医学、職業、教育、社会のリハビリテーション主要4分野に関する将来のための指針 社会的リハビリテーションの将来のための指針(ガイドライン)

医学、職業、教育、社会のリハビリテーション主要4分野に関する将来のための指針

社会的リハビリテーションの将来のための指針(ガイドライン)

 Guidelines for the Future in Social Rehabilitation

Ⅰ. 序言

1. 国際障害者リハビリテーション協会(Rehabilitation International )、特にその社会委員会(Social Commission)の関心の焦点は、身体もしくは精神に障害を持つすべての人々の生活条件(life conditions)および個人の福祉(personal well-being)を向上することである。リハビリテーション事業に従事する者はお互いに協力し合い、事故、疾病およびその他の障害症状の予防をまず第一に考えなければならない。しかし、予防対策が効果的であったとしても、各社会には、障害があるためにリハビリテーションサービスを必要とする人口が、かなりの数を占めている。

2. 以下にあげられている指針は、社会諸条件(social conditions)に効果を及ぼす政策決定の立場にある人々の注意を喚起するために、共通原則・指導原理として提示される。

3. 1948年度国連総会で採択された「世界人権宣言」(The Universal Declaration of Human Rights)に表明されている通り、すべての人間にとっての重要な事柄について全体的合意を得ることは可能である。この「世界人権宣言」は道徳律(moral)であり、法的拘束力(legal force)は持たない。これは、政策決定者(decision makers)が軽んじてはならない、人々の共通利益、価値、目的を提言している。

4. 人類は国ごとにグループ化されているので、そこに住む人々の適切な生活諸条件を確保・向上させる責任は、各国に託されている。

5. しかし「世界人権宣言」は、「社会のすべての個人および機関は宣言に表明されている項目の促進につとめなければならない」とうたっている。

6. すべての人間は、公式もしくは非公式の数多くの社会制度(social systems)、すなわち、家族、任意集団(voluntary associations)、近隣グループなど、各種組織レベルでの経済・政治制度のなかで生活している。したがって、これらの制度は社会諸条件を改善しようとする人々が参画できる場を提供している。

7. 社会制度を支えて、それを方向づける主要な価値観(key values)には、「世界人権宣言」のなかに表明されている市民自由権、参政権、社会権、経済的自由権、文化活動権などがある。

8. これらの権利は、個人の自由と責任、個人・団体・コミュニティの参加、人間としての尊厳、生きがいを保障している。

9. これらの価値観は、それ自体が終局的目的であると同時に、その他の目的を実現するための手段でもある。例えば、健康はそれ自体が目的であると同時に、教育や雇用のような重要な目的を達成するための手段でもある。

10. 社会は、人々のニードや目標に関する主要価値観に対応できる政策やサービスを、目ざましく発展させている。人々がこれらの価値観とどのように対処していくかは、ひとえに、専門化されたサービスがどの程度の広がりを持ち、どれだけ実際に利用できるかということにかかっている。

11. 世界中の各社会は、社会変化と開発のただなかにあるので、社会計画(social planning)の必要性が協調されている。

12. 本指針の基本的前提には、「各社会はその構成員が共通の人間的価値観(common human values)の恩恵をこうむれるようにする道義的責任を有する」ということがある。これを達成するためには、特に身体もしくは精神に障害を持つ者との関連において、何らかの指針が必要である。

Ⅱ.社会委員会の活動範囲

13. すでに概説された社会目的(social objectives)の範囲のなかで、国際障害者リハビリテーション協会社会委員会は、ただちに着手しなければならない諸問題を列挙する責任を持っている。人間が住んでいる物理的、社会的、経済的、心理的環境に直接関係ある生活諸条件を満足できるものにする、ということも社会委員会の課題である。これらは個人個人によっても、コミュニティによっても、また国によっても、かなりの差異がある。

14. 社会委員会は、障害者の生活を侵害している社会的、心理的、文化的な要素についての理解を得ることにつとめ、必要とされる変革をもたらすための社会活動(social action)に着手しなければならない。人間行動(human behavior)にはある程度の普遍性が見られるものであるが、それはコミュニティによっても、また世界の地域によっても、かなりの差異がある。したがって社会委員会は、普遍的な原則を追究し発表するとともに、障害者の福祉のために働いている者が、個々の状況との関連においてこれらの原則をより深く理解できるよう、奨励する。この「社会的リハビリテーションの将来のための指針」は、リハビリテーションの社会的構成要素(social component)の新しい局面を開発するとともに、国際障害者リハビリテーション協会およびその加盟団体が、世界中の障害者を(彼ら自身の参加を得て)コミュニティに完全にとけ込ませられるような、ダイナミックなプログラムを提言するつもりである。

