障害者に関するフランス新法制の考察

障害者に関するフランス新法制の考察

-1974年法案-

飯原久弥 *

 

 1974年7月にフランスは、障害者のリハビリテーションの福祉・教育の充実と雇用に関する新しい基本法(Loi d'orientation en faveur des handicapes)の提案を試みている。これから紹介する資料は、フランス障害者リハビリテーション協議会(Comite National Francais de Liason pour la Readaptation des Handicapes)から、同年9月に入手したものに基づいて、若干、筆者が注釈を加えたものである。

 この資料は、おおまかに分けると、(1)フランス法制の考察、(2)基本法案、(3)法案に関する関係団体の意見、(4)1974年7月のフランシス・モンテ(Francis Montes)氏による意見、の四部から構成されるが、ここでは、(1)についてはその全文を、(2)については、リハビリテーションに直接関係のふかい条文のあらまし、(3)については、各法案の内容についての議論と、(4)については、その要点とおもわれるところを、紹介することとしたい。なお、一連の資料にそえて、フランスにおける障害児・者数の推計の統計があるので、これは(1)のところに付記することとしてみた。なお、内容の紹介に入る前に、従来のフランス関係法制、ことに所得保障面について概観しておくこととしよう。これは、新法案の意義を理解する上の、いわば、予備知識になるかも知れないという筆者の考えからである。

はじめに

 フランスの障害者福祉あるいは所得保障に関する法制は、社会保険の部門では、3分の2の稼働能力の喪失の場合には、廃疾年金が、その人の上限給与年額の30%に相当する額のもので支給されることとなっており、また、労災保険では、業務上の負傷、職業病による、一時的な稼働不能については、資金日額の2分の1、29日目以降については賃金日額の3分の2に相当する額の休業手当金が支給され、恒久的な稼働不能については、賃金額と廃疾の程度を基礎とする廃疾年金が支給されるとともに、また、家族手当制度から心身障害児教育特別手当が支給されることとなっており、いずれも社会保障法典(Code de Securite Sociale)の規定するところとなっていた。

 その後、社会保障の適用拡張が大きな課題となってきて、その一つの表れとして、1971年7月に新しく心身障害者のための援助措置が創設され、翌72年2月から障害児手当と成人障害者手当という2種類の金銭給付が始められた。このうち、成人障害者手当は20歳から65歳までの、障害程度が80%以上の恒久的な廃疾状態にある者を児童的に疾病保険(assurance maladie)に加入させ、その保険料は社会扶助(aide sociale)が負担することとして、所得保障の途を拡大したのである。

 しかしながら、ここで紹介する新法案は、障害者に対するニードの高まる中で、一層、有機的に対応をするため、所得保障と職業前教育と雇用または福祉を体系化しようとするものであって、一面において、わが国の心身障害者対策基本法のように総論的な規定が列記されている点で、具体性にやや欠ける点があるとはいえ、そのプログラム規定の順列は、フランスにおける障害者対策の組織的な方向づけが把握されるので、極めて基本的な方針法令であるので、フランスのリハビリテーション事業の動向を概観する上に不可欠と言えよう。

1. フランスにおける障害者関係法制の考察

 およそ、法制を論ずる前に、必要なことは、法令により保護される客体すなわち障害者リハビリテーションの対象となる人々の数字的な把握であるが、フランスの場合においても、正確な障害者数を把握することは非常に困難であって、ことに包括的に「障害者」“hadicapes”と言う場合には、取り扱う機関・団体によっては、400万人ないし500万人に及ぶこととなる。しかしながら、より具体的に障害別および年齢別に積み上げて推計するとすれば、現在のところ、保健省(le ministere de la sante)に所属するルネー・ルノアール(Rene Lenoir)参事官の記述しているように、統計約320万人、総人口の6.3%と考えるのが最も適当と言えよう。なお、この根拠と内容については後に述べることとする。

 ところで、フランスで障害者のリハビリテーション施策を所管する省庁は多岐にわたっているが、なかでも、労働省(le ministere de travail )、保健省、国民教育省(le ministre de leducation national)及び施設庁(le ministre d'equipment)が緊密な関係を保っている。

 さらに、社会活動を業務とする保健省に所属する参事官制が配置されている。前述のルネー・ルノアール氏がその職務である。また、こうした公権力を伴わない民間団体もリハビリテーションの業務にたずさわっている。機関の中で、特徴的なものは、障害者等級判定高等委員会(le conseil superiour pour le reclassement des handicapes)である。

