第3回障害者職業リハビリテーション研究会の概要

第3回障害者職業リハビリテーション研究会の概要

 本誌前号でお知らせしたとおり、第3回障害者職業リハビリテーション研究会は、「脳性マヒの職業リハビリテーション-現状の総点検と問題解決への探索」をテーマに、さる9月28日、和歌山県の高野山大学で開催されたが、当日の各分科会の概要は次のとおりであった。

●第1分科会

サブテーマ1 職業的可能性の発見

 この分科会は、脳性マヒ(以下、CPという)の職業リハビリテーションの評価法に焦点が当てられ、現在用いられている方法の効用と限界、更にその利用法を探索しようとするもので、司会は福田忠夫(宮城)、助言者として岩崎貞徳(広島)、池田勗(東京)、話題提供者として西川実弥(大阪)、福田忠夫(宮城)、池田勗(東京)、岩崎貞徳(広島)、[さつ]田節子(神奈川)、田中堅(神奈川)等5氏で、リハビリテーションの現役として活躍中の方ばかりである。

 まず、西川氏は職能評価のoverviewを示し、職能評価とは職能技能、ワークパーソナリティ、および作業環境の面から職能的可能性を発見する手段であることを明言し、面接、調査、心理学的、人間工学的、あるいは作業式などの各技法は伝統的方法によるものと、リハビリテーションそのものの中から発達してきたものとがあるが、いずれにせよCPの職業類型は想定できない。従って職業的可能性の発見には、単一評価法のみによらず、選択・共用的に多種の方法を駆使するべきだろうと述べた。

 福田氏は、FQは手指の基礎的機能検査に目的を置いている。職能の直接的指標にはなり得ないが、有効な基礎資料の一つになれそうである。特に指数とプロフィールの便利さはIQの例で理解できよう。また8個の定性的因子を比率で示すことは、モダプツ法の定量的評価法や、タワー法の具体的な成就性の評価法と重複し合わない面を持っているように思われると述べた。

 池田氏は、日本チャリティープレート協会開発の「チャリット」を紹介し、伝統的検査法と比べて、out put部にメリットと工夫があると述べ、体の障害の影響を小さく済むよう工夫した反応装置と、コンピューターによる累積資料との相対値が表示されるという。一方、彼はこうした検査成績のみで職業評価はできないしすべての人に適用できる検査は存在しないことを強調した。検査法は成功、不成功の経験を基準にしているのだから、既存資料に成功例がないものは不適性としてとらえ、まれに成功例やその要因があるときは記録に加え、基準を変えていけばよいという。

 岩崎氏はタワー法の立場から、GATB等で適職群なしとされたCPでも、実際は何らかの作業が可能である場合を観察し、読み取り範囲の拡大、現実吟味、ワークパーソナリティの観察、具体性などに作業見本法の長所を主張した。輸入品であるタワー法は現在、地域や時代に適合した日本化の必要にせまられているという。

 [さつ]田氏はモダプツ法のもつユニークな特徴、動作数イコール時間数が動作と能率の分析に有用であることを述べると共に、そのモダプツ得点は必ずしも作業成績と一致しないことから、職業適性の評価の複雑さを示し、授産所では身体機能と能率と製品の納期との関連が評価に重要な意味を持つという。

 田中氏はOTの立場から、CPは運動障害という阻害因子を持つほかに、社会的経験の未成熟の人が多く、本人の要求水準と受け入れ側のCPに対する職業的理解との間にギャップがあることを指摘、職能的な訓練で導入期(1~5か月)、協調期(6~10か月)、技能習熟期(11~20か月)を経る必要がある。その間の職能評価の情報として必要なことは、長期の観察と素朴でも確実な記録、肯定要素と否定要素およびどんな条件なら可能かなどの記述である。職業的成功を得るためには、健康と基礎体力、職業に関連のある有効な代償機能に習熟していることがあげられると述べた。

 討議はフロアの服部氏から始まりDOTの立場を認めた上でいうと、現在わが国に導入されているモダプツの利用のされ方はpayするかどうかを重視して、CPの職業とは何か評価とは何かが問われていないのでないか。これに対し、助言者と話題提供者から、センターインダストリーズは職種の方向を決めてから使っているが、わが国での状況はモダプツを紹介する時期で、そのままで役立てられないかと模索の時期であることを理解するべきだ。現在の授産所で使用する場合は既設の限定された職種しかないので、それに合うかどうかの立場にならざるを得ない面がある、と述べた。

