職業 ポーランドの身体障害者協同組合

職業

ポーランドの身体障害者協同組合

Co-operatives of the Disabled in Poland

Boleslaw Trampczynski*

大木勉**

 ポーランドでは、特別な協同組合の組織網が、障害者の雇用及び職業リハビリテーションにかなり貢献している。身体障害者の最初の協同組合組織は、第l次大戦後、退役傷い軍人によって設立された。当時、それらの主要な事業は、障害者が食料品を安く購入できるようにすることであった。以後、当初の消費協同組合が次第に活動を広げて労働協同組合に脱皮し、靴、馬具、洋服、パンの職人、大工、車大工、漁師の協同組合や更には文房具、玩具を製造するワークショップが出現した。

 これら初期の協同組合は、大部分がその日暮らしで数年後に解散する例が多く、リハビリテーションとは無関係であった。なぜなら、当時は、こういった処遇ができるかどうかとかその本質が十分知られていなかったからである。にもかかわらず、それらは、身体障害者の結束と自助の活動を促進しようとする努力の具体化ではあった。しかしながら、労働能力を損失した人々のニードを主に充足する協同組合が、急速にかつ恒常的に発展をみせたのは、1945年のポーランド人民共和国の成立以降であった。

 第2次大戦後になって、活動は活発に開始された。ポーランド国民は、戦争で荒廃した国の再建に懸命な努力を重ねつつあり、身体障害者もボンヤリ傍観したり、雇用されるまで漫然と待つことを好まなかった。再び、最初に協同組合を設立したのは退役傷い軍人であり、その連盟からの援助を得て新しい組織づくりを行った。それ以外の身体障害者も、まもなくこの先例にしたがった。

 はじめは種々な形の身体障害者協同組合があった(例えば労働・借家人協同組合)が、適宜いくつかの連合会に吸収された。にもかかわらず、基本的な目的は相互に類似していたため、この種の全協同組合を包含する全国連合会が、1949年に創設されることになった。その上、種々の形の組織が以後身体障害者労働協同組合をモデルとして規格化されてきた。

 すべての人に仕事をということを強調したポーランドの計画経済に沿って、協同組合に所属する身体障害者の就労の場が主体的かつ多数確保されるようになった。1954年になると、かかる協同組合は338をかぞえ、73,000人の身体障害者に職場を提供していた。年々その数は増加し、1972年までには421に達し、身体障害者171,000人を含め224,000人を雇用するに至った。

 身体障害者協同組合はその地域連合会または<地方>(voivodship)連合会の傘下にあるが、失明者だけは独自の連合会を結成している。次に、これらすべての協同組合及びその連合会は、the Union of Co-operatives of the Disabled(ZSI)という全国組織に加盟している。

 ZSI自身、the Central Union of Workers'Production Co-operativesの一員であるが、身体障害者の職業リハビリテーションや社会福祉、教育活動、中央基金の管理といった面については独自の活動を行っている。職業リハビリテーションの分野では、ZSIは地方当局とかthe Ministry of Health and Social Welfareやthe Ministry of Labour,Wages and Social Affairsと直接に連携して共同事業を行っている。

 最初の段階では、運動の主たる目的は、身体障害者の雇用機会の拡充確保とそれに対応する自らの組織的・経済的な基盤の強化であった。職業リハビリテーションを推進する大規模な活動がはじめて行われるようになったのは次の段階であり、1957年から1960年にかけてであった。協同組合の事業の一環として、リハビリテーションの各面での発展や必要な専門職員の養成がかなり行われた。国の援助に基づくリハビリテーション資金が協同組合やその連合会に投入され、必要な資金援助、新工場の建設、作業能力を損失した人の雇用を円滑にするための工場の改造が行われた。同時に、協同組合の作業内容が重度の身体障害のある労働者の能力に見合うよう改良された。

目的並びに組織

 身体障害者協同組合は、労働協同組合として構成されている。つまり、組合員がその労働により事業を遂行すべく設立した任意の団体ということである。同じように重要な機能は、その本質に由来するものであるが、障害を持つ組合員の多くのニードに対応する社会的及び教育的活動を組織的に行うことである。

 このことは、身体障害者協同組合の標準的な定款に盛りこまれており、目的として次のように定められている。

 ……国家経済計画に基づき、協同組合型の自主管理方式をとる通常の事務所での有報酬雇用を確保することにより、身体障害者の職業及び社会的リハビリテーションを促進し、更に次の目的のための社会的・教育的活動を行うこと。