 さて、障害者は障害が多種類にわたっているので、ぞれぞれ障害別に応じてケースワークをすることが最も重要なことであるが、きめの細かい配慮を必要とするリハビリテーションの分野では、障害者として一律にケースワークを行うことのないようにするため、従来は、非常に多種多様な法令が制定されていた。そこで、これらの共通する原則的・基礎的事項を明文化した障害者福祉基本法(le loi d´orientation en faveur des handicapes)ともいうべきプログラム法が提出されて、可決を待つ(訳者注:フランス障害者リハビリテーション協議会からの手紙によれば、若干の修正は加えられるであろうと予測されるそうである)道順となってきたのである。そこで、この新法は、二つの目的をもっている。その一つは、障害者の基本的な諸権利を保障することであり、いま一つは、前述のように非常に複雑化した現行諸法令を統合するか、ないしは単純化することにあると言えよう。

 そこで、まず、障害の予防面については、早産が障害の基礎的な原因の一つであるので、フランス政府の施策の重点の一つは、誕生前の検査に重点をおいているが、その回数を制限しているので、実際には、必要と判断される数の4分の1程度である。これらの検査をうけることは、出産手当の交付を希望するすべての妊産婦にとっての義務となっているが、実際に受けている人は比較的少数である。1970年8月25日の行政通達では、初めての検査のときからの診断書を累積しておくことが奨励されており、一般の中央病院が障害の発生と関連して段階に応じた機能を発揮することとなっている。1972年2月2日の政令は、これらを実現するに必要な民間機関の設置を規定している。そうして、児童の誕生に当たっての助産の仕方が、障害の発生を予防する道でもあり、また、予測する道でもある。

 胎児を含めて乳幼児の成長につれて、疾病にかかる危険性をさけるために、注射を受けるよう妊産婦に義務づけている。(訳注:その具体的な注射と実態については資料では明瞭でない。)

 次に、各個人ごとに出産に当たって、遺伝性の疾病を直ちに追跡することが可能な健康手帳が配付されている。生産年齢となって恒久的な労働不能者すなわち廃疾と認定された人の80%は、この健康手帳において障害・廃疾と認定された児童と推測されている。そこで、出産前の検査を補う意味で、出生後の検査が行われている。やがて、障害児にとって就学年齢がくると通学することとなるが、現在は、フランスでは義務教育年限が16歳までとなっているが、実際上、教育不可能の児童たちは、それぞれの場合に応じて、特別な教育設備が準備されなければならないこととなっている。大多数の教育施設に通学するときは、それぞれの場合に応じて特別な教育施設に通所して、その学費は社会扶助(aide sociale)によって保障されることとなっている。この手当は、障害児のための特別な扶養を要する分野の経費をカバーするものであって、家族手当は加算されるものである。現在、障害児の教育の仕組みを修正しようとする新立法が行われているが、この法令は、障害児の教育を受けるについての権利を明確にすることを目的としているが、こうした場合には、普通の教育体系の中で位置づけることは不可能であるので、特殊教育の形をとることとなっている。

 もちろん可能なだけ、障害児教育を引き受けることができる普通学校は、極めて数が少ないものの、その機能を新法の下で続けていくであろう。また、障害者に職業能力を賦与するための特殊設備を備えたセンターは、大多数が民間機関で運営され、その建設費と運営について国の補助が認められているが、その補助率は約30%である。また、このセンターに在籍の障害児に対しては、社会扶助が支給されることがある。さらに、純然とした医療プランを組み入れた職業教育を行う段階になると、障害者自身に対する所得保障は継続されない。

 従来は、障害児家庭は、その資産状況に応じて、こうした職業教育に就学させる仕組みとなっていたのであるが、新法の特徴は、成人障害者に職業能力を賦与する場合の職種は非常に多様であって、また、生産過程の改良を行うことも必要であるので、こうした基本づけを行うことに主眼をおいている。

 障害者にとって重要な課題は、雇用問題であるが、およそ人の雇用能力に最小限度というものはあらかじめ予測されない。ただ、1957年法によれば「人は皆、身体的ないし精神的能力に適合するか、あるいは、能力より低目の程度の雇用状態をあてがわれるとか、あるいは、そういった雇用状態を維持すること」を規定している。この点で、重要なことは、障害者の労働能力の程度は、技術委員会で認定されるが、この委員会の認定は、新法施行後の障害者の将来を指導する場合の基準となるものである。

 フランスでは、障害者は、職業能力の段階に応じて、職業教育を受ける仕組みであるから、極めて弾力的な判断が伴う。これに加えて、自由業に就業することも、多くの障害者が希望しているところである。いずれにしても、障害者各人のために最もふさわしい雇用の場を準備することが必要な旨が強調されている。

