法制  バーデン-ヴュルテンベルク州計画についての諸課題

<法制>

バーデン-ヴュルテンベルク州計画についての諸課題

Landesplanung in Baden-Wurtenberg in der Rehabilitation

K.Wennberg*,Dr.Jur.

飯原久弥**

Ⅰ はじめに

 本論文は、重度障害者福祉雇用法(Schwerbehindertengesetz)訳者注1の施行に当たって、州段階で従来の各種リハビリテーション・サービスを調整し、長期計画を立案する際の、障害者リハビリテーション総合計画の諸課題を論じている。具体的なリハビリテーション・サービスは、地域社会のイニシアティブのみによるのでは限界があり、州行政府は体系的な発展計画の視野から、これを支援し、またプロジェクトによっては恒久的な財政の裏付けを行うことが必要であることを強調している。地方分散化ということは、地域社会に定着したリハビリテーションの展開という点では最もなことであるが、州としての総合的な計画がなければ、規模においても機動性においても事欠くことが多い。

 そこで、1975年1月に公刊された連邦政府の著書では、バーデン-ヴュルテンベルク州(以下、B-W州と表記)におけるワークショップの有する機能を、リハビリテーション計画実施のセンターとしてこれを高く評価している。

 従来、B-W州においても、ドイツ連邦共和国におていも、それぞれの規模と形態で行われてきている各種のリハビリテーション・サービスが、いずれも志向する目標としているところは、障害者の人格発達を尊重し、促し、社会生活への適応を円滑にすることにあることは言うまでもない。

 しかし、それぞれの年齢と障害の性質や重・軽度に応じて保護(Lebenshilfe)と更生(Forderung)を促すには、期間の長短はあるにしても、在院かあるいは通園によるケアとリハビリテーション・サービスの提供を行うフィールドが不可欠である。しかし、こうしたリハビリテーション・サービスを一歩ずつ高めていくためには、系統だった計画と、障害者福祉に関する制度上のネットワークを成立させるため、州行政府の調整機能が重要であり、法令に基づく福祉措置(Wohlfahrtospflege)や民間福祉団体の活動とのタイ・アップなど、リハビリテーション・サービスの体系化と恒久性を保つ必要がある。

 しかしながら、こうした州リハビリテーション計画の策定には、社会状勢の変更に対応できるものであるとともに、ことに職業リハビリテーションから雇用という課題になると、需要と供給のバランスの上に立つ市場経済的メカニズム(marktwirtschaftliches Mechanismus)に左右される要素もあることも、考慮に入れておかなければならない。また公の権限と義務を伴う行政計画に不可欠なことは、リハビリテーション・サービスを恒常的に行いうるための財政上の基盤を固めることであって、これがためには市民社会に対する課税ということが担保(Einsatz)となるものであり、地域社会などからの民間団体に対するボランタリーの寄付行為は付加的なものとして意義が多いが、基本となる州行政府による巨視的かつ長期的な展望の上に立った体系的リハビリテーションについての財政計画の裏付けが不可欠なのである。

 それぞれの専門分野でのリハビリテーション・サービスは分化の途が進められていることは、科学性を高めるものとして必然的であり望ましいことであるが、同時にそれぞれがリハビリテーション計画の中で有機的な連係を強めることが重要であるので、この場合、関係法令や条例の整備が要望され、その立案と運用には、各種のリハビリテーション・サービスの自立性を尊重して、相互の有機性の上に、それぞれのサービス機能を促進するような調整(Koordinierung)と体系化(Systemasierung)を目指す基礎的な規範(Grundsatze)が必要である。

 こうした意味から、B-W州発展計画の序章にもとくにリハビリテーション計画の展開にふれて、地理的に恣意のままに行われるとすれば、基本的権利なり、住居と職場を自由に選択できるという原点がくずれるので、実態に応じた秩序だったリハビリテーション計画によるサービスの提供が必要であることが強調されている。

 州全体発展計画は、すべての住民が法の前に平等に市民権と義務を行使するとともに、ことに権利の行使に壁がある場合に、リハビリテーション計画に沿った諸サービスが行われるような志向が組み入れられているのである。そこで、この場合、前述のように、リハビリテーション・サービスの機能的な組織化ということと地理的な面で、各地域社会のリハビリテーション機関・施設の連結が、リハビリテーション計画の主眼点として要請されるのである。