 (a)身体障害者の身体的能率性と有用性を維持増進させ、社会活動に参加できるまでに回復させること。

 (b)身体障害者がその資格や疾病・障害に適した状況の下で、有報酬労働に従事し生計を維持できるようにすること。この場合、協同組合方式の管理が正しく行われるよう留意すること。

 (c)ポーランド人民共和国の利益に沿って社会的ニードを満たし、更に組合員の物質的・文化的生活水準と社会意識を着実に向上させること。

 これらの目的の達成には、職業的及び社会的リハビリテーションの過程が、協同組合の経済活動と完全に統合されていることが前提となる。経済の分野とリハビリテーションの分野は分離不能で同じように重要であり、したがって、両者は相互に連関し補完すべきである。

 組織に関していえば、身体障害者協同組合は他のすべての協同組合と同じように民主的に運営され、組合員はその運営に直接的かつ同等の発言権を持っている。このことはなかんずく、組合員の持分比率には関係なく権利・義務が平等であること及び国の法令や協同組合自体の定款により設立された種々の運営機関の権限と機能のなかで明確に示されている。身体障害者協同組合の主な機関は、総会、評議員会、管理委員会である。このことは、協同組合の業務に身体障害者が参加する数多くの機会があるということを示している。管理委員会の上部者になったり、評議員会や各種委員会に参加したり、総会にも出席するからである。

 身体障害者協同組合と「通常の」労働協同組合との最大のちがいは、被用者の少なくとも75%が障害者であり、健常労働者は経済的見地あるいは効果的なリハビリテーションを実施する必要性からみて、妥当な程度までしか雇用されないということである。

 身体障害者協同組合の経済活動は、他のすべての協同組合や国家企業を貫く原理原則に基づいて行われる。したがって、経済効率、一定の価格での社会的に有用な製品の生産またはサービスの提供、作業場の拡張や近代化のための財政基金の蓄積に関する要件を満たすことが要請される。しかしながら、協同には、重度身体障害者の雇用やその職業リハビリテーションに関する多額の支出(例えば、職業指導、作業の準備、身体機能訓練、健康管理、社会福祉、身体障害者の能力に応じこの作業条件の改善にかかわる費用)を補償するために、国から認められた税の減免や特典がある。

雇用並びに職業リハビリテーション

 雇  用

 ポーランド経済の社会主義化された分野で働いているすべての身体障害者の約1/5─その大部分が一般企業では働けない重度者である─が、身体障害者協同組合の組合員兼従業員である1。この方式で雇用されている身体障害者の数は、1954年と1972年を比較すると130%の増であり、更に雇用の可能性はますます増大している。

 障害者は、これらの協同組合に、その身体障害の原因や内容にかかわりなく、組合員となり就労することができる。したがって協同組合には、戦争障害者や労災や普通の傷病の犠牲者も加入している。肢体不自由者、循環器障害者、結核回復者、リウマチ障害者、失明者が大部分であり、近年は、精神障害者や精神薄弱者、循環器障害者、失明者の雇用が著しく増加している。

 身体障害者の雇用についての検討と勧告は、まずthe Bureau of Social Insuranceの管轄下にあるthe Medical Commissions on Disability and Employmentによって行われる。この内容は、個々の作業遂行能力の評価と作業内容や就労条件についての指示や制限である。更に、適当であれば、職業訓練内容についての助言も含まれる。身体障害者の実際の措置─職業訓練が必要な場合に特定の国立センターに入所させるとか、医学的な勧告にしたがって適当な職業を紹介するとか─は、地方人民委員会の保健・社会福祉関係当局の権限に属する2

 個々の作業能力の程度や作業のレディネスに応ずる雇用の型には、次のようなものがある。

・身体障害者協同組合運動下の一般事業所

・保護ワークショップ

・在宅就業システム

(1) 一般事業所

 身体障害者協同組合の一般事業所における就労の例が最も多く、組織とか技術の面からいえば、健常者を雇用している同種産業の同規模の協同組合と実質的にはどの点でも違いがない。違いは、身体障害者に適した生産ラインの選定、協同組合所属の医療関係職員による身体障害労働者の継続的な健康管理、広範な社会福祉活動、先天後天障害労働者へのリハビリテーション的職業指導、更には必要に応じての重度身体障害者の身体機能制限を配慮しての作業環境の改善といったことである。