 沿革的には、1926年以降は、戦傷病者を優先雇用することが事業主の義務となっていた。すなわち、10人以上の被用者を雇用する企業は、その1割以内を戦傷病者にあてなければならないこととなっており、その義務と関連して、1964年以降、一般障害者の雇用率は3%となっている。しかし、企業のこうした雇用の義務については、罰則を伴わない。障害者の雇用義務を有する企業とは、工業会社、商事会社及びそれぞれの系列下にある企業、自由業の事業者、国及び地方公共団体の事務所、事業協同組合、農業経営者の会議所又はその連合体である。

 これらの企業に従事する障害者は、健常人と全く同様に処遇される。すなわち、彼らの給与は、就労状況の監督をうけるが、もし能率の低下があっても、いかなる場合も20%以下に引き下げられることはない。さらに企業の分野によっては、障害者の一定範囲の者が解雇されるときには健常人の倍の退職手当が支給される。

 公共機関の場合は、雇用分類による管理部門のポジションが障害者のために留保されているが、障害者の雇用比率はおおむね3%となっている。

 1970年以降は、事業主は、被用者の配置を適正にするよう義務づけられている。とくに、障害者の職種の決定と配置換えを容易にするためには、国の財政上の援助が受け入れられることとなって、一人の障害者について2,500フランを限界として、その80%が国の補助となっている。同様にして管理部門を効率化するには、新規の法令で国家財政との結びつきを要することとなろう。

 次に、健常者より明らかに労働能力の低い障害者の場合の稼働能力の賦与についてであるが、労働者は、こうした障害者に対して保護工場(atelier protege)の設置を奨励している。この保護工場は障害者のみが対象であって、その能率によって給与が支払われる。保護工場の場合、工場のそれぞれのポストは、障害者のみによって占められ、その住居は工場に隣接して設置される。いま一つのパターンは、保健省に帰属する労働保護センター(le centre d'aide par le travail)である。このセンターは、能率上の競争力のない障害者が利用するものである。

 このセンターでは、障害者の給与は、国庫負担による扶助基金からの日給制か、あるいは一部、家庭からの仕送りで補われる場合がある。

 こうした場合の給与の最低限度は国民基金から支給される社会保障給付と同額である。なお、障害者の所得保障に関する概要は後に述べることとする。

 現在、障害者福祉基本法案の構想に基づいた障害労働者保護組織の再検討が行われているが、この法律の下では、上に述べた労働保護センターと保護工場との就業内容の不均衡を是正して、それぞれの機能に適合した就業が可能なように努められている。

 また、こうした障害者の勤務場所は、健常者の職場と同様な立地条件の下におかれるよう期待されている。

 障害者各人の経済生活は平均化の方向にあると言えよう。障害者の通常労働による所得は、一般的な最低賃金を下回らないよう常に努力がなされているので、実際には保護工場における稼働所得は、一般の最低賃金の90%に当たる額が支給されることになろう。また、労働保護センターにあっても、稼働所得は常に向上されることになろう。そうして、この場合、障害者に保障される最低額は、老齢者に対する所得保障より上回ることが目指されている。このようにして、障害者の経済生活の平均化が目指されているのである。

 ところで、障害者の所得保障についてであるが、すべての障害程度が80%以上である場合には、障害手当が支給される。この障害手当は、社会扶助と同等か、または労災その他事故災害による障害の場合に支給される額とバランスが保たれている。

 障害手当とは別箇に、社会扶助が支給されるが、これは、障害者が生存を維持するに必要な行為を補足するための扶助であって、障害の程度によって医療委員会が認定して社会扶助基金から支給されるものである。

 ことに、所得保障がその機能を十分発揮するのは、重度障害者に対しての場合であるが、まず雇用が不可能な障害者については、労災の場合には、社会保障基金から障害年金が支給されるが、その額は事故以前の稼働所得と同額である。次に、もし、障害が未就業者つまり年少の場合に生じたものであるならば、毎年、社会扶助から手当を支給される。社会扶助は、金額国庫負担による国民基金から支出される。すべて、この種の年金、手当のそれぞれの額は、障害程度を審査の上決定されるが、新法制定によって、障害年金又は手当額の最下限が、常に老齢年金の最下限を下回らないように比較して検討される仕組みとなっている。

 もちろん、機能的又は職能的な再教育を行うためには、所得保障に加えて別の角度から身体障害者のための福祉プランが必要であり、この福祉プランを受け入れるためには、障害度がおおよそ80%以上と認定された障害カードを保有していることが肝要である。こうした障害者の家庭環境の整備のためには、障害者のみに対してではなく、住居についても 、また車の整備についても、さらにハイヤーの予約さらに障害者の権利保護のために弁護士に支払う報酬にも耐えることのできるように、障害者の生活程度を保つことが期待されるとともに、また、障害者の居住する家屋・建物の改善を図ることも必要である。