 このように、州全体発展計画の大きな前提となっているのは、各地の風土なり、社会全体としての能力なりが、長期的にリハビリテーション計画実施の可能性の程度の判断の基礎となるからである。

 他面、体系的なリハビリテーション計画は、地方分権による定着と、専門的分化という質の高いものになることは非常に高く評価されるべきであるが、反面、部分的なリハビリテーション・サービスのみにとどまらず、他地域と「横の交流」なり、医学リハビリテーション、教育リハビリテーション、社会リハビリテーション、職業リハビリテーションという、年齢段階とニードに応じたいわば「縦の連係」が不十分になってはいけないから、ことにB-W州について、先駆的な例として特徴のある点を述べるわけである。そこで、州の構成は地域社会、郡部、都市というように、地理的な構成の上に立って、リハビリテーション州計画を策定することが現実的であるとともに、実効性が大きいと言えよう。

 この場合、下記の三つの基本方針が確認されている。すなわち、①地域社会ごとに、診療ないし治療センター及び養護学校ならびに職業訓練センターを整備し、それぞれが地域社会に定着したリハビリテーション・サービスを行うとともに、相互に連係をとること。②地域社会では解決できない、広域的配慮を要するリハビリテーションの分野については、大都市または州単位で、リハビリテーション専門病院、職業訓練学校および「ワークショップ」などを整備して集約的にリハビリテーション・サービスを行うこと。③さらに広範囲にわたる問題、例えば職業選択とか雇用とか、そのための職業リハビリテーションの「青写真」については、連邦政府全体として課題の解決に当たること。

 ところで、障害者の保護に必要なことは、以上のようなリハビリテーション計画の体系的な展開とともに、障害者の社会生活がスムーズに営まれるように物的設備(Infrastruktur)を改善することもまた、確実に計画の中に織り込まれ、他のリハビリテーション・サービスと密接な連係をもって行われることである。

 さて、体系化されたリハビリテーション計画の第一歩は、その実現の際のサービスが、年齢段階と障害別によってきめ細かに実行されることにあることは論をまたない。ことに、先天的な原因による障害をもった乳幼児の多くは、身体上はもとより、精神ないし心理面でも障害の重複(Mehrfachschadigung)が多いので、早期発見・療育から始まって成人期に至るまでの長期間の医療と教育上のリハビリテーション・サービスを、成長段階に従って継続する場合が多いが、ことに3歳~7歳児までは保育学校(Sonderschulekindergarten)あるいは初等養護学校(Sonderschule)が重要な役割を担っている。

 カリキュラムの中に、いわゆる「学習」のほかに、スポーツとかレクリエーションによって、豊かな人間性が培養されるとともに、高学年になるにつれて適正職業能力を「見い出す」(erziehen)努力が積み上げられ、そこには教育リハビリテーションに「職能訓練」(Werkestuferehabilitation)が加味されるのである。また、成人となった場合には、まず住宅を中心として生活環境を改善・整備することが社会リハビリテーションの一つとして大きな課題である。その場合、障害の性質あるいは程度によって、それぞれ特別に配慮して居住分野(Wohnheitsbereich)が改善されるか、独立した専用住宅(Elterhaus)が必要なわけであるが、住居を画一的にしないよう、それぞれのニード(Bedurfniss)に対応できる環境整備がリハビリテーション計画に期待されている。ことに住居の場合には、建築上の配慮に加えて、医療上も、職業生活上からの考慮も加味して「複合した」(multidisziplinar)リハビリテーション・サービスの結実が将来期待されるのである。

 このように、具体的課題について述べてみると、巨視的に州リハビリテーション計画と称しても、非常に多彩な内容を持ったものであり、それが長期間にわたって体系的に展開されるためには、今少し、B-W州の場合の焦点となっている事象について述べる方が実務的であり、実証的であろう。

 まず、B-W州の場合、こうした体系的リハビリテーション計画を確固とするものにする基礎の一つとして、社会保障(Sozialesicherung)訳者注2の質量ともの充実ということと、今一つはW+Bと略称されるワークショップ(Werkstatt)の整備が提起している諸課題の解決ということをかかげているのである。重度障害者福祉雇用法上では、ワークショップ方式という表現で、体系的なリハビリテーション計画上の職業分野を規定しているが、同法第52条第3項によって、ワークショップの在り方は「いまだ職能を身につけていない軽度障害者および重度障害者のための生きがいを高めるため」の職業リハビリテーション施設としての機能を営むものであって、それぞれの職業上の能力に応じて「働きがい」を体得するとともに、自らの経済生活を向上させるセンターであると定義づけている。