 こうした発言には、フロアから現状の評価法をどう使うかという原点に話しを戻すよう提案があった。

 評価法の結果が必ずしも実態と合わないことについて、助言者より、短時間で済むテストの結果では不安定、わからないことが多い中で、ほんの少しわかったことに頼り過ぎるから当たらなくなる。環境とか他の要因もある。またテストはテストする側が自己満足するだけではだめ、作業見本法はそうした短時間テストを補う、現実吟味と被験者自身を満足させる面を持っていることを述べた。

 上田氏(広島心身障害者職業センター)は、適性を調べても社会的にみれば調べる側の自己満足にすぎない。人間の評価にはもっと全体としてとらえる福祉的なものが必要ではないか。大久保氏(福岡身体障害者福祉センター)は、職業リハビリテーションという立場から評価法を考えると、「商品」を作る機能があるかどうか、その可能性があるかどうかが必要なことで、本人がいかに懸命でも商品にならぬのなら、最初から職業リハビリテーションの問題ではないのではないかと発言している。こうした発言は、重度者施設等のCPに作業見本法を実施する意味を問い直しているといえよう。

 知原氏(大阪心身障害者職業センター)は、日常業務の繁忙さからいうと、現状としての企業に雇用するための判定がほとんどで、一般適性の検討の余地はない。短期間で長所を見つける検査法がないか。黒須氏(福島身体障害者福祉センター)は、相談業務は短時間で何もかも評価しなければならない。面接に依存し、職能評価にテストを使用せぬ実情である。発行した判定書が施設でどう役立っているか、フィードバックさせていきたい。タワー法、モダプツ法、FQ等、手短に短時間に済ませるよう工夫できないか。こうした発言に対して、助言者はCPの大事な職業の方向を検討しようとする際に、短時間で解決しようとする考え方はやめて欲しいものと述べている。

 平川氏(希望の園・重度授産)は重度CPの場合は能率という観点からいえば、テストの結果より「好み」の方が作業成績に影響するようだ、個人よりグループ化した方が良好、グループに健常者を参加させると更に良好であるようだ、ベルトコンベア式にすると根気が続かない。助言者から、知的要因もかなり関与しているのではないか、テストは個人ごとに効果があるものを用い、特例が生じたときは修正していく、継続的経過観察でよくデータをつかめる場合もある。よいテストは他の人に広めるようにしたい。作業の能力別編成はプロセスの該当しないようなぎりぎりの人を対象にしないと逆効果になる場合もある。よいグループ化は人間関係の調整や現実吟味にも役立つだろう、と述べた。

 最後に、職業的可能性の発見について技術の立場からいえば、できることと、できないことがあるわけでそれを判然とさせ、まねのできるところはまねをしていく。評価法について、人情論からはいまだわからないことをやっているのだという観点から、許容しつつ自省し合う心構えをお互いに持ちたいものである。

(司会 福田忠夫 記)

●第2分科会

サブテーマ2 職業的可能性の拡大

 養護学校での職能向上とカリキュラムについての問題点としては、現在、クライエントが重度化しつつあるにもかかわらず、教科学習との関係で訓練時間が確保しにくい。又訓練担当者の不足等で、訓練効果があがらないのが現状である。

 これについての解決策としては、重度化しつつある生徒に対する学校側の態勢、訓練部と高等部のコミュニケーション、指導員の技術養成、加えて、労働、医療、教育、福祉等の諸行政の連係により解決していく必要がある。

 脳性マヒ(以下、CPという)と職業訓練校についての問題点としては、現在、入校生の障害程度の重度化と共に、年齢、学歴、経験、知能等あらゆる面での多様化に伴う技術習得のための訓練期間の延長等がある。これについては、機能回復訓練と心理・社会的リハビリテーションを高めると共に、施設の充実等により解決していく必要がある。

 更生施設での職能の指導についての問題点としては、医学的・職能的リハビリテーションはもちろんであるが、心理・社会的リハビリテーション、具体的には社会観、労働観を高めることに重点をおいていく必要があるが、最重度のケースについては、身体障害者授産施設で本人のリハビリテーションの可能性を追究すると共に、器具操作の上において、本人に適した補助器具の設置並びに改善によって解決していきたい。

 CPと職業設備についての問題点としては、現在、重度化に伴うCPの能力評価や訓練にはやはり相当の限度があり、その能力の範囲内では選べる職種と質はあまりないのが現状である。その解決策としては、障害者に仕事を合わすような方法、すなわち、職業リハビリテーション機器研究開発機関の設置によって、リハビリテーションを高めることと、機器設置については、物理的・基礎的な面と心理的な創意工夫が必要ではなかろうか。

