障害者の職業リハビリテーションの基本原則

ILO,D.37 1967(Rev.1970)より

障害者の職業リハビリテーションの基本原則

Basic Principles of Vocational Rehabilitation of the Disabled

 この印刷物は、職業リハビリテーション分野で働いている、ILOの専門家、とりわけセミナー、訓練コース、研究旅行などの方法により、リハビリテーション職員の養成に従事する関係職員の用に供するためのものである。その目的とするところは、職業リハビリテーション過程の基本的諸原則を、集約し、簡潔な形で示すことである。

第1章 障害者の職業リハビリテーション

1. はじめに

 リハビリテーションの定義として、広く認められているものが2種ある。1つは、純医学的なもので、リハビリテーションとは、回復を促進すべき医学的手段のすべてを活用することである。ここでいう医学的手段とは、その大部分が物療医学に属するもので、医師による特定の医学的、外科的治療の補足として用いられている。

 今一つは、もっと幅広いものとされ、身体障害者のための公立や民間機関の専門家の間に受け入れられている定義である。この定義によれば、リハビリテーションとは、障害者を、彼にとって可能なかぎり最大限に、身体的、精神的、社会的、職業的、そして経済的有用性へ回復させることである(ケスラー著、「リハビリテーションの理論と実際」より。ILO勧告第99号の序文、第2節をも参照のこと)。

 この広い意味でのリハビリテーションは、多くの専門技術を必要とし、数多くの専門的領域や、相異なったサービス、すなわち、医学的・社会的・教育的・職業的諸分野にかかわり合いを持たなければならないという問題点を、社会に提起することになる(ILO勧告第99号序文第1、3節参照)。

 リハビリテーションの全過程における、二つの主要構成要素は、医学的リハビリテーションと、職業的リハビリテーションである。そのおのおのは異なった性格を持ち、特有の専門領域を持っているが、互いに相補う関係にある。この二つは、できるだけ密接に連係させるべきである。なぜならば両方とも、リハビリテーションの真の成功にはともに必須の分野だからである。

2. 医学と職業の協同

 これは、下記の事項の達成に必要である。

(1) 障害者の持つ問題全体が、体系的に首尾よく把握されること。

(2) 有効な、また必要なすべてのサービスと、すぐれた技術が、適切な時期に与えられること。

(3) 職業リハビリテーションを必要とする障害者を、判別しうること。

(4) 職業リハビリテーションのいかなる時期においても、医学的な助言が受けられること。

(5) 職業リハビリテーションが、できるかぎり早期から始められること。

(6) 再就職が、できるだけ最短時日で達せられること(ILO勧告第99号26~27節参照)。

3. 障害者に対する職業リハビリテーションの歴史的発展

 19世紀に、まず発展したサービスは、施設収容や教育などの、保護と福祉的措置であった。これらは、そのほとんどすべてが、民間団体の手でおこなわれていた。そのうちしだいに、それだけではふじゅうぶんであり、就業ということが、同等に重要であると認識されるようになった。このことが保護工場の設立をみちびいたのであるが、その多くは、盲人、ろう者、肢体不自由者など、特定グループのためのものであった。

 第1次世界大戦は、交戦国内に、多数の戦傷者援護の必要性を生じさせた。このことが、いくつかの国々で、戦傷者の雇用を企図した種々の対策をとりあげるに至らせたのであるが、それらは、つぎのようなものである。

(1) 義務的雇用制やその他の就業対策。

(2) 政府負担による職業訓練。

(3) 1919年、米国での初の職業リハビリテーション法の制定。

(4) 保護雇用のための、拡大された諸方策。

 さらに、一つの問題が生じたのである。それは軍への入隊時の医学的診断で、不適格となった青年成人層に、多数の身体障害が発見されたことである。これが、一般市民数における身体障害の比率を明示した最初であった。しかしながら、市民障害者に対しては、戦前からの保護工場対策のきわめてわずかな漸進的延長以外には何もなされなかった。総じて、開放雇用への準備やあっせんのための完全な機構の設立という、真のニードの発見はなされなかったのである。

 第2次世界大戦は、再び大量の戦傷者を生ぜしめたが、今回は交戦国では、再就職に結びつく職業リハビリテーションのための、はるかに広範な法令が制定された。もはや、重点は保護にではなくて、職業生活への再参加におかれたのである。戦後まで続いた戦争中の人手不足によって、入隊者の補充として、また、以前には適職とは考えられなかった仕事、障害者に可能とは想像もされなかったような職種の中に、一般市民障害者に対する雇用機会が生じるようになった。

 経済的必要性と人手不足の結果、多くの西欧諸国間では、すべての利用可能な人的資源の合理的な採用や、とりわけ工業化された社会では、大部分の職業には、完全な身体的適合は必要としないという認識が生じた。このうち、後者の見解は、農業国へも広がりつつあるが、たとえば、盲人に対する農村就労対策の開発がそれである。

 1945年以後、職業リハビリテーションの近代的概念が生まれた。これは、次の各項目に起因する(多くの要因のうちのおもなものである)。

(1) 西欧諸国における完全雇用政策。

(2) 医学の進歩、寿命の延長、疾病の治療を患者としてよりは、人間としておこなうという考え方の変化。

(3) 多くの国々では、すべての障害者をも含むことのできる、職業法令がゆきわたったこと。

(4) 国連、ILO、UNESCO、WHO等がおこなう経済的・社会的水準向上への尽力からの圧力と感化。

(5) リハビリテーション領域で活動している、国内や国際的奉仕機関の努力と影響。

4. 今日の職業リハビリテーション

 A.定義

 ILO勧告第99号第1節で次のように定義している。

 「この勧告の目的に照らした職業リハビリテーションという語は、次のことを意味する。すなわち、職業指導、職業訓練、選択方式職業あっせんなどの職業的サービスの提供を含めた、継続的、総合的リハビリテーション過程の一部であって、障害者の適切な就職とその維持を可能ならしめるよう、計画されたものである」

 B.目的

 職業リハビリテーションの目的は、満足のできる再就職である。再就職は、個々人の経る場面はそれぞれ異なるが、その過程の終極点である。

 再就職は、開放雇用、保護雇用の、いずれによってでも達成できる。

 この目的の達成は、作業検査、適性検査、心理学的検査、広範かつ長期にわたる職業指導、再適応訓練あるいは、職業訓練などを経る場合、経ない場合の両方によっておこなうことができる。