 ところで、実態上の問題としては、身体障害者と精神障害者、また聴覚ないし言語障害者と視覚障害者とは、それぞれのニードと適性能力に対応したワークショップによるリハビリテーションが必要なわけであるから、必然的にワークショップは分類化されることとなっている。こうして、たとえワークショップが同一場所に設置されていても、実際には、障害別に専門化されたリハビリテーション・サービスが行われることはもちろんであるが、ここで必要なことは、ワークショップ間の機能の調整なり連係ということであって、例えば、いわゆる重複障害の場合の職業リハビリテーションは、分化されたワークショップがそれぞれの機能を連絡し合い協力し合わなければ、リハビリテーションの実効を上げることが困難である。そこで、ワークショップのシステム化ということが、州リハビリテーション計画の優先課題となっいているのである。

 1975年1月に、B-W州の労働・保健・社会省がワークショップをフィールドしたリハビリテーション計画の必然性と可能性について“Werkstatten fur Behinderten”という題名の刊行物によって詳細に述べているのは、上述のような由来からなのである。

Ⅱ  州計画の動機・由来

 B-W州における総合リハビリテーション計画の由来は、障害児・者のための教育施設の整備が行われるにつれて、幼少児から成人の職業生活に至るまでのさまざまなリハビリテーション・サービスを、生涯にわたって行う必要があるというニードと、行政判断が完全にマッチしたところから始まった。すなわち、保育学校や養護学校と医療機関による早期療育のチームワークが州計画の動機となったのである。ことに義務教育が促進されるに従って、学校での教育リハビリテーションから進んで、社会生活を営むためには、職能教育さらに職業能力の形成という職業リハビリテーションの充実が強く求められ、それがリハビリテーション計画の体系化の由来となったのである。

 今一つ、前述のように、州でのワークショップの発展過程から、ワークショップを発展させ定着させるために、多面的な配慮を加えた視野からの計画の策定が不可欠となってきたのである。

 そこで、重度障害者福祉雇用法の第1章第52条の法文上の定義によれば、ワークショップは先述のように重度障害者の職業リハビリテーションを通じての「生きがい」を目的とし期待している場であるが、この条項が意味し示唆するところは、障害の態様と重度性によって、ワークショップの過程を経ても、一般的な雇用関係を締結した職業に従事することができない場合に、ワークショップの機能が高く現れるのである。そこで、これらのワークショップの運営主体は、公立の場合もあり、公益法人(gemeinnutziges Verein)の場合もあり、さらに、リハビリテーション協会や場合によっては教会連盟などの場合もあって、多様であるが、いずれも法が想定しているワークショップは、巨大な施設でもないし、またいわゆる市場工場そのものでもないのである。

 いずれにしても多様であればある程、上に述べたような経緯から、ワークショップの間の協力関係が秩序だったリハビリテーション計画の発足を促したのであるが、同時にまた、長期間にわたりかつ年齢段階に応じた、医学・心理・教育・社会・職業リハビリテーションを体系的に進めていくための州計画には、それぞれのリハビリテーション機関が再編成され、目標の設定、ニードの把握、概念の整理、施設の設置場所、規模および財務面、実効性などの再検討が必要になってきたのである。

 一方、障害者にとって、ワークショップの機能は、単に「住み心地のよい」程度では職業リハビリテーションの場としては不十分なのであって、長期間、自らの能力に自信と誇りをもって職業人としての生活を迎えうるような、「生産の場」(Produktionsplatze)を希望することも多くなってきたわけなのである。こうして、法令上も、実際上も、ワークショップからの「枝分け」として、少なくとも120の作業場(Werkplatz)を設置することとなったのである。他方、また、地域社会によっては、その分布は異なるが、少なくとも60か所の事業体が市場経済的な基盤に立って、職業リハビリテーションを行いながら雇用の場を提供することとなってきたのである。

