障害者のための職業評価並びに職業準備センター

ILO, 1970

障害者のための職業評価並びに職業準備センター

Vocational Assessment and Work Preparation Centers for the Disabled

障害者のための短期間の評価と調整過程をもつセンターの管理・組織・運営の概要

大木勉*

職業リハビリテーションの分野において、職業前評価・職業前訓練・職業前準備といったことばが使用されるようになって既に久しい時日が経過した。しかしながら、その内容・機能等について関係者の共通の理解がゆき届いているとは必ずしも思えないふしもみられる。

 この手引きは主として開発途上国の場合を想定して作成されているけれども、比較的新しく平明な説明と示唆がみちていて、我々としても大いに参考とすべき権威のある実際的な文献である。これをもとに我々の評価・準備システムを作りあげてゆくべきであろう。

紙数の関係上、本文のうちほんの一部を抄訳ないし省略し、特に付録は全部省略せざるをえなかったが、付録には各種様式・建築プラン・予算関係資料等が具体的に示されており、興味と関心のある方はぜひ参照されることをおすすめしたい。(訳者)

 はしがき

 このManual on Vocational Assessment and Work Preparation Centers for the Disabled を出版するに当たり、ILOは次の事柄に対して深く謝辞を呈するものである。

○草稿準備段階における英国 Department of Employment and Productivity のTraining Division の協力

○情報提供及び実地調査に関してのデンマーク・オランダ・ノルウェー・スウェーデン・スイス・西ドイツ各国の主管省庁の援助

○ILO加盟各国・世界各国の民間団体より寄せられた数々の有益な報告や資料

 目次

第1章 序言

第2章 職業評価・職業準備センターの開設

 1. 目的

 2. 関係機関との連携

 3. センターの類型

 4. 多様な障害群の受け入れ

 5. センターの建設場所

 6. センターの計画立案

 7. 建物の計画

 8. センターの設備

 9. センターの財政

 10. 数年度にわたる予算措置

第3章 職員構成並びにその資格要件・業務内容

 1. 必要な職員

 2. 専門ないし技術職員の確保

 3. 開所当初の応急策

 4. センターにおけるチームワーク

 5. 職員の資格要件・業務内容

 6. 作業時間と休日

第4章 ワークショップの組織と運営

 1. 一般原則

 2. 受け入れ

 3. コースの必要期間

 4. 備えられるべき作業

 5. 生産的な作業の開拓

 6. 作業の組織づくり

第5章 対象者の資格と選考方法

 1. 定義

 2. 対象者の供給源

 3. 対象者の選考

第6章 ケース会議の内容と方法

 1. 初期ケース会議

 2. 中期ケース会議

 3. 最終ケース会議

 4. 追跡調査の方法とケース会議

第7章 障害者の職業訓練

 1. 職業訓練の対象者

 2. 職業訓練の場

 3. 職業訓練センターの建設場所と内容

付録(略)

 

第1章 序 言

 「リハビリテーション」とは、先天的な原因や傷害、更には疾病によって障害をもつに至った者が、可能な限り職業人として社会の中の必要な構成員となりうるようにするための医学的・パラメディカル的・職業的に一貫した過程を示す包括的な術語である。

 第2次大戦以来、リハビリテーションの職業的側面が注目されるようになり、特に障害者のための職業評価・職業準備センターの設置に関心が払われるようになってきた。このため多くの国において、独立のセンターが開設されたり、既存の医学的リハビリテーション施設にこのような機能・設備が併置されたりしてきた。このようなセンターはいろいろな名称で呼ばれている。例えば、産業リハビリテーションセンターまたはユニット、評価センター、観察センター、リハビリテーションセンター、社会復帰センター、職能評価センター、職業準備センター等々である。

 国情によりこのようなセンターの対象領域は異なるようであるが、いずれにしても主たる目的は、適切な職業訓練あるいは雇用・再雇用のため障害者を評価し準備させる短期間(約6~8週間)のコースを設けるということである。

 このようなセンターの発展の背後にある思想は、もしも障害者がその奪われることのない権利を十分に活用して健常者と同様の雇用の機会をわかちあえるまでに至るならば、提供される雇用は身体的にも精神的にもその能力の範囲内にあるのだということを明確にすべく、あらゆる努力が払われなければならないということである。このことは、障害者を全人間的に評価する過程──職業訓練や雇用の可能性の評価だけでなく、職業能力やその可能性に関連する医学的・社会的・心理的さらには教育的過程にまで及ぶを──必要とする。

 総合的(またはチームによる)評価の発達につれて、実際の作業場面での技能評価を含む評価過程の必要性が認識されるようになった。さらにまた、全く就職経験がないかあるいは疾病等のため離職していて再就職に際して求められる新たな諸要件(例えば、作業の能率、8時間労働、職場の規律)に達しない場合、雇用主の求めるそれらの水準に到達するよう雇用のオリエンテーションを短期間に行うことが必要であるということも明らかにされてきた。この職業準備期間の評価を含む全人間的な評価の方法によって、障害者は適切な職業訓練あるいは雇用に結びつくようになるばかりでなく、同じように重要なことであるが、雇用に定着し健常者と十分競争してゆけるよう身体的にも精神的にも準備されるようになることが保証される。

 職業評価・職業準備センターの主要な目的は、次のような場合に、障害者を援助することである。

○従前の職場に復帰するが、配置転換される場合、あるいは新たに就職先を探す場合

○事故や疾病により長期間就労しなかったため、工具類の取り扱いに再度慣れる必要のある場合

○1日8時間、通常の能率で疲労感すくなく作業する能力を回復する場合

○一般就職のための準備に取りかかる以前に、まず何よりも、例えば義肢をつけた腕を実際の作業場面で試行することによって、現にもっている障害を克服してゆく場合

○通常の職務を遂行するために自信を回復する場合

○就労経験が全くないため、実際的作業場面で8時間労働に慣れなければならない場合

 多くの先進国では、職業評価・職業準備センターは第7章でのべるような職業訓練センターとは別個に発展してきたけれども、ときには一緒になっているものや類似しているものもみられる。例えばセンター所長が、職業評価を行うリハビリテーション担当者と職業訓練を行うワークショップ責任者の協力の上に立って、全部門の実施責任を負っているというようなものがある。開発途上国では、貧弱な財政規模や有資格職員の不足等の事情から、この種のセンターを設置することに困難があることにより、通例、比較的小規模で両方の機能をもった施設の形で発足する場合がある。このようなセンターは、事情さえ許せば順次拡充されてゆく「実験計画」としての役割を果たすであろう。

 この手引き作成の趣旨は、開発途上国において障害者のための職業評価・職業準備センターを設立したり、職業訓練施設を整備しようとする政府その他の団体のために、基本的な指針を示すことである。この手引きは先進国・開発途上国双方から得られた経験に基づいて作成されたが、活用する場合には、各々の国情に応じた独自のニードに対応してゆくように留意することが肝要である。

第2章 職業評価・職業準備センターの開設

 1. 目的

 職業評価・職業準備センターの開設及び運営に際しては、まず、センターの目的は次の各項であるということが明確に認識されなければならない。

○障害者の作業習慣の習得ないし回復を援助すること

○社会復帰を妨げる社会的問題の解決を援助・指導すること

○必要な場合には、身体的機能の回復の場を提供すること

○個々の作業の遂行能力についての医学的・心理的・職業的評価の場を提供すること

○士気や自信を維持向上させること

○個々に適した職業を開拓すること

○就職の前段階として必要であれば、職業訓練のための準備を行うこと

 2. 関係機関との連携

 このようなセンターを開設・運営するに当たっては、既存の医学的・社会的なサービスを行う機関や職業指導・職業訓練・職業紹介を行う機関等を十分活用し、緊密な連携を保つことが必要である。この種のサービスが貧弱か存在していない開発途上国では、職業リハビリテーションサービスに対する地域社会の援助が得られるようにしなければならないだろう。政府からの援助(このこと自体望ましいが)があってもなくても、民間団体あるいは当該目的に沿ったその他の団体(例えば、障害者団体連合会や個々の障害者団体)からの援助、特に経済的援助は開所以前から必要であろう。

 3. センターの類型

 センターの類型の選定に際しては、その国の既存の施設の業務内容を検討しなければならない。例えば、ある病院の医療サービスが十分確立されていて同一敷地内にさらに建物をたてるだけの余地があれば、病院に付属した形で設置することが望ましい。こうすることにより開発途上国では次のような効果が得られる。

○病院の臨床医(非常勤)、ソーシャルワーカー、治療体操師(Remedial Gymnast)のような確保しにくい専門職員が活用できること

○センターが病院に隣接していれば、患者が1日中参加できるようになる以前から1日数時間でも通所できるようになり、このようにして一貫したリハビリテーションプログラムの確保や施設への移行が円滑に行われるようになること

 センターの施設は、特別に医療的処置や外科的手術を要しないような先天的ないし慢性的疾病をもつ障害者にも開放されてしかるべきである。またときには必要に応じて、補装具・自助具の研究、製作設備があることが望ましい。

 他のリハビリテーション施設の内容が不十分であったり、あるいは十分ではあっても同一構内に敷地がない場合には、センターが独立の施設であってもやむをえないが、既存の施設とできるだけ近接しているべきであろう。

 4. 多様な障害群の受け入れ

 職業選択に難点のある障害者群は多種多様である。例えば失明者、ろう者、切断者をはじめとする肢体不自由者、心臓疾患者、結核回復者、ライ者、精神薄弱者、精神病患者等がある。

 どのような障害群をどのように取り扱うかといった事項は、計画立案の早期段階で決定されなければならない。

 センターの運営が民間団体によって行われる場合には、その団体の目的に沿った障害者を受け入れるようになろう。

 センターの運営が公立ないしその管理下に置かれる場合には、可能な限り多種多様な障害者を受け入れるべきである。種々の障害程度の者が共に作業しているなかで、ある障害者がより重度の者とわが身をひき比べて、更生意欲を向上させるというようなことがあり得るのである。

 職業リハビリテーションプログラムが充実される以前の段階では、リハビリテートされた障害者なら健常者と同じように働けるのだということを雇用主に周知徹底する必要があることが肝に銘じられるべきである。したがって、当初は、センターのプログラムを十分こなせて就職の見込もあるようなあまり重度でない障害者を受け入れることからはじめることが望ましい。非常に重度で就職見込のない障害者の受け入れは制限されてしかるべきであるが、経験の積み上げによっては次第にこのようなケースの取り扱いにも慣れてくるであろうし、受け入れ数も増加してゆくであろう。

 失明者も対象とする場合には、そのリハビリテーションに特別な技術を要するので、例えば、中途失明者の歩行訓練のようなオリエンテーションコースの設置等、他の障害者と一緒にリハビリテートされてゆくような配慮が望まれる。

 5. センターの建設場所

 センターの建設場所の選定にはいくつかの要件を考慮することになろう。その大きな一つは、サービスを必要とする障害者の数が多い地域にということである。実験的施設であれば、おそらく首都か工業化の進んだ大都市に建設されるであろう。農業や家内工業が主要産業の国では、センターのコース終了後そのような職種への就職の可能性のある地域に建設されるべきである。

 地域がどこであれ、医療的サービスが容易に利用できさらに職業的サービスへの移行が円滑にすすむように、既存の医療施設と近接した場所であるべきである。

 財政事情や職員数の不足から、当初より必要にして十分な設備・規模をもって発足できない場合には、将来の増設を見込んで十分なスペースをあらかじめ確保しておくべきである。

 6. センターの計画立案

 センターの建設場所を選定したならば、次の課題は、何を行うか、またどのような障害者を何人取り扱うかといった事項を決定することである。

 通常1日85~90人の通所者があるとしたら、定員を最大限100 人を越えないようにしておけば、職員に多大の負担をかけずにすむし、職員の休暇があっても十分やってゆける余裕があろう。いずれにしても定員の問題は各々の地域事情によって異なってくる。

 財政及び職員確保の状況から発足当初の運営が制限されることがあっても、必要と思われる最大定員を念頭に置いてセンターの計画立案を行い、またそのためにどの程度の資金が獲得できるかをみきわめておくことが望ましい。資金獲得のメドが十分立たない場合には、その程度にしたがって発足当初の運営の限界が定められるだろうし、メドが立った場合に備えて拡張計画をあらかじめ構想のなかに入れておくべきである。

 センターの計画立案に当たって考慮すべき点は次のとおりである。

○1コース当たりの最大定員数

○収容・通所の別

○収容の場合の収容棟の設備・内容

○通所の場合の簡易食堂の設備・内容

○医学的検査や看護的処置の必要な場合の設備・備品

○作業テストの種類

○全般的な設備・備品

○専門職員(ソーシャルワーカー、心理専門職等)の必要数

○事務職員や補助職員の必要数

 7. 建物の計画

(a)通所制の場合

 建築計画を作成するに際してはまず、リハビリテーションの目的に沿った形で新築するのかまたは既存の建物を改築するのかが検討される。次に多くの基本的事項が検討されることになるが、それらの例としては、

○取付道路

○建築材(鉄筋コンクリート、レンガ、石材、木材等)

○建物はできるだけ幅広い廊下のある平屋建とし、入口階段には車いす使用者のためのう回路の設置

○車いす使用者も利用できる便所の設備

○換気、冷暖房、空気調節

○管理棟等を騒音等で邪魔しないようなワークショップの位置

○管理棟とワークショップ間の通路の整備

○機械類を配置したり訓練や指導を容易にするようなワークショップの十分なスペース

○重機械を設置する場合、その重量に耐えられる床

○ワークショップや事務室等の室内間仕切りは簡易間仕切りにすること(レイアウトの変更を容易にするため)

○騒音を出す機械(木工機械や織機等)を使用する場合、特にコンクリート造りの場合の騒音防止策

○ほこりの多い地域では外気との、または建物内部での機械運転等に支障をきたさないような空気調節

○救急医療設備のある処置室の設置

○給食を行う際の厨房や食堂の設備

○体育館としても使える大きな部屋の設置。これはレクリエーション室としても使えるだろうし、簡単な調理設備を作れば簡易食堂としても使える(気候条件が良ければ野外広場も運動場として使えよう)

○適当な広さの事務室と倉庫。一般的には、専門職員個々の職員室、管理事務室、10人程度までの会議室、小面接室、受付案内コーナー、更に可能であればタイムレコーダー室が配置されるべきである

○野外パーティー用のかまどとか屋台店、その他野外行事のための用地の確保

(b)収容制の場合

 通所制センターの場合の検討事項がそのままあてはまるが、さらに収容棟やそのための職員を配置する費用が追加されることになろう。

 センターが主としてどの地域の障害者を対象とするかを決定する際に、彼らが通常どのような交通機関を利用するかを考慮すること。国によっては、かなり離れた農村地域からでも小さなローカルバスやその他の交通機関を利用して大きな町に通えるだろう。したがって、「日帰り可能地帯」にセンターがあれば、あえて収容棟を設けなくとも定員一杯になってしまうだろう。また場合によっては、親戚・知人宅に寄留することが通例行われるということも考えられる。

 一般的には、事情の許すかぎり、職業評価・職業準備センターの収容棟はセンター構内に建てられるべきである。

 これには次の利点がある。

○対象者の在所期間中の管理が容易になること

○1日8時間の作業が容易になること

○専任の管理人を置く必要がなくなること

 敷地の関係で収容棟がセンター外に設置される場合には、できるだけ近い場所でなければならない。

 あるいはまた、センター近くの下宿や貸間を借り上げて対象者に寄与する方法もある。しかしながら、このような場合には、対象者にセンター在所期間中適当な手当が支給されなければ、彼らは生活もできなくなってしまうということが銘記されるべきである。