 C.各種サービス

 これらには、次のようなものがある。

(1) 障害者の身体的・精神的・職業的残存能力や可能性についての明確な描写を得ること(評価)。

(2) 職業訓練とか、雇用の可能性について適切に助言をすること(職業指導)。

(3) 必要な再適応訓練、心身の向上、あるいは、正規の職業訓練をおこなうこと(職業準備と職業訓練)。

(4) 適職を見つけるための助力をすること(職業あっせん)。

(5) 特別の配慮下で仕事を提供すること(保護雇用)。

(6) 再就職が達成されるまで追跡指導をすること(追跡指導)。

 これらについては、すべて、第5章において追って詳述する。

5. 障害者の認定

 どんな人が、職業リハビリテーションを必要とする障害者であろうか。彼らは、いかに定義づけられ、また、認定されるのであろうか。障害は、どこにでも存在する。それは、人により異なった影響を持っている。障害は、一時的なもの恒久的なもの、部分的なもの全体的なもの、固定的なもの変動的なもの、などがありうる。ある種の障害は、軽微なものであって、当人の職業生活に明確な影響を及ぼさないものもあるし、またほかには、明らかに影響を及ぼすものもある。

 障害者の分類は、さまざまな方法でおこなうことができる。

(a)障害の原因(起因別)により

 (1) 先天的、または、幼児期の障害

 (2) 戦傷

 (3) 産業災害、または、職業病

 (4) 路上、家庭、遊びなどでの事故

 (5) 心身の疾病

(b)臨床的基準(病類別)により

 (1) 整形外科的障害

 (2) 盲

 (3) ろう

 (4) 言語障害

 (5) 神経障害

 (6) 結核

 (7) 脳卒中

 (8) 心臓疾患

(c)下記項目の損失度により

 (1) 機能

 (2) 作業能力

 (3) 病弱度

など。

(d)障害が、雇用への不利益となっているかどうかという、職業能力への影響からの考慮。

 職業リハビリテーションの観点から言えば、上記の(d)のみが満足のできる方法であって、起因や障害の質、障害の程度などではないのである。重要なことは、雇用の見直しや、雇用の可能性への影響なのである。端的に言えば、第一の関心事は、職業的障害であって、身体障害ではないのである。職業リハビリテーションが必要なのは、身体障害が、現在あるいは将来の就業に対する現実的な障害を作り出している場合である。

 ILO勧告第99号の定義に注目していただきたい。

 第1節(b):この勧告にとっては、障害者とは、身体的、あるいは、精神的障害の結果、適職の取得や維持の見通しが、実質的に減退している人を言う。

 第2節:職業リハビリテーション・サービスは、すべての障害者に利用を可能ならしめるべきである。障害の起因や質にかかわらず、年齢のいかんを問わず、適職を得、維持していくじゅうぶんな見通しのある場合には、利用されるべきである。

 健常者と障害者の間には、なんら明確な区分線は存在しない。したがって、定義づけには境界線的ケースも含め得るよう、じゅうぶん柔軟性を持たせるべきである。

6. 社会的・経済的考察

 障害が、現実的に職業障害になった場合は、次のような諸問題が生じる。

 (1) 本人に対しては、

 ・ 所得能力の損失

 ・ 技能と経験の損失

 ・ 地位の損失

 ・ 被扶養者的位置への後退

 (2) 家族に対しては、

 ・ 収入の消失や減少

 ・ 地位の損失

 ・ 他への経済的依存の増加

 ・ 障害者の世話のための負担

 (3) 社会全体に対しては、

 ・ 障害者が、技能と稼働を通じておこなっていた貢献の損失

 ・ 技能の損失

 ・ 人力の損失

 ・ 生産の損失

 ・ 障害者の援護とその家族のための経済的負担

 ・ 非生産者あるいは、被扶養者の増加

 すべての国々においては、とりわけ教育や、職業訓練、生産力などを通じて、生活水準の向上に努力している国においては、単に障害があるということだけで元のあるいは素質を持つ熟練労働者を失うわけにはゆかないのである。彼らは、蓄積されるべき国家的資産である。

 障害者といえども、全国民の一人として同じ権利、同じ特典、同じサービス、同じ配慮を受けるべきものであり、また、同等な責任を分担すべきものと考えられなければならない。彼らは、二級市民ではないのである。さらに言えば、障害者を雇用することは、全面的に生産の増大を招来し、経済的非生産者を減少せしめることになる。

 次の文章は、1958年2月、ジュネーブで開催された、WHOの医学的リハビリテーションに関する、専門家委員会の第1回報告書から引用したものである。

 「当委員会は、1948年12月10日に、国連総会で採択され、公示された世界人権宣言に、大きな満足感と支持を示しつつ、注目するものである。この宣言の第25条の1では、次のように述べている。

 すべて人は、衣食住・医療および必要な社会的施設により、自己および家族の健康および福祉にじゅうぶんな生活水準を保持する権利ならびに失業・傷病・心身障害・配偶者の死亡・老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する(訳文は、日本国際連合協会、「われらの国連」より)。

 それゆえに、当委員会は、次の意見を強調するものである。すなわち、障害者の尊厳と保障への権利は、健常者のそれより小さいものではなく、障害者が自己の生存する社会の中での、できるだけ正常な生活へ復帰するために可能なことは、すべて、実施されなければならない」

. 職業リハビリテーション・プログラムの開始

 深刻な失業や不完全就業問題があったり、サービスの欠如している国でありながら、何もなすべきことがないという答弁は、簡単には支持しがたい。高度に産業化した、先進性の高い国々と比較しうる実績は、最初は不可能であるが、それでも、何かを試み、何かをおこなうことはできる。職業リハビリテーションの開始は、ユートピア的経済状態に達するまで延期することはできないのである。

 すべての国々には、確かに、多くのあらゆる種類の障害者がいる。

 これらの、すべての障害者の職業リハビリテーションに取り組むことは、不可能かもしれないということは理解できるが、しかし、何かを開始することはできようし、少しずつ改善をすることもできるのである。

 就業という点で、最善の結果をあげられるような人を、職業リハビリテーションの対象に選ぶことから徐々に進めることが、経済的に、社会的に、技術的に必要なことである。この漸進性ということは、経験の不足、必要な職員の不足、また職業あっせんが困難事であり、骨の折れる仕事であるなどの理由からも、重要なことである。この点は、過小評価されてはならない。職業リハビリテーションは、経済的にも、社会的にも、おこなうに値することだということを、当局や一般大衆に実証するためにも、徐々に進めることも、また必要である。このスタートは、比較的簡単なケースで、社会的・経済的観点から見て、早急に、よい結果を示すものから実施することをすすめる。これは、最初は、ある範囲の、またはあるタイプの障害者に集中すべきであるという意味である。たとえば傷痍軍人、産業災害ケース、整形外科的ケースあるいは、盲人というぐあいである。年齢もまた、考慮すべきかもしれないが、おそらく若年者のほうが、老齢者より選ばれやすいはずである。

 開始をするための、他の方法としては、なんらかの形で、すでに公的援護を受けている小グループ、たとえば、肢体不自由児の養護学校の中とか、補装具診療所、国立病院等に存在していないかどうかを考慮してみることである。職業リハビリテーション・サービスは、これらの人たちに対する、当面のサービスの自然のなりゆきとして、その必要性が生じてくるものである。