Ⅲ. 環境における新局面の開発

A.物理的環境

15. 簡単に排除できない物理的障害を自分自身でなんとか解決しなけばならないということは、すべての障害者にとって重荷である。しかし、くふうを試みたり、近代テクノロジーの進歩のおかげにより、数多くの物理的障害が解消されている。

16. 活動目標:「リハビリテーションの10年*(The Decade of Rehabilitation)」の目標の一つに、不必要なすべての物理的障害を除去すること、がある。すべての公共建築物および公共交通機関を障害者にも利用できるものにしなければならない。重度障害者にとっては、身の回りの環境をコントロールできるような用具(devices)の開発やコミュニケーション手段の確保なども、目標の一つであろう。

16・1 物理的環境に関係している建築家、エンジニア、プランナーなどは、障害者のニードを考慮に入れ、どのようにすれば彼らのニードが簡単かつ効果的に満たされるか、を提示しなければならない。

16・2 障害者が利用できる建物・施設を示す「国際シンボルマーク(International Symbol of Access)」の使用基準は、厳守されなければならない。

16・3 すべての人々が利用できる公共交通機関を開発しなければならない。

16・4 障害者のための環境コントロール・システム(environmental control systems)や補助具(aids)の分野を開発するために、各国に中央情報センターを設置しなければならない。

16・5 重度障害者のための環境コントロール・システムの活用を促進し、彼らが身の回りの環境をもっとも効果的に操作できるようにしなければならない。

B.経済的環境

17. 労働(work)はほとんどの社会において、経済的自立の手段として、ステータス・シンボルとして、またそれ自体に価値があるとして高く評価されている。したがって、「障害のある者も労働力となるべきである」という従来からの考え方が今もなお、数多くの障害者にあてはめられている。しかしながら、労働以外の人間的価値をないがしろにし、労働のみを重視する単純な考え方は、人間生活の数多くの局面を無視することになる。

18. 近代テクノロジーの進歩にもかかわらず、だれでも生産労働に従事することが要求され、労働倫理(the work ethic)が強要されている世界情勢においては、まず最初に失業の犠牲者となるのは障害者である。この現状を解決するためには、人口全体に適用される解決策がもたらされなければならないであろう。

19. 活動目標: 「リハビリテーションの10年」の目標の一つに、各種様々な経済・社会条件のもとで生活している障害者がサービスを受けられるようなリハビリテーション過程の目標を、再検討すること、がある。障害者が経済的に自立できるためにより広い機会が与えられること、労働という形態のかわりに、個々の障害者に適した活動を用意すること、生きがいが与えられるような刷新的なプログラムを打ち立てること、を社会委員会は勧告する。

20. 新目標を設定する際には、以下の原則を守らなければならない。 

20・1 一般労働市場で働きたいという希望と能力を持つ障害者には、平等の機会が与えられなければならない。「障害者はしばしば特別の援助(special help)を必要とする」ということを率直に認めた上で初めて、「平等の機会」ということばが現実的なものとなる。障害者の個々のニードに合わせて作業場面を改造したり、適切な技能(job skills)を伸ばすこと、などもこの特別の援助の一つである。

20・2 健常者ばかりでなく障害者も含めたすべての市民は、彼の住むコミュニティにおける生活水準に見合った基本的経済保障を受ける権利を有する。

20・3 健常者ばかりでなく障害者も含めたすべての市民は、自分の人生の目標を自分自身で(必要な場合には指導を受けて)決める権利を有し、自分の知的・創造的可能性を最大限に伸ばす機会が与えられなければならない。

20・4 すべての市民は、コミュニティ、すなわち家族、近隣社会、国家、世界コミュニティ(the world community)に対して貢献する者となる特権および責任を有する。

C.法的環境

21. 障害者もすべての市民と同様に、法のもとに平等に保護される権利を有する。ほとんどの国において、個人の諸権利は憲法のもとに保障されている。

22. 障害者の特別のニードを満たす法律は、社会全体を対象とする一般の法律のなかに組み入れなければならない。社会における障害者の諸権利や障害者の立場の保護を意図する社会法(social legislation)は、一般の人々に受容・理解され、実際に行動に移される場合にのみ、初めて有効となる。一般の人々の態度を変えたり、障害者に対する偏見や差別をなくすためのプログラムは、社会法を制定する努力と並行して進められなければならない。