 8. センターの設備

 本手引きのなかにこのようなセンターの運営に必要な設備を完全に詳細に記すことはできない。なぜならそれらはセンターの規模や対象者の取り扱い範囲によって定まってくるものだからである。

 農耕園芸や家内工業・手工業等が主要産業である地域に建設される場合、設備としては比較的簡単な、例えば農機具、手動式の織機や編機、手工業に適した簡単な工作用具で十分であろう。逆に工業地域において、木工や軽作業、重作業その他同様な作業における能力評価のために建設される場合には、複雑にして高価な機械類が設置されなければならないことになろう。

 しかしながら、センターは個々の障害者のさまざまな作業遂行能力の吟味がねらいなのであって、職業訓練を十分に実施するためのものではないことは銘記されなければならない。職業訓練が必要ならば別個になされよう(第7章を参照)。

 センターにおける作業は、対象者の興味を持続させるために「生産的」であるべきであるが、設備としては、立派な機械類を多数配置する必要はないであろう。木工や金工で使われるような近代的な機械の多くは高価なものであり、職業評価の目的にはもっと小型のものがむしろ適しているといえよう。

 機械類を輸入しなければならないとしたら、国内にその組立工場のあるようなものが良いであろう。諸サービスや部品の調達等が容易なためである。適宜必要なサービスが得られない機械等を設置すると、往々にして一時的にせよ子秘すを閉鎖しなければならなくなるものである。

 あまり多様でないセンターの場合には、設備に多額の費用をかける必要はない。国によっては、企業がセンターと協力して原材料・工具類・設備等を提供し、下請仕事を流すという形をとっている。この場合、センターは製品を作り、企業はそれを定期的に回収し代金を支払う。センター周辺の企業を調査すれば、このような協力を申し出るところがあるだろし、そうなれば設備費を削減することができよう。

 9. センターの財政

 公営民営を問わず、維持運営に必要な資金がなければ開所も運営もできない。センターの開設が決定されると同時に予算見積がなされなければならない。この場合いろいろな態様があるので、すべてにわたる経費の説明はできないが、以下の点は有益となろう。

(a)公営の場合

 職業評価・職業準備センター開設の計画立案の際、財政当局はセンターの必要な理由や初年度及び以後約5か年間に要する費用について、その経費を「経済5か年計画」に組み込むために十分な説明を求めるであろう。したがって、主管部局は予算見積書を作成しなければならず、できるだけ正確を期し、必要な費用はすべて盛り込むようにしなければならない。

(1) 初度費用

 土地購入費や建設費、工具・機械・調度等の購入費を含み、また建設費の見積に当たっては防火壁やへい、下水設備の費用も含むべきである。さらに次のようなものも配慮しなければならない。

○暖房や空調設備

○簡易食堂が設置された場合の必要な諸設備

○ワークショップと便所の手洗設備

○車いす使用者が便所を使用する場合の配慮

○必要な場合にはリフト付小型バスの購入

 電気や電話、ガスや水道の設備も忘れてはならない。工具類や設備のいくつかは企業からの寄付・貸付によってまかなわれるかも知れない(第2章8を参照)し、またワークショップ自体で作業用長いすやいす、棚等は作ることができよう。いずれにせよ購入の際はなるべく競争入札によることとし、予算内で最も適当なものを買うことが肝要であって、最も安いものを買うことはない。

 必要な調度品はすべて網羅されなければならない。

 例えば、

○窓のブラインドまたはカーテン

○医学検査室の特殊家具または医療備品

○会議用テーブルといす、職員用の机といす

○ファイリングキャビネット、本箱、タイプライター、タイプ用机・いす、防火用品、黒板、掲示板、その他の事務用品

○受付その他の部屋の応接・面接用のテーブル・いす

○ワークショップ用の長いす、特殊いす

 機械類でも減価償却を見込んでおかなければならないが、当初の5か年計画には通例必要ないであろう。

(2) 経常費用

 センター運営に必要な費用である。

 例えば、

○職員の給料・賃金・旅費

○原材料費、消耗品費

○光熱水費、電話代等

○庁舎管理費、清掃費、営繕費

○工具類の補充費

○救急薬品の補充費

○訓練中の対象者の手当と交通費

○小型バスの維持費

○事務用消耗品費

 ただし、見積の積算時と実際の購入時の値上がり等による差額に十分注意すること。

 さらに、製品の原材料が財政当局自らによって購入された場合、製品の売却収入が公庫に入ってしまうことがあることに留意すべきである。しかしそうなると、センターの発展が望めないので、その一部が還元されるようになることが期待される。

 あるいはまた、それが公庫収入にならずに運用でき、さらには企業からの割りもどしや一般からの寄付、ダンスパーティーやファッションショウ等の各種行事による収入等も加えられるとすれば、特別基金として積み立てて活用できる。この予算外の基金によって、必要な原材料費、図書購入費、対象者の福利厚生費、その他随時必要なものの購入にあてることができよう。

(b)民営の場合

 リハビリテーション施設の多くは民営として発足した。通常各障害群、例えば失明者、聾者、結核回復者、精神薄弱者、痙性マヒ者等の個々のグループを対象としてきた。ただ資金不足から発展や運営すらも困難となる例がしばしばある。そこで公共団体の補助金が要請されることとなる。

 この場合、出資者となる部局はその計画を詳細に検討するであろうし、費目がそれぞれ正当に理由づけられているかどうかに留意するであろう。財政当局とは、利益を生まない計画については疑いの目を光らすものである。

 障害者のための団体は財政的にできるだけ自主独立であるべきであるが、よいリハビリテーションのためには利益追求におち入ってはならないということを留意していなければならない。また、そもそも新しいものを作ったり、発展させるための努力が成功するには、ある程度の運転資金が必要であることも留意されるべきである。

 10. 数年度にわたる予算措置

 1会計年度内にセンターの建設から開所までこぎつけることは不可能であるかも知れない。このような場合には、計画の段階的実施が支障なく行われるように、予算が各会計年度に割りふられるべきである。

 工事の遅延等何らかの理由で計画が各年度に消化できない場合には、未執行予算が次年度に繰り越されるよう配慮されなければならない。でないと、実際に執行が必要になった年度に、予算獲得が困難になることが予想される。この一般原則に対する例外は、対象者に対する諸手当・交通費、運営に必要な光熱水費であり、これらは開所前には本来必要でないので、過程により新たに追加する費目がないかぎり、再議決を受ける必要はないであろう。

第3章 職員構成並びにその資格要件・業務内容

 1. 必要な職員

 医学的リハビリテーション施設あるいは職業訓練施設とは別個に、理想的な諸条件の下で開設される職業評価・職業準備センターが、最大限100 人の対象者を受け入れる場合に通常必要な職員の種類及び人員は、次のとおりである。

 専門ないし技術職員

○センターの所長 1人

○センターの医師(非常勤) 1人

○ワークショップの責任者 1人

○心理専門職 1人

○ソーシャルワーカー 1人

○就職あっ旋担当者 1人

○ワークショップの作業指導員・各部門に 1人

○治療体操師 1人

○看護婦 1人

 補助職員

○管理及び記録担当の職員 1人

○事務員(経理担当) 1人

○事務員(物品出納担当) 1人

○タイピスト兼電話交換手 1人

○運転手(自動車がある場合) 1人

○調理師1人、同見習1人、給仕数人

○庁務作業員 3人

○洗濯作業員 1人

 2. 専門ないし技術職員の確保

 開発途上国では往々にして専門職員や技術職員が不足している場合が多い。でなくても予算の関係で初年度には1人か2人の採用しかできず、年々充足してゆくという場合がみられる。

 場合によっては、現にほかに就職している専門職員や技術職員に対して、その資格に見合うだけの給料を支給できないということで採用が困難になることがある。このような場合には、必ずしも容易ではないが、人事当局と十分話を煮つめる必要がある。

 専門職員や技術職員が全くいないか少数である場合には、類似の資格をもっている者の訓練に国外からの援助を求めるという方法がある。この場合には次のことが考えられる。

○ILOのRegular Programme による専門家ないし国連のDevelopment Programme of Technical Assis-tanceを要請すること

○各国の政府やボランティア及び団体からの同様な援助を要請すること

○国外留学の奨学金制度を活用すること

○上記二つの方法を組み合わせること

 この奨学金制度による国外留学は事情により3か月、6か月、1年というようになろうが、自国の諸条件と関連があるかないしは類似している国におけるものであるべきである。工業の近代化のあまり進んでいない農業国の者が、高度に工業の近代化した国の方法等を学んでもあまり実際的ではない。

 給与ベースが適切であれば、必要な専門ないし技術職員の確保は比較的容易であろう。例えば、治療体操師については病院や除隊した軍隊の身体訓練師から採用できるだろうし、有資格の病院看護婦は(センターの)看護婦として採用できるであろう。

 3. 開所当初の応急策

 多くの開発途上国では、開所当初に必要な職員をすべて確保することは予算上の制約や有資格職員の不足のために不可能であろう。よってその応急策が必要であろうし、対象者の人数を制限して開所することにもなろう。

 例えば、開所当初にセンター所長、医師(非常勤)、作業指導員2人、事務員1人、タイピスト1人、庁務作業員1人しか確保できないとすると、次のように兼務せざるを得ない。

○センター所長はソーシャルワーカーと就職あっ旋担当者を兼ねる(非常勤でも採用できない場合)

○作業指導員の内1人はワークショップ責任者を兼ね、センター所長の指導監督を受ける

○事務員はタイピストの協力を得てすべての事務を処理し、物品出納も担当する

○作業指導員は2人しかいないので作業は2部門で出発せざるをえない。入所者は最大限24名(1部門12名が限度)

 開発途上国におけるセンターの開所当初には、センター所長は厄介な問題に直面するようになろう。健常者でも多くが失業しているような国での所長の場合も大変であろうし、あるいはまた障害者が有益な職につくことについての地域社会の懐疑や無関心に対してその解決を迫られるであろうし、慣習や伝統、迷信等によっても就職が妨げられるかも知れない。

 所長は職業評価や準備を終了した対象者の就職先を探すのに困難を感ずるであろうし、所長と対象者のいずれもが欲求不満におち入るであろう。このような事態が実際に起こったならば、評価センターは長期間の職業訓練コースを併設するか、あるいは準備を終了しても雇用されない対象者を、長期的に吸収する職場としての授産部門を併設するように拡張されるであろう。そこで、障害者の仕事ぶりをデモンストレーションすることになろうし、企業や地域社会は次第に障害者を受け入れてゆくようになろう。

 企業の受け入れにしたがい、あるいは経済成長に応じて、この手引きにあるような本来のサービスに戻ることが可能となる。

 センターの職員は財政事情の許すかぎり充足されてゆくであろうし、専門職員も国内研修や奨学金制度による国外留学によって確保されてくるであろうから、2~3年たつうちにはセンターは定員一杯になって活動できるようになろう。以下の記述は専門及び技術職員の職責を示し、さらに各種の職務にどんな人物が適当かについて示唆を与えるものである。

 4. センターにおけるチームワーク

 個々の障害者の能力を評価し職業への準備を行うことについて、専門職員や技術職員がチームとして共に協力し合うのでなければ、かかるセンターの成功は望めない。職員は毎日相互にあるいは個々の対象者に接触するであろうが、主に接触しあうのは、個々の対象者の種々な面について集中的に検討する定期的なケース会議の席上である。

 望ましいチーム精神を作りあげ向上させてゆくことは必ずしも容易ではない。センター所長はチームのバランス維持に心がけ、意見や方法の相違を調停し、技術の相違についても調整する役割を果たさなければならず、職員の意見をきいた後に最終的な決断を下さなければならない。

 職員の採用に当たっては、志望者の気質、職業意識、チームメンバーとして協力しうる能力について十分検討することが望ましい。志望者がどんなに立派な資格をもっていても、障害者と共にあるいはそのために働くことに興味がなく、チーム員としての協調性が望めないとしたら、次にのべるどの職種にも採用すべきではない。理想的な資格要件をもっている人を探しあてるのはほとんど不可能であろう。したがって、資格だけに欠けるところがあるならば、その人を現任訓練してゆくのが最良の方法である。

 5. 職員の資格要件・業務内容

(a) センター所長

 リハビリテーションチームのリーダーでありケース会議の議長でもあるので、最も重要なポストである。センターが最初の実験的なセンターの場合には、成功すればかかるセンターの専門職員や技術職員の訓練の場にもなり、国内の職業リハビリテーション施設の発展にも寄与しうることになるので、十分慎重に検討して最も適当な人を得なければならない。

 主たる業務内容は次のとおりである。

○センターの全般的な管理と運営を調整し指揮すること

○センターのチーム精神をかん養し、チームメンバーのバランスを維持すること

○資金の適正な運用を監督し、関係当局に対する予算書を統括すること

○担当職員が適切に物品や原材料を購入し、安全に保管し、払い出しているかを確認すること

○障害者の福祉や施設内の快適さが常に水準に達しているかを確認すること

○新入所者に入所時に面接し、できるだけ個々の対象者の状況を把握すること

○対象者の評価や職業への準備に当たり重要な役割を果たし、ケース会議の議長もつとめること

○必要に応じ訓戒を行うこと

○企業や病院、社会福祉機関等の関係機関と常に連けいを自ら保つか、担当職員がしやすいよう援助すること

○センターの目的や活動をPRし、社会一般の興味を喚起し、また来客の応接を行うこと。

 このポストに適した人物は次の資格要件をできるだけ多くもっているべきである。

○かかるセンターや大きな部局・団体の運営に当たった経験があること

○他職員と共に望ましいチーム作りができる能力があること

○訓練の具体的方法を考案するための産業界の経験があるか、その実情に精通していること

○予算を作成しうる能力があること

○PRについての知識やあらゆるレベルの人に応待しうる能力があること

○障害者と共に働いた経験があること

 評価・準備センターが病院ないし医学的リハビリテーション施設と連携して、例えば、PTや補装具製作技士といったパラメディカル職員の協力を求める場合には、このセンターがそれらと一貫した施設となるようにしむけることが望ましい。このためにはセンター所長に医師出身者をあて、その所長に協力してワークショップ責任者は主として技術面を担当するという方法が一般的には良策であろう。

(b) センターの医師

 センターの医師は一般的には非常勤でよいが、センターが十分活動できるようになれば常勤が望ましい。しかし、対象者が入所前に積極的な医学的治療を終了していれば、必ずしも常勤でなくともよいだろう。

 業務を簡潔にいえば次のとおりである。

○リハビリテーションを受けるためにセンターに入所する者の選考を援助し、作業可能性の医学面での評価を担当すること

○センター在所中の対象者を医学的に管理すること

○必要に応じ医学的検査や治療を行うこと

○ケース会議等への医学的レポートを作成し、また必要な記録を作成・管理すること

○対象者と密接に接触し、その進歩の状況を観察し、必要に応じ他の職員やセンター外の医師と意見交換すること

○センターの看護婦の業務を監督し、救急医療の態勢を常に整備しておくこと

○治療体操師の業務を計画立案し指導すること

○ケース会議に参加し医学的レポートを提出すること

 対象者が入所してからの医師の業務は通常入所時の医学的検査からはじまる。そもそもチームメンバーは各自の分野以外で使われる一般的な用語について習熟していなければならないが、このことについての医師とパラメディカルでない職員との関係は特に重要である。