 雇用のための適切な準備は、欠くべからざるものであるが、高価で手のこんだサービスとか施設などは、必ずしも必要ではない。真に意味があるのは、障害者の援助に投入される熱意と努力なのである。

終わりに、ILO勧告第99号の最後の2節を引用する。

第41節

(1) 職業リハビリテーション・サービスは、それぞれの国特有のニードと実情に合わせられるべきであり、これらのニードや実情に照らすとともに、この勧告で述べている原則にしたがって、漸進的に発展させられるべきである。

(2) 漸進的発展の、主要目標としておかれるべきは、

(a)障害者の労働の資質を実証したり、向上させること。

(b)可能な最善の方法で、彼らに対する適切な雇用機会を増進すること。

(c)訓練や雇用に関して、障害から生ずる差別を克服すること。

第42節

 職業リハビリテーション・サービスの前進的開発は、希望すれば、国際労働機関の援助により、推進することができる。すなわち、

(a)可能なところでは、技術的助言援助をおこなうこと。

(b)いろいろの国で得られた経験の、総合的・国際的情報交換を組織だてること。

(c)そのほか、各国のニードと条件に応じたサービスの、組織化と発展、あるいは、必要な訓練などを目ざした、国際的協力という形式によるもの。

第2章 職業的評価と作業適応訓練

1 評価

 障害者が、雇用のために適切な準備ができたり(たとえば、職業訓練などにより)、再就職ができたり(たとえば、職業あっせんと追跡指導などにより)するためには、事前に、その人の知能、才能、素質、雇用の可能性等に関して、評価されなければならない。

 評価は、多くの方法でおこなうことができる。

(1) 特殊作業所、または、センターにおいて

(2) リハビリテーション・チームにより

(3) 職業指導官が単独で

(4) 特別職業あっせん官が単独で

 評価は、多くの形でおこなうことができる。

(1) 複合的な、あるいは、単一な方法により

(2) 口頭で、あるいは、記述により

(3) 理論的に、あるいは、実際的に

(4) 学問的に、あるいは、実技的に

(5) 短期間に、あるいは、長期間で

(6) 宿泊で、あるいは、通いで

(7) 評価単独で、あるいは、他のサービスとともに

など。

 評価は、ときに、一面的に、ときに多面的におこなわれることが必要であり、また、可能であろう。

(1) 医学的側面――障害によって生じた、機能的ないしは、生体的限界。

(2) 生理学的・身体的側面――活動力や作業能力に関する実際の身体動作。

(3) 心理学的側面――知能、機械的構成的適性、興味、等の評価。

(4) 職業的側面――技能の水準、適性、作業能力等を評価する。

 この種の評価により、次の各点が可能となる。

(a)実際の作業条件下での、作業動作を評価すること。

(b)作業耐性の程度を、明らかにすること。すなわち、過度の疲労なしに働ける時間や、騒音、せかすこと、雑踏などに耐えること。

(c)自信、独立心、性格的適切性などの向上を助けること。

(d)障害者が、自己の可能性を認識し、受容することを助けること。

(e)職業的方向づけを助けること。

 かなり高率のケースが、医学的および、職業的評価を必要とする。しかし、選択方式職業あっせんを実施するうえに、全員が、一律に、身体的・心理学的評価を必要とするとは限らない。

2.作業適応訓練

 障害者を就職させることは、どんな状況下でも容易なことではない。雇用機会の乏しい場合には、その人が雇用場面にはいるときまでに、当然期待されるべき状態に達しているときにのみ、健常者と対等に競争することを望むことができる。このためには、人によっては、なんらかの再適応訓練が必要であるかもしれない。このことは、よくありうることであるが、長期間の病気後、障害者になった人、事故に会った人、長期間の失業者、あるいは、全く働いたことのない人等には、とりわけ必要である。

 再適応訓練の目的は

(1) 失った自信を回復する。

(2) 意欲や自信を作りあげる。

(3) よい職業習慣を教えこむ。

(4) 作業耐性を増強する。

3.職業評価と作業準備センター1

  評価と適応訓練のための設備を用意するために、いくつかの国では、特別のセンターを設けている。そのうちのいくつかは、全面的に、あるいはもっぱら、病院や保健サービス機関に統合されているものもあり、また、ほかには、労働省の職業サービスの責任でおこなわれているものもある。大部分は、全障害者を対象にしているが、少数のものは、たとえば盲人だけを、というように、特定の障害者のために設けられている場合もある。

 この種のセンターの、基本的諸特徴を若干あげると、

(1) 健全な規律がなければならない。

(2) ふんい気は、実務的であり、産業的でなければならない。

(3) 個人をコースに合わせるのではなく、設けられたコースが、各個人のニードに合うよう、調整されなければならない。

(4) 医学的管理、治療訓練、職業評価、職業指導、社会福祉的措置、職業検査、職業あっせんなどが、専門的にも人物的にも、それぞれ必要な資格のある人の手でおこなわれるようにすべきである。

 職業評価と作業準備センターの目的は、

(1) 障害者が、作業習慣を身につけたり、回復したりするのを助けること。

(2) 再就職の過程の中で起こりうる、あらゆる社会的問題に対して、援助や助言をすること。

(3) 身体的再適応訓練をおこなうこと。

(4) 作業能力に関して、医学的・身体的・心理学的・職業的評価をおこなうこと。

(5) 障害者の意欲を育て、能力を自覚させ、自己の将来について、積極的に考えさせること。

(6) 何よりもたいせつなことは、コースの終了時には、障害者を、雇用や、雇用へそなえて適切な職業訓練に配置することである。

 職業評価と作業準備センターのコースから、利益をうるためには、対象である障害者は、

(1) 就労年齢にあるか、それに近いこと。ただしコースの終了時には、就労のためには高齢すぎないこと。

(2) コースの終了時には、仕事に対する身体的・精神的諸能力が身につくか、つく見込みがあること。

(3) コースの終了時には就業できるという合理的な見通しがあること。

(特注)コースの終了時には、職業訓練がともなうにしても、ともなわないにしても、当人が適職につくことができなければ、コースの効用は無に帰してしまうのである。

4.評価のためのチームアプローチ

 職業評価と作業準備センターで用いられている諸方式は、評価や再適応訓練における、種々の局面とともに、さらに、リハビリテーションへのチームワークというものも、実地に示してくれる。個々の障害者に対する、最終的な評価と再就職に関する勧告は、協同的な尽力によるものでなければならない。

 すなわち、チームメンバーは、それぞれに貢献するとともに、その貢献を全体との関連において見なければならない。個々のケースは、あらゆる利用可能な情報が入手でき、すべてのチームメンバーが出席しておこなわれるケース会議で討議されれば、チームの各メンバーの個々の努力を、最善の形で総合することができる。