 CPの職種と作業形態についての問題点としては、CPの重度化に伴う人間関係の問題で、具体的には障害と仕事との不適合、加えて賃金格差からくる不満、作業の複雑さ単純さの差からくるストレス等である。この解決策としては、障害者自身がどのような障害認知をしているかについて、カウンセリングの中で追究することによって、障害の自己認知と正しい欲求水準を持つことになるのではなかろうか。

 CPの作業能力の開発についての問題点としては、障害者の体力、健康状態、ADL、対人関係、各障害者に応じた職場の選択等、体系的総合的な対策が必要である。

 その対策としては、動作訓練による潜在的能力の開発が考えられる。動作訓練というのは潜在的動作能力を発揮可能にして顕在化する訓練である。この方法を職業的可能性の拡大策として、職業的リハビリテーション体系に導入することが今後の課題である。なお動作訓練と機能訓練の問題は、今後職場で各自が体験することによって解決をはかっていきたい。

<まとめ>各提案項目を通じて言えることは、リハビリテーションにおける医学的、職能的、心理・社会的の3つの側面をマスターすることによって、リハビリテーションの可能性を追究することはもちろんであるが、最近のようにクライエントが重度化しつつある現状では、それだけでは解決は不可能である。従って、障害者に仕事を合わすような機器の設置、授産施設の拡充と、教育、医療、労働、福祉等の行政の連携による総合的対策がCPの職業能力の可能性を高めることになるのではなかろうか。

(司会 岡本俊光 記)

●第3分科会

サブテーマ3 職業能力の発揮の場

 脳性マヒ(以下CPという)の職業リハビリテーションのサブテーマ3「職業能力の発揮の場」としての分科会は、非常に多数の方々の参加を頂き、次のような過程で研究会を進めてまいりました。

 この分科会の発言テーマ7項目を時間的な都合もあり、内容的に比較的関連のある項目にまとめ、4項目として発言と討議を行いました。以下、限られた紙面で十分表現できないと存じますが、その内容をご紹介したいと思います。

1.「CPと就業あっせん」西村晋二氏(東京心身障害者職業センターカウンセラー)「CPと企業内就業」中本考一氏(大阪心身障害者職業センターカウンセラー)。

 西村氏は、CPの就業あっせんの成功事例が非常に少なく、成功した場合でも紆余曲折が多く長時間を要し、その実現には非常な困難を来しているのが現状である。その理由として、①専門家が極めて少なく、その立場が未分化、未発達である。②CPの障害が非常にわかりにくい。③紹介先がない。適性の発見、適職への結びつけ→適職場への配置は簡単にはいかない。従って教育面、福祉面でも職業というものを意識して、役割を果たして欲しい。また、就業あっせんの面でも連絡、情報の提供を密接にして協力してもらいたいと述べた。 

 中本氏は、虚弱体質でてんかん発作を伴うCPの就業一-退職を繰り返す事例を紹介し、CPの場合、就職前の心理的・社会的リハビリテーションの必要性、専門医のアドバイスまた機械等に対する作業を習熟させることが、企業に就業する場合非常に重要である等を述べた。

 以上の問題に関連した討議では、もっと障害者を近代的設備をもった産業に就業させれば、自動設備等でより適応しやすいのではないか、施設等においても広範囲の職種を用意するとともに、近代設備への適応を考える必要がある。また、CPの就労については「適職」の概念よりも「場」の概念で考えてはどうか、作業工程の分析の中にCPのできる場があるのではないか、等々が述べられた。

2.「CPと福祉工場の意義」浜出孫一郎氏(琴の浦リハビリテーションセンター事務局長)「CPと授産施設、重度授産施設の意義」松井亮輔氏(アガペ第1作業所長)。

 琴の浦リハビリテーションセンターの福祉工場は、センターの医学的リハビリテーションより発展したもので、現在39名の従業員の大部分は脊髄損傷で、CPは7名である。松下電器の下請作業が主体であって、利益追求、生産第一を重視している関係から、両上肢健全が雇用条件のウェイトを占めている。このような経営上の問題から、現在のCP7名以上の増員が非常に困難である。

 次に松井氏は、現在の授産施設は基本的には訓練を経て一般社会に復帰するための施設であるにもかかわらず、現状では出口のない施設となってきている。従って、従来の役割を終身的なものに変換する必要に迫られているのが実情である、と述べた。