 だから医師のレポートでは、臨床診断や障害部位についての詳細な説明よりも、対象者個々の職業上の障害や限界、作業能力向上の可能性、将来の職業選択に与える影響が素人わかりのする言葉で説明されるべきである。

 医師に産業医学の知識があり、色々な産業分野から得られた作業条件についても十分な知識があれば、産業界の要望という観点からみた障害者の能力や限界を評価し表現する医師の力量はすばらしいものになるであろう。

 医師はセンター内の対象者の作業能力向上の可能性と個々の進歩の状況をしっかりと観察する必要がある。一般的には、各対象者は入所と同時に(初日が望ましい)全般的な医学的検査を受け、退所時には進歩の状況について最終の医学的検査も受ける。最初の検査及び必要に応じての再検査はなるべく早い機会に実施されるべきである。対象者が進歩してゆくかどうかはこれらにかかっているからである。

 医学的レポートの様式には、作業能力が改善したか減少したか変化したかといった点について、簡明に記入される欄が作られなければならない。

 この観点から医師はその職責として次のことを行うようになろう。

○治療的訓練を処方し、実施状況を観察し、必要に応じ処方を変更すること

○ワークショップ内のある作業科目が医学的理由からみて他の科目よりも適切である場合には、チームの他のメンバー(ケース会議席上を含む)に対して助言すること

○例えば、心理専門職のテストが知能についての医師の診断をかねることもあるので、精神疾患や精神障害については心理専門職と協力すること

○対象者に度々接触し、作業能力の改善や軽減の徴候を見落とさないようにすること

 医師はワークショップに頻繁に出かける必要がある。このことは医師にとって実際的な利益となろう。なぜなら、実際の作業環境のなかで座業や機械操作を行っている対象者の身体的能力の客観的な評価ができるからである。しかもワークショップへの訪問はセンター職員から歓迎され、職員の興味や熱心さを維持向上させるのに有効であろう。

 ワークショップへの訪問についての時間割は特に必要ではないが、毎日訪問すべきである。自ら毎日訪問できない場合には、代わりに治療体操師や看護婦がワークショップ内の対象者の意味のある変化を読みとり医師に報告できるように、対策を講ずるべきである。

 その例としては、

○結核回復者の再発の徴候

○過労の徴候

○テンカンの大発作以外の発作

○義肢可動域の改善状況

○明白な精神異常

○特に高齢者が検査上明らかにされた程度以上に身体的努力をなしうるかどうかの能力

 医師はときには予後や治療経過や各科専門医の意見をきくために、ほかの医師と相談したいかも知れない。このような場合には、何よりもまず対象者の主治医に文書で照会することが望ましい。

 開発途上国、特に国民健康保険や社会保険の未実施の国では、患者は恣意的に医師から医師へと渡り歩きがちであり、したがって完全に治療経過をたどることが不可能になりやすい。このような場合には、医師はコンサルタントの意見も参考にして、自ら必要と思われる臨床検査の種類、程度を決定し、結果が十分得られるよう配慮しなければならない。

 コンサルタントが大きな医療的処置をすすめた場合には、それが終了するまでリハビリテーションを継続することは適切でない。治療が終了したら再入所してもらうような配慮が必要である。

 最後の方になったが、医師は個々の対象者の記録を作成する。時間の節約のためには、医師は最小限の必要な事項の記載にとどめ、あとは看護婦が記入するようにするのもよい。

 外科的・医学的・パラメディカル的サービスが本来乏しくその発達途上にあるいくつかの開発途上国においては、むしろいろいろな技術が考慮されなければならないだろう。多くの障害者は先天的ないし障害発生時の医療的サービスが不十分なため、リハビリテーション治療を受ける際には既にほとんど症状が固定している者であろう。初診の際、医師はセンター入所に必要な一般健康状態の確認に加えて、整形外科手術や医学的処置、補装具や自助具が作業能力を向上させるかどうかを確認することになろう。入所志望者にこれらいずれか一つの適応があるとしたら、そのための現存する適切なサービスを紹介し、センターはその一連の処置が終了した後に入所させるということになろう。

 障害者の整形外科手術拒否は珍しいことではない。現在の障害のままで生活することに慣れ、日常生活には何の不自由もないよう独自の方式を会得している。このような場合には、評価・準備の過程の間に、医師が、作業動作をその障害者に合うよういくらか変えてみたとしても、その方式を応用して適当な作業をやらせてみることもある。

(1969、ILO刊、Adaptation of Jobs for the Disabled参照のこと)

(c) ワークショップ責任者

 職業評価・職業準備センターを開設するに当たっての基本原則は、そのなかに設けられるワークショップが現実的であり、普通の会社工場とできるだけ同じ作業環境であり、さらには適正な価格で売れる製品を製造していかなければならないということである。

 ワークショップ責任者はセンター所長に対してワークショップ運営の責任を負うが、その主たる業務内容は次のとおりである。

○前記のような作業環境を維持してゆくこと

○適切な下請仕事やその他の生産的な仕事を受注してくること。この場合仕事の切れ目がないようにすることが肝要である。

○作業指導員の採用について助言すること

○作業指導員の新任研修を実施すること

○作業指導員が会社工場の職工と同じような仕事のやり方を行い、生産性に重点を置いてゆくよう彼らを監督すること

○生産工程や生産方式の改善について助言すること

○生産計画の策定について助言すること

○技術畑の助言者としてケース会議に参加すること

 日常業務のなかで仕事を発注してくれるような企業等と親密な関係を維持してゆく必要があろう。

 また作業員個々の能力・長所短所を熟知し、センター所長と共に、彼らがその技術やパーソナリティを駆使して最大限に活躍できるように配慮する必要がある。作業指導員がリハビリテーションチームのなかで重要な位置を占めていることを認識し、相互間あるいは他の職種のメンバーと協力し合ってゆくよう助長しなければならない。

 ワークショップ責任者は「障害」についての知識を得るようにし、特にワークショップにおける個々の対象者の問題や進歩の状況を理解するように努めなければならない。このことは、作業指導員やセンター医師との度重なる討議や対象者との打ちとけた話し合い、さらには対象者をワークショップ内外で個別に観察することによって可能となろう。

 ワークショップや技術畑の代表者として、ワークショップ責任者はケース会議で重要な役割を果たす。彼は作業指導員とチームの他のメンバーとの橋渡しをする人である。作業指導員の作成するレポートを彼自身の絶えざる観察によって補足し、ワークショップ内で対象者を他の作業科目に変える場合や、一人一人の作業の方法を変える場合の技術的助言を行うべきである。

 このポストの志願者を選考するに当たっては、まず彼が十分技術を身につけている人でなければならないということがある。また実務家でなければならないので、会社工場の作業や生産工程の管理者としての経験をもっているか、あるいは会社工場の大きな部門(例えば木工部門)を組織し管理する長か主任としての経験をもっているべきである。1部門だけでなく種々の部門についての経験があればなお好都合である。

(d) 心理専門職

 開発途上国の多くでは、センター内のこの職種は最も得がたいものであろう。なぜなら心理専門職がいたとしても、有資格の者ということになると極めて不足しているからである。常勤・非常勤を問わず全く人を求められない場合には、何らかの方法がとられなければならない。例えば、病院や教育機関から臨床心理専門職または教育心理専門職の援助を受けるというようなことである。

 心理専門職の主要な機能は、新入所者個々の広い意味の知能や職能水準、作業者としての適性や興味を明らかにし、その結果に基づいて職業指導を行うことである。

 その主な方法としては、

○入所申請書やケース記録の内容検討

○事実や情緒的反応や動機づけの状況を確認するための新入所者との面接

○心理テスト

○ワークショップでの行動についての作業指導員の報告や彼自身の補足的観察

○センターの他のチームメンバーからの報告や討議

 心理専門職が求められない場合どうするかを議論する前に、心理専門職の仕事について、開発途上国において有益ないくつかの点に注目することが望ましい。

(1) 心理または適性テスト

 これらは被験者に理解できるテストでなければならないし、テスト結果の評価者は回答の意味を理解できなければならないということが重要である。

 先進国または工業国における多くのテスト方式は複雑であり、開発途上国にはそのまま適用できない。

 多くの開発途上国においては、はじめの何年間かは言語式テストを最小限とし、むしろワークショップで実際のいろいろな作業を遂行する能力を評価することを重視しなければならない。その他のテストとしては、例えば簡単な数的処理能力、読解力、形や色の識別能力等についてのものが考えられる。

(2) テストの実施

 テスターがだれであれ、新入所者に対しては入所後の数日間に(できれば初期ケース会議の前に)適切なテストを実施すべきである。暑い国であれば午前中早目に実施し、時間を長く要する場合には途中に休憩時間を設けるべきである。

 テストを開始する際に、導入として簡単な質問票があると都合がよい。これは三つの目的をもっている──職業選択についての一連の質問に対し、新入所者自身の回答を得ること、職業に対する希望や不安をのべる機会を与えること、過去や将来についての対象者の考え方を明らかにさせることにより、次に行われる心理専門職との面接時間を節約すること。この質問票によって、対象者の知能水準を大雑把にとらえることもできるだろう。

 質問票の項目としては、学歴や職歴(簡略に)、前職に対する態度、余暇の活用方法、将来のための職業的興味等が含まれる。

 テスト開始前にテスターは職業評価についてのテストの目的と回答の記入方法を正確に説明する。またテスターは新入所者のテストを集団で行うか個別に行うを判断し、あるいは疾病等により一時的に延期した方がよい場合にはそうすることが賢明であろう。

 テストのほかに個別面接によって、それまで明らかになった事実を検討し、障害の個人に及ぼす情緒的反応を調査し、職業に対する彼の態度や将来に対する希望を確認する。

(3) ほかのチームメンバーとの連携

 対象者の現状を完全に把握するためには、ワークショップ内外での観察やレポートの内容検討のほかに、個々のケースについて医師や作業指導員その他のメンバーと討議しなければならない。多くのケースはおそらくそれ程難しくはないだろうが、精神的問題をもっているケースについては医師に密接に協力しなければならない。治療が必要ならば、それは心理専門職でなく医師によって行われることになろう。

(4) 職業指導

 心理専門職は職業指導に多くの時間をさく。職業指導とは対象者にどのような雇用の形が最適かを助言することである。その際心理専門職は対象者自身の希望を考慮しなければならず、また一般的にはそれらの希望が現実的な解決をもたらすならば尊重しなければならない。そうでない場合にはその理由を説明すべきである。この点に関する詳細は、ILOManual on Selective Placement of the Disabled 第4章を参照のこと。

 心理専門職は就職あっ旋担当者とケースについて話し合う必要がある。なぜなら、対象者が最も適した職種で雇用されるということはなかなか困難であるからである。心理専門職はまた、対象者はえてして(他人に)選ばれた職にはつきたがらないものだ、ということを記憶にとどめておくべきである。

 ケース会議に報告するに当たって、心理専門職は、そのテストの結果がケースにとっての「最終決定」ではないことを肝に銘じなければならない。メンバーのなかの一人にすぎないし、他のメンバーの見方も考慮に入れなければならないのである。

 この職種は、ときにより「職業カウンセラー」として知られている。職業カウンセラーは心理学を修めている必要はない。心理専門職から求めがたい場合には、社会福祉関係機関や職業紹介機関、さらには文部省関係の機関・学校で職業指導を行っている職員といったなかに適当な人がみつけられるであろう。資格要件として必要なことは、常識豊かな人であり、できれば産業界と障害者についてかなりの知識を有している人であるということでなる。職業カウンセラーはもちろん、実際的なテストを実施しているワークショップ責任者や作業指導員と密接な連携をとってゆく。

(e) ソーシャルワーカー

 ソーシャルワーカーの主たる業務は、

○社会復帰に影響を及ぼすような個人的・社会的・家庭的な問題を解明することにより、対象者の社会的な環境を評価すること

○生起する問題の解決に際し指導を行うか実際的に援助すること

○対象者のセンターにおけるプログラムの消化に影響を及ぼすような社会的問題を、ケース会議に参加して発言すること

 ソーシャルワーカーは新入所者の受け入れに重要な役割を果たし、例えばセンターの目的、プログラム、規則、費用といった点について、新入所者グループ全体にオリエンテーションを行う。

 次いで新入所者の各々に個別面接を行い、次のような社会的背景を確認する

○家族との関係や、家族の対象者の障害に対する態度及び家族のリハビリテーションに対する興味

○生活程度

○住居やその構造上の問題

○入所期間中の経済的問題についての対象者自身または家族の態度

○移送または通所の際の交通機関の問題

 ソーシャルワーカーは面接をとおして、対象者が障害の現状に直面し新しい事態を受容し新たに対応してゆけるよう、望ましい関係をうちたてるべきである。この関係は、対象者に何か問題があった際すぐに相談にのってくれる人間にソーシャルワーカーがなりうるよう、センター内での二人の間のうちとけた話し合いによって作り上げられるものである。

 ソーシャルワーカーはすべての事実を確認すると同時に、問題になっている事実に着目し、どこに解決困難な原因があるかをみきわめ、どれが克服できるかを明らかにしてゆく。また家族への働きかけや話し合いも、対象者の現状を把握したり、家族の協力を得たり、社会復帰の円滑化を図ったりすることに有効である。多くの場合、問題は比較的簡単に解決されよう。でない場合には、ソーシャルワーカーはかなりの技術と忍耐をもって、対象者が自ら問題を認識しその解決についての助言を受け入れるよう、しむけなければならないだろう。

 対象者が例えば経済的な問題をもっているなら、それに関係する機関から援助を受けられるようになるよう、ソーシャルワーカーは各種社会資源についても十分熟知しているべきである。

 ソーシャルワーカーはまたケース会議へレポートを提出し、対象者の社会的な問題について他のメンバーに理解させ、忘れられてしまわないよう確認してゆくべきである。

 この職種に採用される者は、ソーシャルワークについてかなりの経験をもっているべきであるが、社会科学ないしは関連諸科学について学位をもっている必要は必ずしもない。センター開所当初なら非常勤または兼務でもよいだろう。これらも不可能であれば、対象者の社会的な問題の解決は他の適当な機関に依頼するという方法もある。がこれはあくまでも最後の手段である。

(f) 就職あっ旋担当者

 センターの就職あっ旋担当者は、退所の際に適切な雇用を確保して、リハビリテーション全体のプロセスを完成させるという点で、重要な役割を分担する。その機能は、公共の職業紹介機関が国内に存在するかどうかによって異なってくる。

(1) 職業紹介機関の存在する国の場合

 この場合には、実際の就職あっ旋は入所者の居住地を担当する職業紹介官によって行われよう。各々の地方の職業紹介官がセンターチームの行った対象者個々の最終的評価の内容の詳細なレポートを必要とするという点で両者に緊密な連携がなければならない。センターの就職あっ旋担当者は、対象者の在所している間に、退所後帰来する地域の就職の可能性を知ろうとする。なぜなら、ケース会議の席上で個々のケースに最も適切な就職の可能性を発表しなければならないからである。

 彼がセンター周辺の雇用主と接触してゆくことは望ましいことである。このことは、下請仕事を受けるために有効だということとは別に、センターから直接就職させることを可能とするかも知れない。こうした場合には、担当の職業紹介官に連絡しなければならない。