 おのおのの専門的サービス、すなわち、医学的・社会的・心理学的・職業的領域の特有の情報に加えて、この種のケース会議に提出されるべきいくつかの要点を述べると、

(1) 職員や他の障害者への反応や関係について。

(2) 他の要請に注意を払う能力や、依頼に対する反応。

(3) 障害に対する態度。

(4) 家族関係。

(5) 監督や指示に対する反応。

(6) 忍耐力や特定の課題を達成する能力。

(7) 以前の活動性と習慣。

(8) 将来に対する希望と不安。

 これらの諸点はすべて、障害者の再就職について、チームの最終的勧告を作りあげるのに関係してくる。

 普通、ケース会議のメンバーから提出される情報は、次の諸点を含んでいなければならない。

(1) 医師――作業能力に関する医学的・身体的限界について。

 観察されるべき警戒事項や、避けられるべき危険事項、医学的展望について。

(2) 心理学者――心理学的テストのレポート、適切な職業分野、適性、興味、意欲、教育および技能の水準について。

(3) 治療訓練士――敏しょうさと動作の程度、登る、腰を曲げる、投げる、等の能力について。

(4) 作業場責任者――定められた職業検査成績、個人観察、作業場責任者の週間報告、等について。

(5) ソーシャャルワーカー――社会的側面のすべてについて。

(6) 職業あっせん員――職業歴、前職への態度、雇用機会、職業訓練に対する希望や見込み等について。

5.むすび

 すべての障害者が、上述のすべての設備を必要とするわけではない。しかしながら、障害者がそのあるべき姿、すなわち、個々の才能、適性、傾向を持った完全な個人として、過ごさなければならないとするならば、そしてまた障害というものは、その人の就業に影響を与えている諸要因中の一つに過ぎない(すなわち個人として、健常者との唯一の相違点は、なにがしかの障害の存在に過ぎない)一人の人間として、遇されなければならないとするならば、上述のすべての面にわたる配慮がなされなければならないが、この点は、特に強調されるべきである。

第3章 障害者の職業指導

1. はじめに

 職業指導とは、個人の諸特性と、その就業機会への関連を考慮しつつ、職業選択上の諸問題を解決するのを援助することである。職業指導は、自由で自発的な選択にもとづくものであり、その第一の目的は、国の人的資源の最高度活用にも適切に配慮しつつ、個人が職業を通じて、自己の啓発と満足を得るための、じゅうぶんな機会を提供することにある。

 障害者の職業指導といえども、健常者の場合となんら異なるものではない。ただ、ときに入念に時間をかけ、あるいは長期間を要するという程度にすぎない。

2. 職業指導の過程

 ILO勧告第99号第4節によれば、職業指導の過程は、個々のケースに応じて、下記項目中のいくつか、あるいは、すべてが含まれなければならない。

(a)職業指導官による面接。

(b)職業経験記録の検討。

(c)学校教育、およびその他の教育や訓練記録の検討。

(d)職業指導目的からの医学的診察。

(e)能力や、適性に関する適切な検査。また、望ましい場合は、その他の心理学的諸検査。

(f)本人、および家族歴の調査。

(g)諸適性、および適当な作業経験や試行、あるいは、類似手段による諸能力の開発に関する調査。

(h)必要とみられるすべてのケースについて、言語もしくは他の方法による、職業技能テスト。

(i)職業所要条件に関する身体能力の分析、およびその能力改善の可能性。

(j)本人の資格、身体能力、適性、興味、経験および職業市場の需要などに関連した雇用機会、訓練機会の情報の提供。

 これらの諸項目のいくつかは、実際には、評価の一部であるが、このようにして得られた情報は、障害者の助言に利用できるよう職業指導官に伝達されなければならない。

 端的に言えば、職業指導は次の諸項目からなりたっている。

(a)就業の可能性に関連した、あらゆる観点から何事によらず障害者について発見をすること。

(b)適する職業、あるいは、訓練機会に関する情報を提供すること。

(c)その人に最適とみられる職業の将来性について助言をすること。

(d)再就職を援助すること。

3. 面接2

 面接は、職業指導過程における最も重要な要素である。

(a)面接の目的

 障害者の面接の目的は、次の三点である。

(1) 面接者が、求職者、およびその人の問題の全体像をつかむのにじゅうぶんな情報を集めること。

(2) 利用可能なサービス、すなわち、求職登録の継続、雇用や訓練機会に関する情報を提供すること。

(3) 現在、および将来の職業需要や職業訓練機会に関連した、求職者の資格について詳細に検討することによって、再就職への助言をすること。

(b)面接場所

 職業指導所、職業安定所、あるいはリハビリテーション・センター等のなかの一室は、おそらく通常、使われる場所であろう。しかし、下記の場所においても、面接をおこなうことができる。

(1) 病院――面会時間、回診、食事時間等の病院日常業務に合わせるよう留意すること。

(2) 求職者の家庭――条件は良悪がある。最善の方法を見つけ、家族や友人、その他から生ずるさまたげを排すること。

(3) 雇用主の建物――ふつうは、困難なことが多いので、できれば避けること。求職者が、障害者であるという事実に過度に注目が集中するので、もし可能であれば、事務所に呼ぶのが良策である。

(4) その他の場所――ケースの実情に応じて選ぶ

(c)面接の実施

 念頭におくべき要点としては、

(1) 適切な準備を前もってしておくこと。

(2) 適切に応接のとりきめをしておくこと。

(3) 場所は、プライバシーの保てること。

(4) 面接者の親しみのある態度、すなわち、障害者をじゅうぶんくつろがせること。

(5) 面接者による面接場面の調整、すなわち、柔軟で、簡明であること。

(6) 記録は、面接のさまたげにならないようにしておこなうこと。

(7) 面接の終了にあたって、障害者が、そこで何がおこなわれたか、わからないままであったり、自己の立場、その後おこなわれること、決定されることなどの理由が、理解できないままで終わることのないようにすること。

4. 職業情報

 職業指導官が、障害者に、現実に根ざした助言をおこなうためには、職務や、職業所要条件、および訓練機会等に関する適切な知識を持っているか、あるいは、このような情報について何かを参照することができなければならない。

 職業情報の表示に要する基本的な方法のいくつかをあげると、

(a)定義づけ――ある職業のおもな作業を、手短かに系統記述すること。

(b)職務分析――おこなわれる仕事に関する系統的かつ、詳細な情報(何が、いかにおこなわれるか)、身体的・精神的所要条件と作業条件など、すなわち、使用される道具、機械、職務に必要な特定の技能とその習得方法などについて記述すること。

(c)職業解説――特定の職業の標準的・平均的様相(職務分析よりも、さらに詳細な情報)を与えるものであり、また、次の項目の情報が含まれている。

(1) 教育的・職業的訓練機会について

(2) 経済事情について

(3) 有望性と将来の市場需要について

(d)職業分類3 ――それぞれの職業の基本特性に応じて、職業群にグループ分けすること。すなわち職業群の基本型とは、遂行される作業が密接な関連性を持った諸職業で構成されている一つの集まりのことである。