 ことに、障害者の利用する建物の改善の場合、例えば、アパートのような集団生活の場と、地下室を有する建物は、1年半の間に、障害者向けの諸設備を備えるように新法で規定されている。ただし、家屋等の建物や生活環境の改善については、法律で規定がなされているものの、現実にはまだ実行に至ってはいない。これは、およそ、こうした生活環境の多岐性、複雑性に対応して行政がなかなか追いついていけない点も考慮に入れなければならないのである。

 結局、「障害者福祉基本法」という新法案は、フランス国内における障害者に関する唯一の基本法として、当初の目的である現存諸法令をすべて改訂するという大きな貢献はしているが、障害原因別すなわち戦傷病者、労災、先天的障害などのようにその原因別によって別箇に財政負担する現行の仕組みを一元化したものではない。むしろ、新法の重要度は、それぞれの法規の連係を保ったことと、障害者の生活と社会関与の条件を備える基盤となっていくことであろう。

 なお、参考資料として、前に触れたルネ・ルノアール参事官のとりまとめた障害児・者数を記述することとしよう。

1.  精神障害者

児童(5歳~19歳)

成人(20歳~64歳)

  人数 人数
軽度障害 3% 380,000人

200,000人
ないし
300,000人
(推定)

 

共同生活に支障のある程度の障害 0.55% 70,000人
中度障害 1% 125,000人
重度障害 0.75% 95,000人
重度精神薄弱 0.25% 30,000人

(小計)

5.55% 700,00人  
0児時から5歳までの児童(推定) 100,000人  

「1.精神障害者」の合計

800,000人

300,000人

2.  身体障害者

児童(5歳~19歳)

成人(20歳~64歳)
人数 人数
肢体不自由 0.5%
ないし
1.17%
63,000人
ないし
148,000人

0.7%

197,859人

感覚障害
  うち
視覚障害
聴覚障害

0.25%

0.1%
0.15%
32,000人

12,500人
19,500人

0.39%

0.23%
0.16%

110,800人

66,000人
45,000人

(2.身体障害者)の合計

  95,000人
ないし
170,000人
517,260人
ないし
825,919人

合計(1+2)

  895,000人ないし970,000人  1,126,000人

 したがって、1973年1月1日現在0歳から64歳までのフランス住民中、身体障害者数と精神障害者数の合計は、おおよそ200万人であり、人口の4.4%を占めることとなる。

 なお、廃疾老齢者であるが、65歳以上の高齢者のうち心身障害の状態にあると判断されるものは、当該全人口の20%、1,282,000人いると考えられるので、前述の64歳以下の障害者数に加えると、3,282,000人と推計されて、総人口の6.3%となるわけである。

 次に、出産児の障害別の推計があるので、これを紹介してみると、

出産児数を年間85万として、
これを100%とした割合

実数

軽度障害 1.77% 15,000人
中度障害 0.39% 3,300人
重度障害及び重度精神薄弱 0.94% 8,000人
軽度奇形 0.56% 4,775人
重度奇形 0.56% 4,755人
脳損傷に起因しない肢体不自由 0.27% 2,300人
脳損傷に起因する肢体不自由 0.08% 650人
感覚機能障害

0.14%

1,200人

合計

4.71%

400,000人

となる。

2. 障害者福祉基本法案(抜枠)

第1章 総則

第1条

 障害の発生を予防し、障害児を看護し、教育し、職業を賦与し、雇用させ、障害児・者を社会生活に適応させることは、国民的な義務である。

 家庭と、国と、地方公共団体、社会保障関係機関および民間団体ならびに民間企業は相互に協力し合って、この義務を実現するよう連絡し合うこととなっており、また、障害者をすべて自立できるように協力し合うこととなっている。

 こうした努力の目指すところは、障害児・者を社会に融合させ、健常人と同じに就労させ、生活を送ることができるように、機会あるごとに働きかけるところにある。障害児のリハビリテーションと社会適応を議題とする関係省庁協議会の結果、これを調整する義務を国が負うこととなる。

第2条

 障害児と、障害をもつ青年は、就学する義務を負う。これらの人々は、身体的または精神的な障害を有すると証明される場合に、教育学的、心理学的、社会学的、医学的およびパラメディカルな見地から、それぞれ協力し合った特別な教育を受けることとなる。この場合、具体的な教育内容は、障害のそれぞれの特殊性から生ずるニードに対応した機能をもつように決定されなければならない。

 特殊教育(l'education speciale)は、普通学校特殊学級(l'establissements scolaires ordinaires)の場であるにしても、また、国民教育省、保健省、社会保障省(le ministere de le Securite Sociale)所属の専門機関またはサービス(establissement ou services specialises)の場を通じてあるにしろ、どちらの場合も、[初等教育(l'enseignement pre-elemen-taire)と同程度のものが、保障される。