(2) 保護ワークショップ

 重度身体障害者はしばしば保護的な作業条件の下でなら雇用される。この種のワークショップを設置する基本的な目的は、一般企業への就職が困難と思われる身体障害者にリハビリテーションサービスと就労の機会を提供し、かつその健康を損なわずに徐々に─身体的、心理的、職業的、社会的に─通常の作業条件に適応できるようにする体制をとることである。

 このフークショップの運営に当たっては、特に生産ラインとか重度障害者の雇用ができる生産工程の選定に留意している。作業形態(例えば、労働時間・休憩の回数と時間)は、医学的な助言に基づいて編成されている。

 ここでの身体障害者の雇用は、長期的か一時的かのいずれかになる。後者の場合は、ここ以外で雇用されるようになるための作業活動の調整が目的である。前者の場合は、ここ以外では満足すベき結果を得られない人のためということになる。

 前述したように、ここでの雇用は重度身体障害者のためのものである。結核回復者、精神障害者、精神薄弱者、失明者、運動機能障害者が多いが、その他の障害者でも同じような程度であれば措置される。

 ポーランドでは、1972年末には292の保護ワークショップか設けられ、24,000人の身体障害者が雇用されていた。

(3) 在宅就業

 在宅就業システムでの雇用は、身体障害や疾病の故に前記二つの場での就労が困難か不可能な障害者を対象としている。これはまた、通勤距離が遠くなければあるいは家族員の面倒をみる必要がなければ、外での就労が可能な身体障害者にとっても便利な就業形態である。

 在宅就業身体障害者の主なものに、両下肢マヒ者、両大腿切断者、失明者(特に合併障害のある者)、結核回復者、関節障害者(特に関節リウマチ)、重度循環器障害者といったところである。

 在宅就業身体障害者は法的には被用者とみなされ、社会的給付を広範に受けられる。その内容は、社会保険による疾病給付、出産手当、医療給付、老齢年金、有給休暇等である。また事業所に雇用されている身体障害者に適用されると同様な社会的及びリハビリテーションサービスも利用できる。必要な機械工具類や作業服も、当該協同組合から無償で提供されるのが通例である。

 この種の就業者は最近では37,000人に達している。

(4) 身体障害者の雇用に適した形態

 協同組合が実施している事業の多くは製造業であり、次いでサービス業という小規模な小売業である。最初の二者については、身体障害者の雇用が可能な業種、生産、サービスを選定することが肝要である。有望なものとして、製靴のほか、金属、電気、縫製、製糸、皮革、化学などが考えられている。

 これらの協同組合の経済的及び組織的効率をあげるという意味から、種々の生産業種やサービスの特定化が図られてきた。同一地域に身体障害者協同組合がいくつかある場合には、それぞれが事業を特定化し、できれば比較的大規模な製造工場を設けるという原則が貫かれてきた。他方、協同組合が一つしかない小地域では、雇用機会を多種多様に提供でき身体障害者に適した作業選択が容易になり、更にその職業能力をより広く活用できるようにするという意味から、多目的タイプとすることが望ましいとされている。

(5) 報酬

 身体障害者協同組合員の報酬は、健常者の場合と同様二つの部分から成る。つまり、支給されるのは行った労働に対する報酬と総会が決定した組合利益への参加分との両者なのである。労働報酬は、社会主義下された部門に共通の原則と規定に基づいて定められている(例えば、出来高払制とか時間給制)。管理職とか事務職員、技術者や専門職員(以上の大部分は身体障害者である)に加えて、保護ワークショップでの被用者の一部には、生産高を上げようとオーバーワークしてしまう気をおさえ、更にはストレスをなくすという二重の目的から、時間給制で支給されるが、こうすることは精神障害者の場合には特に肝要である。

 標準生産高を設定するが、これは労働強化をめざすのではなく、生産量の合理的配分や作業組織、条件の改善、作業時間の適正利用を達成するためである。標準生産高や出来高払制に慣れることは、一般就労に向けて身体障害者を準備するための重要な対策でもある。

