社会 ハワイの大学における障害学生のための設備と受け入れ

社会

ハワイの大学における障害学生のための設備と受け入れ

Facilities and Services for Handicapped Students at Colleges in Hawaii

Tom Akamu,Ed.D.*

小川義博**

 本論文は、ハワイの大学での身体障害者のための設備と組織に関して州全体に行った調査の結果である。大学は障害を持った人々の社会復帰に重要な役割を果たし、最大限の精神的、社会的、職業的、経済的に有益なものを社会復帰と健康回復のため障害者に提供している。ハワイにおいて私たちは、障害の重度な人にさえもできる限り便宜をはかろうとする偏見のない新たな試みに努力している大学に恵まれている。

 障害者が高等教育を受けることについて真に検討されるようになったのは最近である。ごく最近までは、非常に知的に優れた障害者だけが大学での教育を受けるように勧められていた。状況は少しずつ変わってきており、私たちは障害者が可能性と尊厳な生涯を追求する平等の機会を持てるようにするため、果てしのない努力をしているところである。

 現在、ハワイ全体で42,000名の学生のうち600 名(約1.5%)は身体的もしくは精神的に障害があると考えられている。この数字は大学の受け入れが広がるにつれて増加するであろう。

 本論文は、障害者の教育を高めるために貢献している大学の努力に感謝するとともに、大学とそこでの受入状態、教育設備に人々の注意を集中させる一助となることを期待する。

調査手続き

 ハワイ州の大学に調査資料を得るため調査用紙を送った。15校のうち、13校が回答した。2校は再三の依頼にもかかわらず回答せず、この報告では除外された。これら2校は私立で、このうち1校は学生65名たらずの宗教的教育方針の大学で、もう1校は約400 名の学生のいるホノルル市下町にある私立の4年制商業実務学校であった。

 回答した大学が全体として障害学生に高い関心がある大学と考えられるので、87%の回答で実態を示していると考えた。

結果

 ハワイにおいては身体障害学生を敬遠することはほとんどなく、各大学とも何らかの手段でこれら学生に援助を与えている。

 多くの大学では学習障害、知的遅滞のある学生を成人補習教育過程にいる学生とともに身体障害を持った学生として区別している。ここでいう身体障害という言葉は、明らかに身体機能障害に加えて広く困難な状況ということを含んでいる。更に、州の職業リハビリテーション部(DVR=Division of Vocational Rehabilitation)の学生に対する援助が狭義の身体障害ということでなく、こういった広い意味で困難を持つ学生を対象にしているので、大部分の大学がこういう学生を障害学生として回答している。それ故どこの大学でも、障害という意味で区別される学生には、常にDVRの援助がなされている。

 大学を比較してみると、州立大学は一致して専門担当部を設け、私立大学は一般学生の組織に統合して受け入れる傾向であった。しかし、全体としては学生数の少ない大学は専門担当部をほとんど設けていないが、学生数の多い大学は学内に種々の意味で例外的な学生のために、よく考慮され包容力のある組織を設けていた。

 もう一つ興味のあることは、ハワイにおいて私的援助を受けて大学に通う障害学生が多数おり、彼らが自分の持っている困難な立場を明らかにしなかったり、利用できる特別な便宜を要求していないことである。従って、このような状況では、障害者のために役立とうとしている大学当局は、これらの人々を認識できない。例えば、DVRが援助している学生と傷痍軍人の一部の人々は特別な便宜を要する障害学生として扱われることを拒否している。そのため、各々の大学から出された数は正確でないかもしれない。しかし、障害の重い人々を集計するという意味では、大部分の人々が大学から回答された数に含まれているであろう。1~2の大学だけが自分のところへ入学する障害学生を探すといった進んだ施策をとっていた。