 職業市場や、職業訓練機会についての、現在あるいは長期にわたる情報は、人的資源担当局、雇用サービス機関、職業教育担当局等より入手することができる。

第4章 職業訓練と職業再訓練

はじめに

 職業訓練は、障害者が就業できるよう援助するための一方法である。それ自体が目的ではなく、目的へのすなわち適切な就業への手段である。

1. 訓練の基本的諸原則

(1) もし障害者が、訓練を受けなくても適当な就業のできる場合は、職業訓練の必要はない。

(2) 障害者の訓練に適用される諸原則、対策および方法等は、医学的、かつ、教育的条件の許すかぎり、健常者のそれに準ずるべきである。

(3) 可能であれば、障害者は健常者とともに、また、同条件下で、訓練を受けるべきである。

(4) 障害の性質によって、健常者とともに訓練を受け得ない人の場合は、特別の訓練が準備されなければならない。

(5) 訓練は、障害者が健常者と同等の立場で、正規に就業できる技能が身につくまで、継続されるべきである。

(6) 訓練は、訓練職種または類似職種への就業にまで至らなければ、徒労に終わるものである。

2. 計画的な訓練プログラム

 訓練は、産業界の需要に歩を合わせておこなわれなければならず、訓練生は原則として、産業界への受け入れが確保されなければならない。これを達成する方法は、健常者のための計画で利用されているものと同様である。すなわち、

(1) 職業市場情報を研究すること。

(2) 方針の設定において、雇用主、および労働者の組織との協力を保持すること。

 訓練方針は、障害者の医学的リハビリテーション、社会保障、職業指導などに関連のある諸機関相互の協同という基盤の上に、組織され、実施されなければならない。

3. 訓練コースの諸型

(1)  青少年層は、健常者と同方針により、訓練や職場実習を受けるべきである。もし、障害者の教育が、健常者の場合よりも高年齢まで続くことがあれば、訓練の開始も遅らせることがよいであろう。

(2) 成人には、一般的にいって、比較的短期間の速成訓練が要求される。期間は職種により異なるであろうが、大多数は一年以上は必要としない。

(3) 訓練は、学力、適性、性向、などの種々の水準に応じて受けられなければならない。したがって、一般の大学、工業大学、商業大学、諸種の学校、訓練センター、特殊作業所、企業内等においても可能でなければならない。

(4) ある場所には、とりわけ、長期間の医学的、あるいは病院的処置の残っている場合には、医学的処置の終了する前から、訓練を有効に開始する場合もありうるであろう。

4. 訓練に対する職種の選定

 訓練は、訓練種目内での就業に至らなければならない。したがって、職種の選定上、下記の諸点は、重要である。

(1) 職種は、その国にとって、経済的に適切なものであり、就業機会のあることが明確なものでなければならない。すなわち、それらは、熟練業種における国家的需要と、なんらかの関連を持っていなければならない。

(2) 農業国や農村性の強い国々では、農業あるいは、農村的職種が、まず第一の可能性として、考慮されなければならない。

(3) 障害者には、訓練を制限したほうがよいという職業もあるであろう。

(4) 訓練は、開放雇用、自営、協同事業、保護雇用等を目標にすることができる。

(5) 訓練職種は、常に、再検討されていなければならない。

5. 訓練の技術と方法

(1) 訓練は、可能なかぎり産業や商業の実地に即した条件下で、効率的にてきぱきとおこなわれるべきである。そこには、適当な規律がなければならない。

(2) 訓練時間は、正規の労働時間と同等に定められるべきである。

(3) 各職種の訓練計画は、詳細にわたって、つまり操作の系統的分析、技能、知識、および必要な安全要因などについて、雇用主と労働者の代表に検討してもらうべきである。

(4) 各訓練コースの正規の期間は、上記産業の両代表と、次の各点に留意しつつ、検討し、同意をうるのがよい。

(a)到達すべき技能の水準。

(b)労働者を、生産活動にどの程度早急に送らなければならないかの必要度。

(5) 可能なときには、実地の就業に先だって、実際の生活活動場面を利用して、訓練をこころみるのがよい。

(6)  訓練や職業あっせんの事情により、訓練生は、個人でも、小グループででも、一団としてでも、受け入れられることができる。この点は、訓練種目ごとに、産業界の労使双方の同意をうるべきである。

(7) 訓練コース自体の中にはなくても、必要な理論的かつ補足的訓練があれば、訓練生の経済的負担をかけずに、じゅうぶん配慮すべきである。

(8) 訓練生については、適切な管理がおこなわれなければならない。

(9) ある種の障害グループ、たとえば、盲人やろう者に対しては、特別の方法と技術が必要であるかもしれない。

(10) 訓練期間中は、必要な医学的管理が配慮されていなければならない。

6. 訓練適格者の選定

 適切な選考は、順調な訓練計画には必須である。選考のための要点を若干あげると、

(1) 志望者は、それぞれ、特定のコースから裨益するのにふさわしい教育的背景、職業経験、あるいは、素質、適性、性格などを持っていなければならない。

(2) 志望者は、実際の仕事の身体的要件に適合する能力を持っていなければならない。

(3) 志望者は、訓練内容を吸収し、新職業を遂行するという決意と、必要な順応性を持っていなければならない。このような資質は、重度な障害といえども、しばしば、その埋め合わせをすることができるものである。

(4) もし障害者が、すでにある程度の技能を持っている場合は、可能なかぎり、また障害の限度内で、同種の技能が要求されるコースに配置するとか、あるいは、前職にごく近似した職種に配置されるなりしなければならない。

(5) 訓練の終了時に訓練生が居住している、あるいは、居住する予定の地域内に、当該職種で就職できるというしかるべき見込みがなければならない。

(6) 訓練適格者の個人的性向も重要であるが、そのことが適合性とか、就職の見込みなどの重要な要素を除外して、選考に影響するようなことがあってはならない。

(7) 訓練科目の選択にあたっては、ちょうど選択方式職業あっせんと同様に、訓練生の持っている特定の資質や適性が、実施できるかぎり、訓練に対して最高度に活用できるようにしなければならない。

7. 職業あっせんと訓練生の追跡指導

 訓練は、それだけの価値が発揮されるためには、一つの統制された職業リハビリテーション・プログラムの部分となっていなければならないし、したがってまた、訓練職種で選択方式職業あっせんが達成されなければならない。

 訓練生を、訓練職種に永続的に定着させるためには、なんらかの追跡指導の組織が設けられるべきである。

8. 訓練プログラムの運用

 職業訓練は、職業リハビリテーション・プログラム中では、最も経費のかさむ部分である。したがって、それには、健全・適切な財政的裏づけを必要とする。

 開発途上国では、訓練は社会保障機関からの援助とともに、政府による全面的支持と援助を必要とすることは、経験の示すところである。

 障害者の訓練対策は、保健、教育、訓練の国家プログラムに統合されるべきである。

 障害者が、職業訓練施設を最大限に活用できるよう、経済的あるいは、その他の必要な援助がおこなわれるべきである。

 訓練が終了した場合は、訓練職種における再就職が、経済的援助や、適切な用具の支給などによって、促進されなければならない。

(参考、ILO勧告第99号第5~9節、および第12~14節)