 さらに、担当官に就職あっ旋のための時間的余裕を与えるためには、退所前2~3週前に、退所予定日や対象者の将来についてセンターでの結論を連絡すべきである。

(2) 職業紹介機関が存在しない国の場合

 この場合には全責任はセンターの就職あっ旋担当者にかかってくる。リハビリテーションの効果が減少しないためには、プログラムの終了後直ちに就職あっ旋されることが望ましいので、雇用の機会がすべて明らかとなるよう、常に地域の雇用主と密接な連携をとってゆく必要がある。対象者がセンター周辺以外から入所しているとすれば、さらに広範囲にわたってそうする必要さえあるだろう。さらにまた、労働組合や商工会議所、職業訓練機関その他対象者の求職に関連するあらゆるグループや団体・組織と連携を保つことが望ましい。また、その地域における産業やその生産工程についての知識をかなりもっているべきである。

 就職あっ旋担当者は初期ケース会議の前に個々の対象者に面接し、それぞれについての予備知識と将来の職業についての考えをまとめ、センター在所中の彼と常に接触してその進歩の状況を観察し、また医師や作業指導員たちと討論する。その間じゅう常に開拓の必要のある職種を考えてゆく。

 以上の結果をケース会議に報告し、最終ケース会議(退所2~3週前に開かれることが望ましい)で結論が出された際、その結論やその理由を対象者に説明する。対象者がその結論に同意しない場合には、同意に達するようチーム全体で状況について再び十分に話し合ってみること。なぜなら、対象者自らが同意しなければ全く何にもならないからである。

 その後に就職あっ旋担当者は最終的な評価レポートを作成する。これは明確で誤解がないようにしておくべきであり、職業紹介機関があるならそこの担当官に送付するし、なければ自らこれに基づきあっ旋活動を行うべきである。

 職業紹介機関があれば、このポストに人を得るのにさほどの困難はないだろうが、国際協力による援助や奨学金制度による国外留学によって、障害者の就職あっ旋についての技術を詳細にわたり学んでこれるような配慮が必要となってこよう。このことについてはさらに、ILOのManual on Selective Placement of the Disabled 第7章を参照のこと。

(g) ワークショップの作業指導員

 ワークショップの作業指導員はその担当部門において直接対象者を指導する。その作業遂行能力を第一に確認できるので枢要な地位にある。彼のワークショップ責任者(いなければセンター所長)へのレポートは、社会復帰の形をきめる上にかなりの重要性をもつ。だから彼は医師あるいは心理専門職からの指示にしたがって、個々の対象者の進歩を十分観察し、彼自身も参加して作成されたプログラムにしたがうべきである。通常はケース会議に出席しないが、特別なケースで詳細な資料が要求される場合やワークショップ責任者が不在の場合には出席することもある。

 このような職員を採用するに当たって重要なことは、その機能が作業能力の可能性を評価することであって、訓練してゆくことではないということである。必要な職業訓練は職業訓練施設なりその他の場で与えられるものである(第7章を参照)。

 担当する特定の領域について高度の技術水準にあることは必要ない。最良の志願者として、工場その他で生産工程の管理工の経験をもち、色々な作業に応用のきくような人が望まれる。指導することについての実務経験があればなお結構である。この点が不足しているならば、短期間の研修コースを設けることが必要であろう。

 できれば、病欠その他の際の代替要員となる「無任所」作業指導員もほしい。

(h) 治療体操師

 治療体操師は医師の指示にしたがい、特定の目的、例えば登ること、持ちあげること、足や腕の運動に必要な身体能力を発達あるいは再発達させるための器具を考案し、練習方法を編み出す。障害のままに長期間運動しなかったような対象者の身体的適応能力をのばす責任もある。その指導結果は医師のレポートのなかに組みこまれて、ケース会議に提出される。

 この職種の理想的な職員は、この職種のために特別に訓練された者で、理学療法についてのかなりの知識と病院や類似の施設で働いた経験のある者である。このような人がいない場合には、軍隊でこのような仕事をしていた身体訓練士等が適任であろう。

(i) 看護婦

 看護婦は医師の指示に基づき、センター内での事故や疾病の際の救急処置を行い、その経過を見守り、必要な器具を常に整備しておく。必要があればケースを頻繁に観察し、チームのメンバーとして医師や心理専門職に連絡する。訴えが実際よりオーバーと感ずるような場合には特にそうすべきである。

(j) 補助職員

 各々のタイトルに示されているような職員を採用することはさほど困難ではない。管理や記録、会計や物品出納を担当する職員は、監督庁の事務処理要領により処理しなければならない。予算の都合上開所時に全部の職員を採用できない場合には、それぞれいくつかを兼務しなければならないだろう。当初には事務量はあまり多くないだろうし、センターの発展に伴ってそれは増加してゆくものである。

 6. 作業時間と休日

(a) 作業時間

 センターのワークショップはその国の通常の会社工場とできるだけ同じ作業条件・環境を備えるべきである。

 基本原則としては、対象者は医師の指示にしたがい、その国の通常の労働時間となるべく同じに作業するということである。例えば医師は結核の回復期にある対象者について、当初1日3~4時間の作業からはじめ、症状の回復にしたがって次第に作業時間を増加させてゆくよう助言するであろう。またセンターが医学的リハビリテーション施設と連携しているならば、リハビリテーション療法の一部として1日1~2時間通所してくるかも知れない。

 当然のこととして、センター職員は対象者が作業しているのに自分たちだけ帰るわけにはいかない。このことは夏季そのほかに異なった労働時間をとっている(経営主体である)当局の職員とちがった労働時間となって、あるいはまた一般工場労働者の労働時間とも一致しないということで、紛糾の種になるかも知れない。このような場合には、労働時間についての主管官庁から許可を得ることが必要になろう。

(b) 休日

 対象者は職業訓練のように固定した一定期間在所するのではなく、期間はそれぞれの必要に応じて定められる(第4章3を参照)。

 対象者は随時に入・退所するが、センターはその国の通常の休日と国民の祝日以外は継続的に運営されているべきである。

 センター職員は、代替職員が十分その不在を埋めるだけの応援をしてくれるときにのみ年次有給休暇をとらざるをえない。したがって、各職員はほかの職員の業務の要所を十分掌握しているべきである。医師の場合には、リハビリテーションに関心のある開業医にその穴を埋めてもらうということになろう。

 ワークショップに関する限り、主任指導員はワークショップ責任者の代役を果たせるであろうし、「無任所」作業指導員が採用されていれば、彼が休暇中の職員の代替を行うだろう。主任指導員がおらずまた作業指導員のだれかが「無任所」と指定されているならば、彼かまたはほかのだれかが業務を代行するであろう。

第4章 ワークショップの組織と運営

 1. 一般原則

 対象者はワークショップにおいて大部分の時間をすごし、就労のための職業評価や準備も大部分がワークショップのなかで行われる。したがって、次の質問への回答がかなり重要となってくる。

○どのような作業を用意すべきか

○どのようにして作業を確保すべきか

○どのように組織すべきか

○作業指導員と対象者との関係をどうすべきか

○対象者が一つの作業部門から他へ移行する際の原則をどうすべきか

 ワークショップ責任者はセンター所長にその運営についての責任を負い、上記の全質問に回答するという重要な役割を果たすものである。ワークショップでは一般の会社工場の作業環境にできるだけ近づけ、合理的な速度で商品を生産し、気晴らしの手工芸品を単に作るというようなことではないとするのが基本原則である。ワークショップ責任者にはかかるふんい気を作り出す責任がある。

 しかしながら一方では、全く就労経験のないあるいは長期間就労したことのない重度障害者がいる。こういうケースを通常の作業水準にまで引き上げるには12週程度以上が必要であろう。

 2. 受け入れ

 受け入れ率は種々の要因、例えばセンターの定員、応募者数、入所期間の長期化か短期化の傾向等によって影響を受ける。しかし、ワークショップでの多忙なふんい気のリハビリテーション的効果を維持するために、なるべく定員一杯にすることを目標とすべきである。

 定員100人のセンターであれば、ワークショップには毎日85~90人が来所してくることが望ましい。6~8週コースとすれば、毎週約12人を新規入所させることが適当であろう。なかには失敗するケースもあろうし、その場合には待機者名簿や関係施設・機関からできるだけ早急に補充することになろう。

 3. コースの必要期間

 一般的には大部分の対象者にとって6~8週コースが適当と考えられるが、厳密な規則を定めるべきでなく、対象者個々のニードや状況によって入所期間を延長・短縮すべきである。

 例えば、疾病や受傷が快方に向かい従前の職場に戻るために、単に身体的調整と工具や機械類への慣れや作業速度を回復するだけの対象者にとっては、3~4週位が適当であり、職場復帰が確実になれば直ちに退所が可能となろう。また対象者が中途で自ら職をみつけそれが適当と考えられる場合にも同様な配慮が行われよう(センターのプログラム終了まで退所させないということはない)。

 4. 備えられるべき作業

 ワークショップでは、既に強調されたように、実際の作業を行うことが肝要であって、気晴らしの作業を行ってはならない。これは生産的作業によって作り出される態度が重要だという心理的理由による。対象者が単にとにかく何かするために、または治療的訓練として物を作る場合には、えてして注意を自身に向けて、職業復帰できる間、正に時間をつぶすために何か作っているとしか感じないようになろう。他方生産的作業に従事している場合には、仕事に熱中し、最大限の能力を発揮してその障害を克服し、職業社会に進んでゆこうとする好ましい態度を身につけるようになろう。

 どんな種類の作業を用意するかを決定するに際しては次の点を留意すべきである。

○センターが工業地帯にあるか農業地帯にあるかによって異なるが、容易に就職先がみつかるように、作業はその地域に多い職種と直接的な関連をもっていなければならない。

○リハビリテーションは生産的作業に従属されるべきではない──対象者のために作業が選ばれるべきであって、作業のために対象者が選ばれてはならない。

 技能的作業を習熟するための訓練は職業評価・準備センターの機能ではないので、多くの開発途上国の場合に用意される作業は、非熟練か半熟練かまたはそのように分類されるようなものであるべきである。例えば、センターは工場や職業訓練センターにおいて、大きな製品の小さな部品を作る作業を行うというようなことである。

 対象者を個々の作業に配属させる目的の一つは、彼の能力をテストし、職業適性検査のようなペーパーテストの結果を確認し、職業訓練の特定科目の適性を検討することである。このために特別な練習やスピードテストが行われるだろうが、これも一般的には実際の生産的作業によって行うべきである。作業がその地域にある何かの下請仕事であれば、対象者が最終的には就職あっ旋されるような職種と同様な作業のなかでテストが可能となろう。

 生産的作業の導入はできるだけ最大限に図られるべきである。センターが卓上ボール盤、旋盤、木工旋盤のような機械を購入できれば、これらによって雇用機会の開拓も容易になろう。また、製品の検査は、座業ないし半座業に向くような、つまりその職業復帰の可能性が目を使う単純作業にしかないような対象者の能力をチェックするための手段となりうるだろう。

 座業しかできないような対象者のためには事務作業も導入すべきである。従前に肉体労働していた者でも、退所後引き続き職業訓練を受けたりして単純事務作業につけるだろうし、あるいは座業ということでなくとも、事務員や店員その他事務作業と何かを組み合わせた職につくこともできよう。

 農業地帯ではまた別の考慮が必要であるが、詳細は6(c)にて述べる。

 5. 生産的な作業の開拓

 生産的作業は一般的には次のようなものの1ないし2以上から求められるだろう。

○外部の企業や病院その他同様な機関からの下請仕事

○政府機関のための仕事

○センターで使用される物品の製作・修理とか、職業訓練センターが付属していればその訓練科目に関連した仕事

○個人の顧客からの注文仕事

○訓練として作っても商品価値があって、売却できるものや商店に販売委託できるようなものの製作

 以上のうち、できるだけ下請仕事を作業の中心とする方がよい。なぜなら、通例、絶対的でないにしろ、配達・回収日がきまっているような実際の仕事が提供できるからである。このような作業のいくつかの例としては、

○自動電話交換機に使われているバンクス(キーの列)の部品を分解・組み立てること。これにより細かな作業の能力がテストできる。

○機内食に使われるナイフ・フォーク類をセロハンに包装すること。これにより物品選別に集中する能力だけでなく、単調作業の継続能力がテストできる。

○酒類や清涼飲料、家具等の包装用(荷造用)木枠を補修すること。これによりハンマーやのこぎり、定規等の簡単な工具の使用能力がテストできる。

○形や寸法にしたがって金属を切削したり研磨すること。これにより簡単な金工用工具、例えば、やすり、のこぎり、スクレイパー等の使用能力と、原図どおり作業する能力がテストできる。

○病院用リネンを作ったり補修すること。これにより原材料をそろえてハサミを使い、手やミシンで縫う能力がテストできる。

○公共機関その他のために籐等で屑かごを作ること。これによって手指の巧緻性や力の程度がテストできる。

 ワークショップ責任者は下請仕事を確保するために、地域の企業やその協会、さらには公の機関や団体と接触を保っていなければならない。さらには職業紹介機関の担当官やセンター運営会議(があれば)のメンバーも活用すべきである。

 センターが完全に整備されないまま開所する場合には、多くの下請仕事を用意する必要は必ずしもないが、しかしその場合にも仕事がバライエティに富んでいて中断することのないよう留意しなければならない。

 下請仕事が十分に確保できない場合には、例えばセーター類やハンドバッグ等の皮製品や陶器・織物の製作、グリーティングカードやポスター・プログラム等の印刷を、商店や個人の顧客からの注文により行うこともできよう。

 センターそのもののなかに、そこでの家具・備品・窓・小道具の修理や室内装飾・標識・野外テーブル・いすの製作とか修理の仕事が常にあることも見逃してはならない。センターが職業訓練センターと連携しているならば、そこで完成品となるものの簡単な部品の製作や部分的組み立てという仕事もあるだろう。

 6. 作業の組織づくり

 ワークショップの部門別組織は実施される作業の種類やセンターの活動いかんによって異なってくるが、以下はセンターが十分に活動を開始した際の組織づくりと開所当初の応急策についての説明である。

 (a)十分な活動を開始したセンターの場合

 このようなセンターで定員が100人であり、個々の作業に就職の機会が結びついている場合には、通常次の7部門が必要であろう。①初期観察、②木工作業、③金工作業、④機械操作作業、⑤軽ないし簡易作業、⑥事務作業、⑦園芸作業。

 この区分にしたがえば、7人の作業指導員が必要となり、またできれば休暇や病気で指導員が欠けた際の代替要員としての作業指導員も確保していることが望ましい。不可能な場合には、だれかが代わって指導できるような態勢にしておけばよいだろう。

 作業指導員は担当数が一定人数以下でなければ、適切な注意を払っての個別指導ができないので、各部門への配属人員は10~15人程度が望ましい。ただ各部門の人員は対象者の数やニードによって常に一定しないものではある。個々の部門についての詳細を次に述べよう。

 (i) 初期観察部門

 新入所者はすべてこの部門に配属されるが、名称はときには受け入れ部門・初期選別部門とも呼ばれる。毎週退所があるので、入所は通常週に約12人であろうし、最初の1週間はこの部門に所属することになろう。

 このような導入方法を採用した理由は、リハビリテーションの第1段階を容易にすること--その社会復帰を妨げてきたマイナス面と社会復帰を促進させるプラス面がそれぞれ何であるかを発見すること--である。センターのチームは、そのニードを確認したり処遇方法を決定する前に、一人一人を把握しなければならない。このためには、新入所者をいきなり各部門にバラまくよりは、まとめて1部門に置く方が適切なのである。

