車イスボーリングの起こりと発達

車イスボーリングの起こりと発達

Origin and Development of Wheelchair Bowling

Louis I.Neishloss

 関 千穂**

 車イスボーリングの起こりと発達

 1946年から1948年にかけて米国退役軍人会が運営している病院(Veterans Administration Hospitals)が障害者で埋めつくされていたとき、第二次世界大戦による多数の傷い軍人が車イスにのったままでボーリングを行っていたのである。正式には、車イスボーリングは1957年ニューヨークで開催された全国車イススポーツ大会(National Wheelchair Games)で始めて正式種目になったのである。

 今までにアメリカボーリング協会(American Bowling Association)は、アメリカ車イスボーリング協会(American Wheelchair Bowling Association)の設立を認めてきた。今やアメリカ車イスボーリング協会は全国的に注目の的になっている。Paul O'Hora,ペンシルバニア州スクラントンの出身で四肢マヒ者、が車イスボーリングを可能にした最初の人物であったが、驚くことに彼はボールを持つことができないのである。初めてアダプターが紹介されて以来、今では全国で多数の人が使用している。そのおかげで、すべての人がプレーできるわけである。

 ボーリングはどの年齢層にも男女の区別なく行えるすばらしいレクリエーション活動である。比較的弱い力で行えるので、激しい運動ができなくなってからも何年も続けてやることができる。

 点数づけ(Scoring)

 ボーリングを行う人は点数のつけ方を覚えた方がよい。というのは、ゲームの上達経過を正確に記すことによって、かなり楽しさを増すことができるからである。完全な1ゲームは10フレームから成っており、1回ごとに交互に投げる。点数のつけ方は(ストライクやスペアの場合を除く)各フレームで倒したピンの数を加算し、その合計を次のフレームに加えていく方法である。プレイヤーは1フレームで2回投球できる(ストライクの場合を除く)。ストライクというのは、1投目ですべてのピンを倒した場合を言い、点数表の該当フレームの右上のます(×)を書く(各プレイヤーはそれぞれ1ゲームの点数を横に加算して記入する)。もしすべてのピンを2回で倒した場合、スペアーが点数となり、斜線の印(/)をますの中に書く。

 ストライクの場合、ストライクを出したフレームでは、次に投げる2回で倒したピン数に10ピンを加えて記入する(前のフレームがストライクでも、それとは別につける)。スペアーの場合は(1フレーム2回投げて全ピンを倒すこと)、スペアーをとったフレームの10ピンに、次のフレームの1回目で倒したピン数を加えた数が得点となる。スペアーをとった後のフレームの得点は、今まで通りに2回投げてから記録する。(図1参照)。

図1

図1

 用具

 ほとんどのボーリング場では車イスのボーラーを認めており、歓迎してくれる。これはそのボーリング場の宣伝にもなることであり、経営者にとっても、利益を上げることができるし、車イスボーリングトーナメントや車イスボーラーも加えた各種の催しを開催することができる。

 これまでたび重ねて試験をしたり失敗を繰り返して、エベレスト・アンド・ジェニングス(Evelest & Jennings)型の空気タイヤが、タイヤのすべり跡を残さないということがわかった。ボーリング場に入る前に車イスのよごれを落としておく方がよい。これらのゆきとどいた心づかいが、ボーリング場側から歓迎されることになるのである。

 ボールは、まず自分の指にちょうどよい穴のボールを選ぶことが重要である。ボールには2つまたは3つの穴があいている。どちらがよいかは、どちらの方が少ない力で投げることができるか、両方投げてみてから決めた方がよい。指の力が強い慣れたボーラーの場合は、より正確に扱えるという点で2つ穴のボールを使用するが、指の力が弱いボーラーの場合は、より正確に扱えるという点で3つ穴のボールを使う必要性があると思う(図2参照)。穴は指をスムースに入れたり抜いたりできる大きさのものがよい。親指の穴は適当にゆるく、中指と薬指の穴はぴったりしたものがよい。

図2 3つ穴ボールを使うときの指の位置

図2 3つ穴ボールを使うときの指の位置

 どの程度のものがよいか選ぶには、親指を完全に親指の穴に入れ、中指と薬指の力を抜き指の穴のまわりに広げる。中指と薬指の第2関節をまげ、指の穴の手前側の端から1/4インチ離して入れる。投げるときに余分な圧力がかかるので、穴は大きすぎない方がよい。