 にもかかわらず、重度身体障害者に対する賃金をどうしたらよいかという問題が残る。出来高に応じてということになると、支給額は快適な生活水準や最低生活さえも維持するに困難な程度になってしまうからである。また、身体障害者は、栄養摂取量、健康管理、日常生活の介助、各種移動手段の利用といった面で、健常者よりものいりであることを認めなければならない。

 ポーランドではこの問題を、特別に低い標準生産高を設けることで解決している。なかでもこれを身体能力、運動能力及び精神反応速度を多く損失した者に適用している。こうして、重度身体障害者だが協同組合の良心的な組合員であり被用者である人が、それ以外の被用者が同じ組合のなかで同様な職種で同じ時間働いて得た報酬の85%は確保されることになる。以上は国からの財政的援助によって行われているが、この問題については、後にまたふれよう。

 身体障害者協同組合は各種特典や減免の恩恵を受けているが、国内のほかのすべての企業に適用される最低賃金については同一の規定を守らなければならないことになっている。

 リハビリテーション

 協同組合に雇用される身体障害者は、前述したとおり、通常、身体的・精神的能力や作業能力を著しく損失している。そのため、各種リハビリテーションサービスや物理的作業環境の整備の必要性が生ずる。活動やサービスは広範囲にわたり、そのいくつかは通常のリハビリテーションの範疇には入らないものもあるが、そのすべては身体障害者が社会のなかで十分にかつ有効な一員となれるようにする共通の目的を持っているのである。

(1) 職業指導と訓練

 就職希望の身体障害者が、その障害や疾病のために未熟練であったり、職業訓練を必要としたりという例は珍しくない。したがって、リハビリテーションや雇用促進が成功するためには、リハビリテーション的職業指導と職業訓練が基本的に必要となる。

 指導の過程には、身体障害者の作業能力の評価、最もふさわしい処遇方針の決定、職種や就労の場の選定、作業標本による試行や物理的作業環境の改善が含まれる。職業指導は職業リハビリテーションカウンセリングセンターが実施するが、これはポーランドの<地方>(voivodship)の中心都市にある身体障害者協同組合の地域または<地方>連合会が運営するもので、ここには専門職員が配属されている。難しい問題が特にないケースについては、医師、心理専門職(大規模組合の場合)、ソーシャルワーカー、産業安全衛生専門家や当該組合の技術職員の代表から成る協同組合自体のリハビリテーションチームが指導を行うことになる。

 職業訓練は、通例、協同組合内の現場で行われる。訓練はすべての未経験者が対象であるが、これには、新しい職務につくための訓練を受けなければならない者と、生産工程の変更等により再訓練の必要な熟練労働者の二つの例がある。身体障害のある在宅就業者も、この現場での職業訓練を利用できる。通常は協同組合の事業所か保護ワークショップで行われるが、必要があれば当該家庭でも行われる。

 訓練としては更に、身体障害青年のための職業前訓練やZSIやほかの訓練センターでの障害技能工や職長の養成コースが設けられている。

(2) 医療サービス

 すべての協同組合には、個々の事業所またはそのグループ内にあるリハビリテーションセンターに医療サービス部門が設置されており、1972年には750人の医師と860人の看護婦が配置されていた。この部門では、身体障害そのものの診断、身体障害被用者の定期健康診断、作業場の計画的査察、各種ワークショップや事業所の産業安全衛生面の計画的指導、リハビリテーションチームの一員としての職業指導やカウンセリングヘの協力及び診療所での診療等にあたっている。

 協同組合に雇用されている身体障害者には、国立のサナトリウムはもちろん、ZSI所有の四つのサナトリウムでの治療を受ける機会が十分にあり、ZSIは更に、治療活動の一環としての海や山の保養所やサマーキャンプも運営している。

(3) 体育

 リハビリテーションや健康の維持・増進のため体育活動が行われる。この分野で実施される主なものは、治療体操、休憩時体操、身体機能回復訓練、各種スポーツ(例、水泳、体操、洋弓)、徒歩旅行、自転車やカヌーでの小旅行である。重度身体障害被用者の各種グループのための夏冬のスポーツキャンプや余暇活動も実施されている。

(4) 福祉事業

 各種社会福祉活動も、身体障害者のリハビリテーションの重要な側面である。身体障害被用者や家族の休暇活動、子供たちのサマーキャンプ、住宅取得のための援助、協同組合の事業所に近接したホステルの提供、緊急時の経済援助及び信用協同組合の運営等が含まれる。