 センター所長かソーシャルワーカーがまず面接し、センターの目的から課程・規則等を説明する。次に、対象者個々の申請書類に記載されている事項が、引き続き行われるセンターのチームメンバーによる面接・調査の間に確認されてゆく。医師は診察を行い、どんな補装具が適当か、どう適合させるか、さらには作業指導員にその使用状況のチェックを求める。その他のチームメンバーも初期ケース会議の前に、新入所員とそのニードを各々の立場からチェックするわけである。以上はすべて1日半で終了するようにし、残りの時間は対象者の作業状況の観察にあてるようにする。

 第2週以降に始まる作業のための単なる待機期間としないためには、作業指導員が新入所者をどの部門に配属したらよいか決められるように、いろいろな職種についてのテストにしたがって、その実際の能力を初期的に分類できる多種多様な作業を用意しておくべきである。

 ここでの作業の種類は、一般的には他の部門で行われる作業と何らかの関連をもっているべきであり、また例えば卓上ボール盤や手動ドリルの操作、簡単な工具での木の切削、小さな部品の組み立て、ミシン操作、簡単な事務的作業といったような仕事も行われるだろう。

 この部門の作業指導員は多くの責任を負っており、また多芸であって、そこの多様な作業について広く浅い知識をもっていなければならない。

 ここの作業指導員は、新入所者がセンターでの作業経験のなかで初めて実際の接触をする人であり、対象者が最初のこの数日間に次のコースを消化できるかどうかが決まるのは、この指導員の行動いかんによる。新入所者がセンターについての印象をまとめるのは、この段階であることも銘記しておかなければならない。したがって、どんな男性や女性であってもまたどんな状態にあっても、協調でき、彼らに激励や必要な場合には同情も与えられるというようなことが大切である。新入所者たちが自由に話しかけてきて、お互いに問題を話し合ってゆけるようにしむけておかなければならない。

 新入所者たちの職歴について、ワークショップ責任者から情報提供を受け、またほかのチームメンバーの各々の立場からの情報も加えて、この部門に配属されたとき全員を集めて、どの位ここにいるか、どんな作業をするか、どのようにして次の部門に配属されるかを説明する。入所者が希望の作業をさせてくれないと訴えた際には、新入所者の状況を知り、二、三の作業遂行状況を観察し、将来の就職可能性を相互に話し合うために、センターがこの部門で若干の時間を費やしてもらうことにしている旨を彼らに説明した後に、作業にとりかからせるようにする。

 この週の終わりに、作業指導員は一人一人の行動の結果をワークショップ責任者に報告し、そのなかに個々についてどの作業部門が最適かという予測や、ワークショップの規律や訓練についての反応を盛り込む。センター所長は全メンバーと討議して、どの作業部門に配属するかを決定する。

 (ii) ワークショップへの配属

 この初期観察部門において、第2週以降の配属のために必要な事項は一応明らかにされなければならず、配属は最終的には初期ケース会議で決定されるけれども、この部門で十分検討される。

 対象者の希望に沿って各部門への配属や再配属が決められるというのが基本原則である。もっともそれに反しても決めるという明確な理由がある場合は別であるが、その際には理由をはっきりと対象者に説明しなければならない。このような例としては、対象者の希望が実際的でないとか、あるいは就職可能性が少ないか全くないために現実的でないとか、更には医学的理由、またその部門の定員が既に一杯で直ちには希望がかなえられないといった場合が考えられる。このような場合にはその理由をはっきり説明し、次善の方法に協力を得ることがよいだろう。

 対象者の個々のニーズや希望に何の配慮もなく、単に障害部位等によって配属が行われるようなことがあってはならない。最重度の障害者はえてして簡易作業部門にゆくことになろうが、センターとしては軽い座業を1部門だけでなく、数部門に用意しておくべきであろう。

 初期ケース会議で配属先が決まると、そのなかで対象者はその身体的・精神的能力に応じて作業を行うことになるが、在所期間中同一部門に所属している方がよいだろう。といっても、何人かは復職不能で、転職の可能性の調査が必要な場合もあろう。心理専門職は対象者の能力の範囲内または外にあるいくつかの職種について考えをまとめるであろうが、その実施するテストの結果については、職業訓練を受けた方がよいという場合には特に、実際の作業試行によって確認してゆかなければならない。

 ある部門から他へ配置がえする者の数は各部門に多様な作業があれば少なくなるだろう。このことは、変更を好まない対象者と、彼に慣れてその進歩の状況はよくわかり一貫した報告のできる作業指導員の双方にとって有益である。前記(i)において強調したように、作業指導員と対象者との関係は非常に大切なのである。これは長ければ長い程よい。したがって、はっきりした理由がある場合にのみ、対象者は他の部門に移行させられるというだけにとどめるべきである。

 (iii) 木工作業部門

 この部門は、手工具を使う技能についての評価や数種の機械が設置されている場合には、その領域の職業訓練の適否の評価に有益である。

 いわゆる木工道具が主な備品となるが、木工機械の操作も評価の対象とするためには、小型回転のこ盤、携帯用のこぎり、研磨機、木工旋盤等を設置すればよいだろう。

 作業の大部分は立位で行われるので、治療的な訓練にもなる。この部門に所属したからといって退所後大工道具を使う職種に限定されるということはないが、木工に適している女性を排除することもない。

 木工部門なら生産的な仕事をみつけるのにさほどの困難はなかろう。測定、切削、研磨、接着といった大工的な作業は、次のような仕事のために行われるべきであろう。つまり、種々の形状や色の玩具・ストール・卓上ランプ・小テーブル・庭園用道具・荷造用ケースの製作、病院用家具の修理等である。

 (iv) 金工作業部門

 この部門は金属材料を手で仕上げたり適合させたりするところであり、また機械操作部門とも密接な関連をもっている。作業は通例、やすりや金づち、のみ、金のこ等を使って行われる。

 このような作業は軽工業の分野で広く行われ、したがって就職の可能性の多いことになる作業の個々の遂行能力を評価するのに有効ということで、この部門は価値がある。数段階にわかれた技術水準が提供されるので、金工部門の職業訓練についての適性評価にも有益であろう。さらには治療的な訓練にもなるであろうし、座位作業も立位作業もあり、種々な筋肉の動かし方を必要とするので、種々の障害をもった者が配置できよう。

 (v) 機械操作作業部門

 活気があって多数の機械が運転されているこの部門は、ワークショップを工場的ふんい気にするのに役立つ。理想的には巻き上げ機や旋盤、ボール盤、かんな盤、フライス盤、グラインダー等がほしい。開発途上国ではこの理想にはほど遠く、予算や賃金の範囲で購入するか、企業から寄付や貸与を受けてできるだけそろえるといったことになろう。ほしいものはそろえなければならないが、最小限必要と思えるものは小型旋盤、卓上グラインダー、卓上ボール盤、手動式プレス、足踏式プレス、金工用工具一式である。

 この部門で常に生産的な仕事を確保することは若干困難と思える。製作品は多分他の製品の部品であろうし、常時回転できるかは軽工業の企業から継続的に下請仕事が流れてくるかどうかにかかっている。もちろん、この部門の機械類や対象者にみあった注文を受けてゆくよう留意しなければならない。また不良品が続出しないような検査システムも必要である。

 軽工業が発展中の国では、通例半熟練的な機械工の求人があろう。ここの仕事に対する適性や退所後の職業訓練の適否をテストする唯一の方法は、機械を実際に操作させてみるということである。また製品の検査作業も、これに能力や希望のある対象者によって実施できることも忘れてはならない。

 (vi) 軽ないし簡易作業部門

 ここは雑多な作業、例えば分解、組み立て、分類、加工、仕上げといった簡易作業を行う部門である。つまり軽作業であり、座位作業であるという点で他部門とは異なり、またなかには若干の技能を要する作業もあるが、通常は他部門でも使われる工具や器具を使って作業が行われる。いろいろな原材料、例えばプラスチックや繊維、木材、金属、皮革等が用いられる。

 作業はできるだけ会社工場で実際に行われている作業と関連していなければならない。例えば、繊維産業に使用されている家庭用または工業用ミシンが設置されていれば、下請仕事も多く流れてこよう。会社工場から仕事をもらえないときには、個人の顧客からの注文を受けることもあろう。

 作業が軽作業でかつ座位作業なので車いす者にも適している。作業のいくつかは単調であるが、このことはチームがこの種の作業に対する対象者の反応を評価し、このような作業でも合理的な生産高をあげられるかどうかをみる必要があるので、決してマイナスではない。手作りで部品または完成品を作る作業も行われよう。これにより何人かの対象者の興味が引き出され、他部門へ移る動機づけとなることもありうる。

 (vii) 事務作業部門

 この部門は次のような大きく分けて三つのタイプの対象者に向いている。

○事務作業の職業訓練に必要な水準に達することが期待できる者、あるいは事務作業の就労経験があってその知識を回復させれば再就職可能な者

○その水準には達しそうもないが、単純な事務作業または事務補助作業には就職可能な者

○職業訓練コースの試験に合格できる程度の算数的能力をつける必要のある肉体労働者

 はじめの2グループは、職業訓練や就職への準備が完了するまで、通例8時間の作業を続けることになろう。第3のグループは、作業指導員の指導にしたがって教科書の問題を練習するだけなので、1日1~2時間か8時間なら数日間で十分であろう。

 はじめの2グループは実際の諸条件の下で作業すべきなので、センター内のいろいろな場、例えばタイムレコードの整理、賃金または手当の支給準備、倉庫の受払の記録と整理、文書整理といった事務作業に参加できると理想的である。仕事量が少なくて対象者の需要に応じ切れない場合には、代わりの方法が考案されなければならない。

 簿記会計や商業通信や事務所内の一般作業等の練習は教科書をとおしてでもできるけれども、模擬の賃金支払伝票や倉庫の受払伝票、台帳等をとおして行った方がより効果的であろう。これによって、事務作業の重要な側面──丁寧さと簡潔さ-──をテストできることになる。速記やタイプができるようにしておけば、そのスピードを回復しようとする者や、タイピストとして就労したい対象者を評価するのに適切という意味で有益である。

 (viii) 園芸作業部門

 ここは、何らかの戸外作業につこうとする者や、身体的・精神的な回復のための一つの方法として戸外作業の必要な者、さらには畜産や農作業にむく能力を評価する必要のある者のためのものである。

 農業地帯のセンターならば主要な部門であるが、工業地帯にあって農地がなければ、センター周辺の土地を整備するという形で行われよう。フラワーボックスやフェンス、コンクリート製コーナーやスラブ等をここで作ることも含まれてよいが、荒い木工作業やコンクリート板を扱う作業も、雨天時の代替作業として取り入れてしかるべきである。

 またここは、戸外室内を問わず、中程度の労働についての適性をテストするのに適した部門である。

 (ix) 作業プログラム

 各々の部門に何らかの作業プログラムがなければうまく運営できないであろうが、職業訓練センターで用いられるような詳細な指導要領を作る必要はない。

 各部門の作業指導員は、各種工具の操作やその他の作業遂行時間の算定を含む全体的な時間的プログラムを考案しなければならない。個々の対象者によっていろいろ変動があるので厳密な適用はできないだろうが、とにかく基本的事項を定める趣旨のものである。

 プログラムはワークショップ責任者に提出され、また、センター所長の承認も得ておくことになる。

 (x) 対象者についての各部門の報告書

 いろいろな作業や操作のテストがうまくできたことで明らかとなった対象者個々の能力は、ケース会議席上でセンターチームによって各々の最終的社会復帰計画が検討される際に、重要な問題点となる。

 各部門の作業指導員は、ケース会議の前または定期的に対象者個々の作業遂行能力についての報告書を作成し、ワークショップ責任者に提出する。ワークショップ責任者は自らの観察結果もまじえて問題点を作業指導員と討議し、それらをまとめてケース会議に報告書として提出する。

 個々の作業指導員の評価方法の違いによる混乱を避けるために、報告書の様式は標準化しておくべきである。

 (xi) 作業時間

 工業的ふんい気を維持するため、対象者はセンターの作業時間(または医師の処方により短縮された作業時間)を守るべきである。

 タイムレコーダーによる記録が望ましいが、これは開発途上国の多くでは実現困難であろう。しかしとにかく何かの方法で出退勤の状況を記録しておくことが必要である。

 この記録は出欠勤の状況を明らかにし、手当の支給(があれば)計算の基礎資料となる。

 (xii) ワークショップの安全管理

 最後の方になってしまったが、この安全の問題はワークショップにおいて第一に重要なものである。安全管理の責任はワークショップ責任者と作業指導員の双方にある。彼らは口頭や掲示板によって安全規則の徹底をはかり、注意深く観察し、違反があれば訓戒を行う。安全確保、危険防止は次のような方法で行われよう。

○機械に安全装置を備え付け、十分に習熟させること

○通路を明確に表示し、厳格に守らせること

○職員や対象者の動作の邪魔にならないように床面を整理すること

○ワークショップや倉庫の材料や物品を整理整頓すること

○積み上げた物品が落下しないように配慮すること

○物を持ち上げたり運んだり曲げたりする際の安全な方法について定期的に教育すること

○救急処置の万全を期すこと

 センターにおける一般的就業規則の写しも各部門毎に掲示しておくべきである。

 (b) まだ十分に活動を開始しないセンターの場合

 多くの開発途上国においては、以上に述べたとおりのセンターを開所することは不可能であろう。今までに述べた原則はもちろん適用されるべきであるが、作業プログラムや報告書、作業時間、安全規則については、設置された部門の数やレイアウトによって若干の修正が必要であろう。

 例えば、センターの定員が20~30人位でワークショップに2部門しかないとしたら、初期観察部門を設けることは実際的でない。そこでのテストは二つの部門のいずれかまたは双方で行われるようになろう。できるだけ多種類の作業が行われるためには、その2部門を複合させること、例えば1部門で金工作業と機械操作作業を行い、他部門で木工作業と軽作業を行うというようなことが必要となろう。このことは各部門の配属人員を12~14人に減らすことになり、開所当初で応募者も少ない時にはかえって適当であろう。

 同様な配慮が最大定員60~70人のセンターの開所当初にも適用されよう。

 (c) 農業地帯のセンターの場合

 このセンターについても、一般的には以上に述べた基本原則が適用されるが、作業の種類や部門の組織は当然異なってこよう。

 多くの開発途上国は工業近代化がさほど進展せず、どちらかといえば農業中心であろう。このような場合、障害者はその出身世帯に復帰するに違いないし、多くは自作にしろ小作にしろ農業従事者となろう。したがって、農村レベルで自立できるようにプログラムを作成することに留意すべきである。

 小動物(山羊、豚、羊等の家畜)の飼育、農家の建築、裁縫、靴やサンダルの製作、地方特産の手工芸品(例えば、彫刻、織物、皮革工芸品、カバン、カゴ、装身具、テーブルランプ等)の製作等の設備・備品を用意するとよい。

 基本原則とは逆に、一つのセンターで評価機能と訓練機能の双方を行う場合も異例ではない。なぜなら、自身の希望や身体の残存機能にもよるが、何でもやる農業従事者にとっては3~4科目を習得した方が得策と思えるからである。

 農業国から脱皮しつつ工業が発展中の開発途上国においては、現存の協力企業や障害者のために特別に創設された職場、自営、保護工場や家内工場に就職の見通しがつけられるよう、その国独自の産業に見合った同種の作業を導入することになろう。このような職種の職業訓練は、通例、協力企業やリハビリテーションセンターや庇護ワークショップのなかで可能であろう。