第5章 障害者の職業あっせん4

1. いとぐち

 再就職は、職業リハビリテーションの究極的目標である。それは、普通には、選択方式職業あっせんによって達せられる。

2. 選択方式職業あっせん

 障害者に対する選択方式職業あっせんサービスといえども、すべて正規のサービスと援助方式とを用いるのであるが、ただし、それは、個々の障害者の持っている、既知のあるいは、細心に評価されたニードに合うよう、調整をする。したがって、これは、評価、職業指導、職業訓練などの、次の段階に位置するもので、下記の三種類の過程を含んでいる。

(A)求職者についてよく知ること

(B)職務についてよく知ること

(C)求職者を職務にマッチさせること

A 求職者についてよく知ること

 障害者の処遇には、特有の技法が必要なことは一般に認められていることであるが、そのため障害者が、一般の人とはかけ離れた人であると考えるべきではない。職業あっせんの見地からは、何がしかの障害の存在ということが、障害者と健常者との間の意味のある差異に過ぎないのである。

(a)障害者に対する誤った見解

 職業あっせん官は、次のような誤った考え方によって、非常にさまたげられることがある。

(1) すべての障害者は、明朗な性格への補償化傾向を持つとか、逆に、障害者は、悲痛で、怒りっぽい、などということ。

(2) 特定の障害者には、特有の性格傾向がみられるということ。

(3) 特定の障害者は、一律に、特有の補償傾向を持っているということ。

 もし、個々の人間にとって、初めから、障害というものを、全人的パーソナリティ中の一要因に過ぎないと見なすならば、これらの障害者に関する誤った見解が、職業あっせん業務の中にはいりこむことは、許されないことである。

(b)障害者に関して必要とされる情報

 職業あっせんには、次の情報が必要である。

(1) 学歴と職業経験―健常者の場合に、必要とされる情報と同じもの。

(2) パーソナリティ、その見通しと一般的な態度。

(3) 職業あっせんをさまたげるような、社会的問題点。

(4) 特別の評価結果、たとえば、職業指導とか、職業評価と作業準備訓練センターのコースの結果など。

(5) 職業訓練の結果

(c)障害と、その就業能力への影響に関する情報

 障害の存在は、一つの、事実上の問題である。しかし、作業能力への影響は、障害の程度や、本人の正常なあるいは潜在的な職業能力に応じて、異なるものである。一般的に、このような問題は、医学的評価のなかに属するものである。

 医学的助言は、たとえ、障害者が医師の助言以上のことをやりたがったとしても、まず当の医師に相談することなしに、無視してはならない。

 職務についてよく知ること

 これに用いられる方法は、既得の情報次第で変わってくる。たとえば、健常者の雇用部門においても、各種職業の所要条件をよく知るということは、同様に職業あっせんの手続き上、重要な側面である。しかしながら、障害者のために、どのような方法がとられるにしても、必要な追加されるべき情報としては、その職業には、どんな身体活動が含まれているのか、そして、その職種の環境的条件は、どのようなものかということである。

 詳細な職務分析、あるいは職業分類が、もしすでに得られているならば、もちろんそれは、有益なものであるが、しかし、この種の助けがないからといって、職業あっせん官は、自分の仕事をとどこおらせる必要は少しもない。すなわち、必要な情報は、他の方法、たとえば、地域の雇用主とよく接触を保つことによるとか、職務評価のために雇用主を訪れたりすることによるとかの方法で入手できるからである。このような方法で評価された、各種職務の簡単なカード式索引記録は、有効な覚え書にもなるし、新職業指導官によって、再びおこなわれなければならない仕事の根拠を、蓄積することにもなる。

C 求職者を職務にマッチさせること

 好調な職業あっせん業務は、個々の障害者はその人特有の好悪、資格、経験、素質などを持った一個の人間であり、ほとんどの障害者は、障害よりも多くの能力を持っているものであること、そしてまた、きわめて少数の職務にしか、二、三種類以上の身体機能は必要ないのだ、等々のことがらを認識することにある。技術的にいえば、その人の持っているものと、職務の所要条件とを、求職者も、雇用主も、ともどもに満足のゆくようにマッチさせることにある。これがリハビリテーション業務への、正しく、そして積極的な取り組み方であり、その人の才能を、強調点としつつ、障害というものを意に介しないようしむけることで、雇用主および求職者の手助けをすることになる。

 障害者の職業あっせんに関する原則を、若干あげると、

(1) 必要かつ、実施可能な改善はおこなうとして、求職者は、その職務に必要な身体的所要条件を遂行できなければならない。

(2) その人の適度の知能、学力、資格、技能等々を利用しつつ、職業への配置をすることに、ねらいがおかれるべきである。

(3) 求職者自身に危険があってはならない。

(4) 同僚の安全をそこなってはならない。

(5) 職業あっせんは、職業リハビリテーション・プログラムの、理にかなったなりゆきとして、おこなわれなければならない。

(6) 職業あっせん官は、特定の障害群には、特有の職種をというふうに考えることを、避けるべきである。

(7) 職務の条件や、作業環境は、職務そのものと同等にたいせつである。

(8) 就業における障害者の隔離は、できれば、避けるべきである。

(9) 職務への配置は、適性にもとづいておこなうべきで、同情によっておこなわれてはならない。

(10) 医療業務では、通常、医学的情報は極秘事項とみなすことが要求される。したがって、雇用主に対しては、就業能力上の制限や、避けるべき危険事項を通俗的に話すだけでよい。

3. 職業あっせん官の役割

 職業あっせん官の役割を、きわめて端的にいえば、障害者を雇用にあっせんすることである。しかしながら、それには、いくつかの要素が含まれている。

(1) 健常者のための就業サービスがあり、そして、選択方式職業あっせんが別途のサービスとしておこなわれている場合は、求職登録中の特定の障害者に合うような空職登録に精通するために、これらのサービスと連絡を密にしておくこと。

(2) 地域の職業市場と連絡を密にすること。

(3) 下記の各項の一部あるいはすべてを利用して、障害者に対する雇用機会を開拓すること。

(a)雇用サービスがあれば、そのサービス内に登録された健常者の空職から捜し出す

(b)新聞広告

(c)業界紙

(d)障害者のための民間機関

(e)雇用主や労働組合等の組織

(f)商工会議所等

(g)障害者個人に代わって、雇用者個人に交渉をする。あるいは、一般的に広く職捜しをする。

(4) 記述のとおりの、慎重に職務へマッチさせる方法によって、雇用へ進ませる。無計画なあっせんは、正規に登録された空職に対してであっても、不満足な結果に終わるであろう。雇用主は、求職者に関する率直な評価を提供させるべきであり、また、求職者は職務に関する正確な評価を与えられるべきである。したがって、障害者はある場合には面接のため、職業あっせん官に同行するかまた、他のなんらかの形で、特に紹介されなければならないであろう。