 社会福祉活動の特に重要な部分は、ソーシャルワーカーによる個々の身体障害者の援助である。障害者特に最重度の身体障害者の大部分は、毎日の生活の各種の場面に援助を受ける必要がある。その質と量はもちろんその人の能力の程度や残存能力の状況により異なるものであるが、当然個々のニードにふさわしいものでなければならない。ソーシャルワーカーの心すべきことは、身体障害者自身が自分の困難を克服する方法を発見できるよう、個々の事情に応じた援助を正確に行うということである。

 ソーシャルワーカーのもう一つの重要な機能は、身体障害者個々の利益を協同組合の運営に直接反映させるとか、職場での人間関係を調整するとか、紛争を解決するといったことである。更に、身体障害者の家庭内の問題を解決し、家族が身体障害者のリハビリテーションに積極的建設的に協力する態度になるよう援助することもあろう。1972年には、身体障害者協同組合の職員録に580人のソーシャルワーカーが登載されていた。

(5) 文化的・社会的活動

 協同組合には、文化的・教育的・社会的活動や組合の各種管理機関への参加をとおして、労働とか通常の社会生活への適応をすすめてゆく数多くの機会がある。

 文化的・教育的活動にはいろいろな種類がある。例えば、多くの協同組合には、音楽、演劇、詩歌のグループや歌やダンスの会等がある。旅行とか観劇や音楽鑑賞も多く行われるし、講演会、討論会、家事、衛生及び美容の実演講習会といった教育活動もある。

 上記のような文化的・教育的活動は、身体障害者の社会生活に大いに貢献するけれども、協同組合の管理への直接参加が教育及び性格形成に及ぼす効果も過少評価できない。協同組合の管理運営面や諸活動に組合員の積極的参加を促がすために、「自主管理」方式が、総会が代表者会議によって代行されているような大きな協同組合(例えば、組合員300人以上の組合)の全部門やワークショップや施設のなかに導入されてきた。

(6) 人間工学

 職業リハビリテーションの究極の目的は、身体障害者が健常者と同じ作業環境のもとで働けるようにすることである。特別に改良された環境下で働くばかりであれば、通常の環境下では適応できなくなるし、社会での共同生活が妨げられるからである。

 とはいえ、就労不能の者や作業能力が低いため作業環境の物理的条件がそのニードに応じて改善されない限り十分就労できない身体障害者には、この原則は適用されない。

 これらの配慮は、身体障害者協同組合運動の実際場面にいかされている。作業上の安全衛生の要件をみたし、かつ身体障害者をいたずらに通常の環境から遠ざけることのないような作業環境を設定し、更に一方である種の障害や疾病(例えば、失明、両下肢マヒ)者の身体的・心理的ニードにも適合するように─特に保護ワークショップにおいて─していることである。ZSIの特別な事業所で、リハビリテーション機器やある種の障害者用の作業台を製造している。

(7) 職員の資格付与並びに科学的調査

 職業リハビリテーションの組職や運営、物理的作業環境の改善、更には生起する種々の実際的な問題を適切に解決するための研究調査にも、高度のリハビリテーション及び管理の専門職員が必要である。「自主管理」方式を行うリハビリテーシヨン及び管理関係職員及び組合員の専門的資格取得のための研修は、ZSIの当該センターにおける通常のまたは外部講師によるコースのなかで行われる。

 研究、特に身体障害者の職業リハビリテーションや雇用の組織、形態及び方法に関しての研究は、主にZSIの調査センターにおいて行われている。ZSIにはまた、新工場のデザインや経費についての研究を行うStudy and Design Office や生産技術工程近代化の研究を行うCenter for Technical Problems and Rehabilitationがある。

身体障害者協同組合の経済的・社会的基盤

 全体からみれば、当然ながら、身体障害者協同組合の運営費は一般企業に比べて多い。これは、リハビリテーションサービスヘの実質的な支出(他企業の主な支出項目には出ないか出ても少額である)と、単位生産物当たりの労務費が高いことによっている。後者は、重度身体障害者の平均生産性の低さに起因しており、これはその身体能力の低下と高い病休率に関連している。

 国からの援助

 しかしながら、障害者に対する社会政策を身体障害者協同組合が補完している面を認識して、国は、前述したように、その経費増を軽減するため各種の特典を与えている。これらは、特別な便宜と税の減免という形をとっている。