 大部分の学生はDVRと退役軍人本部から大学に紹介されている。しかし地域社会に働きかけるといった積極的な進んだ施策はうまくとられていないが、特別の障害者へのサービスとして相談員を配置している大学は、種々のリハビリテーション機関と接触をとっていた。援助する機関がないため、障害者は授業料の納入、外出、そして一般的な福利面で問題を持っていたり、大学では進んだ施策と援助活動を推進する人材が不足している。何人かの学生は高校から紹介されていたが、他のケースでは身体障害の状態は入学願書か健康検査結果に記入され明らかになっていた。どんな大学でも障害学生の入学に対して何ら特別な恩典はなかった。彼らも大学当局が一般の人々に求めている入学条件を満たさなければならないのである。障害を持っているというだけでは大学には入れない。事実として自立しており、大学の大部分の学業についていける能力を持っていると証明しなければならない。また、大部分の大学は身辺処理のできている者だけを入学許可している。

 何校かの大学では、受入態勢は非常に組織化されていたが、助言したり、付き添ったり、筆記したり、書写してくれる介助者を必要とするような受入態勢はなかった。これはこのような介助を必要とする学生を入学させていないことと、重度な学生を引き受けるだけの態勢がととのっていないことに起因していた。全般に、身辺自立が強く求められていた。

 大学での健康管理はかなり多様であった。ある大学では学内でほとんど管理はせず、地域の医療機関、病院にまかせているし、ほかの大学では、学内に医師、看護婦のいる診療所を持っているといったようにであった。入学の際の健康診断もまた多様であり、最低限度の結核診察しかしないCommunity College ***から、入学前に厳密な健康診断をする4年制大学までにわたっていた。

 回答した大学がすべて障害学生を受け入れるため学内に建築上の改造、修理をしていた。各大学の障害学生数、障害状態、使用補助具、特別な学内組織、そして特徴を次の表に示した。

 70%の大学が障害学生のため特殊な登録制の特別扱いを与えていた。ある大学は障害学生のためのサービスとカウンセラーを準備していたし、他の大学では一般学生へのサービスを利用するようにして、もし特殊なサービスの必要があれば対処していた。

 全体的に、すべての大学で教室へ車イスで出入りできるように一番考慮されていた(表参照)。ほとんどの大学で、ある種の障害者と車イス使用者に特別席を設けていた。しかし、特殊教室、資料室にも設けられていることは少なかった。

大学名 障害学生総数 車いす使用者 盲人または視覚障害者 杖使用者 ディバイス使用者 上肢障害者 学内の建築的配慮 快適さ
University of Hawaii-Manoa 325 8 15 6 5 4 あまり良くない 良い
Honolulu Community college 55 1 1 0 1 2 良い 良い
kapiolani Community college 43 2 3 3 6 4 良い 良い
Leeward Community college 63 5 2 1 2 2 かなり良い 良い
Maui Community college 28   1 1 4 3 良い 良い
kauai Community college 26   2       あまり良くない あまり良くない
Hilo and Hawaii Community colleges 無回答         10 良い 良い
Windward Community college 10 2 2 1 2 4 良い 良い
BYU-Hawaii campus 2   1     1 良い 良い
Chaminade college of Honolulu 10  

2

  3   あまり良くない あまり良くない
Hawaii Loa college 0         かなり良い 良い
Maunaolu Campus USIU 1   1     良い 良い
 
大学名 教室利用可能総数 教室車いす利用可能総数

住宅または寮

障害学生のための計画または専門担当部門

登録上の配慮

利用可能 車いすで利用可能
University of Hawaii-Manoa 不明 改造する 可能 可能 KOKUA計画
Honolulu Community college 70 51 不可能 学生発展・学生課
kapiolani Community college 38 27 不可能 特別学生サービス課
Leeward Community college 79 全教室 不可能 Komo Mai.THRUST及び、TRIO計画
Maui Community college 59 56 可能 不可能 学生課
kauai Community college     不可能 学生課 1976年に新キャンパス建設
Hilo and Hawaii Community colleges 94 89 可能 不可能 拡大教育課
Windward Community college 17 17 不可能 学生課
BYU-Hawaii campus   全教室 可能 可能 学生課
Chaminade college of Honolulu   11 可能 不可能 学生課
Hawaii Loa college 11 11 可能 可能 学生副部長
Maunaolu Campus USIU 4 2 可能 不可能 部長