4. 職務への導入

 長期間病気だった人は、だれでも、無為の習慣におちいりやすいものであることを知っている。

 長らく、不就業だった人とか、職業経験の全くない障害者についても、全く同様のことがいえる。たとえ、特定のリハビリテーション・コースを経ずして就業した障害者にあっても、このような形でも可能なことは多くの経験が示しているが、定着のためには、日時が必要であるし、またすぐには、その人最高の能力は、発揮できないものである。この時期には、雇用者は、新労働者が、くつろいだ気持になるようしむけたり、困難事をとり除いたりすることにつとめなければならないし、同時にまた、彼が障害者であるという事実に、過剰な注意が集まることを避けるよう手助けをすることも必要である。同僚の労働者も同様に必要とされる、ちょっとした個人的な助力、すなわちさりげない態度や、また、特定の障害に対して、恐怖や懸念することなく、彼らの美点を認めて、障害者を受容することなどの助力が可能である。

5. 再就職を確実にするための追跡指導

 ILO勧告第99号は、追跡指導の方法は、次の要領によるべきであるとしている。

(a)一定の職務へのあっせん、あるいは、職業訓練または、再職業訓練サービスが、満足なものであったかどうかを確めたり、また、就業カウンセリングの方針と、方法について評価をすること。

(b)障害者が順調に仕事に定着することをさまたげる隘路を、可能なかぎりとり除くこと。

 以上のような方法によって、次の諸点が保証される。

(1) 障害者は、自分に対する職業あっせん官の関心が職業あっせんの達成された途端に、終わってしまうものでないことを認識する。

(2) 順調な就職をさまたげる、どんなささいなことがらでも、改善する機会ができる。

(3) もしあっせんが、順調な就職に結びつかないときには、代わりのあっせんをすることができる。

(4) 職業リハビリテーション・サービスの評価に資するための情報が集められる。

 追跡指導は、文書での質問により、地域の事務所を通じて、電話で、あるいは、その他の便宜的な方法でおこなうことができる。効果的で、公平な追跡指導のためには、労働者、雇用主の双方の状況について評価をおこなうことが望ましい。

 追跡指導は、ある程度、定着への合理的な時日経過のあとに始められるべきであり、労働者が、定着し終わったとみられたら、終了すべきである。その折に、労働者には、将来問題が生じたら、職業あっせん官に連絡すべきむねを話しておかなくてはならない。

 職業あっせん官は、自分の追跡指導結果を研究し、そうすることによって、自分自身のあっせん技術に関する評価をおこなうべきである。

第6章 障害者の就業

1. 障害者の職業あっせんの過程において起こりやすい隘路

 障害者の就業機会の範囲が、どの程度実地に移されるかは、各国間で相違するであろうが、多くの国々では、下記の一部、あるいは全部の隘路が打開されなければならないことは、おそらく間違いないであろう。

(1) 一般社会の態度 (2) 国の経済事情

(3) 雇用主の反対 (4) 労組の態度

(5) 障害者自身および家族の態度

2. 障害者に対する職業的可能性の範囲

A 障害者に対しても、遂行可能な仕事については、原則として、健常者と同等の機会が与えられなければならない。

B 障害者に対しても、健常者が、雇用主から自分の選択にもとづいて仕事を受け取るのと、全く同等の機会が与えられなければならない。

C 障害者にあっては、その人の障害ではなく、才能や作業能力のほうが、力説されなくてはならない。

 障害者一般、あるいは、特定の障害別の適職表というものは、今や限度があり時代遅れの方法でもある。したがって、障害者の職業範囲も、健常者の場合と全く同等であり、およそ下記の各項に分類することができる。

A 正規の競争的条件下の雇用―工場、事務所、商店、政府機関等

B 自営

C 協同事業も含めた手職業

D 第4番目の分類にはいるべき、重度障害者のための保護雇用

3. 正規の競争的条件下の雇用

(1) 雇用機会の範囲

 雇用機会は、国内に存在する全職業範囲にわたって、できるかぎり幅広く用意されなければならない。

(2) 雇用機会の拡大

 障害者に対する雇用機会を拡大するためには、環境条件は一つのたいせつな要因である。できれば、障害者は、よく慣れた環境の中へ配置されるべきである。障害者の就業資源として、下記の各点は、じゅうぶん念頭におかれなければならない。

 都会地域―手職業、大小の工場内の仕事、公共機関内の仕事。

 農村地域―農村むき手職業、農業、および協同事業。

(3) 特別措置

 開放雇用での、障害者の就業を促進するために必要とみられる特別措置としては、次のようなものがある。

(a)法的制度-雇用主に対する義務制(この点は、本章中で後述する)。

(b)作業補助具の利用や、作業条件の調整。

(c)通勤費の補助。

(d)雇用機会の豊富な地域への移動費補助。

4. 自営業

 小規模な商業とか、独立事業の順調な経営は、次の各要因に左右される。

(1) 事業能力。

(2) 特定の事業形態に関する知識。

(3) 開業のためのじゅうぶんな資本。

(4) 熱心に働こうという意欲、および能力。

(5) 生産品の需要に関する知識。

(6) 外交能力。

(7) 他に学び、自己の失敗からも利する能力。

(8) 特定の仕事についての熱意と責任感。

5. 協同事業を含めた手職業

(1) 手職業

 好計画としての基本条件を若干あげると、

(a)原料や製品の、適当な移送機関のあること。

(b)よい販売組織のあること。

(c)じゅうぶん熟練した、技術監督者がいること。

(d)それぞれ異なった技能と適性を持つ障害者に見合うような作業が、多種類にあること。

(2) 障害者のための協同事業

 できれば、既存の、健常者の協同事業に加入すべきである。でなければ、障害者のための協同事業が創設されなければならない。

 政府は、経済上、運営上の両面の援助を与えることが望ましい。

6. 保護雇用

 保護雇用は、障害の性質上、あるいは、重度さのために、正規の就業に適さない障害者に対して用意されなければならない。保護雇用は、国によって相違する数々の要因に左右されるような、相対的事象であるが、その要因としては、