 特定の業種で「主要生産者」たることを認可していることが、便宜供与の主なものである。つまり、身体障害者の雇用に特に適したある種の製品や製造やサービスの提供を協同組合の独占にゆだねるということである。これらは例えば、保護手袋、保護靴下、医療用リネン類、延長コードやスイッチ、クリスマス用電飾、その他、ホウキやブラシの製造といったものである。この種の製品の生産工程そのものが、障害者の雇用を推進し、しかも無理なく比較的高度の集約労働を可能とするからである。

 協同組合の収益に対する税の減免も、職業リハビリテーションの発展に直接的な効果を及ぼす。この免税分と協同組合の利益の一部とが、特別な身体障害者リハビリテーション基金(Fund for the Rehabilitation of the Disabled)になるからである。基金は各種協同組合のリハビリテーション事業(例えば、リハビリテーション診療所の維持、サナトリウムやリハビリテーションセンタ-の収容設備や治療、身体機能訓練やスポーツ活動、身辺自立のための諸器具、作業調整、障害者用に機械工具、作業場の改善、ワークショップやその機械設備の改良)に要する費用をまかなうために使われる。

 基金はまた、保護ワークショップ運営に必要な生産費追加分をまかなうためにも用いられる。特別時間給制によって身体障害労働者に支給される比較的高い賃金、作業時間中の治療並びに精神障害者や精神薄弱者のように精神的な軽い病気や瀕繁な休憩によって失われる時間に見合う賃金、むだを見越した余分の原材料費、医薬品費、レクリエーション室や体育館等の身体機能回復施設の維持に伴う諸経費(賃借料、燃料費等)等に対してである。

 身体障害者協同組合の経済的効果

 国からの援助や生産ラインとかサービスの適切な選定、更には被用者自身のまじめな努力がそれぞれあいまって、身体障害者協同組合の取益は向上し、将来の雇用のための財政的蓄積が可能となってきた。

 これら協同組合の身体障害者の雇用による経済への寄与は、次のような点で明らかでありかつ重要である。

・身体障害者が失業のままでいるとしたら、彼ら及びその家族は国の重荷となるだろうということ。

・必要品を市場や他企業に供給し、更にはサービスを提供するということのなかで身体障害者が貢献すること。

・国民所得に寄与すること。

・国の経済力の拡大に参加すること。

・身体障害者の生活水準を向上させること。

 はじめの2点が重要であるが、特にここで説明する必要はない。

 身体障害者協同組合の製造業、サービス業及び小売業の総売上高は、1972年には230億ズロチ(約20ズロチがUS1ドル)に達し、社会主義経済部門の総産出高の1.2%を占めた。その製品が良質であり競争力を持っていることは、大部分が輸出されるか主要産業の代表的企業に納入されているということでも理解できる。1972年には、国民所得に66億ズロチも寄与した。

 身体障害者協同組合は収益をあげる団体であり、長年にわたる経済蓄積によって、その活動の経済力の拡充と近代化は、かなり進んだ。工業生産とかサービスの下請として、小さな事業所の手作業といったところから出発して、運動はその運営のための基礎づくりを着実にかつたゆまず行ってきた。今日では、生産工場とサービス施設を約3,000か所、また店舗を売店も含めて3,600か所運営している。最後になったが、特筆すべきは、多額かつ増大する財源を持っていることである。固定資産は31億ズロチ(1960年には5億ズロチ)、自己資本は36億ズロチ(同、6億6千万ズロチ)に達している。

 経済力が伸びることで、職種も増え、多くの障害者がより高い生活水準を楽しむことができるようになってきている。1972年には、これら協同組合に生産工として雇用された身体障害者の平均月収は、社会主義経済部門全体の平均月収の83%に相当している。

 社会的効果

 協同組合はそもそも基本的ニードの充足と、一定の社会的目標の達成をめざす人々の共同体であるが、同時に、適切な経営原理に基づく企業体でもある。この経済的かつ社会的であるという二重の機能は、身体障害者協同組合の場合には、障害者のリハビリテーションと雇用に大きな利益をもたらしている。つまり、協同組合によって身体障害者が適切な処遇と保護を保証されるばかりでなく、運営に積極的に参加することにより、この処遇と保護のあるべき姿の決定に参画できるという構造になっているからである。