23. 活動目標: 「リハビリテーションの10年」の目標の一つに、障害者の生活に直接関係する社会法を比較研究し、以下の4項目に関してその効果を評価すること、がある。 

23・1 法律のもとに保障されている諸権利・特権について、障害者はどの程度情報を得ているか。

23・2 特定の種類の障害グループを対象にした特別法対策によって、同様のニードを有するその他の障害者グループがどの程度差別されているか。

23・3 法律がどの程度具体的に実施されているか。

23・4 障害者に関係する法律が一般の人々に適切に知らされているか、障害者自身が法のもとに保障されている諸権利を十分に知っているかどうが、を監視する団体が組織されているか。

 

24.以下の目的のために、社会法のモデルを草案するよう社会委員会は勧告する。

24・1 統一された指針を提供するため

24・2 まだ満たされていないニードに対処するため、適切な法律を制定する基礎を提供するため

24・3 様々な発展段階にある国々の法律を比較検討するため

 このモデル法は、障害者の特別なニードに関する法律を社会全体のニードを満たす法律のなかに組み入れる、という目標へ各国がどれだけ近づいているかどうかを評価するのに使えるであろう。

D.社会・文化的環境

25. 障害者に対する社会の人々の態度は、過去からの文化的伝統に由来している。何らかの障害を持つ人々が社会に受け入れられるか、障害者の社会への統合化(integration)がむずかしいか否かは、各国及び各種文化的背景にゆきわたっている価値観や偏見によって左右される。特定の疾病や障害に対する陳腐な固定観念によって、各種の障害グループが特別視されがちである。コミュニティにおける偏見は、障害者自身のグループにおいても見られる。

26. しっかりと根づいてしまった社会の人々の態度は簡単に変えることができないし、知識が与えられても必ずしも偏見は修正されない。障害者と直接接触する前向きの経験が、何よりも重要である。

27. 活動目標: 「リハビリテーションの10年」の目標の一つに、障害者が社会に受け入れられていると感じられるような社会的環境をつくること、がある。この目標を達成するためには、以下の3点が重要である。

27・1 コンシューマー・グループとしての障害者団体は、自分たちのニードをより広く理解させること、クライエントとその擁護者との直接的関係を通してセルフ・ヘルプ(self-help)およびヘルパー・セラピイ(helper therapy)原則を具体的に実施すること、たとえ限られていても資源を最大限に活用することなどのために、集団行動(collective action)を起こすよう奨励されなければならない。

27・2 民間機関(voluntary agency)の役割を再定義し、(a)障害者のニードや抱負を一般の人々に、より効果的に知らせる、(b)公的機関(official agency)との関係において「コミュニティの良心」として行動する、などを民間機関の任務のなかに入れなければならない。これらの責任を果たすために、民間機関はリーダーシップを取り、コミュニティにおいてより刷新的な役割を果たさなければならない。

27・3 障害を持つ人々の福祉を追求し、リハビリテーション事業の全容を把握する公認団体(a statutory overview organization)、例えば「リハビリテーション企画委員会(a rehabilitation planning board)」のような組織が、各国に存在しなければならない。このような組織は、コンシューマー・グループや、政府機関であれ非政府機関であれ、あらゆる種類の団体を代表し、多専門分野を包括するものでなければならない。この組織は、社会福祉機関やリハビリテーション専門機関などの全国的組織とも、密接な連携を保たなければならない。

E.障害者の心理・情緒的環境

28. 心理的な諸問題は、処遇決定過程(the dicision-making process)に責任を持つ専門職者(professionals)が障害者の社会・情緒的ニードを十分に理解していないために、さらに悪化している。ほとんどのコミュニティにおいてサービスが分散化していることも、問題悪化の一因となっている。リハビリテーション過程を通して、援護サービス(supportive services)に継続性がないことが問題となっている。

29. 障害者自身が非常に積極的になったり、肢体不自由児が家族に温かく受け入れられていれば、障害による影響は恒久的な外傷とならずにすむ。

30. 活動目標: 「リハビリテーションの10年」の目標の一つに、リハビリテーションの社会・心理的側面に関する援護サービスの強化、がある。それを達成するために、以下3項目を強調したい。

30・1 障害者に接触したり、処遇決定過程に関与するあらゆる職種の専門職者は、障害に関する社会・心理的側面について適切な訓練を受けなければならない。この講座は、専門学校のカリキュラムに組み入れるべきである。