 再び「重度障害者福祉雇用法」の根拠規定に戻って考察すると、ワークショップは一様に“Werkstatt”という表現で公用語として登場しているが、その大部分は、基本的には、障害が重度のため独立自活できないすべての障害者に職業リハビリテーションの門戸を開放するものという性質のものであるので、このうち軽度の障害者の期待する直ちに生産活動ないし職業を営む場としてのワークショップは、“Produktionswerkstatt”あるいは“Beschaftigungswerkstatt”という別の表現で別条項に規定しており、前述の約60か所の事業体がこれに該当する。また、このような二様のワークショップ、すなわち“Werkstatt”と“Produktionswerkstatt”のいずれもが、グループで職業リハビリテーションを受けるのに対して、これらのいずれをも希望しないで、全く個々人で個々の事業体ないし家庭で、職業人としてリハビリテーションを受けながら自立することを希望する場合には、法令上、同法第2章第55条に基づいた「職親」(Gemeinschaftfahigkeit)という公式の職業委託という途も講ぜられている。いずれにしても、以上の三者のうちいずれを選択した方がもっとも障害者にとって望ましいかは、自らの希望と判断と、専門カウンセラーの助言なり、判断が合意に達した場合にかかっている。

 ところで、このようにして重要な役割を担うワークショップの財政的基盤の安定性は、州リハビリテーション計画上肝心な点であって、「重度障害者福祉雇用法」によって、公立公営の場合はすべて直接公の財政で、また企業、事業主に委託する場合には委託費で保障するという協定の下に運営される。

 しかし、10万人~20万人の重度障害者をそれぞれのニードに応じて、ワークショップで職業リハビリテーションを行うには、まず、ワークショップの選択ということと、変化進歩に応じたワークショップ間の移動がスムーズに行われるようでなければ、現実的なリハビリテーション計画とは言えないので、ワークショップごとに、その機能と限界を明確にするとともに、他のワークショップとの機能面での連係を緊密にすることが必要であるということが、法令上にも義務づけられているのである。従って、地域単位から州段階へさらには、連邦全体としての体系的リハビリテーション計画が積み上げによって作成されるのである。

Ⅲ  計画の志向について

このようにして、ワークショップを焦点としたリハビリテーション計画が、その志向を達成するために、次の4点を指標として設定している。

 (a) ワークショップの配置数と規模と種類を明確にするとともに、行政区域内とその周辺の作業場(Werkstattplatz)についての整備状況。

 (b) ワークショップ及び運営主体の名簿と特徴。

 (c) 1974年~1980年までの間に予想されるニード分析(Bedarfsanalyse)に基づいた財政上の安定性の可能測定。

 (d) 州全体発展計画の規範の中に、ワークショップ連盟システムを可能な限り織り込むとともに、租税ないし基金を通じてのワークショップにおけるリハビリテーション・サービスへの助成。

 B-W州は最近とみに社会開発と発展が続いているが、長期的展望に立った州リハビリテーション計画実施上の必要な要素として、以上の4点がリハビリテーション目標の指標となると考えられる。

Ⅳ 計画進行の手順

 上記のように、客観的なニード分析に立った州リハビリテーション計画の中では、B-W州がドイツ連邦共和国でも最も先進的と言えるが、その進行上は、いまだ経験途上の面もあり、中に試行錯誤の面も少なくはない。

 それは、ワークショップが職業リハビリテーション・センターとして担っている現実的な課題が非常に多いということにあるので、体系的なリハビリテーション計画の進行のためには、他の各種リハビリテーション機関および施設との間の継続的な協力関係を保つことによって、機能の分担化を手順を追ってスムースに行う必要がある。ことに、ワークショップにおける職業リハビリテーションを経て雇用という途に連結するためには、行政府間、とくに労働・保健・社会省と企業省との連係が一層必要であるし、また、経営者団体の理解と協力を深めることも肝要である。

 別の面では、ワークショップが職業リハビリテーションのフィールドであるとともに、障害者の生活の場であるという機能が高い場合には、社会福祉協議会や、ボランティア協会や肢体不自由児・者福祉協会などの公益団体が社会的リハビリテーション・サービスをワークショップに協力して提供する必要がある。