(1) 障害者に対する地域の態度。

(2) 不就業者や不完全就業者の度合い。

(3) 職業リハビリテーション・サービスや一般の人的資源サービスの発達程度。

(4) 工業化水準。

(5) 経済的・社会的状況。

(6) 人口密度、都市であるか農村であるか。

(7) 地勢、交通等々、である。

A 保護雇用の形態

(1) 開放雇用への就業や復職が不可能か、あるいは、その見込みのなさそうな人々に対して、永久就業の場として計画された保護工場。

(2) 身体的、心理的、あるいは、地理的理由により、保護工場へ定期的に通えない人や、保護工場のない場合のための、工業的な、または、手職業による家庭就業計画。

B 用意されるべき諸サービス

 理想的条件下の保護工場としていえば、下記の諸サービスが、設けられねばならない。

(1) 医学的管理 (2) 社会的サービス

(3) 評価と適応訓練 (4) 職業指導

(5) 職業訓練 (6) 職業管理

(7) 開放雇用への進出や復職を見込んだ、漸進的就業

 以上のような洗練された方法は、ほとんどの発展途上国における保護工場の、現有能力を上まわるもので、実際には、もっと単純化された方向で実施されなければならないであろう。

C 保護雇用計画の価値

 障害者に対する就業サービスや施設のない国にあっては、保護雇用計画は、障害者の就業能力に関する、公共啓発のための好個の手段になる。また、これらの計画は、のちのちの職業リハビリテーション諸サービスの制度化への、踏み台を提供することにもなる。

7. 障害者の雇用に対する特別措置

 法的制度の施行は、政府が障害者への雇用機会の提供を保証するために開かれた一手段である。この種の措置は、多くの国々で、過去50年以上にわたって実施されてきたものであるが、通常、下記の一つのみ、あるいは、それ以上の諸形態がとられている。

(a)雇用主に対して、一定数、あるいは、割当数だけ、障害者を雇用する義務を課すること。

(b)特定の産業、あるいは、事業内のある職種を障害者のために留保すること。

(c)障害者のために、特定の位置を留保すること、ないしは、特別優先権もしくは、選択権を割り当てること。

 法令制定に対する賛否

(1) 賛成論

(a)障害者の、雇用可能性の理念を、国家が、原則的に支持していることを明示できる。

(b)障害者雇用の原則を、雇用主に紹介する手段になる。

(c)一般的に言って、雇用主は、たとえば障害者の雇用というような一定の措置を、法令によって求められれば、すべての会社は、同等に遇せられ、なんら不明朗な差別がおこなわれていないことを知ることによって、意を安んじることができる。

(d)障害者に対する、特定職種の留保ということは、それがなければ、熟練の必要な、あるいは労力の必要な仕事の、遂行能力を欠くことにより、不就業にならざるを得ないような障害者に対して、単純労務への雇用機会がもうけられる。

(2) 法的制度への反対論

(a)義務制は、原則的に誤りである。

(b)このようなかたちで就業した障害労働者は、他に比し、非能率的である。

(c)このようなかたちで就業した障害者は、自分が、不当な注目の的になっていると感ずるであろう。

(d)業界の衰退もしくは、その他の理由で、ひとたび、人員余剰が生じたときには、法的義務制といえども、雇用主に対して、障害者の解雇を抑制できる見込みはない。

B 適切な義務的措置のための諸要件

 法的措置の順調な運用のための要件は、次のとおりである。

(1) 措置の実施にあたっては、すでに就業ちゅうの健常労働者の配転は、避けるほうがよい。

(2) 障害者の意味に関し、単純明快な定義が必要であり、効率的に登録するための組織が必要である。

(3) 雇用主が法的義務を果たすための援助をする専門の就業サービス制度がなければならない。

(4) なんらかの形による査察、もしくは、励行策が必要である。でなければ、法的措置といえども機能が発揮されず、望ましい結果に導かれないであろう。

C ある国々で採用されてきた法的措置

 過去数年間にわたって採用されてきた、各種の法的形態には、次のようなものがある。

(1) 割当雇用制度

 この制度に使われている一般原則は、すべての雇用主に義務づける場合や、定められた最低雇用者数以上の事業所について、定められた最低数、あるいは、最低比率数だけの障害者の雇用を、義務づけるものなどがある。

(2) 指定職種制度

 この種の措置とは、ある職種は、特に障害者に適しており、彼らのために留保されなければならない、という原則を肯定することにある。

(3) 特定位置の専用制度

 この制度の、指定職種制度と異なる点は、この種の措置のほとんどが、特定産業あるいは、公共事業所における特定の位置を、障害者の専用に供していることである。

(4) 優先割当制度と選択制度

 この種の措置のほとんどは、独特の問題点を有することが指摘された障害者、たとえば、傷痍軍人、盲人、労働災害者などに対して、職種の優先権、あるいは、選択権を与えるものである。

D 義務的法制下の就業サービス、あるいは職業リハビリテーション・サービスの活用と乱用

 雇用主に対する義務制とはいっても、どのようなかたちをとるにしろ、障害者に雇用機会を提供することがねらいなのであるから、その運用や励行策は、雇用主に無理じいされてはならない。でなければ、職業リハビリテーション・サービスや、一般の雇用サービスに対して、かえって、反感を生ぜしめることになるからである。この点を念頭におくならば、法的義務の励行を担当する職員は、職業あっせんサービスから分離すべきことが論議されてもよいであろう。他方、実際経験に根ざした強い意見としてみられるのは、この制度が協調的精神をもって運用されるならば、割当義務の励行策のために雇用主を訪問することによって、障害者向きの空職状況を把握することができる、というものである。

E むすび

 義務雇用制が、その国に必要か否かということは、もちろん、その国の国情に左右される。しかしながら、それが必要とされる国においてさえ、障害者の雇用に対する随意制度よりも、批判を受けやすいものである。それは、義務制そのものに根ざしたものばかりではなく、選択方式職業あっせんの諸原則をそこなう点に論議の余地があるという理由からきている。しかしながら、もし雇用主および義務雇用制の実施当局が、この制度の運用の主目的は、障害者に対する雇用機会の正当な割当を促進することにあるのだということを銘記するならば、この制度への反対は、それほどの力を持つものではないであろう。

 選択方式職業あっせんというものは、障害者の大多数が、雇用主から法的義務によることなく、健常者と同等の基準に沿って、肩を並べうる、価値ある労働者であると見なされた上で、彼らの長所を生かして就業できることを、確実にすべきものである。

(ILO第99号勧告の訳文は労働省のものによっていない)

1. このセンターに関する詳細は、“Vocational Assessment and Work Preparation Centres for the Disabled”,ILO,ジュネーブ,1970,を参照のこと。
2.“Manual on Selective Placement of the Disabled”ILO,ジュネーブ,1965,第3章を参照のこと。
3.“International Standard Classification of Occupations”改訂版,ILO,ジュネーブ,1969を参照のこと。
4.“Manual on Selective Placement of the Disabled”.ILO,ジュネーブ,1965,10月を参照のこと。

〈訳者〉
第1、2章 池田 勗(東京都心身障害者福祉センター職能判定主任)
第3、4章 岩崎貞徳(広島県社会福祉事業団あけぼの寮指導課長)
第5、6章及びまとめ 西川実弥(大阪府立身体障害者福祉センター指導課長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年4月(第6号)2頁~19頁

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