 更に強調すべき点は、身体障害者の社会的リハビリテーションについて協同組合の運営方式が与える特別な影響である。協同組合の管理・指導体制への参画、協同組合内外の文化的・教育的・社会的活動への参加、事業実績に対する責任分担と貢献、諸会合への出席及び職業的・社会的進歩の機会の享受─すべてが身体障害者の社会参加を促進する要因となっている。これらによって、創造的能力を発揮し自信を深めることができるようになる。更には、このような協同組合の構造の社会的効果によって、コンプレックス、社会的疎外及び欲求不満といった身体障害の二次的影響の除去がしばしば行われるのである。

結  論

 ポーランドの身体障害者協同組合運動は、障害者の職業リハビリテーションと雇用の分野に、かなり著しい功績をあげたという名声を得ている。身体障害者が活躍できる職種が多数提供され、更に保護雇用システムの拡充、物理的作業環境の改善及び職業リハビリテーション方式の継続的な発展と刷新がもたらされた。

 労働協同組合が身体障害者の雇用や職業リハビリテーションにかなり有効な体制を取り得る理由は、数多くある。協同組合運営方式そのものが、受動的でない積極的な役割を組合員に果たしてもらわなければならない。このことは、経済的ばかリでなく社会的な見地からも非常に有意義である。なぜなら、身体障害者が組合から受けるすべてのリハビリテーションサービスは、彼らにとって援助ではなく、その作業活動のための適正なものとみなされるからである。協同組合方式は、その経済活動への身体障害者の興味を高め、創造的エネルギーを開放し、利用可能な諸資源を注意深く管理しようとする動機づけとなる。

 協同組合システム固有のリハビリテーションと、経済活動の結合によって、多数の障害者の製造業やサービス業への雇用が可能となった。身体障害者協同組合による製品やサービスは、一般市場での競争に耐えられるものである。このことは、国からの援助に部分的に負うところがあるが、協同組合活動のダイナミックな成長、販売と生産の強調、輸出品生産量の増、その経済活動の全般的な水準の高さといった面にも負うところがある。

 重度身体障害者の多数雇用や各種のリハビリテーションサービスを実施することで、一般企業よリ生産経費が高くつくために、協同組合が国から財政的援助や各種の優遇策や特典を得ている事実は、もちろんその経済的能力を傷つけるものではない。それどころかそれは、作業環境の改善、品質やサービスの向上及び生産経費の減少という見地から、生産工程やサービスの近代化や合理化に進む刺激剤として作用しているのである。

     *   *   *

 身体障害者協同組合運動は、それだけで障害者の職業リハビリテーションや雇用をめぐる諸問題をすべて完全に解決するものとは期待できない。その雇用形態の唯一のものではないし、またそうあってはならない。そうだとすると、通常の作業条件下で健常者と共に就労するなかでの進歩というものを阻害するからである。しかも、この種の「独占」は、市民の職業選択の自由や組合加入自由の原則と相入れない面もあろう。にもかかわらず、ポーランドにおいてかなり長年にわたって得られた経験からすれば、身体障害者労働協同組合は、障害者の職業リハビリテーションと有報酬雇用の手段として─社会的・経済的見地の両方から─大きな効果をあげていることが理解できる。

 既に見てきたように、協同組合による雇用が身体障害者の職業的・社会的エネルギーを引き出すという事実は、それが身体障害者のなかで十分にかつ有用な地位を占めるまで回復させる手段であるが故に、大いに意義のあるものであるといえる。

International Labour Review, July, 1974から)

*ワルシャワ身体障害者協同組合(ZSI)リサーチセンター
**神奈川県総合リハビリテーションセンター職業前指導科長

1 この点に関して興味があることは、ポーランドの法律では<労働災害の結果>身体障害者となった労働者は、健康の許すかぎり、元の職場に再雇用されることになっているということである(ILO : Legislative Series, 1967-Pol. 1, s. 10参照)。
2 詳細は次の文献を参照。ILO : Report to Participating governments on the ILO Interregional Seminar on Vocational Rehabilitation held in Warsaw, Poland(16 May-4 June 1966)(Geneva, 1966 ; doc, ILO/TAP/INT/R. 11). Legislative Series, loc. cit. Tomasz Lidke :“Rehabilitation of the disabled in Poland”in International Lavour Review, June 1968, pp.571-584.


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年10月(第23号)29頁~37頁

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