 州リハビリテーション計画の進行の手順をスムース化するために、ワークショップの運営者と、都市および州の行政担当者との間に経常的に協議する機会を積極的に提供し合って、リハビリテーション・サービスをどの機関・施設が、どのような範囲で実施するかという、極めて実務的な協定書(Besprechungsprotokoll)を作成し、そうしてワークショップや他のリハビリテーション施設、例えば病院、職業指導所などにリハビリテーション記録を整備することとなったが、これはかなりの進歩と言える。

 次にワークショップが直面した課題は、本来、その運営の責務を負う主体と、そこで職業リハビリテーションを受けている人のみが個別に熟知している具体的なリハビリテーションの内容と経過のすべてを、他のワークショップが知ってよいかどうかという疑問である。州リハビリテーション計画は、性質上、巨視的なものであり、基本条項をとりまとめて、体系的なリハビリテーションを促進しようとするものであるから、このように個別的な事項を義務づけているものではない。

 しかしながら現実のニードに、より適切にこたえ得る方法と言えば、一つのワークショップから他のワークショップへと移動しやすくするのが正しく有機的な連係であり、障害者の自主的選択を保障する基礎である。そこで、リハビリテーション記録の主要事項については、ニードの変化に応じて、一つのワークショップから他のワークショップへと、すなわち、より適合した職業リハビリテーションを受けたいという自発的な希望のときに、その同意を得て引き継がれることとして意見の一致があり、体系的リハビリテーションの進行上、手順も内容も快くかつ円滑に行われるようになってきている。

 こうした個別的合意を基として、地域リハビリテーション計画協定書にも、ワルトシュートほか9都市のワークショップ間の機能上の連係と、移動についての自主的な選択が可能となってきたのである。そうして、いずれの都市のワークショップを選択すればよいかという判断資料は、職業リハビリテーションを受ける人と、提供する方との相互に必要であるという認識が深まって、その両者の合意と協力のもとに体系的なリハビリテーション計画が具体的なものとして定着してきているのである。

 現在、州リハビリテーション計画で構想されていることは、1980年までに養護学校高等部および大学の教養課程で、卒業後職業リハビリテーションを希望する場合には、その将来の希望と選択を自主的判断に基づいて記載し、それをリハビリテーション・センターが判断の基礎として、ワークショップの整備なり内容充実・雇用促進に努めることによってニードに対応しようというものであるが、実効性のある職業リハビリテーションの体系が定着するためには、道程は相当長く、州リハビリテーション計画は徐々に現実性をもっていくものであろう。

Ⅴ 計画(ことにワークショップ)の現状と課題

 B-W州には現在72のワークショップがあるが、このうち48は通勤制のものであり、24は宿泊制のものである。いずれも義務教育終了後、ある程度の診療も受けながら職業リハビリテーションを受けていけるもので、内容と規模からみてモデル的なものと言える。しかし先に述べたように、さほど大型のものでない方がリハビリテーション・センターとしての価値が発揮されやすいので、専門施設のワークショップとしての絶対数は不足しているが、1974年末には、一般事業所への一部の委託などの「枝分け」を入れれば、一応約5,300か所の職業リハビリテーションを行いうる場(Werkstattplatze)があると言える。しかし、実際に機能を果たしているのはこのうち4分の1で、一定期間治療を受けて職業訓練を受ける機能をねらっている。

 そこで、現在の職業リハビリテーションに対するニードの種類別に、ワークショップ、あるいはその「枝分け」、さらに事業場(Produktionswerkstatt)を含めると、約6,100か所を準備することが理想と言われており、さらに、州リハビリテーション計画上、1980年には、ワークショップとその「枝分け」と委託できる事業場の合計がおおよそ9,500か所もあれば、個別的対応に事欠かないということが期待されている。しかし、先述のようにまず、本来のワークショップの量的充実と質的向上、および職業リハビリテーションワーカーやカウンセラーの養成確保も大きな課題であり、また現存するワークショップ(「枝分け」も含めて)間の有機的連係を深めることが数的配置よりも先行する課題であろう。

 現在でも、克服しなければならない課題の一つは、各ワークショップの閉鎖性なり孤立性ということであり、場合によって利害相反することも、それぞれの地域的限界と機能的限界を超えようとするときに、生じがちである。とすれば、まず地域リハビリテーション計画上、個々のワークショップのもつ役割の「下限」と「上限」を明確にした上で、ことにワークショップの運営に当たる人人が、相互のリハビリテーション技術の交流、機能の補完をし合うという開放的な姿勢で、まず連帯意識をもってそのワークショップの特有性を発揮すべきであろう。