 以上に関する討議においては、現在の福祉工場での従業員はあまり職業的には問題のない人たちによって占められており、CPのように重度な障害者が満足して働ける職業場面を開発するなど、その在り方を根本的に変えていく必要がある。また授産施設では、個人の能力を開発するために施設を利用すべく、入所ケースを取り扱っても、施設にはすでに一定の作業の流れがあって、それに合致しなければ入所できない、つまり授産施設への入所も、企業への障害者のあっせんとあまり変わらないのではないか等。福祉工場にしても授産施設にしても、その運営は企業に依存しており、重度障害者の受け入れが制限され、重度障害者に対する能力の開発的役割も、設備等の改善、職種の開拓等の役割も十分果たし得ていないのが現状ではないかという意見が述べられた。

3.「CPと在宅就業」中尾潔氏(大阪府立身体障害者福祉センターソーシャルワーカー)「CPと地域作業ホームの試み」神谷[あきら] 氏(大阪府肢体不自由児協会事務局長)「CPを対象とした作業活動プログラムの実例」三ツ木任一氏(東京都心身障害者福祉センター職能科主任)。

 中尾氏は、CPの職業問題の中で在宅就労を取り上げる場合、行政効果や経済効果としてではなく、第一に障害者の職業的ニードというものを認めることによって取り上げるべき問題である。現状では、体系的にどこでも実施されていないが、実際に在宅就労者が家庭を基盤として、関係施設等の援助によってその効果をあげている実例がある。しかし、対象者の実態やニードの分析もなく身体障害者福祉法による公的対策もなく、職業リハビリテーションとしての取り組みも不十分であるが、将来、制度の整備、企業の協力、地域社会の協力等によってその効果が期待されるものである。

 続いて、神谷氏は、職業リハビリテーションの可能性が極めて低く、重度授産施設も利用できない重度障害者の問題をあげ、その人たちは、社会人としての生きがいを求めても得られないでいる。また重度障害者を持つ家族の精神的・肉体的負担が非常に大きいものがある。その対策として、大阪市内の「いこいの家」を紹介。小地域を対象とした施設で多目的な施設内容をもち、その地域の産業を取り入れた作業を設置するとともに、趣味娯楽の活動に、障害者同士の集いに、また地域住民との交流の場として、地域住民のバックアップを得て、障害者自身の運営によって家庭的なふんい気を持った施設として発展させることが方向であろう。

 次に三ツ木氏は、この通所による作業所は法外援護の施策で、就業レベルの低い養護学校卒業生等を対象として始めたものである。その一例として目黒区立東が丘福祉実習所をスライドにより紹介。一般雇用、保護雇用のできないCPが在宅のままで日常生活にはりを持ってもらうために、所得保障と生活プログラムの保障が必要である。作業を中心とした施設とは別に、現在、趣味活動等を中心とした「生活訓練施設」の構想をもって、在宅で地域での生活を優先する体制を進めている、とそれぞれ述べた。

 前項までのものについては、一応法的援助の対象となるものであったが、この項目でまとめたものについては、各々地方自治体、民間団体及び施設が独自の立場で発展させてきたものであり、CPの職業問題は現在の法体系の中で対処しきれなくなってきていることを示している。この重度障害者の生きがい対策ともいうべきものも含めた職業リハビリテーションについては、教育面、福祉面等も関連する問題であり、重度障害者のニード、家族のニード等の把握から、今後CPの職業問題に大きく関与してくるものと考えられる。

4.「CPの職業リハビリテーションと地方自治体」尾崎喜久男(大阪市民生局障害福祉課)

 この発言は司会者自身に与えられたものであるが、発言の内容はほとんど当分科会の中で語りつくされた感があり、結論的発言となった。

 重度の障害をもつCPは、その限られた能力を生かしながら、何らかの生きがいをもって、就業できる場がどこにあるのであろうか。この問題に対しては、国のレベルにおける対策を期待することはもちろんとして、第1線の福祉を担当する地方自治体としても放置できない問題となっていることも事実である。CPは障害の複雑性、多様性のため、そのリハビリテーションにおいて、各専門分野の有機的な連携サービスを特に必要とする。しかし、現在のリハビリテーション体系が、教育委員会、民生、労働の各部局に分割されており、その効果的でかつ円滑なサービスの流れを阻害している。

 また、CPに対する就労対策は、一般雇用、福祉的就労のいかんを問わずいまだ極めて低調であり、今後大いに研究開発を重ねるとともに、幅広い援護対策を一貫して実施する必要がある。

(司会 尾崎喜久男 記)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年1月(第20号)18頁~21頁

menu