 学校教育の形による就学の利益をうけることのできない、障害児と青年障害者については、就学義務が免除され、特別な人格形成(formation specifique)をうけることとなる。

第3条

 第1項

 各部門とも、現行法の適用によって生ずる個別的な諸問題の研究を行う特別教育専門委員会(co-mission departementale de l'education speciale)を作ることとする。この委員会は、特殊教育の義務を免除された障害児・者の生活訓練と、個別的な介助を、障害児・者の特質に沿って行う場合の見解を発表する役割を果たすものである。

 第2項

 特殊教育を免除された障害児・者が、教育に代わる訓練をうけるに必要な経費およびサービスをうけるに必要な経費を負担するのは、疾病保険と社会扶助であるが、その具体的な決定は、特殊教育専門委員会の判定に基づいて行われるものである。

 第3項

 特殊教育を免除されて、施設入所なり他のサービスをうける場合に、特殊教育専門委員会の判定と合致しない場合があれば、政令で定められた範囲内の条件で、同専門委員会は、あらためて判定を行わなければならない。同専門委員会は、その場合、別の角度からの判断を表明するか、一定期間、障害児・者を入所または他のサービスをうけたいという当人の主張を同専門委員会の決定として行うことができる。

 第4項

 特殊教育専門委員会の決定は、前項に規定された範囲のものであるとともに、現行法第9条に規定する「障害者の法律上の問題を取り扱う国家委員会(La comission nationale du contententieux des handicapes)」に従うものとする。

第2章 障害児・者に対する所得保障に関する諸規定

 この章では、特殊教育と障害者手当と、障害者の家族に支給される扶助に関する財政上の条項を列挙する。

第4条

 障害児に対しては、一般の場合の未成年者に対する法規の適用をしないで、国は、障害児の修学年限中の費用および最初の職業能力形成に必要な費用を分担することとなる。

 また、国は、障害労働者の権利を保持するための職業能力を形成するに必要な財政を負担することとなる。

 国民教育省の所管の学校以外の専門施設またはその他のサービスは、障害者がこれに就業すれば、修学証明が保証されることとなっており、施設またはサービスの級別、度合別に相当して証明の具体的な内容が定まることとなっている。

 個人の素質に応じて、国民教育省所属から他の省庁の所属の施設またはサービスに移管される場合、および他の公的機関なり民間協会に移管される場合には、従前の効果がそのまま引きつがれることとなっている。

 公共機関または民間組織が運営する施設を障害児・者が利用する場合には、1959年12月31日の法第59-1557号による契約によるものか、または、1971年7月16日の法第71-576号による見習実習期間とみなされて、これらは、学校教育のわく内で、職業能力形成を組織だって行うことを認めた1971年7月16日の法第71-576号の適用によって、職業教育の一環として公式な位置づけが認められている。

 また、障害者の職業能力形成施設を完備して機能を十分にするためには、第一次産業も必要なので、農林・地域開発省(le Minisitere de l'Agriculture et du Development rural)の認可する専門施設からの特別な技術援助を必要とする。

第5条

 施設で障害者の宿舎を提供する場合の入所費用または治療教育に要する費用およびその他のリハビリテーションに要する経費は、第4条の適用によって国が負担することとなっている費用のほかは、疾病保険の法規によって疾病基金(訳注: わが国の健康保健組合に当たる)が負担することになっている。その負担限度は.給付の算定基礎となる定額表に基づいたものであって、営利的な経費については対象とならない。

 疾病保険によって公的にカバーされる費用以外の部門は、障害者家庭の資産調査を伴わない社会扶助によって負担されることとなっている。なお、障害者に対する社会扶助の給付は、障害者自身が使用することが不適当な場合であって、障害者の配偶者か直系卑属が相続人である場合は、その順位に従って支給される。

 (訳注: 以下、第6条、第7条は、所得保障について、社会保障法(Code de la Securite sociale)の関係条文の改正であるので省略することとする。)

第8条

 労働法(Code du Travail)のL323-9から-11まで、同じく-13と-15、-16およびL323-30は廃止することとして、次の条項によって代わる。

 L323-9条

 障害者の雇用と障害別の分類は、雇用政策の要素を構成するものであり、事業主と障害労働者の代表機関と、学識経験者から成る専門機関または民間協会との協議機関がそれぞれ検討をして判断を下すものである。

 L323-10条

 障害労働者に雇用を提供する場合には、障害者が雇用の場を得ても、これを維持する可能性が、その肉体的ないしは精神的な能力の不適応または減少のため、多分に制限される場合が多いので十分にその安定性を考慮に入れる必要がある。