30・2 障害者と直接に接触する機会の少ない法律家、建築家、保険従事者などを対象にしたセミナーを開催すべきである。

30・3 障害者自身が表明する個々のニードに対応するべく働くリハビリテーション・カウンセラー(a general rehavilitation councellor)を、リハビリテーション過程に導入する。

 

31. このような概念のリハビリテーション・カンウセンラーを具体化するためには、以下の三つの職種があげられる。

31・1 障害者の権利擁護者(the Ombudsperson** for the Disabled)──障害者個人の権利を擁護したり、政府から不当に処遇された場合にそれを正すことを任務とし、政府またはその他の適切な団体から任命される者。この「権利擁護者」は、法律の運用のしかたや障害者が受けられる給付に精通し、法律のなかに明白なる不公正が存在する場合には、その是正にも努める。

31・2 カウンセラー(the Counsellor)──カウセンリング技術に熟達し、障害に関係する法律に精通し、すべての社会資源を正しく認識している者。カウンセラーは、障害者自身が感じているニードは何であるかに焦点をあてる。カウンセラーは政府または民間機関から給料を支払われる。しかしどこから給料を受けるにしても、カウンセラーとしての専門職の立場に忠誠を尽くすのか、収入減に対して忠誠を尽くさなければならないのかと迷わなくてよいように、カウンセラーの任務を慎重に定義しなければならない。カウンセラーは社会活動(social action)に引き込まれることもあろう。カウンセラーとしての豊富な経験は、社会計画(social planning)を立てる際に貴重なものとなる。

31・3 村落カウンセラー***(the Village Counsellor)──経済的に発展途上にある国や人口過疎地域においては、そのコミュニティの構成員がこの村落カウンセラーとなる(有給もしくは無給)ことによって、この概念は実現しやすいであろう。この村落カウンセラーは「コミュニティの一員」であるので、地方の慣習や偏見をよく知っており、障害者やその家族が利用できる援護の資源を知らせることもできる。

Ⅳ.リハビリテーション職員の養成

32. リハビリテーション職員の養成に関しては、以下の5点を考慮に入れなければならない。

 

32・ リハビリテーションの社会的構成要素に関係して働く者に必要とされる知識

32・2 セミナー、高等レベル(post-secondary)、学部レベル(undergraduate)、大学院レベル(graduate)など、必要とされる訓練のレベル

32・3 各種プログラムにおいて、養成を受けた職員が要求される実際的需要

32・4 養成プログラムを確立するときに活用できる、その土地にある土着資源

32・5 経済的に発展途上にある国において、国際的な養成プログラムと奨学金制度の確立

Ⅴ. 調査・研究

33. すべての社会は、障害に関する諸問題の調査・研究に資源を投入し、その成果を現行の政策や実践に活用する努力しなければならない。

Ⅵ. 具体的実施

34.「社会的リハビリテーションの将来のための指針」の具体的実施は、国際障害者リハビリテーション協会の各国加盟団体が各国の状況にもとづいて実施するよう、各国加盟団体にその責任がゆだねられている。

35. 社会委員会は、「指針」の目標を達成しようとするすべてのプログラムを、奨励・支援する責任を有する。

36. なお社会委員会は、以下の5事業を遂行しなければならない。

36・1 「指針」に打ち出されている目標を追求するための活動プログラムを企画するために、国家レベルでの機動部隊(tesk force)の編成を促進する。

36・2 宗教団体、民族グループ、または政治団体によって組織された社会資源の活用方法を、この機動部隊が開発する。

 

36・3 「指針」に表明されている諸原則を深く研究するために、地域セミナーを開催する。

36・4 適切なリーダーシップを養成するために、専門職者養成学校がモデルとして利用できるようなカリキュラムを開発する。

36・5 リハビリテーションの社会的構成要素に関係する調査・研究の成果を、収集・流布する。

 

*訳者注:国際障害者リハビリテーション協会が1970年代を「リハビリテーションの10年」と定め、世界的キャンペーンを実施している。その宣言書は「リハビリテーション研究」No.2に掲載されている。
**訳者注:本来は北欧のことばで、米国でもこのまま使われるようになっている。中立の立場で問題処理にあたり、例えば、大学においては大学当局と学生との間に立って問題を処理する。
***訳者注:日本にあてはめると、民生委員のような立場ではないだろうか。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1975年10月(第18号)16頁~21頁

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