 アダプターステッキを使う子どもの場合は、穴のないボールを使用した方がよい。

 スタンス(投球)

 投げるときのスタンスの位置は、限定または規定されていない。軽度の障害児の場合は車イスでファールラインまで行き、ボールをスウィングさせやすくするために、右側のアームブラケットをはずし体の右側によりかかってプレーしてもよい。またボールをスウィングさせるとき、左手で左側のリムまたはチェアーアームをつかんでいてもよい。バックスウィングのときは車イスの背もたれの所にあるハンドルよりも高く振り上げない方がよい。

 リリース

 ボールはレーンの上の車イスのフットレストの前に落とすのではなく、ただ手を離せばよいのである。うまく投げた場合はボールはダブルモーションを起こす。これは右ききのボーラーがフックボールを投げた場合、最初にボールを離したときはピンの方向にすべり、左のガーターの方向に回転しながら進んでいくのである。ある程度すべると、次はまさつによってすべる運動が少なくなり、回転運動の方向によってボールがフックしたり、バックアップしたり、まっすぐ前に回転したりするため、回転効果がなくなり、左ききのボーラーの場合はフックボールは左側にカーブしバックアップボールは右側にカーブする。

 初心者の場合は、フックボールやカーブボールを投げようとするよりも、ストレートボールが完全に投げられるよう努力する方がよい。ストレートボールを投げる場合には、1番と3番ピンの間のピンを倒すように、レーンの右側から投げた方がよい(図3参照)。ストレートボールを投げるときは、ピンにむかって親指と中指と薬指をボールの裏側に位置した方がよい(図4,5参照)。

図3 ストレートボールの進みかた

図3 ストレートボールの進みかた

 

図4 ストレートボールを投げるときのボールの握りかた(正面図)

図4 ストレートボールを投げるときのボールの握りかた(正面図)

 

図5 ストレートボールを投げるときのボールの握りかた(側面図)

図5 ストレートボールを投げるときのボールの握りかた(側面図)

 ストライクを出すためには、1番ピンと1番ピンの両側の3番か2番のピンの1本にあてなくてはならない。

 ほとんどのボーラーはフックボールを投げるため、初心者はできるだけ早く身につけたがるわけである。最大のピンアクションを起こすには、ある角度からピンを倒した方がよい。ストレートボールの角度ではボールが前に回転していくが、フックボールではある角度で回転していく。したがってボールに回転動作を加えることによって、フックボールの方がピンの動きがより大きくなるわけである。

 フックボールを投げるには、目標に対して親指と人さし指でV字を作るような指の位置でボールを離した方がよい。親指を最初に離し、ボールが手から離れると回転効果がボールに伝わっていく(図6,7,8参照)。

図6 フックボールの進みかた

図6 フックボールの進みかた

 

図7 フックボールを投げるときのボールの握りかた(正面図)

図7 フックボールを投げるときのボールの握りかた(正面図)

 

図8 フックボールを投げるときのボールの握りかた(側面図)

図8 フックボールを投げるときのボールの握りかた(側面図)

 このやり方は普通に握手するときの手の位置と同じことから、「ハンド,シェイク」(握手)と呼ばれる。 

 ボールをリリースしたあとでは、手をピンに向かってまっすぐのばし、前方上方にあがっていた方がよい。ボールをリリースするときには絶対にボールにドライブをかけたり、手首をひねったりしてはならない。バックスウィングでボールが下から上にあがってくる力で生じるスピードのはずみや、力をともなった自然に投球された後の動作(フォロー・スルー)は、ボーリングが上達する要素として重要なことである。

 アダプタープッシャーの使用方法を指導するインストラクターは、これはほんの基本的なものであり、障害にあわせて変えることができるということを忘れないでいただきたい。創造的になること、そうすればもっとアイディアがうかんできて、さらによい結果を得ることができるであろう。

図9 アダプタープッシャー

図9 アダプタープッシャー

(Rehabilitation Literature,June 1973 から)

療法的レクリエーションの指導者として12年間にわたってリハビリテーション分野に従事し、現在、テンプル大学の第4学年にも籍を置いている。1964年および1970年から71年にかけて全国婦人車イスチャンピオン大会のコーチをつとめ、1964、68年のパラリンピックのアメリカチームの主に陸上競技、水泳のコーチをつとめてきた。
**日本肢体不自由児協会書記


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年7月(第14号)29頁~32頁

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