 L323-11条

 障害労働者を、その障害の状況によって仕分けすることによって、現存の法令で予定されている機能上のリハビリテーションの外に、一歩、進めて障害労働者の将来づけを行うか職場配置換えをするような、長期リハビリテーション事業あるいは再教育または、職業能力形成が行われることが必要となる。

 国は、障害労働者の製造した物品を健常者の中程度の製品との相違がないようにするため、公的機関または民間団体である事業所に対して財政的な援助を認めることができる。こうした補助は、結局、障害の理由で通常に比して余分に人手のかかるところを人力の代わりに、労働を省略して、機械や設備を健常労働者の場合より余分に採用することに対する財政的な処理を行うことを意味する。

 L323-13条

 L323-15条とL323-24条に基づいて設置される障害者雇用委員会の構成員は、刑法第328条に規定されている職務上の秘密(訳注: 我が国の場合の公務員、医師、弁護士等の特定職務上の知り得た秘密を守る義務のことに当たる)を守る義務があるので、障害者の身上については、みだりに他にもらしてはならないこととなっている。

 L323-15-I条

 各部門には「職務上のオリエンテーションと、障害別に労働能力を分類する技術委員会(Comission technique d'orientation et de reclassement professionnel)」が設置されることとなっており、その委員会に、国立雇用安定機関(I'Agence National pour I'Emploi)がL330-2条に規定された任務のわく内で協力をすることとなっている。

 この委員会は、次の四つの法的な権限をもっている。すなわち、

 (1)障害労働者の職業の方向づけについて助言を与えること

 (2)障害労働者のそれぞれに適合する素質は、おおむね、L323-10条に定義された一定範囲のものであるが、障害労働者が就職してから後に、その障害に変化があれば、転職できるよう指導すること

 (3)もし、障害者が、その障害を考慮に入れて、1971年7月16日の第71-582号法に規定する障害手当かまたは同法の規定による住居手当を要求する時は、通常の民間企業では雇用されることが不可能であることも認めうること

 (4)法第8条に規定する見解(訳注: 障害者の職業能力に相応する雇用条件などに関するもの)を示す決定を行うこと

  障害者は、自分の職種を選択する時には、その職業の方向を定め、職業分類する技術委員会に希望を述べ、かつ、意見を述べることができるものとする。

第2項

 職業前教育センター(centre de pre-orientation)と職業準備センター(centre des equipement)職業再分類センター(centre des equipes de preparation)および「障害者職業上の方向づけと職業再分類の委員会」ならびに国立雇用安定機関とが、相互に密接な連係を保ちながら、障害者リハビリテーション事業を開発するとともに、その有機的な機能を発揮するものである。

第323-16条

 障害労働者を雇用する民間企業は、労働省および農林省または、職業能力の形成に関する1971年6月16日制定された第71-575号法の定めるところによって協定した、すべての他の省庁また機関によって、それぞれ、公費の補助がなされる。公共教育施設と、成人職業能力形成に要する費用は実定法令の規定の条件を備えた事業所であれば、すべての種類の障害者を通じて平等な額とみなされる。

 障害労働者自身は、1971年7月16日制定の第71-575号法の第5章に規定する職業能力形成のための見習実習に従うために国からの財政的な援護手当の支給をうけることができる。

 ただし、この奨励金は、障害労働者を自立させるための他の法令による手当を支給される場合には、結局、供給されることはない。

 L第323-30条

 能力の中程度の通常労働をこなすことのできない比較的重度の障害労働者は、もし、その労働能力が、法定の健常者能力とみなされる能力の1%以下であれば、保護工場(atelier protege)に収容されることが可能である。

 この保護工場に採用される場合には、職業上の方向づけと再分類に関する技術委員会の障害者各人に関する所見が基となる。この委員会は試用実習期間に障害者を観察した際の一時的な意見を提出することができる。

 保護工場と同列の在宅作業配分センター(centre de distribution de travail a domicile)は、公共団体か、営利を目的としない民間機関及び企業によって設置される。

 これらの機関は、労働者によって承認され、国家との協約を適用して、障害労働者の人頭割の補助金の支給をうけることができることとなる。

 このほか、これらの機関は、広義の場合の社会保障全体の体系の一部を構成するものとして、補助金を受けることとなる。

 保護工場ないしは在宅作業配分センターの組織自体は、一種の事業主とみなされるが、この場合には、そこで働く障害労働者は、法定あるいは約定の適用される俸給生活者としての立場に立ち、その給与が定められ、勤務条件が定まる。また、その製品についての費用算定の協議会に代表者を選出して発言することもできる立場に立つ。

