同じ地球のよその国で(3)

同じ地球のよその国で(3)

─からだの不自由な人のための雑誌から─

石坂直行*

リハビリテ-ション専門家はからだの不自由な人がほんとうに必要としていることをよく考えなければならない

 からだの不自由な人は、自ら身体的ハンディキャップの問題とともに生きてきた体験と、その間に会得した専門的技術と知識から、すぐれた専門家の立場にあることが、リハビリテ-ションの職業に従事する人の間で認識され始めている。

 このことのひとつの事例として、ポリオによる四肢まひ者であるマサチュセッツのハロルド・リ-ムス氏は、1972年2月に開催されたフィラデルフィアのリハビリテ-ション調査訓練センタ-組織の合同年次総会において、リハビリテ-ション専門家に協力することを要請され、以下の提案を行なった。

 近年、リハビリテ-ションの舞台に新しい勢力が登場していることが認められ、その及ぼした衝撃はすでに感知されている。それは、以前には個々の小さなレクリエ-ション・グル-プや社会志向的な身体障害者グル-プとして散在していたにすぎなかったものが、ひとつの消費者運動の組織へと徐々に発展していることである。

 マサチュセッツ肢体不自由者団体会議は、その傘下に15以上のからだの不自由な人のグル-プを統合し、下半身まひから骨髄炎、脳性まひから心臓病、血友病から筋ジストロフィ-までのあらゆる肢体不自由者を打って一丸の組織としている。これに加えて、目の見えない人、耳の聞こえない人、老齢でからだの不自由な人などのグル-プも組織に連合させたので、今やわれわれはマサチュセッツ州内に、100万人以上のからだの不自由な会員を持つ政治団体であると主張することができる。(訳注、州人口570万人の17パ-セント以上)

 われわれが最初にやったことは、既存の団体に対し、役員の仕事を手伝い、コンサルタントをやり、調査や指導し、立法を進めるなどの方法で助手の役を買って出たことである。

 そのほか、散らばっている諸団体に対し、その計画を支援し、現状の情報を与え、共通の問題についての討論会を開くなどして、団体間の団結を進めた。

 だれもが、からだの不自由な人のためにデザインされた家の必要性を支持するデ-タを求めていることがわかったとき、われわれはメンバ-のうち最もよく研究している人について調査し、深い意味のあるデ-タだけを発表した。このリポ-トは広く利用されて品切れとなり、いま第2刷を印刷ちゅうである。

 この作業で、アンケ-トを作ることからデ-タをコンピュ-タにかけるプログラミングやリポ-トの作成配付までのすべてのことをわれわれだけでやり、すべての費用はわずか4,000ドルだったことは、通常は考えられないことである。 

 いま連邦政府はわれわれに、もし適当な肢体不自由者向き住宅が建設されたら、それに転居を希望する世帯数を決定する市場調査を依頼してきた。

 私がここで言いたいのは、消費者運動の中に見えてきた次のふたつの重大な要素についてである。

1. 消費者は事実上ひとつの力となりつつある。

2. その指導性は、否定的な方向でなく肯定的な方向に向けられねばならない。

 このことは、リハビリテ-ション調査訓練計画にいかなる影響を及ぼすであろうか?あなたがたは、より機械的な補装具の開発や、専門職補助者の訓練や、その他の計画の新設に数百万ドルを費している。

 しかし、あなたがたの奉仕する対象の顧客が、何を優先的に求めているかということを、果たしてあなたがたは、ほんとうに知っているだろうか?あなたがたは、肉体的な効率の落ちた人に対して、その人が絶対的に必要としていることについてなんらかの提案をするとき、それがその人の人生の生き方に、いかに有益であるかという点について、あなた自身の思わくで実行するか?それともあなたが取り返せないことをやるに先だって、相手の顧客によく尋ねるか?