 ワークショップの部門の組織も、ケース各々の事情によって異なってくる。

第5章 対象者の資格と選考方法

 1. 定義

 職業評価・準備センターは、適切妥当な就職の前にこのようなサービスを必要とする障害者に利益となるためのものである。

 各国は、障害者雇用促進のために制定された法令によって「障害者」を定義していよう。定義は簡潔で、諸条件の下で運用可能であり、明確なものであるべきである。センターのサービスを受けるに適した障害者の類型を定めるためにも、国情にあった何らかの定義が必要になってくる。全く定義がない場合には、Manual on Selective Placement of the Disabled(ILO)第1章を参照されたい。

 2. 対象者の供給源

 対象者は、職業紹介機関の求職登録者のなかにいるだろうし、病院、開業医や障害者のための民間団体・組織からの紹介もあろうし、センターの存在、目的、方法のPRによって応募してくる者もあろう。

 大切なことは自発性を尊重することであって、入所を強制してはよい効果がみられないだろうし、社会復帰に当たっては何よりも対象者の全面的な協力がなければならないからである。

 3. 対象者の選考

 個々の応募者を入所させるかどうかの判断は、通常センター所長が医師や就職あっ旋担当者と十分相談の上行われるが、多くの場合かなり困難なことではある。センターがその国最初のものであり、参考となるべき手本が全くないか少ない場合には、特に困難であろう。

 センターが充実するにつれて方法や対象が明確になってくるとしても、どの程度の期間があれば対象者の態度や状況を変更できるかについて、予測することは何人でもできまい。厳格な選考基準の作成は実際的でないし多分賢明とはいえない。考慮すべきいくつかの問題を以下に述べる。

 (a)疑わしいケース

 開発途上国の最初のセンターの開所当初では、経験不足もあって、一体全体どういうケースを入所させたらよいか多くの疑問が生じよう。例え経験が積まれても、疑問の残る者は何人かいるものである。

 例えば、医師が応募者に8時間就労に必要な身体的能力がないようだから入所を見合わせた方がよい、と助言するかも知れない(しかしパートタイムの仕事ができて、家内労働者としてあるいは農場の手伝い、家畜の飼育、手工芸品製作者として訓練可能であれば、リハビリテートさせることが多分望ましい)。通例、いかなる作業も全く完全にできないという見通しがない限り、入所拒否すべきではない。

 また、コース終了後に就職可能性が少ないからと、就職あっ旋担当者が入所拒否を助言するかも知れない。これも慎重に検討すべきである。なぜなら、問題は今就職できるかどうかでなく、コース終了後にどうかということだからである。例えば、ある応募者が小さな村に住んでいて、その障害が支障となって最寄りの町にも行けないという理由で、就職の可能性が少ないとする。しかし、リハビリテーションによって、彼の精神力が実質的に変化し、職場通勤に支障とならないように身体的能力が回復するようになるかも知れない。また、社会復帰の鍵となる技術習得のためといっても、家を離れることに気のすすまなかった青年が、リハビリテーションを受けている間に、そうすることこそ将来を自分のものとすることなのだと悟るかも知れない。したがって、就職可能性があまりないという理由から応募者の入所を拒否する前に、リハビリテーションコースにのりさえすれば身体的能力がしばしば回復することになるし、また態度の変容をもたらすということのためにも、適切な十分な措置の設定を配慮すべきである。

 (b) 入所決定の延期

 ケースによっては、いくつかの問題点が明らかになるまで、入所の最終決定を延期することが望ましいことがある。例えば、すぐに就職できそうだという理由で入所を拒否する場合でも、その決定の前に面接してその点を確認すべきである。

 医学的な問題を明らかにするために、医師による入所前の診察も行われるだろう。入所前に何らかの治療が必要と医師が認めたならば、その結果が明らかとなるまでケースの入所選考は延期すべきである。心理専門職は入所前の面接によって簡単な評価を行うだろうし、ソーシャルワーカーは入所前に解決しておくべき問題を発見し処置し、とにかく入所したらベストがつくせるように配慮するだろう。例えば、ケースが貧困であって、衣服や食事や住居さえ提供する必要がある場合等が考えられる。と同時に、応募者にセンターとその活動状況を実地見学させることも有益であろう。

 (c) 入所の許可

 応募者の入所の可否をきめる際、センター所長はその経験によく照らし合わせてみなければならないだろうし、その国最初のセンターならば試行錯誤をしなければならないだろう。こうして経験を豊かにすることになろうし、次第にさまざまな個々のケースにどんな結果が期待できるかを知ってゆくようになるだろう。明らかに期待のもてなかったケースが成功し経験を想い出すこともあろうし、同様なケースにチャンスを与えてみるかどうか自問するだろう。この種のケースの成功率が常に非常に高いなどとはもちろん期待しないだろうが。

 入所を拒否する前に、応募者から就労を妨げているものは何か、その原因はどうしたら排除できるかを自問して、可能性を十分に検討することは価値がある。例えば、家庭的・社会的問題が原因であるとしたら、ソーシャルワーカーに相談することになろう。

 すべての入所申請書をそのケースに利益となるように慎重に検討すべきである。センター所長は、個々のケースに年齢とか障害の種類による固定的な先入観をもっていてはならない。同じ年齢や同じ障害の間にも、態度や性格については幅があることをよく記憶しておかなければならないのである。

 入所を拒否するケースが全くないわけではない。医学的に正当な理由で拒否しなければならないケースはもちろんあるが、センター所長は、センターにあるサービスはそもそも援助が必要な者のためのものであり、最も援助を必要とする者にこそ与えねばならないということを心がけていなければならない。最後の手段としては、はっきりわからないケースはまず入所させて試してみるということである。センターにとっては、全く試してみないよりは失敗した方がまだよいのである。

 センター所長の入所決定の判断の際に、応募者を紹介した有力者やセンター自体を建設したり援助したりしてくれる有力者の影響を受けやすい、ということが時に言われる。また、家族や知人縁者に影響されやすいこともある。

 センター所長は、当該応募者をよく知っており、しかもセンターの内容もよく知っている、例えば開業医の意見を、それなりに重視することが大切である。対象とならない応募者を後援者の圧力で入所許可するようになったら、病院・開業医や他の紹介機関との協力関係が結局は円滑に運ばなくなってしまうだろう。このような場合には、紹介者に入所拒否の理由をはっきりと説明し、できるだけ紛争を起こさないよう如才なく行うことが大切であろう。センターの全職員は、対象者の紹介機関や新聞、ラジオ、テレビ、その他関心のある一般大衆に対して、センターの機能や現状を常にPRするように努め、センターではどんな種類のケースを成功させたかとか、どんなケースはリハビリテーションコースにのらないかを明確に知らせておくべきである。

 (d) 入所決定通知

 入所可否の最終決定がなされたならば、その旨応募者とその紹介機関に通知すべきである。可の場合にはもちろん入所予定時期も通知すべきである。否の場合には、口頭でも文書でもよいから、簡明にして誤解のないように理由を説明すべきである。

 (e) 入所の優先順位

 センター開所当初でPRも行き届かない場合には、定員一杯にすることが困難なことがありうる。このような場合、センターを運営してゆくためには、後には拒否するケースでも入所させることが必要になるかも知れない。この章で前述したように、このことはセンター所長がどんなタイプが成功したり不成功になったりするかの経験を積む上に有益となろう(第2章第4節参照)。

 センターの活動が周知されれば、応募者も増加するであろうし、待機者名簿も必要になってこよう。その際、応募者に優先順位をつけるかどうかの問題が生じてこようが、これには明確な回答はない。なぜなら、リハビリテーションは一貫した継続的な過程であって、一つの段階から他へ移行する際の遅延はできるだけ回避されなければならないからである。

 センター所長は、とにかく決定しなければならないだろうから、この場合にはセンターのサービスが明らかに必要で、しかも大いに効果が期待できる者を優先するという厳しい基準を、少なくとも一時的にせよ採用するほかに方法がないということもあろう。このことは、実際のところ、直前に事故にあったり、病気にかかったりして、しばらく治療的訓練を受ければ原職に復帰でき、少々身体を調整すれば8時間就労に耐えられる者を優先することを意味する。次の優先順位にある者は、同様にして障害者になり、その残存機能によって転職が可能であって、そのための職業評価が必要な者となろう。後は順次その必要に応じてということになり、おそらく最後の者は全く就労したことがない者ということになろう。

 以上に述べたように優先順位の考え方がなくて、しかも待機者がある場合には、通常はセンターのプログラムを消化できる若い者を優先すべきである。その国の労働力として長期にわたり有益となろうからである。

第6章 ケース会議の内容と方法

 センターにおけるチームワークの重要性は、第3章において強調されたところである。このようなチームワークの必要性は、個々の対象者に対するリハビリテーション計画を立案する場であるケース会議において強く求められる。本章はこのようなケース会議の内容と方法を説明するものである。

 1. 初期ケース会議

 各入所者は最初の数日間に、医師の診断、ソーシャルワーカーと就職あっ旋担当者の面接、(いる場合には)心理専門職の面接やテスト、ワークショップ責任者の観察を受けることになる。

 初期ケース会議の内容は、各入所者のリハビリテーションの問題が全体として把握できるように、これら各々の立場から得られた印象や情報の交換ということになる。つまり、

○新入所者にとって当センターが有益かどうか

○社会復帰を妨げてきた原因は一体何か

○具体的職業についての見通しがあるか(どこに就職の可能性があるか)

○以上をふまえての更生計画の策定

ということである。

 チームの各メンバーはその所見を報告書によって提出し、ケース会議ではワークショップでの実績についての質疑を深める形で討論がすすめられるだろう。その場合、その他の要素、例えば医学的現況、家庭環境、就職可能性の有無、半熟練または熟練作業を習得できるかどうかの精神的能力等も含めて十分検討しなければならない。

 センター所長が有能な議長ならば、一方で関係職員個々の立場からの詳細な報告に頼りながら、他方で(必要な場合には)意見の一致を促進するために、当該対象者についてそれなりに理解しておくと共に、討論が具体的実際的な結論に達するように誘導することになろう。そのためには、ここの新入所者についてかなりのことを知ることができるよう、ワークショップでの気軽な話し合いとか、必要に応じてこの個別面接をしておかなければならない。

 実際には、ワークショップ作業指導員や看護婦や治療体操師が会議に出席する必要は必ずしもない。ワークショップ責任者が代表してということであろうし、ケース会議が知らなければならない医学的な問題は、医師が同様に行うということである。会議の内容になれるよう、ときどきは出席を求めることが望ましいし、特別な難ケースの場合には出席してもらうことが必要であろう。

 ケース会議の所要時間は自ら限られているが、経験を積めば、例えば、2時間に何ケース討議できるか明らかになってこよう。各ケースが十分に討議されるかを見届けるのは議長の責任である。彼は既にみんなが知っている事項の繰り返しを防止し、また単純なケースはどしどし切り上げて、難ケースの討論時間を増やすように配慮すべきである。

 予定ケースを早くしかも完全に処理する最良の方法は、できるだけ一定の論理的順序にしたがって事実を説明させ、重複を避けるということであろう。

 医師がまずはじめに、疾病ないし障害の概要や医学的にみた雇用上の問題について素人わかりのする言葉で説明する。次にソーシャルワーカーが社会復帰に影響のある社会的環境について注意をよび起こす。就職あっ旋担当者は職歴についての簡単な評価と今後の見通しについての印象を述べる。ワークショップ責任者は、将来の雇用主になったつもりでその観察結果を報告する(例えば、工具類の操作能力、作業実績、作業時の態度や行動、出勤状況または時間的観念の状況等)。心理専門職(がいなければ就職あっ旋担当者)は面接やテスト結果並びにこれらの上に立っての職業更生の可能性について説明する。

 以上のように、各々の立場からの報告がなされ討議が行われて後に、具体的更生計画の策定がなされる。

 対象者は必ずしもケース会議に出席する必要はないが(特別な問題があれば別)、ケース会議の結果は、心理専門職かワークショップ責任者から対象者に伝えられるべきである。ワークショップ責任者は、さらに当該対象者担当の作業指導員に、今後の作業のプログラムの詳細を知らせることになろう。

 2. 中期ケース会議

 初期ケース会議の最後の仕事は、退所直前の最終ケース会議までにその対象者を中期ケース会議で検討すべきかどうかを決めることである。ただし、どんなケースをのせるかについての厳格な規則はない。単純ケースでは必要ないにしても、リハビリテーション・プログラムの消化に困難が予想されるケース、究極目標が不明確なケース、雇用の見通しが楽観を許さないケース等については、再びケース会議にのせた方がよい。

 社会的・職業的な問題の解決は大体時間を要するものである。医師は対象者が8時間就労に耐えられるかどうかの判断に慎重である。そんなこんなで働こうとする対象者の態度も次第に低下してこよう。

 このような問題を解決するためには、問題の質により、最適と思われる職員によって即応的な処置がとられなければならない。例えば、家庭環境問題を解決するなら、ソーシャルワーカーが家庭訪問を行い、あるいは関係機関の援助を要請することになろう。就職機会の有無を就職あっ旋担当者は確認してみる。ワークショップ責任者と心理専門職(がいれば)は個々の対象者に正確な指示を与える。作業指導員は作業のプログラムが適当かどうかを吟味する。医師は各科専門医の意見を求める。対象者の置かれている立場や問題の所在を明らかにするため、このような調査は完全に行われるべきである。

 さらに多くの調査が、初期観察の行われる第1週よりも第2週、第3週において、特にリハビリテーション技術に対する対象者の反応について行われることになろう。

 初期ケース会議の席上で、個々のケースの次回ケース会議提出日程を決めておくべきである。これは個々のケースの問題の質によるべきであって、センターの会議日程や慣例にしたがって機械的に行われてはならない。一般的には初期ケース会議の2週間後が適当であるが、とにかくケース個々にとって異なってくるものであり、変更をためらってはならない。

 中期ケース会議の目的は、ケース個々のリハビリテーション・プログラムの内容や目標を明確に定めることであり、あわせて対象者の入所予定期間を決めることである。

 以上の説明は、大規模にして職員も充足されたセンターでの場合であって、小規模ないし職員も少数のセンターの場合には、もっと気軽にワークショップ責任者と個々の職員相互間で行われてさしつかえない。

 3. 最終ケース会議

 退所前に全対象者を最終ケース会議で検討すべきである。リハビリテーション・プログラムが終了する2週間前ごろが適当であろう。この時間的余裕は就職あっ旋担当者があっ旋に要する時間を見込んでのものである。

 いかなる対象者もできるだけ早期に社会復帰させるというのが、リハビリテーションの原理原則である。これは、リハビリテーション・プログラムの終了と就職との間のいたずらなすき間を避けるためばかりでなく、センターの入所待機者を早くまた多く入所させるためでもある。

 したがって最終ケース会議の日程は、個々のケースのニードに留意し、融通性を保ちながらあらかじめ定めておくべきであろう。つまり、原職復帰のための身体的再調整に長期を要しない単純なケースについては早い時期に行うこととし、障害や疾病を回復しても原職に復帰不能で、適職開発に時間を要するケースや進歩が鈍く、予測された職につくのにかなりの時間を要する全く就労の可能性がみられないようなケースについては遅い時期に行うことになろう。

 最終ケース会議の最も重要な特色は、退所する各対象者の将来の雇用についての最終報告書および勧告書が検討・決定されることである。この報告書についてはあらかじめ草案を作成し、会議の席上で承認を得るという方式がよい。心理専門職がいればその起案者となる。いなければ就職あっ旋担当者が担当する。どちらかの職員は会議後に、そこで決定された勧告を対象者に受け入れてもらうように彼に再面接する。