 通学が、車イスを使用する学生と重度な障害を持つ学生にとって、当然ながら常に問題となっている。州のDVRが介助を期待できない場合には、通学の便を図っているにもかかわらず、学生は公の交通機関や私的な乗物を利用していた。1校の大学だけが車イス用リフトをつけた小型バスを用意していたが、これも大学の付近だけに限定されていた。

 3校だけが車イス使用学生のための部屋を学生寮に用意していた。ほとんどは通学を前提としていたが、2~3の大学では遠距離を通学しているごく少人数の学生を学内に下宿させていた。

 ハワイの大学で援助を受けている学生の50%は、公的援助機関である州のDVRから援助を受け、35%は家庭もしくは私的援助機関から受け、残り15%は退役軍人本部から受けていた。ハワイの大学は全体的にみて身体障害学生に好意的な関心を持っている。

各大学における受入状況

 ハワイの各大学での設備とそのサービス内容の注目すべき特徴と重要な点を簡単に記す。

 マノアのハワイ大学(University of Hawaii)はハワイの主要な高等教育機関としてサービスをしており、2年制大学の州全体としての組織とヒロ市にある4年制大学を援助している。多くの建物は車イスが使えるようになっており、エレベーターもほとんどの施設で利用できるようになっている。古い校舎はまだ車イスが使えるようになっていないし、階段もあるが、新しい建物は完全に車イスが使用できる。

 KOKUAという障害学生援助機関が時間割を組んだり、登録したり、教科書や用品をそろえ、特殊な備品や個別指導者を探したり、通学の便を図る等の援助を行っている。専門相談員や筆写の専門家が障害学生のために働いている。またKOKUAはハワイ全土の大学にいる障害学生のために拡大サービスを実施している。

 ホノルル(Honolulu)Community College では障害学生のために職業技術教育に力を入れている。学内ではたえず建築上、障害学生に妨げとなるところをなくするため工事が行われている。学生課は通学の便と家庭教師や朗読をしたりするサービスを提供するために、学生と接触を密にして仕事をしている。最近では、特殊なサービスのためにコーディネーターを雇っている。大学は学生が卒業できるようにあらゆる努力をしている。

 カピオラニ(Kapiolani)Community College は障害学生のために、特別学生援助計画(Special Student Services Project=SSSP)を実施しており、その関心の高さを示している。SSSPは学生と大学側との調整問題を軽減し、教育及び個人の目標を高めるべく、サービスを行っている。その内容は専門的サービス、登録、家庭教師の派遣、助言と指導のための照会等である。カピオラニにある校舎はすべて傾斜路がつけられ、休憩室は車イスで利用できるようになっている。駐車の便宜も障害学生には与えられている。ろうと教育可能な軽度の精神薄弱の学生に対して、台所での食器洗いや後片付けといった特別教育が行われる。

 リーワード(Leeward) Community College では建物を建てるときには身体障害学生のことを考慮して、設備を設計している。すべての教室と教育施設が利用しやすいように構内はコンクリート路面で結ばれている。いくつかの学内計画を実施して、照会、登録、奨学資金申請、相談、通学の便、建物の不便な点の改善等で障害学生を援助している。専任の相談員は個人指導の援助から学生同士の助け合いにわたって責任をもってあたっている。

 1974年の夏、リーワードCommunity College は高等教育を望んでいるが多少能力的に疑わしい入学志願者に大学教育を受ける機会を与えることをねらった特別大学オリエンテーション講座を開いた。この実際に経験させる計画は成功し、将来も開く計画が持たれている。

 マウイ(Maui)Community College は障害学生のために構内で改造工事を行っている。ほとんど建物は傾斜路を設けているし、必要に応じ傾斜路を更に備えることができる。援助は経済面、相談、教科書のテープ吹込み、朗読、家での個人指導、タイプの手伝いとか要求に応じて種々なものに及んでいる。この利用登録は重度な学生に優先して与えられている。