 私はあなたがたに対し、新しい仕事を始めるときに、もし責任ある消費者を協力メンバ-として対等に受け入れるなら、その人たちはあなたがたにとって外科用メスと同様に重要な道具となり、青写真と同様に必要なものであり、いかなるコンピュ-タより有効な機械となることを認識するよう提案する。

 責任ある消費者を参画させることは、費用の節約になることにもあなたがたの注意を喚起したい。私はまた、いかなる調査訓練センタ-でも、身体的ハンディキャップの体験者と、その経験内容と、問題とともに生きた人の専門知識とを対等に受け入れるなら、優先事項の判定、計画の実行、それから意味のある調査について、はるかにすぐれた正しい見方をすることができるという意見を提起したい。

 率直に言って、消費者はすべてのことには答えられない。かれらをチ-ムの一員に加えることが、リハビリテ-ションの問題を解決させる万能薬になるわけではない。無計画に参加させることには危険のあることも警告したい。しかし賢明な方法を選べば、体験者本人しかわからないことを学ぶことができるのは、消費者を参画させる価値である。それは迅速に情報を集める能力でもある。また求めるものが引っぱり出せる広範な市場でもある。

 われわれは、消費者が計画に参加した初の事例である米国産業復興局のケ-スをよく研究し、それに協力するとともに、ほかの地域の多くの消費者運動のように、単なる名目上の象徴主義でなく、意義深い結婚となることを確信し、注目を続けている。

 あなたがたがやらせてくれさえすれば、われわれは消費者としてあなたがたを助けることができる。われわれは、表面的にでなく実質的にあらゆる段階において、あなたがたを助けたくてたまらないのである。それは有名な専門家とお近づきになりたいためからではなく、自分の立場を弁護することになるが、どの点から見られても、われわれ自身が今この部屋にいる人と同様に専門家であると信ずるからである。

 われわれの中にも博士号をもつ人もあり、実業家も医師もプログラマ-も技術者もいる。しかし、より重要なことは、われわれはハンディキャップの問題とともに生きたという専門知識を持っているのである。われわれの人生における合理化、昇華および代替は、リハビリテ-ションのいかなる標準的教科書にも見い出すことのできないものである。

 われわれは、どんな場合に何を適用すればいいかを知っている。あなたがたにとっては完全に妥当だと見えることについても、合理化の余地をわれわれは指摘できる。なぜならば、高い階段が歩行に問題ある人に与える恐怖をわれわれは体験しているからである。われわれはこのような恐怖や不安とともに生活しているからよく知っている。個人的には機能面でこれらの恐怖や不安を克服しているが、依然としてその感情を経験し、その存在を知っている。これらがわれわれにあなたがたとは別の専門家の資格があることを保証する信任状である。

 われわれの専門知識をあなたがたに使ってもらうために提供するが、それは飽くまで専門的レベルにおいてである。われわれはもはや都合のいいときだけつまみ出されるブレインではない。われわれをあなたがたの組織の一部に含めさせる機会を提供する。

 現在あなたがたは活動のすべてのレベルにおいてわれわれを活用する選択を持っている。これは消費者指導性の自然的発展の重大な局面である。その将来の責任性あるいは非責任性は、今日、リハビリテ-ションのプロセスをコントロ-ルしている人の決定に大きく依存している。新年度に新しい計画を立てられるとき、このことを熟慮されるよう強く注意をうながしたい。

 概念論的なプロセスをスタ-トさせるとき、消費者が有益な援助となるのは次のことである。

a 優先事項の決定

b 計画が大衆レベルで受ける抵抗の予測

c 支持者に対する情報提供

d グル-プからの技術援助

 しかし注意したいのは、われわれのサ-ビスがほんとうに求められていなければならないということである。表面的な体裁を考える段階は過ぎた。必要もないのに参加させることで、重く見られているという感じを与え、アドバイスや同意はことごとく無視するという過去のおごったやり方は許すことができない。

 ハンディキャップを負う人は、自分の人生の生き方に影響を及ぼすようないかなる決定でもなされるときは、その討議に参加する機会を持つ価値がある。

 自己決定のとうとい領域で役割を果たさなければならない。われわれはあなたがたとともに働くのを待っている。あなたがたが自らに期待すると同様の専門家としての受け入れとコンサルテ-ション料金をわれわれも要求する。

 今ではその資格を獲得していると考えているからである。このことをあなたがたや他の機関を通じて広めていき、われわれの協力努力によって、リハビリテ-ションのプロセスが加速されることと、この胎児期の、しかしダイナミックな力である組織された消費者に、責任ある指導性が持続されることを要望する。

(Accent on Living,Fall  1972から)

*車いすの身障者。第一勧業銀行勤務。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1973年1月(第9号)22頁~23頁

menu