 最終報告書の内容の重要性をいくら強調してもしすぎることはない。就職あっ旋担当者が対象者に実際の職業をあっ旋するための基礎資料だからである。勧告書が明確でなければ、職業評価やその他センターで実施されたプログラムの価値の多くが失われてしまうだろう。報告書は通常次のような事項から成る。

○まとめられた印象と身体的条件(作業上の禁忌事項の詳細を含む)

○社会的な背景と地位

○教育水準および職業的才能

○知能・能力およびワークショップでの実績

○障害や性向への適応状況

○作業態度・志気

 報告書には結論として具体的にして適切な就職先の例示等(退所後職業訓練が必要な場合にはその可能性のある訓練科目の例示)の詳細の勧告が記載される。会議で承認された報告書は、就職あっ旋担当者に渡され、彼は直ちに行動を開始する。職業訓練が勧告された場合には、彼は職業評価センターに職業訓練部門が併設されていればその最も適切な訓練科目に移行できるよう処理するし、なければ雇用主か他の職業訓練施設のどちらかに働きかけるということになろう。

 最後にこのケース会議は対象者の退所日を定める。また退所前にセンター所長は必要に応じて対象者個々または集団で最終面接を行う。例えば、適当な就職先がなかなかみつからなかったケースとか、みつからないまま退所するケース等に必要であろう。この面接の内容としては就職面接を受ける際の諸注意とか就職後の心得を話して、さらにはセンターについての対象者の感想や注文を聞くといったようなことが考えられる。

 4. 追跡調査の方法とケース会議

 センターは、退所後の対象者にも関心をもってその社会復帰活動の結果を確認するために、追跡調査システムを考案すべきである。このシステムを行う理由とか方法の対象者への説明は、センター所長の最終面接がなければ、就職あっ旋担当者かワークショップ責任者か作業指導員のいずれかにより行われることになろう。

 第1回の追跡調査は退所後3か月目に行われ、また例えば未就職や転職の場合等にはさらに必要に応じ6か月目に行われることが望ましい。

 先進国では通例現状についての質問紙の郵送法で行われる。開発途上国ではこの方法は、文盲とかまたはセンターに連絡なしの住所変更が多いといった理由で、あまり実効があがらないだろう。したがってこの種の国では、対象者の居住地域の担当の職業紹介官に文書照会するとか、そういう社会資源がなくて、センターで直接就職させた場合には当該雇用主等を訪問調査するとかがよいだろう。

 追跡調査システムは社会復帰の効果の程度を確認できるので、センターが対象者に行ったプログラムの効果を測定するのに有効であろう。したがって、ケース会議上でこれらの調査結果を定期的にまとめて検討することが有益である。

 社会復帰が成功したといえるかどうか、センターへの入所選考に参考となる事項が読みとれるかどうか、あるいはセンターの事務、ワークショップの方法、勧告書の内容等の変更を要するかどうかといった観点から、個々のケースを検討すべきであろう。さらにセンター所長は、興味のあるケース事例、特に不成功に終わった事例について作業指導員グループと検討し合うべきである。

 またケース会議と作業指導員グループ会議は、センター活動の定期的統計報告ならびに業務内容を変更する場合の理由を討議することができる。統計報告はすべての職員に回覧されなければならない。

 また就職結果や近辺の求人状況についての簡単な週報や隔週報を作成し、センター職員に周知せしめることも有益であろう。これを対象者にもわかるように掲示して、まだ就職の段階まで達しない者に刺激とさせるのもよいかも知れない。

第7章 障害者の職業訓練

 就職して立派に社会復帰する前の、障害者の職業評価や準備の必要性ならびにその方法について、これまで説明してきた。このようなセンターでは、併置の場合を除いて通常行われていないが、障害者のうちには特定職種に必要な職業訓練を受ければより高度の技能職につける者がいる。開発途上国のなかには職業訓練について誤解があるようなので、障害者にとっての必要性と最良の実施方法について、何らかの示唆を行うことが望ましいことであろう。

 1. 職業訓練の対象者

 開発途上国によっては、障害者はその最も適切な職種について、専門のセンターで長期間職業訓練を受けなければ就職できないという見方が経験上とられている。このことは必ずしも真実ではない。

 ある障害者はその障害が重度のために就職できないのかも知れないし、したがって福祉または社会的サービスの対象になっているに違いない。

 ほかに知的な低さ、不就学、身体的悪条件等により高度な技能職のための訓練に耐える精神的または身体的能力をもっていないのだろう。その社会復帰への道は長期間の職業訓練は不要で、たかだか短期間の職場適応訓練を要する程度の非熟練あるいは半熟練就労にあるのだろう。

 もちろん障害者の職業訓練の適否をみるために必要とされるいくつかの要素はある。これらは次のようなものであろう。

○個々のコースを消化するのに必要な知的水準、学歴、就労経験、適応可能性があること

○実務遂行に必要な身体的機能があること

○訓練を消化しその職種で成功するための興味と性向と十分な適応性があること(こういった長所は障害の重度さとしばしば相殺できる)

○訓練終了時にその訓練科目で就職可能な合理的見通しがあること

(Basic Principles of Vocational Rehabilitation of the Disabled、ILO、(1967)第4章参照)

 2. 職業訓練の場

 長期の職業訓練に適している障害者の訓練の場については慎重に考える必要がある。

 開発途上国の関係当局には、職業訓練は特別な専門のセンターでなければ不可能と考える顕著な傾向がある。したがって、十分な予算その他の資金が得られないということで計画が棚ざらしになったり、現にある職業訓練サービスが十分に発展しないということがみられる。

 本節は、障害者のための特別な職業訓練センターの開設が決定される以前の段階で考慮すべきいくつかの重要な点を示唆し、起こりうる問題に現実的な解決策を提示するものである。開発途上国には、さまざまな程度があり事情も異なると思えるので、基本的な指針のみの提案である──それぞれの国情に応じ当然修正は必要であろう。

 (a) 最初に考慮すべき事項

 職業訓練コースの開設を企画する際、まず何よりも以下の質問に回答してみることが望ましい。

○訓練は全国的規模で行われるのか。でなければ、広義の「工業化」の進む大都市か首都で、その市民か周辺の住民を含めた人たちを対象にまず手初めに行われるのか

○農業地帯等地方に居住する障害者については何が行われるべきか。通常の農業関連職種のほかに、手工芸や機器の修理等がどの程度開発できるか

○地方の労働者が訓練を受けて就職でき、その製品が売却できるという方法と場所は。製造業にみるべきものがなく農業中心の開発途上国では、これらの問題がまず最初に解決されなければならないだろう。

○開設予定地域では何人程度の障害者が職業訓練を必要としているか

○開設後訓練コースを維持するのに十分な応募者が将来も見込めるか

○高度な技能職に障害者も就職の機会があるか。また関連の職種ではどうか

○雇用が行政機関との契約という形で行われるところでは、雇用主が訓練を終了した適当な障害者の採用に協力してくれるか

 (b) いくつかの実際的な回答

 (i) 開始する場所

 豊富な財源(例えば石油資源)をもっている開発途上国でなければ、政府の障害者の職業訓練プログラムを発展させるための予算配分はまちがいなく限定されているだろう。

 国の富くじの売り上げの一部を必ず獲得できたり、他の民間財源から十分な資金が導入できなかったら、障害者の職業訓練は、その積極的価値が認識されあるいは資金調達が可能になるにつれて拡充できるようにした小規模な実験計画として出発することが望ましい。

 工業、商業、運輸、コミュニケーションが首都や大都市で急速に発展していれば、そこで運営を開始し、その住民のうち容易に通所できるものだけに受け入れを限ることが望ましい。これにより訓練センターに収容設備を設ける必要がなくなろう。

 しかしながら、その国が全くといってよい程農業、園芸、漁業、林業、その他同様な産業(ゴム園、茶園、砂糖園等)に依存しており、製造業の発展がほとんどみられない場合には、全く別の考慮がなされることになろう。

 ここでは比較的小規模の農場等がどの程度あるか、近代的な方法での労働者の訓練がどの程度生産性をあげられるか、さらには小農場主等の生産物の流通がどのようにして改善されるか、といった問題点を明らかにすることが望まれる。また地方独自の工芸品や家内工業の開発や機器修理についての訓練も考慮すべきである。

 このようなことを確実に発展させる最良の方法は、おそらく協同組合主管省庁あるいは既存の同様な団体の援助の下に生産販売の協同組合を設立することであろう。協同組合は理想的には健常者も障害者も雇用すべきである。不可能ならば、障害者のための協同組合を設立すべきである。繰り返し言うけれども、これらを最適な地域に実験計画的に発足させ、経済事情の好転にしたがい拡充してゆくことが望ましい。その地方の特産物からできる宝石、ランプシェード、ロウソク立て、レース、陶器、クリスマスなどのカード等を製作する庇護ワークショップを開設する協同組合の構内で、職業訓練が必要に応じ行われることになろう。

 (ii) 職業訓練が必要な人数

 当該地域において長期の職業訓練を必要とする障害者の数を確認することは難しい。

 ある開発途上国ではその国勢調査において、はっきりした障害、例えば盲、ろう、1肢または2肢以上あるいは部分的な損傷による肢体不自由等をもっている者の詳細な数を把握している。これらの数字は当該国に大なり小なり重要な障害者問題のあることを示しているが、我々の念頭にある目的に関してみればあまり価値がない。なぜなら、それはあらゆる年齢層にわたる障害者数であり、潜在的可能性をもつ労働者の数は明らかにされておらず、さらには調査実施者の障害のとらえ方によってさまざまな者が含まれてしまっているからである。

 必要な障害者の利用が継続できるのでなければ、障害者のための訓練施設を設立しても無意味であろう。このために必要な情報はどうしたら得られるか。

 ある国に幸運にも前章までに述べたようなセンターがあれば、その職業評価によって、引き続き訓練の適当な者を確認でき、評価過程の結果として選択された訓練科目に成功するという見通しがもてるだろう。職業評価を受けている障害者の訓練生の失敗率が、この過程を経ない健常者の訓練生より低いことは事実上示されている。

 多くの開発途上国ではこの種の職業評価施設は存在していない。にもかかわらず、職業訓練のすべてにわたる問題の大きさを明らかにするための努力が払われなければならない。

 こういった問題を考えるニードは、十分な職業リハビリテーション・サービスがその国において合理的に確立するまでは生じないだろう。このような業務は、労働または社会福祉に関する省庁あるいはこのいずれかに所属する職業リハビリテーション事務所の管轄下に主に置かれる。そこでは障害者は登録され、何らかの就職あっ旋サービスが実施されていることだろう。

 障害者の面接ないし職業カウンセリングは就職あっ旋過程の重要な側面である(Manual on Selective Placement of the Disabled、第3章、第4章参照)。これらをうまく使えば、長期の訓練が適当と思われる障害者についての情報を得ることができる。例えば、ある障害者が趣味として木工製品を作ったという事実がわかって、木工職人または家具職人として訓練され得るということのヒントが得られるかも知れない。ラジオやテレビセットの修理に興味があれば、ラジオ・テレビ技術者として訓練可能かも知れない。ミシンを使える婦人は縫製工やデザイナーとして訓練可能かも知れない。

 こういったことは問題に大まかな見当をつけるのに有効であろう。他の省庁または団体に既に職業評価施設があり、職業リハビリテーションの主管当局を援助できる自信をもっていれば、より正確な情報が獲得可能であろう。例えば、文部省が高学年生徒に職業前訓練を実施中かも知れないし、卒業後会社・工場に入社する者のための職業訓練学校に付属する職業評価サービスをもっているかも知れない。

 開始後のコースを維持するためのケースの補充に関しては、就労中の事故や街頭あるいは家庭内の事故に苦しんでいるケースを検討してみることが、かつての熟練労働者がどの程度事故後の残存作業能力の範囲内で新しい職業のために再訓練を必要としているかという数を予想することに有益であろう。この種の情報は、労災補償とか障害給付とかが行われている国においては、その主管省庁をとおして得られるであろう。重症疾患に起因する同様なケースについての情報は、厚生省や個々のケースについての開業医への照会をとおして得られるであろう。

 (iii) 熟練労働における雇用の機会

 求人需要のない職種についての職業訓練コースを設立するのは明らかに時間と金銭の浪費である。したがって、どんな決定を行うにしてもその前に、労働市場について最新かつ潜在的需要を詳細に検討することが重要である。

 関係当局が雇用主から定期的に現在および将来の求人需要についての情報──通常雇用市場情報と呼ばれる──を収集しているならば、細かいことまで知ることが容易であろう。このような収集システムがないなら、準備に当たる委員会または当局がそれ程詳細でないにしても有益な情報を集めることになろう。このような数字は、その国にとって新しい産業を樹立し、国外に追放された会社工場からはき出された熟練労働者の数を含んでいないだろうが、そうだとしたら確認しなければならない。

 いずれも十分でなかったら、雇用主から特定の種類、例えば、大工、電気技術者、ラジオ技術者、自動車修理工等の熟練労働力の現在および将来の不足状況についての見解を得ることが必要であろう。このような調査は、潜在的需要を把握している各産業の経営者協会あるいは(存在するなら)経営者の顧問団体をとおして行うべきである。経営者個々に接触するのは時間の空費なので、最後の手段としてのみ用いるべきである。

 以上のことは、一般的には、広い意味の「農業」とか、独自の手工芸とか、土産品製作の開発についての職業訓練のニードを考える際にも適用できる。潜在的な需要についての調査は、通例、農業とか観光の主管省庁、協同組合関係当局、手工芸品製作業者や観光業者の協会に対して行われることになろう。

 (iv) 雇用主による職場適応訓練

 多くの健常者を雇用できる状況にあっても、雇用主がかなりの障害者を採用するような態勢にならなければ、職業リハビリテーションの発展はほとんど望めないだろう。その究極の目的は、何らかの身体または精神的障害をもつ者が社会のなかで労働するメンバーになれるよう保証することである。雇用主をこのような態勢にするための指針が、Manual on Selective Placement of the Disabled第4章に説明されている。このような状況の下においてのみ、雇用主は、能力が限られしかもつまらぬ仕事しかできない者を避け、半熟練ないし熟練作業のできる障害者を喜んで採用しようとするだろう。雇用主自身に障害者の職業訓練に果たす役割がある。半熟練的な職の多くは、比較的短期間の訓練で十分こなせるようになってしまうものである。例えば、コンベアベルトシステムを採用している近代工場に雇用された労働者は、数週間たてば、シャツにカラーを縫いつけることやビールとか清涼飲料水の純度や清潔度の検査やタバコ包装機が適切に回転しているかの観察や、ラジオセットとか蓄電池の組立作業の一工程を担当することをこなせるようになろう。

 このような職種の訓練は、雇用主による職場適応訓練によって行われる。彼が就職あっ旋担当者から知る必要のあることは、採用予定の障害者が職業評価過程をとおして、ミシンを使えるかとか、一定の目的物に注意が集中できるかとか、ラジオセットに小さな部品を取りつけられる巧緻性のある指先をもっているかが明らかになっているか、ということにつきる。

 職場適応訓練は、近代化のやや遅れたワークショップや工場、特に比較的短期間(6か月内外)で作業に熟達できるところにおいて、同じように実施できる。できる限り自ら訓練を実施するように雇用主に対して奨励すべきであり、こうしてこの種の短期訓練で競合してしまうセンターを開設する冗費を節約すべきである。

