徐々に発展していくものであり、これらの事業に従事する職員に対してより高い訓練を与えれば、よりきめの細かい社会的サービスになるであろう。もし、社会福祉アシスタントなどを利用できるなら、その人の仕事の負担が重すぎないように考えたうえで、この任務を依頼してよいであろう。

付録H

リハビリテーション・プログラムにおけるまずはじめに手がけるべき社会事業

導入

1. 職業リハビリテーション事業を開始するときには、その国の経済構造、社会構成との関連における障害者の現状を、じゅうぶんに検討してみなければならない。その結果にもとづいて、すべての障害者を対象とするプログラムを実施すべきか、それとも障害者数が圧倒的に多い一つか二つの障害群だけを対象にすべきかを、決定すべきである。職業指導、職業訓練、特別あっせんサービス、保護雇用、リハビリテーション・センターなどのうち、どのサービスをまず最初に手がけるべきかを決めなければならない。発展途上国においては、人口の大多数が農村地域に生活をしているので、これらの国における障害者の職業リハビリテーション事業は、農業関係の仕事に力を入れるべきであろう。

2. まずはじめに手をつけるプログラムは一部の障害者だけを対象とするものであっても、最終的には、その障害原因がなんであろうと、年齢がいくつであろうと、適切な職業につける可能性のあるすべての障害者を対象とするサービスを実施しなければならない。

3. 職業リハビリテーション事業を開始するときに考慮すべき主要目的は、次のとおりである。

a 障害者のもつ労働能力を一般の人びとに知らせるとともに、その能力を向上させること。

b 障害者のもつ障害よりも、その能力を強調すべきであること。

c 障害者が経済的に自立できるようになるために、働ける場所をより多くすること。

d 障害者の雇用に対する偏見を克服すること。

サービスの確立

4. 第一段階としては、リハビリテーションを完了したときに、都市または農村地域で適切な仕事につける可能性のあるケースだけを対象とすべきである。

5. 基本的サービスは次のとおりである。

a 現存のコミュニティー・サービスとその利用方法を明らかにする。(例、病院、社会福祉事務所、民間団体、その他)

b 心理判定員、作業療法士、評価担当者などの有資格職員がいない場合には、職能評価および指導プログラムは、簡単かつ実用的な作業評価技術にもとづいて実施されるべきである。

c 職業訓練コース、これについては、一般の人びとを対象としている職業訓練センター、訓練計画、工業・農業学校、大学などの施設をじゅうぶんに活用すべきである。職業適応訓練や従弟制度も促進すべきである。このアプローチが適さない場合には、労働市場で確保できそうな仕事を考慮し、それに合う訓練施設を設立するとよい。また、農業関係の職種にも力を入れるべきであろう。

d もし可能ならば、現存の職業あっせん機関と協力し、社会福祉およびコミュニティー開発事業、民間事業を活用しながら選択雇用サービスを開発する必要がある。

e 保護雇用および準保護雇用:一般労働市場において障害者に適した仕事がない場合には、保護雇用および準保護雇用制度が障害者の就労を可能にする唯一の方法となるであろう。これによって障害者のもつ労働能力を実際に明示するとともに、職業リハビリテーションの経済的・社会的意義を一般に知らせることができるであろう。保護雇用のなかには、ワークショップ、協同農場、在宅での自営業なども含まれる。

f フォローアップ:特にパイロット・プロジェクトの場合には、実施したサービスを振り返って検討し、その成功度および効果を評価することが必ず必要である。

基本的サービスの効果的な実施方法

6. 上記のような基本的サービスを簡単なパイロット・センターおよびワークショップで実施してほしい。これらの施設は病院や診療所などの近くに設立することが望ましい。このように評価、職業訓練、選択雇用、保護雇用サービスを実施する、多目的なセンター,ワークショップは、全国的な規模のリハビリテーション・プログラムを実施する導火線となるであろう。

7. パイロット・センターは、調査、デモンストレーションおよび職員養成センターとしての役割も果たせるであろう。これは現存の医療、社会、教育サービスとも密接に連絡をとらなければならない。センターに来る障害者には、読み書きなどの基本的教育も実施すべきであろう。

必要とされる職員

8. 基本的なサービスを実施するために必要とされる最小限の職員は、次のとおりである。

a クライエントの面接および照会は、現在の社会福祉主事、コミュニティー開発職員、ボランティアなどが担当できる。

b 職能評価・指導は、心理判定員、作業療法士、職業指導員、評価者などが実施するのが望ましい。

c 職業訓練を担当する職員は、適切な資格をもつ指導員でなければならない。

d 選択雇用およびフォローアップは、商業および産業についてじゅうぶんな知識をもち、仕事を現実的に把握し、雇用主との人間関係もうまく保てるような就職あっせん担当職員が実施しなければならない。

e 保護雇用施設は、商売感覚のある経営者や適切なる技術職員が運営しなければならない。

9. 開発の初期段階においては、上記のようなサービスを少数の職員で実施しなければならない。たとえば、クライエントの方向決定、諸機関への照会、選択雇用、フォローアップは、同じ職員が担当しなければならない。評価、指導、訓練は指導員が担当する。

職員の養成

10. 基本的サービスに従事するすべての職員は、リハビリテーションの全分野、すなわち、医療、社会、心理、教育、職業、を網羅するオリエンテーション・コースに参加しなければならない。4か月から6か月にわたって実施されるこの種のコースには、各分野の有資格教育が、現任訓練として参加できるようにする。再教育コースは定期的に実施し、最新の方法、技術を身につけられるようにする。最上級の資格をもつ職員に対する上級訓練は、国際援助プログラムと並行して実施できるであろう。

サービスの拡張

11. パイロット・サービスがしっかりと確立されたならば、これを徐々に都市および農村地域にも発展させなければならない。最終的な目標は、完全な資格をもつ職員が、重複障害者も含むすべての障害者に対して総合的サービスを実施できるようになることであり、この種のサービスはその国家にとって経済的、社会的な意義があるものとなるであろう。

12. 初期的なサービスを中間段階およびその上の段階へと拡張していくためには、政府、民間団体および地域社会から多大な援助が必要とされる。国家の社会・経済開発計画とともに、全国的規模のリハビリテーション・プログラムの重要部分として、この職業リハビリテーション事業を開発していかなければならない。

*日本肢体不自由児協会書記


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年1月(第5号)36頁~48頁

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