 保護工場における障害労働者は、それぞれ、従事している事業に対応して、法定または約定の固定給が職場ごとに支給される。

 ただし、障害労働者は、健常者の場合に比して能率が明らかに制限される場合がままあるが、その俸給は、L第141-1条および次条の適用によって定められる、健常者の俸給(昇給を見込んだもの)と比較して、法令によって定められる健常者の最低俸給額よりも下回ることになろう。

第9条(抄)

 障害者に対するリハビリテーションまた職業の再分類に協力する各種施設とサービスのために、社会保障基金及び社会扶助法令によって国が負担する場合の決定に際しては、労働法典のL第323-15条の規定による職業形成または分類の委員会の意見を考慮に入れるものとする。

第3章 障害者の職業リハビリテーションと雇用に関する諸規定

第10条

 障害者の雇用ないしはリハビリテーションに関する関係省庁連絡調整委員会のほか、障害者の法律上の問題を取り扱う国家委員会が設置され、下記の諸点に関した論議を行うこととする。

(1)職業前特殊教育の部門別委員会の決定に関する議論

(2)職業形成と技術委員会の決定に関する議論

 なお「障害者の法律上の問題を取り扱う国家委員会は、行政法上の裁定権を持っており、構成員は、(a)関係省庁の部局の代表、(b)国民文化省、労働省、保健省、社会保障省のそれぞれによって委嘱された学識経験者、(c)事業主代表者、(d)障害労働者代表者、および(e)民間協会の代表から構成されている。

 障害労働者は、この委員会の決定した行政処分が実行されなかったり、曲げられたりするときには、国会へ提訴することが容易である。

第11条

 障害者の雇用義務は、国、地方公共団体および公立機関の場合は、事務管理部門に適用される。障害者で、この部門に就職を志願する人は、各人のチームワークを前提として雇用される。これは他のスタッフが障害者の能力不足がある場合に補完するためのものである。

第12条

 国、地方公共団体、その他の公立機関のそれぞれの管理部門に雇用するため、労働環境に必要な設備機械を採用する必要が生じた場合には、国が財政負担する。

第15条

 労働扶助センターは、青春期と成人期の障害者であって、その状態に応じて暫定的にしても継続的にしても、通常の企業にも、保護工場にも雇用が不能であり、また、在宅作業配分センターにも配置されない者を対象として、住居の場は提供しないで、職業訓練するものものである。このセンターは、障害労働者に可能な限り、医学的ないし教育的な見地を加えて、かつ障害者に生きがいを与えて、その社会生活への融合を図ろうとするものである。

第16条

 事業に従事している障害者すべてに、おのずから一定の制限はあるとはいいながら、その障害労働者は、それぞれ各人の場合によって額の相違はあるが、各職業を通じて最低俸給は安定したものとして保証されていなければならない。

第17条

 障害労働者の企業への見習実習を容易にするためには、障害者の実習を認める年齢条件──この場合には、最高年齢何歳までという条件や、職業形成のための見習期間及び実習期間の事業主が、障害者就労能力のハンディキャップのために補充する出損又は障害労働者の暫定的な給付についてその所得不足をおぎなうため、費用を国から譲渡することとして、事業主も実習障害労働者も安んじて労働に従事できるような諸規定を準備する必要がある。

第4章  成人障害者に対する給与に関する諸規定

第18条

 国内または海外保護領土内に居住する、すべての、フランス国籍を有する国民は、特殊教育手当の支給をうける権利に該当する年齢を過ぎると、法令によって定められた比率で同率の障害者手当を受給することとなるが、その場合の要件は、この障害者手当と同額ないしそれ以上の強制的な保障または老齢給付もしくは障害給付がない場合に限る。

第19条

 障害者が、前述の第16条第1項に規定する一定限度の身体能力に恒久的な不能があり、社会保障諸給付(訳注:例えば、障害年金、労災保険給付等)の制度に該当しない場合には、その生存に不可欠な行為の3分の1に該当する補助金が必要なときと、職業人としての活動が部分的であるときには、そのような障害者すべてに対して、通常の算定された給付よりも割増の給付金が支給される。

 この場合の給付金は、社会保障法のL第310条の表に掲げる3級障害の場合に支給される給付を参考にした定額が原則であるが、必要とする介護の性質と継続状態によって額に変更がある。

第21条

 障害者手当の受給者は、疾病及び出産保険に加入する義務があり、社会保険の一般体系によって保障されるよう社会保険給付を受給するように引きつがれる。また、障害者の障害が引き続く限り、必要とする施設に入所している間は、住居手当保障は必要でないわけである。