 また、あえて「下限」という表現を用いたが、もともと「重度障害者福祉雇用法」制定に当たって、従来「ワークショップ」の概念をめぐって、労働行政と社会扶助関係機関と障害者団体との間で必ずしも意見の一致していなかった点─すなわち、ワークショップの歴史的発生途上において、住居、治療および社会保障と職業訓練の機能を兼ねたものとして生成されてきたところ─を、同法第52条第1項で、「障害の種類または程度のために一般の雇用において現在活動し得ないでいる障害者に職場または職業実施の機会を提供するもの」というように、職業リハビリテーションという機能を強化し(職業リハビリテーション・センターという積極的な性質を根本とした点評価は高いが)た反面、ワークショップに在園ないし通園している人たちの福祉面との連結がやや寡少化され、公の義務で行われる社会扶助や年金給付などの福祉措置面との結びつきが等閑視されがちになった傾向は否めない。

 結論的には、年金なり社会扶助を受けて生活の基盤の安定を得ながら、職業リハビリテーションに意義を見い出すフィールドであることが再認識される必要があろう。

 以上の2点を再認識の上、ワークショップのネットワークが合理的に整備されていけば、地域計画の中に定着した職業リハビリテーション・センターとしての機能と、州リハビリテーション計画という「包括性」の中で、他機関・施設とそれぞれの有機的に調整されたセンター群(gut koordi-nierten Netz)として重要な役割を担っていくこととなろう。このようにして、ワークショップの整備充実という面から把握できるB-W州の州リハビリテーション計画は、地域定着性と、基盤となる重度障害者福祉雇用法による法的安定性と、ニードの変化に対応した流動性をもって歩み続けていくものと期待されている。

(Die Rehabilitation,Aug.,1975から)

参考文献略

バーデン-ヴュルテンベルグ州労働・保健・社会省リハビリテーション法制部長
**日本肢体不自由児協会常務理事

 訳者注1
 1974年5月施行のドイツ連邦共和国のリハビリテーションに関する新法は、「重度障害者福祉・雇用法」と訳されている場合が多い。重度障害者のリハビリテーションについて、ことに職業リハビリテーションおよび雇用を含めた画期的な社会立法であるが、公式には“Gesetz zur Sicherung der Eingliederung Schwerbehinderten in Arbeit,Beruf und Gesellschaft”と言い、略称して“Schwerbehindertengesetz”とも呼ばれ、その内容は、①政府および民間リハビリテーション諸機関の協力、②リハビリテーション病院、心臓その他の疾病や障害のためのリハビリテーション・センター、職業教育施設、一般の市場に雇用されない場合のワークショップ、障害児教育施設、障害者ホームの整備、③早期発見・療育と助言およびアフターケアの充実、④専門従事者の養成、⑤職場雇用の開拓、⑥建築上、交通計画等の技術上の問題の解決などを主要点として、これらの計画を法令体系として規定したものである。ことに職業リハビリテーションおよび雇用面に重点をおいた実定法としての意義は高く評価されている。

 訳者注2
 障害者に関する「社会保障」“Soziale Sicherung”の充実ということを、体系的なリハビリテーション計画の基礎の一つにおいているのは、もとよりB-W州のみではないが、ことに1974年10月に新しく施行された「リハビリテーション給付の統一に関する法律」“Gesetz uber die Angleichung der Leistungen zur Rehabilitation”で象徴されるように、従来、年金、保険(Rentenversicherung)、労災保険(Unfallversicherung)、連邦援護法(Bundesversorgungsgesetz)、連邦社会扶助法(Bundessozialhilfegesetz)などで、それぞれの制度の目的に沿って給付内容を異にしているものを、共通給付として、①医療・②職場開拓・③職業教育・スポーツその他に要する経費、④各種公的保険への拠出に対する補足的給付、⑤リハビリテーション期間中の一時金(Ubergangsgeld)を規定して、リハビリテーション措置についての統一的な基準を法定化し、ことに所得保障面からも障害者リハビリテーションを安定したものにしようという動向を意味しているのである。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1977年1月号(第24号)8頁~14頁

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