 カウアイ(Kauai)Community College では、他の学生と同じく障害学生を快く入学させており、階段を傾斜にし、ほとんどの建物に手を加えている。1976年の工事で新しくなる構内は、すべての障害学生にとって便利になるはずである。障害学生には個人指導、教室間移動の便、タイプの手伝い、個別・集団カウンセリング等が与えられている。

 ヒロ大学(Hilo College)とハワイCommunity College は、ヒロ市のハワイ総合大学の管轄の一部門である。多くの計画やサービスは最大限にその学内の学生を援助するように統合されている。傾斜路が設けられ、休憩室は車イスで利用でき、多層の建物はエレベーターがある。

 Developmental Educational Services(DES)は、学内の身体障害者のための援助機関となっている。その目的は有益な助言、個別指導、基礎的学力をつけること、そして卒業を目ざしている学生に一層の援助をすることである。

 ウインドワード(Windward)Community Collegeでは、身体障害者のために施設設備はすでに利用しやすくなっていた。障害学生のために特別の相談員が選任されており、一般の相談サービスもすべて学内の障害者に利用できるようになっている。

 ブリッガム短期大学のハワイ分校(Brigham Young University,Hawaii Campus )では、教室はすべて1階にあり車イス使用者が利用できる。そして学生として登録すると、障害学生には特別の扱いがなされる。必要があれば適切な体育の授業もなされる。寮は利用できるようになっている。学生課の責任者は身体障害学生が可能なかぎり援助を受けられることを保証している。

 ホノルルのカミネイド大学(Chaminade College)は適格とみなす障害学生の入学を奨励して、一般の人が利用できる範囲内で援助をしている。障害学生の入学は、建物とか学校の地形の点から制限されている。駐車場は整備され、自分で生活できるなら、障害学生は寮も利用できる。

 ハワイロア大学(Hawaii Loa College)は障害学生を考慮して設計されていて、車イスですべての教室に行くことができる。傾斜路、車イス学生のための休憩室、幅の広い出入口とエレベーターなどの必要な設備が整っている。駐車場も利用でき、寮には両下肢マヒ者用の風呂のついた特別室がある。通常のサービスもすべて利用できる。

 アメリカ国際大学マウナオル分校(United Statas International University,Maunaolu Campus)では身体能力の限界を考慮した上で、すべての者の可能性をのばしている。建物には傾斜路と広い出入口がある。便所は車イスで利用できるようになっている。必要なら障害学生の便宜をはかるための改造もされている。常勤の相談員による相談も行われている。

まとめ

 この考察結果はハワイにおける大学が可能性を秘めた身体障害者の教育に、明確な関心を持っていることを強く示している。二つの大学から回答を得られなかったが、これはこの二つの大学が、かならずしも障害者に理解がないということではなく、これらの大学も障害者を助けるため何らかの方法では援助をしているであろう。

 回答に示された努力を見る限り確実に進歩しており、以前には受けられなかった大学教育の恩恵を受けている障害者が増加していることは喜ばしいことである。大学と州のDVRや退役軍人本部のようなリハビリテーション機関との協力と相互理解も、障害者にとって将来がより良い時代となることを予言している。

 わがハワイ大学が社会で見落とされている多くの人々に、充実した人生と自己実現を目ざす機会を提供するため前進をつづけるであろうと堅く信じる。

(Rehabilitation Literature,May 1975から)

参考文献 略

*アカム博士は1970年メリーランド大学を卒業し、1973年ハワイ大学でスクール・ガイダンス及びリハビリテーション・カウンセリングを専攻し、修士号を得た。現在、ホノルル退役軍人行政部地方事務所でカウンセリング・サイコロジストとして働いている。
**東京都立北療育園指導課主任
***日本でいう大学とは少し異なり成人学級と各種学校とを一緒にしたような性格をもつ大学


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年7月(第22号)18頁~22頁

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