 このようにして社会保険の被保険者となる場合には、約定の拠出を行うが、その額は法令によって規定されており、拠出金を拠出できない場合には社会扶助が負担することができる。

第5章 障害者を社会一般に受け入れるための諸規定

第22条(抄)

 障害者の住居を建築上配慮するか、公共利用施設の設計を障害者の利用に供しやすくすることは、障害者に社会生活を円滑に営ませる主眼点の一つである。こうした原則を踏まえて、進歩的な建築事業が開設されていく必要がある。

第24条

 障害者のために、公共交通機関の構造を改善することによって、障害者が通勤または旅行しやすいように考慮されなければならない。

(訳注:第22条第2項は、障害者の住居手当(allocation de logement)についての改正条項であり、第23条は、在宅障害者、保護工場、労働保護センターの就業の障害労働者に対する社会保険諸給付の拠出金の減免と社会扶助に関する、ミーンズ・テストに関する規定であるが、紙数の関係で省略した。また、第22条と第24条の障害者のための建築上の配慮に関する規定は、プログラム規定であり、この細目の実施については基本法案には述べられていないが、この法案の性質上、当然と言えよう。)

3. 法案の内容に関する議論

 ここでは、1974年2月に構成された学者と専門団体の研究グループ(Le groupe d'etude de l'U.N.I.O.P.S.S.)が法案をめぐって議論を提出した主要な事項を紹介することとする。

 ① 関係省庁連絡会には、リハビリテーション事業の国際協力を強化する意味で、外務省(Ministeredes Affaires Etrangeres)が参加することが必要であること

 ② 関係省庁連絡会と、障害者及び障害者家庭の代表からなる協議機関の構想が提案されているが、両者の機能上の結びつきが有機的に考慮される必要があること

 ③ 障害者を、いわゆる事務管理部門に比率を示して雇用割り当てする仕組みとしているが、その場合の建築上の配慮または設備上の準備もしくは補装具などについても、法文上、明確に規定にする必要があること

 ④ 障害者国民基金の創設が、この基本法案に明文されていないことは遺憾であるが、そもそも、フランスで障害者基金というニードがあるのは、障害者の医療、教育、生活、雇用と、これに加えて予防のための諸措置を行う計画を実行するための財源の根拠となるものであり、また、リハビリテーション事業の新規開発と維持のための基金とするという発想からであること

 ⑤ 結局、経済・社会の発展上も、障害者の生きがいを向上するためにも、障害者が、修学年限後も、生涯を通じて健常にかつ積極的に生活できるような職業能力の形成が、この基本法制定をエポック・メーキングなこととして一層強化されなければならないとともに、感覚機能などの障害を超早期に発見、治療する機会を濃密にすることを、家庭の両親の幼少児養育の段階から導くことが必要であること

 ⑥ ことに、優先度の高い課題は、

a 関係委員会が全会一致という点から、現実の障害労働者の代表メンバーの意見の吸収が十分でなければならないこと

b 障害者福祉プログラムの中で、建築上の諸問題を解決するための実行法令ができるだけ早く整備される必要があること

c 公企業および工場に障害者を雇用する場合には、補給金などの財政上の考慮を優先的に準備する必要があること

d 障害者の住居手当の基準を、現代生活に適応したものにする必要があること

(訳者注:各条文ごとの批評は、紙数の関係で省略する。)

4. 法案に関する意見

 1974年7月に、フランシス・モンテ氏は、誌上でこの基本法案を高く評価しながら、おおむね次のような私見を述べている

 ①障害者(成人)手当、住居手当、特殊教育手当および社会扶助などの所得保障はそれぞれの基金の財政上の事情から不均衡にならないような配慮が必要であること

 ②労災保険による場合と、疾病保険による場合とのリハビリテーションにいちじるしい相違のないよう法文で規定する必要があること

 ③障害労働者の配慮転換ないし職業転換については、きめの細い実施法令が将来必要となってくるであろうこと

 ④障害者のすべてを既存の社会保障体系に組み入れるべきか、別に障害者国民基金でカバーすべきか議論の多いところであるが、どちらにしても、この基本法のプログラムに基づいて実現への法律家の努力が必要であるが、障害者リハビリテーションは、所得保障の面のみではないことを十分に認識されなければならないこと

 ⑤障害者の種類、程度、年齢などの相違を把握しながら、全体としての調和(l'harmonisation)のとれた行政なり民間事業が展開されなければならない点が基本法の運用後の課題であること。

 以上、紙数の関係で、そのあらましを紹介した心ずもりであるが、稿を通じていささか、おおまかすぎたものであることは基本法案の紹介という点でご理解を得たい。

参考文献 略

*日本障害者リハビリテーション協会常務理事


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1975年7月(第18号)22頁~32頁

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