 ある国では、雇用主に障害者を採用し訓練するための奨励策を講ずることが効果的と考えられた。例えば、職業評価または職業訓練センターの入所期間中に手当の支給のあるところでは、同様な手当が障害者を自ら訓練している雇用主に対しても訓練必要期間中支給されることになろう。これには何通りかの方法がある。例えば、

○雇用主は労働者に通常の初任給を支払い、その者がセンターで訓練を受けていると仮定したら、支給される訓練手当と同額の補助金(訓練手当を上まわらない)を別途受給する

○補助金制の定着したところでは、雇用主は作業能率の上昇に伴い減額(例えば1か月目は初任給の90%、2か月目は80%、3か月目は60%)されてゆく比率で補助金を受領する

○雇用主は、公認された期間中訓練手当を支給される者に一切の賃金を支払わない

 これらの施策は雇用主の関心をそそるが、実効があがるかどうかは、補助金や手当を受領する事務手続等が複雑でなく、それらが雇用主にとってうま味があるかどうかに全くかかってこよう。

 (v) 労働組合との協力

 障害者の職業訓練と雇用に関する企画について、関係する労働組合や(存在するならば)全国労働組合連合とで討論することは常に望ましいだろう。こうすることは、組合側に十分情報を伝えられるだけでなく、一人前の組合員として障害者が加入することが妨げられないことを保証するだろう。

 労働組合によっては、経営者側と人員過剰の際には「最後に入社した者を最初に解雇する」という協約をとりかわしていよう。こうした協約が障害者に適用されてはならないことを、両者に説得する努力が払われなければならない。このことは、法令によって雇用主に障害者を一定の(強制)雇用率で雇用することが求められている国では特に重要である。なぜなら、この協約によって、雇用主が法に課せられた義務を達成することが妨げられやすくなるからである。

 訓練コースの指導要領を作成する際あるいは特定職種のための訓練生を選別する際の労働組合の忠告や援助が、非常に重要なものであることも留意すべきである(b(vii)と次の(g)(h)参照)。

 (vi) 既存の職業訓練施設の検討

 ここでの説明は、前記の調査の結果として経営者と労働組合が適当な障害者の採用に同意していること、ならびに例えば、建築業界に木工職人、家具業界に家具職人、金属加工業界に熔接工や板金工、洋服業界に縫製工、機械加工業界に機械仕上工といったように、固定かつ継続的な求人需要があることが明らかになっていることが前提となっている。どの職種も短期の職業訓練では完全にマスターできないし、長期訓練が実施されるべきであるとすると、どこで行うかがここで問題となる。

 重度障害者については期間が若干延長されるとしても、多くの障害者は健常者と一緒に訓練を受けることができる。障害者に、働く社会のなかの一人前のメンバーであるという意識、ならびに与えられた作業を十分こなす能力があってもなくても、同情で大目にみられてしまうような「障害者」であってはならないという気持ちをもたらすことになるので、一緒に訓練を受けさせることが望ましい(身体障害者の職業更生に関する勧告No99、第3章第5節および第7節参照)。この一般原則が適用できない顕著な例外は次の二つである。

○視力障害のための独特の訓練方法が必要であり、使用すべき工具や機械類を改良しなければならず、作業場や作業自体に特別な手びきが必要な失明者(Adaptation of Jobs for the Disabled参照)

○一つの単純な動作で作業ができるように、作業をでるだけ細分化しなければならない精神薄弱者

 まずはじめにすることは、前述したように、将来の雇用主が自ら職業訓練を実施してくれるかどうかをみきわめることであろう。見習養成工制度があるならば、適当な年齢の学卒障害者を何人は毎年その制度にのせられるかも知れない。あるいは中高年新採用者に対する会社独自の訓練制度があるならば、適当な障害者の訓練も同様に可能であろう。

 多くの開発途上国では問題の解決がさ程容易でなく、職業訓練を実施している他の施設、例えば、

○文部省所管の職業訓練学校

○国連機関または2国間の援助により設立された国際職業訓練センター

○特別な障害者のための一地方ないし全国的民間団体により運営されている職業訓練センター

を調査してみることもあろう。

 障害者のための特別な職業訓練センターの政府主導型での開設は、既存のすべての施設について検討した結果、問題の解決にならないということが明らかになった場合にのみ検討されるべきである。

 (vii) 訓練基準と訓練期間

 特別な職業訓練センターの開設がやむをえないと判断された場合には、その内容等について適当な経営者団体ないし労働組合連合と十分に討議を重ねるべきである。

問題点としては、

○どのような職種に熟練労働者が不足しているのか

○訓練を受けた障害者は毎年どの程度採用されるか

○どの程度の水準まで訓練すべきか

○訓練期間はどの程度でよいか

 初めの2点についての情報は、これらの討議から容易に得られるであろう。経済情勢の変動によっては、ある科目を廃止し他を導入することが必要になってくることも留意されるべきであるが、後の2点についての判断はさらに困難を呈するであろう。

 安定した求人需要のある職種のうち((vi)参照)、大工、家具職人、熔接工、多能機械工、板金工は見習養成期間あるいは3年以上にわたる訓練を経れば、通常その技術を習得し高度に生産性をもつ労働者になれるだろう。縫製工や機械工については、より短期間で有能になれるだろう。

 特別なセンターで障害者を3年間も訓練しようとするのは実際的でない。なぜなら、個々のコースが定員一杯になってしまったら、以後3年間に入所できるのは落伍者の補充といった程度の少数になってしまうだろうからである。

 センターの目的は、基礎的な訓練を十分に行い、そのゆるぎない基礎の上に雇用主が熟練工にまで育て上げることができるようにすることである。

 雇用主が障害者の採用に踏み切る際知りたいのは、その到達した水準であり、その水準についてはあらかじめ訓練開始前に雇用主や労働組合に同意をとりつけておかなければならない。

 例えば、木工職人が不足しているのでこれにむく障害者を訓練しようということになったら、基礎的な訓練としては、次のようなことを十分できるようにすることであろう。

○ハンマー、ノミ、のこぎりが使え、ネジや釘でとめられること

○適切な木材を選び、設計図にしたがってケガキすること

○のこぎりやカンナ、研磨によって、切断し形をととのえること

○ありほぞや接着剤やネジ、釘によって、木片を固定すること

○あらかじめ切断した木片から部分品等を組み立てること

 これらの作業はしばしば手工具で行われるので、訓練生はその使用法を学ばなければならないけれども、工場はより近代化されていて、多くの作業が機械、例えば、帯のこ盤、カンナ盤、木工旋盤、ホゾ取り盤等でなされているかも知れない。雇用主が訓練生に雇用準備期間中こういった機械操作を経験することを要求しているかどうかについて、雇用主と意見を交換することが重要である。

 ただ彼らがそのように主張しても、この種の機械は高価であり、その購入には資金が不足しているかも知れない。このような場合には、雇用主がセンターに1~2台の機械を寄付するか貸与してくれなければ、このレベルの基礎的訓練は実施できないということを、雇用主によく説明しなければならない。いずれにしても、基礎的訓練の到達基準が合意に達しなければ、その訓練を開始することは適当でないだろう。

 繰り返すことになるが、利用しうる資金の許す限り、雇用上に事実上継続訓練というべきものを引き受けてもらうための金銭手当の形で、何らかの施策を実施した方がよい。これは前記(iv)に示唆した全く未熟練障害者の訓練に支給するものよりは低額で済むであろう。例えば、継続訓練の最初の6か月間は賃金の40%、次の6か月間は30%、次の6月間は20%、以後は無支給といった具合になるであろう。

 3. 職業訓練センターの建設場所と内容

 (a) 建設場所

 障害者のための独立した職業訓練センターの建設のニードがあると判断された際、第一の問題は建設場所である。その解決は、他のリハビリテーション施設とは別個にあるいは一緒に建設されるかどうかにかかっており、後者としたら余地があるかどうかによる。例えば、

○付属の職業評価・職業準備センターをもつ病院と共同運営されるとしたら、余地さえあればこれら施設の近くに建設すべきである

○余地がなければできるだけ近接した土地を探さなくてはならない

○病院にではなく独立した職業評価・準備センターに隣接し共同運営されるとしても、同様な配慮がなされるべきである

○職業評価施設とは別個に建設するとしたら、工場地帯に最も近接したところかあるいは農業や地方独自の産業に就職先が結びつく範囲の地域に、敷地を確保すべきである

 (b) 建設と設備

 職業評価・準備センターの内容については、第2章において多くのことをふれた。一般的には職業訓練センターにもあてはまることであるが、当センター独特の配慮をすべき事柄がいくつかある。例えば、

○この種のセンターに使用される機械類は、特に木工とか金工の訓練科目が設けられるならば、職業評価の目的のために使用されるものよりも大きいか重いものであろう。ワークショップのドアは搬入可能な程度に広くすべきであるし、床についてもコンクリートその他で補強して機械類が設備できるようにする必要があろう

○機械の周辺を自由に動きまわれるよう、レイアウトは十分注意して行わなければならない

○床面には滑り止めを施さなければならない

○電力使用の場合、電線類は訓練生の邪魔にならないよう床下に埋めこまなければならない

○一般的には診察室は不要であろうが、救急設備をもった静養室は必要であろう

○事務室の必要面積は、センターが職業評価・準備センターと共同運営されるかどうかによる(次の(e)参照)。そうならば、例えば会議室は共用となろう

○多くのスペア部品や木材、金工材を収納する必要があるので、倉庫の面積はより広くする必要があろう

○農耕園芸や畜産、養鶏の訓練が行われなければ、このための用地も不要である

 (c) 職業訓練センターの収容設備

 収容設備を設ける必要があっても、職業訓練センターの場合には構内にホステル等の施設を建てるよりも、センター外に下宿・貸間その他の寄宿先を求めた方がよい。この理由は、訓練生が仲間の健常労働者と一緒に特定職種の訓練を受けることになるということと、センターを退所し就職後送ることになる生活に慣れていればいる程よいということによる。またこうすれば、ホステルの建築費や運営費の節約できる。

 (d) センターの財政

 第2章の説明と同様であるが、次の点は留意しなければならない。

○雇用主が高価な設備をセンターに寄付することは多分ないだろうから、購入せざるをえなくなるだろう

○センターが他のリハビリテーション施設と共同運営されているならば、事務室はより少なくてすむだろう。ソーシャルワーカーとか就職あっ旋担当者等の専門職員がかかる関連センターのすべてを担当することになるからである

 (e) センターの職員構成

 職業訓練センターに必要な職員構成は、第3章に述べた職業評価・準備センターに必要なものとある程度異なってこよう。

 一般的には、心理専門職、ソーシャルワーカー、治療体操師を採用する必要はないだろう。医師には必要なケースについてのみ診察してもらうようにし、看護婦にも事故や疾病の際の救急処置をしてもらう程度でよい。社会的な問題については、関係社会福祉機関に訓練生を紹介し援助を求めるべきであろう。

 しかしながら、職業評価・準備・訓練が一貫して行われる場合には、医師、看護婦、心理専門職、ソーシャルワーカーといった職員は全部門のいかなるケースも担当することになる。就職あっ旋担当者を二人置く必要もないだろう。

 必要な職員の基本的な資格・業務内容は、ワークショップ作業指導員の場合を除いては、職業評価・準備センターに求められるものと同様であろう。

 そのセンターの作業指導員は特定の訓練科目の基礎的訓練を行うことになるので、例えば、適当な近代的生産ラインに習熟していたり、何年かにわたる関連就労経験等により、当該科目にふさわしい実務経験をもっていなければならない。さらには、指導方法を身につけ、定められた訓練指導要領を遵守しなければならない。

 (f) 作業時間と休日

 作業時間に関しての第3章の原則は、職業訓練センターにも同様に適用されるが、休日に関して事情が異なる。

 基礎的職業訓練は一定期間に実施される。したがって、入所、退所日が定まっているので、コース終了時にワークショップをしめることにより、職員に休暇を与えたり、機械類の分解掃除や場所がえができるだろう。

 (g) 訓練指導要領

 各科目についての適切な訓練指導要領を、職業評価・準備センターで用いられている簡単な作業プログラムよりも詳細に作成する必要があろう。

 これらについては、経営者協会や労働組合、政府の訓練主管当局と協議の上作成すべきであり、訓練主管当局の承認を得る必要がある。つまり、訓練の方法や範囲についてくいちがいをなくすということである。

 センター所長とワークショップ責任者が指導要領をまとめ、討議と同意を得るために関係者に提出することになろう。

 (h) 訓練生の補充

 職業評価センターが現存していれば、訓練生は主として二つの評価過程の結果として、ある訓練科目が適当とされた者のなかからということになろう。

 そのような施設がないところでは、訓練生として適当と思われる者は,

○職業紹介機関に障害者として登録された者

○労災や傷病手当を扱っている官庁や病院から、転職のための再訓練が必要な者として紹介された者

○文部省や私立学校から紹介された障害をもつ卒業生

○特定の障害者グループのために活動している団体に把握されている者

○センターのPRの結果として自ら入所申請してくる者

 応募者の入所可否がその顔形できめられることはもちろんない。障害の状況や希望等についての多くの情報を文書の形で知ることはできようが、面接は必ず実施することになろう。

 この面接は特別なタイプのものであろう。なぜなら、その者の興味や趣味、(あれば)職歴、作業についての希望や教育程度といったものを詳細に調べる必要があるからである。理想的には、各々の科目についての特別なテストを、経営者協会や労働組合と相談の上実施すべきであろう。でなければ、受けた印象等を確認するために、簡単なペーパーテストを実施すべきである。例えば、適当と思われた作業科目に必要な場合の算数か簡単な数学のテスト、読み書き能力のテストといったものが考えられる。テストはいかなる場合でも、健常者のための職業訓練センターにおいて訓練生の選考に使用されるものとか、政府の訓練主管当局により定められている選考方法を念頭に置いたものである必要がある。

 次に、訓練科目に結びつく産業に関係のある経営者や労働組合責任者に、応募者の面接を依頼することが良策であろう。彼らには、訓練生が終了後労働者として成功しうるかどうかの判断がよくできる。成功が危ぶまれる場合には、センター側が配慮して別の方向なり他の適切なコースを示唆することがありえよう。

 (i) ワークショップの組織

 ワークショップは第4章のそれと同様な方法によって組織されうるであろう。例外としては、

○最初の初期観察部門については、入所以前にその役割が果たされてきているので不要であろう

○機械類は当該科目の適切な訓練にふさわしいものでなければならず、その国の会社工場で使用中のものとできるだけ同種のものであるべきである

 センターの所長かワークショップ責任者が新訓練生を歓迎し、センターの機能、方法、規則等を説明し、次いで担当の作業指導員に紹介することになるだろう。

 (j) ケース会議

 職業訓練センターのチームは単純な構成つまりセンター所長、ワークショップ責任者、作業指導員から成っているので、第6章のような経過をふむ必要はないだろう。

 作業指導員の報告書や観察結果は、訓練生個々の進歩の状況についての討論の基礎となろうが、成績が芳しくない場合には、センター所長は科目の変更あるいはセンター内全科目の不適ないし規律上の理由での訓練中止等を決定しなければならないだろう。

 (k) 就職あっ旋

 就職あっ旋担当者の業務は、大まかには第3章の第5節(f)に説明されたとおりであるが、その正確な業務内容は公共の職業紹介機関の有無にかかわっている。

*神奈川県総合リハビリテーションセンター職業前指導課長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1975年1・4月(第16号・17号)26頁~39頁・23頁~40頁

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